第十九話ーー買い物中の襲撃ーー
『S』と名乗る人物から襲撃予告を受けて、はや二週間が過ぎた。だが、 今のところ、何も起こらないまま日々を貪っている。
あの直後、萩野に、「どんな顔だった?どんな制服?身長は高い?」と、質問攻めをした結果、燃え尽きて気絶してしまった。どうやら極度のコミュ障だったようだ。
それ以来、俺は萩野と会話をすることができていない。
ふーっと息を吐き、そのまま大の字になった。
屋敷の縁側から見える空は、青く澄み渡っていた。雄大に立ち昇る積乱雲が、空をより一層際立たせた。
春は終わりを告げ、夏がやってくる。嬉しいような、悲しいような、不思議な気持ちにさせられた。
「にしても、暑いなー、今日は。」
と、倉本がポツリと呟いた。
湿気も増え、気温も上がってきたせいで、ここ最近はとても初夏とは思えない暑さが続いていた。特に、今日はその中でも一番気温が高いそうだ。うちわや扇風機で風を送っても、来るのはむわっとした空気だけ。
逆にイライラする。
汗をぬぐいながら時計を見ると、時間は正午を少し過ぎた辺りだった。
「そろそろ昼かな、っと。」
最近のメシ当番は俺だ。いつかに作った回鍋肉がびっくりするほど美味かったらしく、以来料理当番は俺になっていた。
ちなみに、今までは倉本が食事を作っていたそうだが、味はまぁ……察しがつくだろう。
今日のメニューは……と考えながら、冷蔵庫を開けると、俺はある衝撃的な事実を知ることとなった。
「ぐ、具材が無い……だと……?」
無い。なんにも無い。
驚くことに、食材の一つも冷蔵庫に入っていなかったのだ。
すっからかんだ。
「倉本ー!材料が無いってヤバいだろ!」
「あ、昨日買い忘れた。しょうがないな、買ってこい。」
「この流れはお前が買うだろ!」
「いや、だって暑いし。」
なんというダラけっぷり。時々風紀委員会って大丈夫か……と思う時があるが、大半の要因はこれである。
「じゃ俺も行くから!誰か来て!」
しぶしぶ要件を了承するが、誰も一緒には来てくれない。それどころか、返事すらしてくれなかった。皆暑さにやられているようだ。唯一大樹だけが、炎天下の中大声を発してランニング、という訳の分からない行為を続けているが、あれはもう人じゃない。放っておこう。
「分かったよ!俺一人で行くから。」
「「「「いってらっしゃーーーい!」」」」
「全員ピンピンしてんじゃねぇか!」
そんなツッコミを入れつつ、必要な具材をメモった紙と、保険証、携帯、財布を持ち、外に出た。
===============
暑い。
暑い。
暑い。
まさかここまで暑いとは思いもしなかった。全身から滝のように汗が出てくる。おかげでシャツはピッタリと体にくっついていた。
俺は、屋敷からしばらく歩いて、この学園都市の中心部に来ていた。
しかし、この暑さの中でも、街は活気に満ち溢れているようだ。道行く人は皆、手元の携帯に夢中だったが……。
本来、この時間であれば普通の生徒は勉学に勤しんでいるはすなのだが、俺たち委員会役員は別だ。好きな時に好きなだけ勉強ができる。中には大樹のように、職権を乱用して全く学ぼうとしない輩もいるが、役員のほとんどは真面目に勉強をしている。
さらに、ここは学園都市だ。いくら生徒が街を闊歩しようが、何らおかしなことはない。
と、目の前で信号が赤になり、交差点で立ち止まった。そして、ふと前を見ると、人にまみれた向こう側に、大型のスーパーが見えた。
もう少しだ。
道路からの反射熱で景色が揺らいでいる。そこから見える世界は、少しだけ歪んでいた。
交差点を車がどんどんと通り過ぎて行く。ここの交差点は交通量が非常に多い。車の種類も様々で、乗用車はもちろん、トラックやバスなども見かけた。
信号が赤から青に変わった。人が一斉に歩き出す。前からも同じように人が来たので、押しつぶされてしまいそうな感じがした。
さて、長い道のり、路上での暑さ、交差点の人ごみと、三つの地獄を味わってきた俺だったが、ついに楽園に辿り着くことができたようだ。
目標、俺を見下すように佇む、スーパー。
ドアの前に立つと、俺のためにゆっくりと開いてくれる。自動ドアなので当たり前だが、もうその小さなことまで素晴らしく思ってしまった。
中に入ると、冷たい空気が全身を包み込んでくれた。
快適だ。快適すぎる。
冷房に癒されながら時間を確認すると、長針は既に六を過ぎていた。
ここに長居する時間はない。とても名残惜しいが、すぐに用事を済ませてしまおう。
そう思いながら、カゴを手に取ると、館内放送が流れた。
ピンポンパンポーンと、お馴染みの機械音が流れ出す。
迷子の呼び出しかと思ったが、聞こえてきたのは、予想を大きく裏切るものだった。
『えー、こんにちは。みなさん。突然ですが、ぶっ殺しに来ました。』
目が飛び出さんばかりに見開く。
まさか。
この声は、忘れたくても忘れられない。
あの時《、、、》も、奴は姿を見せなかった。
『S』だ。
どうしてこんなところに。
周囲の人間は、全く予期しない事態にどよめきを隠せない様子だった。
だが、そんなことなど知りもしない『S』は、淡々と話を続けた。
『えー、このスーパーの中に、一人風紀委員の方が居ます。彼は委員会と言う立場を利用して自分の思い通りに物事を進めようとする極悪人です。彼を捕まえれればあなた達を解放しましょう。もしできない場合には……。』
放送が止まった。
と同時に窓ガラスが次々と割れていく。まるで映画でもみているようだった。
『このように、粉々にしちゃいまーす。
死にたくなかったらとっとと捕まえてくださいねー。それではー。』
ブツっと、放送が切れた。
しばらく沈黙が続いたが、すぐに騒乱がやってきた。
恐怖に怯え、皆様々な動きをしている。
必死になって逃げ場を探す者。
諦めてその場に泣き崩れる者。
俺を捕まえて自分は逃げようとする者。
だが、一つだけ言えることがあった。
ここにいてはまずい。学生がこんな時間にスーパーに来ているだなんて知れたら、たちまち捕まってしまう。
自分以外全員敵。
考えただけでゾッとした。
出口を探すが、買い物に来た客で大混雑しているため、身動きができない。
仕方なく、一旦身を引いた。すると、近くにいた男二人が俺に近寄ってきた。
「おい!あいつだ!あいつを捕まえろ!」
「やっべぇっ!」
今来た方向とは逆に走り出した。しかし、人とぶつかってあまり動くことができない。
ついに腕を掴まれた。
どう足掻いても一向に取れない。
「ウオオオオッ!」
とっさに力を発現。
体の中を何かが這いずり回っているような感覚に襲われた。
腕を掴ませたまま、勢いで男を投げ飛ばす。
相手は人ごみに呑まれ、そこから出てこなかった。
ごめん。どこかの知らない人。
後で絆創膏貼ってあげるから許して。
そうしてなんとか切り抜けたが、またいつ誰が追って来るか分からない。
とりあえずは放送室だ。きっとそこに『S』はいる。
俺は、放送室へと足を早めた。
===============
ーー職員以外立ち入り禁止と書いてあるドアを開け、近くにあった地図で、放送室を見つけ出す。
あった。
B棟の最上階。
屋上のすぐ隣だ。
ここは一階。エレベーターは使えないので、階段で行くしかない。
一気に三段づつ駆け上がって行く。
カン、カン、と階段を登る音が響いている。
この建物は十階建てだ。階を追うごとに段々と足が上がらなくなっていく。五階を過ぎてからはもう走れなくなっていた。
肩で息をしながらやっと最上階に辿り着いた。
膝が笑っている。立っているだけで精一杯だ。
が、無駄な時間はかけたくない。俺は焦る気持ちで放送室のドアに手をかけた。
ギギギ……という鈍い音と共に鉄のドアが開く。
そこに立っていたのは、長身痩躯の男だった。やはりうちの制服だ。
「よぅ。やっと会えたなぁ」
「誰だ……テメェは!」
男は机に腰掛けた。
「俺は篠田。篠田圭一だ。よろしくな。
お前は確か……そうそう、黒原浩介君だったっけか?」
笑顔で手を差し伸べてきた。しかも、名乗ってもいないのに俺の名を知っている。
こいつ。
俺は伸びてきた手を払うと胸ぐらを掴み上げた。
「なんで市民に危害を加えた!」
「なに、ちょっとしたミニゲームだ。少しは楽しんでもらえたかねぇ?」
「ふざけんな!」
そのまま壁に叩きつける。だが、やつは笑顔を崩さなかった。
「いきなりなにするんだよ。」
捻じ曲がった笑顔で俺を見つめてくる。その瞳には何も映っていなかった。
ぞわり、と全身に鳥肌が走った。
とっさに身を引く。
屋上へ飛び出すと、太陽が照りつける広間に出た。
篠田もゆっくりと歩み寄ってきた。
睨み合う二人。
両者共に一歩も動かない。
どちらかが動けば、そこで戦いのゴングは鳴らされる。
だが、下手に先手を打って返り討ちに逢うのはごめんだった。
都会特有の、熱せられた風が吹きつけた。
向かい風だ。
しまった、と思った時には遅かった。
風を背に篠田が全速力で飛びかかってきた。
一撃一撃が重い。どうやら、本当に殺す気で来ているようだった。
奴は間違いなく能力者だろうが、未だその力はわからない。
接近戦になれば、危険度はますます増加してしまう。
今は間隔を取って様子を見るべきだ。
だが、そうそうのんびりもしていられなかった。また市民がこちらに上がってくることも考えられる。
また力を解放。相手の懐に潜り込み、足で顎を蹴り上げた。
円を描きながら相手の顎へ足が吸い込まれていく。
ゴリっという音と共に、篠田が宙に浮き上がった。
だが、まだ俺は攻撃の手を緩めなかった。
宙に浮いた篠田を、さらに回し蹴りで吹き飛ばした。
ゴロゴロ転がりながら壁に叩きつけられた篠田。
首は真横に曲がったままだ。
手応えはあった。
死にはしないにしても、しばらくは起き上がる事さえ難しいだろう。現に今、奴はピクリとも動かない。
ーーだが、そう思っていたからこそ、突然飛んできた蹴りに対処しきれなかった。
自分の脇腹に、相手の蹴りが炸裂する。
あまりの痛みに思わずたたらを踏んだ。
視界が揺らぐ。立っているのが精一杯だ。
篠田は体を棒のようにしたまま立ち上がると、真横を向いた首を無理矢理元に戻した。
再び怪音が上がる。
俺の脳が必死に逃げろと警告してくるが、体が動いてくれなかった。
こいつにあるのは狂気だけだ。感性も感覚も、全てが常軌を逸している。
攻撃のために投げやりに繰り出した拳も、楽々と掴まれそのまま投げられてしまった。
景色が一回転したかと思えば、背中に強い衝撃が走る。
肺の中の空気が全て絞り出され、うまく呼吸ができない。
そんな俺を、奴は変わらぬ笑顔で見つめていた。
「なんだ。少しは骨がありそうだなー、とか思ってたけど、とんだ勘違いだったわ」
何が「勘違いだった」だ。
こいつは何もかもが段違い過ぎる。俺が相手をしていい人間ではない。
やっとの思いで立ち上がったが、既に限界は目に見えていた。
「うーん、でも何も知らずに死んじゃうのもつまらないよなぁ。
分かった。見せてやるよ。俺の力」
瞬間、背筋が凍りついた。
今までの攻撃は能力を使っていなかったのだ。
つまり、奴の身体能力だけで俺は負けていたことになる。
ますます勝てる気がしない。
と、篠田の方から尋常ではない瘴気が漏れ出てきた。
篠田が軽く目を閉じると、空気が揺れ始める。
やがて、極度の耳鳴りに襲われた。たまらず耳を塞ぎ、その場に座り込んだ。
ゴゴゴゴゴ……と、まるで大地震の前兆のような音が鳴り響いた。
常識では考えられないことが、今目の前で起こっている。
こんな状況の中、脳の大部分を占めたのは、紛れもない"恐怖"だった。
少しも混じり気の無い、純粋な恐怖。
俺はここにいてはいけない。
本能的にそう感じた。
あまりの振動で砂ぼこりが立ち、篠田の姿が見えない。
地鳴りは一層高まり、もうこの世の終わりだと思った時、ピタリと音が止んだ。
パラパラと、土くれが落ちてくる。
「た、助かっ……た……?」
「いいや、終わったんだよ。黒原」
背後から聞こえる声。振り向く間もなくそれは起こった。
「"スタッカート"ver.メゾフォルテ」
土煙の中から飛んできた拳。
反応しきれず、背を殴られる。
その瞬間、視界が大きくブレた。
「え……?」
腹を見ると、その部分だけが無惨に抉り取られていた。
筋肉を抉り取り、ポッカリと穴が空いている。
だが、傷口はミキサーでも押し当てたかのようにグチャグチャだった。
時折、大量の血が溢れてくる。
こぼれ出た血液は、シャツを紅く染めていく。
理解が追いつかない。
「う、そだろ……?」
口から何度も血を吐いた。
顔を篠田に戻すと、先程となに一つ変わらない笑顔でこちらを見つめていた。
寒い。凍えてしまいそうだ。
「お疲れ様。後のみんなももう少しで行くと思うから、ちょっと待ってろ」
気がつくと、前のめりに倒れていた。
その間にも地にはどんどんと赤い染みが広がっていく。
目の焦点が合わなくなってきた。音も聞こえない。
「……い……しっ…しろ!……おい!」
「嫌……お……い……目を……」
誰かが読んでいるような気がするが、これで最期のだろうか。だとすれば嫌な死に方だ。
織宮や大樹には随分と迷惑をかけた。この辺で俺はいなくなった方がいいのかもしれない。
目蓋はすでに上がらず、俺は闇に引きずり込まれて行った。
「浩介。起きて」
さっきよりもはっきりとした声。透き通るような声だ。
「まだ死んじゃだめ。お願い」
「あんた、は、誰だ……」
たったそれだけの言葉だったが、信じられないほどの激痛が全身を襲った。
「答えが知りたければ、生きて」
相手は何も答えることなく、『生きてほしい』の一点張りだった。、
頭をくしゃくしゃと撫でられる。
なぜだろう、その感覚がひどく懐かしく感じられ、そこでまた意識は途切れた。
===============
最初に聞こえた音は、ピッ、ピッという、とても規則的な音だった。
思い目蓋を開けると、真っ白な天井が目に映った。
窓の外からは陽の光が差し込んでいた。あまりの明るさに、目がしばしばする。
と同時に、眠っていた脳がゆっくりと目を覚まし始めた。
起き上がろうとするが、石のように体が重い。自身の体を見ると、至る所に包帯が巻かれていた。
辺りを見回すと、大小様々な器具が並べられていた。そして、その全てが自分に繋がれている。
ベッドの横を見ると、織宮がうつ伏せになって眠っていた。
「ずっと看病してくれてたのか」
と、その言葉に気づいたのか、織宮が目を覚ました。
俺を見ると、みるみる二つの瞳が潤んでいった。
「……おかえり」
「ただいま」
「いつまでお昼ご飯待たせんのよ」
「ごめんごめん」
織宮は、震える声で懸命に笑顔を作っていた。
「誰が助けてくれたんだ?」
「千佳ちゃんが異常に気がついて、すぐに沙樹ちゃんたちと駆けつけたんだよ」
「あれから、何日寝てた?」
「一週間。腹に風穴開けられて、おまけにあれだけの出血量でよく生きてたなって、お医者さんも呆れてたよ」
「バカは死なねぇんだよ」
「でも死にかけたじゃん!」
「……そうだな、悪りぃ」
素直に頭を下げた。
しばしの沈黙。
「もう、すぐに治してよね。みんな待ってるんだから。回鍋肉」
「あぁ、待ってろ。とびきり美味いのを食わせてやる」
「せいぜい期待して待ってるよ」
そう言うと、織宮は席を立った。
またね、と手を振りながら。
織宮が帰った後で、俺はポツリと呟いていた。
「暇だなー……」
手を握って開き、鏡を背にしてシャツを脱いだ。
何重にも巻かれた包帯を外し、傷口を露出させると、生々しい傷痕が姿を現した。
腹にも同じような痕が残っていた。
空気に晒すだけでも十分痛む。
あの日のことを思い出すと、今でも吐き気がした。
何せ体に風穴を開けられたのだ。常人ならとっくにお陀仏だ。今こうやって呼吸ができていることだけでも奇跡と言えよう。
あの笑顔が頭をよぎるたび、傷もジクジクと痛む。本能がこれ以上奴に干渉するな、と叫んでいる。
でも、倒さなきゃならない。
「できるよな」
そう自分に言い聞かせた。
日は既に傾き、街はオレンジに染まり始めていた。
大丈夫、何とかなる。
必死に思考をプラスへ持っていこうとした。
だが、気づけば俺は震えていた。
「怖いなぁ」
口をついて出た本音をこぼしながら。
次の日からはよく風紀委員の仲間が訪ねてくれるようになった。織宮から俺が目覚めたことを聞きつけたのだろう。
しかし、こうやって誰かが見舞いに来てくれることだけで、とても嬉しかった。
五日後。
今日は倉本とおっさんだった。
え?
おっさん?
「誰だあんた」
「おっと、自己紹介はまだだったか。
風紀委員会の主顧問、星川洋だ。てか、倉本から話は聞いてねぇのか?」
風紀委員の主顧問だと言っていたが、今まで一度もあったことも見たこともない。
ボサボサの頭をかき、長い間剃っていないであろう顎を撫でる姿は、何度見ても全国に生息する普通のおっさんだった。
「ごめん。洋さん。最近色々あったんだよ」
倉本が他人に甘えている。
宝くじが当たることよりも珍しいかもしれない。
ビデオカメラでも準備しておけば、と思ったが、そんなことすればきっと嬲り殺しにされると思い、すぐさまその考えを捨てた。
「で、その主顧問さんが何の用だよ。まさか見舞いだけってことは無いよな?」
「はは、よく分かったな。正解だ。
昨日風紀委員の屋敷に電話が入ってだな、『思ってたよりもつまらないから近いうちに殺しに行く』って言うんだわ。萩野に確認とったら、その……篠田?だったらしい。
そこでだ、俺たちは総力戦に挑もうと思う。」
「総力戦……」
奴の力は強すぎる。まして本気を出せば、奴は軍隊とだってまともに戦えるかもしれない。
ならば数で潰してしまえ、と言う戦法だった。
「でもそれって……」
星川の隣に座っていた倉本が口を挟んだ。
「大丈夫。ちょちょちょっと篠田って奴に風紀委員の恐ろしさを知ってもらうだけだから」
「いや、それって十分ダメなんじゃ……」
「恐ろしさを知ってもらう」とか、暴力的の何者でも無い。暴力団か、俺たちは。
「まー、面倒は嫌いだからなー。なんとかしといてー」
大の大人が丸投げである。
隣では、その行動を恥じるかのようになぜか倉本が赤面していた。
いや、あんたら夫婦かよ。
そういえば、前回は結局襲撃の予告は来たものの、実際の被害は無かった。
たまたま、今回俺が待ち伏せされていただけで、その他の被害は出ていない。
とすれば、やはり奴は屋敷に来るだろう。
「で、その襲撃の日っていつなんだよ」
「今日だ」
今日?
俺は、自分の耳を信じることがどうしてもできなかった。
いくらなんでも早すぎる。
静かな病室が、一層寂しく感じられた。




