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コノヨノタメニ。  作者: 高梨 裕也@あと五分だk……zzz
第一章ーー風紀を乱す風紀委員ーー
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第九話ーーチカラーー

 俺はしょっちゅう見えざるモノが見えてしまうため、なるべく超常現象は否定していないつもりだが……

 今回ばかりは否定させてくれ。頼む。


 ……だっておかしいだろ?ついさっきまでもがき苦しんでいた仲間が、いきなり立ち上がって「にゃ。」だぞ?そりゃ誰だってテンパるよ。




「な、なぁ……織宮?お前どっか頭打った?大丈夫か?」


 おそるおそる俺は尋ねる。


「だーかーらー‼︎私はそのなんとかって娘じゃないニャ‼︎私の名前は『鍋島ナベシマ サカキ』ニャ‼︎よく覚えとくニャ‼︎」


 ダメだ。やっぱり全く理解できん。まぁ目つきや喋り方で少なくとも織宮で無いことは分かったが……

 ……一体どうすればいいのだろう。


「くそっ……何がどうなってんだか……一也、もう少し頑張ってもらえるか?私があいつを仕留める」


「い、いいけど……大丈夫?下手したらあの子身体が耐えられなくなるよ?」


「お、おいおいおい、ちょっと待てよ‼︎仕留めるってなんだ⁉︎お前織宮に何する気だよ‼︎」


 竹刀に手をかけ、臨戦態勢に入っていた倉本に、待ったをかけたのは大樹だった。


「ちょっとは話し合えよ‼︎何もしてないのに攻撃はないだろ‼︎しかも騒ぎの発端を作ったのは俺だろ⁉︎裁くなら俺を裁けよ‼︎」


 その叫びには、明らかに大樹の本心が出ているように思えた。仲間思いで、頑張り屋。そんな奴だから、余計に自分の親友を傷つけたくなかったのだろう。


「……それもそうだな……すまん。」


 倉本は、少し頭が冷えたようだ。その口調からも熱が消えている。


「なぁ、鍋島……お前その子から離れてはくれないか……?頼む。この通りだ。」


 倉本は、鍋島に頭を下げて頼み込んだ。


 だが。


「……イヤだニャ。折角手に入れた自由を、何でまた手放さないといけないのニャ?私は、もっとこの世界を知りたいのニャ。誰にも邪魔はさせないニャ。」


 鍋島はそれを拒んだ。まぁでも当然と言えば当然の事だろう。誰だって自由を奪われるのは嫌だ。


「なぁ……そこを何とか……頼むよ‼︎」


 大樹が何度も頭を下げているが、そんな事にも応じていないようだ。以前顔を背けたままである。


「……そこまで拒むなら仕方ない。力ずくで従わせるまでだ……!」


 いよいよ倉本が竹刀に手をかけた。先程のローブの奴らと戦った時とは比べものにならないほど殺気が漏れ出ている。


「わ、分かったニャ‼︎ヒントあげるからそんな怖い事しようとするニャって‼︎


 ……私らは負の感情から生まれたんだニャ。だからその根源、この娘の心の傷を癒せれば、私は存在することができなくなるニャ。まぁ、私がこの身体の主導権を握っているから、会うことはできないと思うけどニャ。」


 いよいよもって理解できない。織宮あいつが心に闇を?いつもニコニコしているような奴に闇なんてあるはずがないだろう。


「じゃ、ヒントは教えたから、私はここらでさよならさせてもらうニャ。じゃあニャ〜‼︎」


 そうこうしているうち、鍋島は何処かへ走り去ってしまった。




 ==============




 織宮がこの場を立ち去ってから、数時間ほど経った。依然として解決の糸口は掴めていない。あれほど高かった太陽も、今ではすっかりオレンジに染まり始めている。


「おい、これからどうすんだよ‼︎このままじゃ日がくれちまうぞ!!」


 思わずカッとなり、俺は叫ぶ。だが、どうしようもできないという事は、自分でも理解できていた。


「……こうなったら、能力あれ使うしかないか……」


 ふと、倉本が呟いた。


能力あれ?……そういや、さっきからずっと気になってたんだけど、お前の能力って何なんだ?」


「私か?……私の力は移動とか偵察に適した能力かな。

 ただ……

 少し周りへの影響が強すぎるから、今まで使えなかったんだ。でも今はもうそんなことを言っている場合じゃないな。人一人の命がかかってるんだから。」


 周辺に支障が出るレベルとは、一体どれほどの強さなのだろう。

 少し離れてろ、倉本はそう言うと、目蓋を閉じて意識を集中させ始めた。


 瞬間、倉本の道着が黒く染まっていく。ピリピリとした空気が溢れ出す。普段人から感じられないような気が倉本から漏れ出していた。


 その時だ。いきなり頭痛に見舞われたのは。


 内側から叩きつけるようなガンガンとした痛みが襲う。耐え難い苦痛だった。だがここで意識を手放してはいけない。耐えろ。耐えて何としてでも織宮を助け出すんだ。







 ーーーチカラガホシイカ?ーーー







 ⁉︎


 突然の声に驚く。声の主を探してみるも、ここにいるのは俺と大樹、倉本に草薙兄弟のみ。幻術の中なので、人も入って来れないはず。

 では何だったのだろう。頭痛のせいで幻聴でも起こったのだろうか。


「……い……おい……おい‼︎大丈夫か⁉︎」


 ハッと、気がつけば目の前には倉本が。どうやら意識が途切れかけていたようだ。


「あ……あぁ、すまねえ。ちょっとフラフラしただけだ。でも、もう大丈夫だ」


「ならよかった。急ごう。織宮って子の居場所がわかったんだ。日が暮れればまた少し面倒な事になる。」





 連れて来られたのは、鉄骨がむき出しになった廃ビル群の一つだった。夕日がビルを染め上げ、より一層不気味さを醸し出している。

 そのビルの屋上、ちょうど鉄骨の上に、織宮……いや、鍋島は俺らを見下すように座っていた。


「ニャーんだ。また来たのかニャ。お前らも懲りない奴らだニャー。私を追い出すことなんて出来るはずニャいのに。」


 鍋島は、自分の言葉がさも当然のように呟く。


「だったら……だったら追い出さなくたっていいよ‼︎和解し合えばいいじゃんか‼︎」


「だーかーらー、そんな綺麗事だけじゃ世の中渡って行けないってーの‼︎」


 大樹の必死な叫びにも動じず、むしろそれを押し返すかのように鍋島は叫んだ。……まぁ、確かに彼女の言っている事はあながち間違いでもない気がする。努力する人が報われる世の中。今ではもうほとんど見かけない。下手に正しい道を歩もうとするより、たとえそれが間違った道と知っていても、あえてそちらを選ぶ人の方が多いだろう。


「「そーかー、だったら……君は世の中の恐ろしさも知っているはずだよ……ねぇ?」」


 スッと出てきた草薙兄弟が、うすら笑いで問いかける。


「仕方ない……お前を向こうへ送り返すのは、お前を捕まえてからだ……!」


 倉本も帯刀して臨戦態勢に入っていた。そんな光景を、大樹が黙って見ているはずがない。もちろん止めに入ったが、草薙兄弟、そして倉本からの気迫で、止めることができなかった。


 ……こんな時、俺は一体どうすればいいのだろう。そりゃもちろん止めに入りたい。だけど、こいつらみたいに力はないし、かと言って助ける勇気もない。


 せめて織宮あいつに会えたら。少しでも気を楽にしてやれたら。

 頼む。もし神とやらがいるのなら、どうにかして助け出す方法を教えてくれ。







 ーーーチカラガホシイカ?ーーー







 その時だった。


 またも声が聞こえた。先ほどよりもはっきりと。


 俺は目を閉じその声の主に話しかけてみた。







 ーーー……もうお前が誰だかは聞かない。時間が無いんだ。頼む。今だけ、今だけでいい。どうか彼女を助け出させてくれ。ーーー






 ーーーほう。私にであって動揺しないとはな。わかった。お前に力を授けよう。……ただ、代償は大きいぞ?ーーー







 ーーーいいよ。どんな苦しみだって喰らい尽くしてやる。自分の物も、仲間の物も。ーーー







 ーーーフッ……その心意気、気に入ったぞ。よかろう。お前に『犬神』の銘、くれてやるわ‼︎ーーー







 ……目を開けると、真っ白な世界だった。目の前を心地よいせせらぎの川が流れている。ふと目を凝らすと、向こう岸に、二つの影があった。


 人影と、もう一つは動物のようなーーー


 人影が動物に何度も何度も話しかけているように見えたが、やがて何処かへ行ってしまった。


 なんだろう。あの人、何処かで見たような……


「おい。行くぞ。お前は本来ここにいちゃいけないんだから。」


「⁉︎」


 突然の声に驚く。ハッとして前を向くと、そこは真っ白な世界ではなく、先ほどのビルだった。ただ、先ほどまでとは何かが違う。なんだか勇気が溢れてきた。鍋島と倉本達は、もはや一触即発である。早く止めなくては。


「ウオォォォォ‼︎」


 大声を出して突進して行った。両者ともに少し怯んでいる。チャンスだ。


 俺は、力いっぱい地面を蹴ると、そのまま鍋島の方に飛んだ。そして、思いきり抱きしめた。辛い事があったらこうすれば良い。誰かに教わった事だ。ふと思い出した。


 一瞬。


 いや、時間にすれば一瞬だろうが、俺にとってはとてつもなく長い時に感じた。


 世界が、闇に包まれたのだ。まるでテレビのノイズのように。


「……グスッ……グスッグスッ……」


 突如聞こえた泣き声に振り向く。と、そこには、膝を抱えて泣いている、織宮の姿があった。


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