第八話ーーニャーー
誰かが……
「なぁ、どうしてこんなことになってんだ?」
俺は大樹に聞く。
「わかんない……気づいたらいなくなってて……今戻ってきたらまた……」
連れられたのは、学園内の公園だった。だがそこでは、普段とは似てもつかないような光景が広がっていた。
生徒達の視線の中心、人と人の間からわずかに見える、セミロングの茶髪。スラっとしたモデル体型。間違いない。織宮だ。
黒いローブを纏った三人組に首を掴まれ、人質に取られている。ショックで気を失っているようだ。三人組は、織宮を盾に何か叫んでいるようだが、よく聞き取れない。
この公園、いつもは生徒達の声でとても賑やかな場所だが、今は違う。生徒も、先生さえも、誰も動かなかった。否、動けなかった。
「……ッ!思っていたより少し面倒だな……おい、一也、準備は?」
チッと舌を鳴らし、口を開いたのは倉本だった。
「んー?いいけど……もしかして一人で突っ込む気?ほら、ちょうど僕ら以外にも人いるんだからさ、三人で行けばいいじゃん」
「いや、ダメだな。今回はちと危険だ。相手にバレたら困る」
どうやら本当に一人で行く気のようだ。倉本は、背中の竹刀に手をかけた。
「準備が出来次第突入する。お前らは下がってろ」
「了解。じゃあ始めるよ?」
その言葉を合図に、一也の手のひらから、丸い玉のようなものが姿を現した。ソレはすぐにこの公園を包み込み、やがて大きなドーム状になった。
「17%……39%……62%……81%……100%……OK。準備完了だよ」
「ありがとう。……それじゃ、行ってくる」
倉本は駆け出した。刹那、とてつもない気迫が彼女を包み込んんだ。その姿は、まさに鬼神と呼ぶにふさわしかった。
一瞬で彼らの懐へ潜り込む。かと思えば、もう既に事は終わっていた。
まるで何かのショーのように、正義のヒーローが悪を滅ぼしたかのように、華麗だった。
「……ふぅ、能力使うまでもなかったな」
「おい、急げ。早くしないと技が解けて面倒な事になる」
倉本が、何処かから持ってきたであろう縄で、奴らを縛りながらこう言った。
「そういえば、なんで『死んでしまう』とか言ったんだ?結局誰も死んでないじゃんか。」
気を失って倒れていた織宮を抱きかかえながら、俺は倉本に聞いてみた。
「ん?ああ、それはな……黒いローブを纏った奴らは少し危険でな。なんでも人を呪い殺す事が出来るらしい。今回はそこまで行かなかったようだが……まぁ良かった。」
呪い殺す?どうやって?……いや、考えるのはやめよう。そんな事で頭を悩ませていたらこいつらの存在自体謎になってしまう。
しかし、無事で良かった。もう大事な人を失うのは……って、あれ?俺って、誰か大事な人亡くしてたっけ?
ま、いっか。きっと気のせいだろう。
「なあなあ、静の手のひら、ほらここ。……このマークなんだ?」
突如現れた大樹が、ふっと呟いた。気になって手のひらを見ると、そこには大きく「猫」の文字が。
「あ……ほんとだ。なんだろこれ。……おーい‼︎倉本ー‼︎ちょっと聞きてぇんだけどー‼︎」
「どうしたー‼︎」
「織宮の手にさー‼︎……」
……そんな会話に、大樹は少し飽きてしまったのかもしれない。彼は好奇心に駆り立てられ、その文字に、
触れてしまった。
もちろん、触れてはいけないと知っていた訳ではない。あくまで「好奇心」である。
だが、そんな好奇心は時として重大な結果を招く事になる事があるのだ。……そう、今回のように。
突如、俺の背中でスヤスヤと寝息を立てていた織宮が痙攣を起こしはじめた。明らかに正常な状態ではない。目をカッと見開き、その表情は苦痛に歪んでいた。
「お、おい‼︎どうした‼︎」
突然の出来事に倉本も驚きを隠せない様子だった。
「わかんねぇ‼︎一体何が起こってんだよ……」
「「ど、どうしたの⁉︎何があったの⁉︎」」
さすがの草薙兄弟までもがこの様子。誰から見ても異常事態だ。
皆為す術もなく、ただただ苦しみ、水から上げられた魚のように跳ねる友人を見つめることしかできなかった。
どれくらい時間が経ったかわからない。織宮は動かなくなった。ピクリとも。
自分の無力さを恨んだ。どうして助けてやれなかったのだろうと、ただひたすら自分を恨んだ。誰かが悪いとか、そんなのどうでもいい。自分が悪いんだ。
その時だ。
動かなくなった織宮が、また目を開き、すくっと立ち上がったではないか。
「織……宮……?」
だが、織宮は、織宮であり、織宮でなかった。
「……どうも。初めまして。今回はありがとニャ。おかげでようやく自由になれるニャ。」
……ニャ?
グチャグチャですみません。文章力つけるので勘弁してください……