第六話ーー忘れた頃にーー
一ヶ月後……
入学してから、はや一ヶ月が経った。あれほど見事に咲き誇っていた桜も、今ではすっかり新緑に染まっている。
俺らは、いつものように三人で朝の通学路を歩いていた。テレフォンは、本校舎近くでないと使用できないのだ。そこまで歩いていかなければならない。
「……そういえば、私最近変な夢見るんだよねー。」
ふと、織宮が話し始めた。
「なんかねー、説明しづらいんだけど、目が覚めると、猫になってるの。」
「へー、それで?」
俺は興味なさげに呟いた。大樹に至っては、まだ朝だというのに爆睡していた。それも歩きながら。もはや興味がないどころの話ではなくなっている。
「でねでね、色んなところ探検するんだけど、マンション……?みたいな場所に入ろうとすると、目が覚めちゃうわけ。」
所詮ただの夢だろう。大しておもしろくもないと、話を聞き流しながら、俺は簡単に「あっそ。」とだけ返した。そして、隣で神業を披露している大樹を起こし、学校へ向かった。織宮はぶーぶー言っていたが、まぁ気にする必要はない……と思う。
下駄箱に着くと、何やら自分の靴箱が半開きになっていた。不思議に思い、中を覗いてみると、そこには一通の手紙が。
……おい。おいおい。これはあれですか?俗に言う「ラブレター」なるものですか?
いやいや、待て待て。まだ一ヶ月だぞ?よく考えろ、俺。もしかしたら、新手の嫌がらせかもしれない。だが、気になるものは気になるし……
そんな葛藤を心に抱いていると、どこから湧いてきたのか真横に大樹が立っていた。
「ん?それなんだ?手紙?誰からだ?」
どうやら手紙の存在に気づいたようだ。
「浩介ー、その手紙見せろよーっ!」
いきなり無邪気な子供のように、手紙を奪おうと飛びかかってきた。
「ん?なになに?どうしたの?」
それに気づいた織宮も手紙を見ようとする。
「だーっ‼︎もう‼︎やめろぉ‼︎」
勢い余って手紙を落としてしまった、その時だった。
手紙が地面に落ちた瞬間、ザァァァ……というノイズ音と共に、目の前を無数の黒いものが覆い尽くしたのだ。近くにいた織宮や大樹もいつの間にかいなくなっている。
驚いて周りを見渡すが、もはや先ほどまで立っていた場所すら分からなくなっていた。
世界から光が無くなり、目の前が闇に染まっていく。
意識が薄くなり、瞼が重くなる。自分がどんな状況なのか分からないまま、俺は気を失ってしまった。
……目が覚めると、そこは下駄箱ではなかった。大樹達も困惑しているようだ。
訳が分からないまま、周りを見渡すと、そこには知っている顔が。
瓜二つの外見。常に何かを考えていそうなおの笑顔。間違いない。風紀委員のあの双子達だ。どうやらここは風紀委員会の部屋らしい。全面が畳で、とても広かった。
あいつらは、俺の視線に気づくと、
「「や。また会ったね。まぁほとんど強制だけど。」」
と言ってきた。なにが「また会ったね。」だ。お前らが連れてきたんだろう。
「なんだ。もう来てたのか。」
すると、後ろから女の声がした。