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コノヨノタメニ。  作者: 高梨 裕也@あと五分だk……zzz
第三章ーー見た目をとるか、味をとるかーー
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番外編ーーGirl powerーー

 ……気のせいだろうか。俺の耳はついに壊れてしまったのだろうか。


「い、今なんて?」


「だから!女子力対決するからって言ってんの!沙樹ちゃんと!」




 ===============




 事の発端は昨日の夜まで遡るーー


「だー!沙樹ちゃんはもうちょっと盛り付けを綺麗に作ろうよ!」


「うるさいな!そんなこと言ってる静だって、味が絶望的じゃねぇか!」


 夕飯作りの真っ最中。事件(、、)はここから始まった。


 キッチンが何やら騒がしい。今日は二人で作っているのか。お互いの料理についてもめているようだ。


 風紀委員会に入ってはや一ヶ月。最初は距離を取っていた俺たちも、徐々に警戒を解いていくようになり、いつの間にか絆も深まっていった。

 特に、あの二人は、『沙樹ちゃん』、『静』と呼び合うまでの仲になった。

 だが、どれだけ仲が良かったとしても、たまには喧嘩もする。料理についてはなぜか多かった。まぁ、すぐに収まるので、誰もあまり重くは見ていないのだが。


「そこはそうじゃないよ!沙樹ちゃん!」


「静だって水と油間違えて入れてるぞ!」


 ……彼女たちのおかげで、いつもより一歩進んだ新しいモノが食べられる気がする。




「「「「「「いただきます!」」」」」」


 全員で食卓を囲んで食べる。これが風紀委員の食事の仕方だった。


「お!うまそうな煮物!これ誰が作ったんだ?」


 大樹が指差したのは、田舎のおばあちゃんの家で出そうな、とても美味しそうな煮物だった。


「あ!それ私が作ったんだ!」


「織宮か!よし!じゃあいただきまーす!」


 大樹はそれを喜んで口に運んだ。

 瞬間、大樹の顔から血の気が引いていく。よく見ると、小刻みに震えていた。


「ど、どう……?口に合えば良かったんだけど……」


「オ、オイシイデス……グハッ」


 その場に倒れこむ大樹。彼は、そのままピクリとも動かなかった。


「おい!おい大樹!大丈夫か!」


 肩をゆするが、目の焦点が合っていない。口からは、時折「オイしイナぁ……ウフふ……」と呪文が聞こえてくる。

 俺も試しに食べてみると、少しの量でも、十分向こうの様子を観察することができた。


「な、なぁ織宮……これ何使った……?」


「何って……普通に煮物の具材だけど……

 あ!そうだ!なかなかいい色にならないから、コーヒー豆とか焦げたパン粉の細かいやつとか、他にもたくさん入れたよ!」


 大樹が召された理由が分かった。

 織宮の作る料理は、はっきり言って猛毒である。


 生物兵器である。


 簡易型昇天機である。


 見た目や匂いなどはかなり美味しそうだが、口に運んだら最後、天使が上へ連れて行くまで帰らなくなる。


「これは危険だろ!マジで!俺も連れてかれそうになったぞ!」


 そう警告したにも関わらず、草薙兄弟は二人揃って例の煮物へ手を伸ばした。


「「せっかく作ってくれたんだから、食べないと損でしょ〜。

 じゃ、いただきまーす。」」


「やっ、やめろォォォォォォ!!」


 一歩、遅かった。

 煮物をつかんだ箸が、ゆっくりと彼らの口の中へ消えていく。

 あの時、二人は何を見たのだろう。咀嚼するたび、顔が真っ青になっていく。そして、飲み込んだと同時にーーばたりと倒れてしまった。


「だから言ったのに……!危険だって……!」




 ===============




 悪魔の食事、『NIMONO』の犠牲者が敗退リタイアするのを見届けてから、再び食事を始めた。とはいっても、食べることのできる料理は限られていた。


「倉本の作った料理は?」


「ん?ああ。これだ。」


 指差したのは、これまた異形の生物。ゼリー状でなぜかプルプルと揺れており、色は食べ物とは思えないくらいの鮮やかな緑だった。


「なに作ったの……?」


「決まっているだろう!麻婆豆腐だ!」


 一体これのどこが麻婆豆腐なのだろうか。もはやその断片すら見当たらない。倉本は自信満々の表情だが、料理と説明されなければ、いや、説明されたとしても、これはエイリアンにしか見えなかった。


「さぁ食え。」


「無茶だ!なんだこのUMA!お前は麻婆豆腐を代償にして人体練成でもしたのか!?え!?」


「バカ野郎!麻婆豆腐だけじゃ人体練成はできるはずないだろうが!」


「知るかぁ!ボケェ!そんなことはどうだっていいんだよ!」


「どうだって良くない!『全は一、一は全』だぞ!」


「なんで話の軌道がどんどん逸れてくんだァァァァ!!」


 漫才のような会話を繰り返す俺たちやを尻目に、織宮はスッとそのゼリー状の物体をスプーンですくい、口に運んだ。

 しばらく硬直する織宮。ピクリとも動かない。やはりあれは食べ物ではなかったのだろう。

 そう思っていただけに、織宮から発せられた言葉にはとても驚いてしまった。


「お、美味しい!何これ!」


 俺も一口食べてみる。


「……う、美味ぇ!!なんだこりゃ!」


「だろだろ!ふふん!」


 倉本は意気揚々と鼻を鳴らす。見た目が絶望的なこのゼリーからは、到底思い浮かばないような味だった。


 と、ご飯と麻婆豆腐(仮)をかきこむ織宮が、ふと箸を止めた。


「……んで……なんでこんなに美味しいのよ!くーやーしーいぃぃぃ!!」


 どうやら味の良さを羨んでいるようだ。見た目はともかくとしても……。

 横目で倉本を見ると、勝ち誇った顔で織宮を見ていた。


「さぁ!メシ食ったら風呂だ!今日は久しぶりに大浴場使うからな!

 ほらほら、河井も草薙兄弟も起きろ!風呂だぞ!」


 勝ち逃げするように大樹たちを起こし出す。

 しかし、大浴場なんてあるのか。だいぶ探検はしたが、まだ見つけられてない部分があったとは。

 まぁこれだけ広い屋敷であれば当然だろう。




 ===============




「おおおおおお!!」


 大浴場に着くと、まず目に飛び込んできたのは、壁のようにそびえ立つ山々だった。しかも、今日はちょうど満月。うっすらと山の輪郭が照らし出されている。

 月と山。やばい。超キレイ。最高。


「最近使ってなかったからなぁ。ほら、ここ広いから、洗うのめんどくさいし。」


 一也がぼそりとつぶやく。

 なんと贅沢な。俺だったら毎日使ってるぞ。

 洗い場も、普通の風呂場にある量ではない。維持費とかどこから出ているのだろうか。学校から?いやいや、流石にそんな金は……


「校長の資産だけで建てたらしいよ。ここ。そう思うとすごいよねー。」


 学校じゃなかった。校長だ。しかも個人の資産だけでだって。

 うん。おかしい。おかしいね。

 蛇口をひねると普通に水が出てきた。電気もついている。考えれば考えるほどわけが分からなくなってきたので、無駄な考えは全て想像に任せることにした。


 湯船に浸かっていると、壁の向こう側から声が聞こえてくる。きっとあいつらだろう。声がとても楽しそうだった。


 大樹は大樹で大いに楽しんでいるが、あれは娯楽というより、一種の苦行だと思う。

 なぜここまできて永遠と腕立て伏せをするのか。俺にはどうしても理解できなかった。


 と、向こう側の声がだんだんはっきり聞こえるようになってきた。

 どうやら、先ほどの夕食のことについてらしい。


「さっきのご飯は酷かったね……私……」


「お、おう……

 いや、でも、私も生き物みたいだったし……」


「私から見れば沙樹も織宮ちゃんも同じようにしか思えないんだけどな……

 てかあなた達女子力無いよね……」


「なっ!失礼な!私だってあるよ!少なくとも沙樹ちゃんよりは!」


「おいおい、そりゃないだろ!私は料理の見た目はともかくとしても、味には自信があるぞ!」


「……まな板。」


「おい誰だ今まな板って言ったやつ。出てこい。叩っ斬ってやる。」


「だって事実でしょ!?」


「お前か静!あと事実とか言うな!そんなこと言えばお前だって!

 ……お前だって……」


「あ、小声になってる。やっぱ気にしてるんじゃん。」


「……そんな脂肪の塊のどこがいいんじゃぁぁぁぁ!!」


「と思ったらキレた!やばい!」


「待てぇ!二人ともとっ捕まえてその肉削ぎ落としてやる!」


「「ぎゃあああああっ!」」


 ……。

 彼女たちは、この会話が男風呂まで丸聞こえなのを分かっているのだろうか。


「いつもこんな感じ?」


「ううん。いつもはもっと落ち着いてるんだけどね……。

 きっと沙樹もテンション上がってるんだよ。」


「ウオオォォォォ!!一万三千八百七十二!一万三千八百七十三!」


「うるせぇ!お前はテンション上がりすぎだ!暑苦しいわ!」




 ===============




 浴場を出てしばらくすると、真っ赤にのぼせ上がった倉本が出てきた。

 近くにあった椅子を見つけると、フラフラと千鳥足で近づき、そのままダウン。目を回して倒れこんでしまった。

 続いて織宮も出てきたが、倉本と同じく、やはりゆでダコに成り果てていた。


「き、気持ち悪い……。」


「バカ。はしゃぎ過ぎだ。」


 倉本に重なるように倒れこむ。「ぐえっ」というニワトリの首を絞めたような声がしたが、大丈夫だろうか。


「ウオオォォォォ!!二万九千九百八十九!二万九千九百九十!」


 浴場からは今だに腕立て伏せのかけ声が響き渡っている。俺ももう疲れた。流石につっこむ気力もでない。

 結局、この日の夜はここで眠ってしまった。




 そして今日、目が覚めると唐突に、こう言われたのである。


「決めた!私沙樹ちゃんと女子力対決する!」


 ……俺にどうしろというのだ。これ。


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