第十四話ーー午後三時六分ーー
「でかぁっ!」
ド肝を抜かれた。
風紀委員会本拠地。その広さに。
「すごぉっ!」
心打たれた。
その後ろに広がる、雄大な大自然に。
そして思った。
「ここどこだ……」
短針は、既に二時を越していた。
先ほど目覚めた織宮は、やはり俺と同じようなリアクションをしていたが、当然と言えば当然だと思う。と、言うか、逆に何も思わない方が異常ではないのか?
俺は、草が生い茂る丘に腰掛けながら、そんなことを考えていた。
……しかし、たった二日間だけにも関わらず、俺の肉体的疲労、精神的疲労は、ともに限界を大きく上回っている。このまま行けば、俺はきっと過労死してしまうだろう。もし死んだら綺麗な景色の場所にひっそりと埋めて欲しい。
「おい。こんなところで何やってんだ?」
その時、後ろから聞き覚えのある声がした。
倉本だ。
「おお、帰ってきてたのか。おかえり。」
彼女、倉本沙樹は、一年生にして委員長を任されている。仕事も大量にあるはずだが、彼女はそれを平然とこなしてしまうそうだ。そういった行動力は尊敬に値するものだと思う。
倉本は、ゆっくりと歩み寄ってくると、俺のすぐ近くに座った。
「風紀委員、入ったんだってな。草薙たちから聞いたよ。これからよろしく。」
「ああ。よろしくな。」
軽く握手をすると、僅かながら心に残っていた、風紀委員《彼ら》に対する敵意が全て失せていく気がした。もちろん、聞きたいことは山ほどあるが、別に急ぐことでもない。
いずれ何とかなるだろう。
それが今の俺の考えだった。
と、倉本が思い出したように喋りだす。
「そういえば、名前を聞いてなかったな。私の名前はもう知っているだろ?」
どうやら俺の名前をまだ知らなかったようだ。
「俺は浩介。黒原浩介だ。よろしく。」
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「んーっ……っと。
さて、じゃあそろそろ本題に入ろうか。」
大きく伸びをしながら、倉本は呟いた。
「……浩介、お前は、霊を身体に憑かせて、摩訶不思議な力を使う奴がいるって言ったら、笑うか?」
そんなバカな話、ある訳ないだろうーー
俺は少し前まで、そんなことはくだらないと鼻で笑ってきた人間だった。
だから、おかしなものが自分に視えていても、信じないようにしていた。
だが、今回は違う。霊害にあっている人たちが多くいるので、否定はできない状況にあった。
「別に何を今さら。現に起こってることだから反論のしようがないだろ。」
そう言うと、倉本は笑って頷いた。
「私たちの力は、体内に住まう霊と同調することで得られているんだ。」
次の瞬間、倉本の道着が瞬く間に黒く染まっていく。
こころなしか周囲の空気も変わったような気がした。
しかし、改まって見るとやはり常識では考えられないような事である。
「この状態でだいたい二十パーセントくらいか。
……霊との同調率が高ければ高いほど、力は強くなる。だが、同調率が百パーセントを超えた場合、そいつは『人間』から『妖怪』になり、理性を失う。終いにゃ自分を壊し始めるそうだ。
……まぁ、いわゆる諸刃の刃ってやつだな。」
倉本はまた笑いながら言った。
いやいやいや、笑い事ではないと思うぞ?
「で、ここからが本題なんだが……
浩介、お前自分の力についてどこまで知ってる?」
どこまで?と言われても……
「え?全く知らないの?中の奴に何も聞いてない?」
珍しく倉本がすっとんきょうな声を出す。よほど驚いているようだ。目が点になっている。
「そうか……知らないのか……
しょうがないな。私の知ってる限りは全て教えてやろう。」
諦めたように一つ息を吐いた倉本は、また話を始めた。
「えー……どこから話せばいいか……
あ、そうだ。
実はな、霊にも階級があるんだ。階級が上がれば当然強さも上がっていく。
一番下は地縛霊。一般的な霊だな。怨霊とか悪霊もその類に入る。身体を乗っ取られやすいって点もあるから、あまりいい霊じゃないけど……
で、次が守護霊。ある程度強いが自分で扱うことはできない。分かりやすいところで言うと先祖の霊とかかな。
その次は半妖。織宮に憑いてる鍋島は多分この一種だろう。霊能者とかは半妖を憑かせている人が多い。
そして最後は神族。歴史上に出てくるような有名な霊だ。
このクラスになると二つ名がつく。私の“八咫烏“も神族に分類されてる。」
八咫烏……なんとか時代のなんとかさんを導いたっていう三本足のカラスか。サッカー日本代表のマークにも入ってるやつね。
なるほど。確かに有名である。
「本当は憑かれた時に色々と教えてもらえるはずなんだが……
どうもお前の中の霊はだいぶ根性がひねくれているらしい。名前が分からないと能力も十分に発揮できないし、何より自分の力が分からない。」
さすがの倉本もかなり頭を悩ませているようだ。もっとも、俺もいつ取り憑かれたか分からないので、人ーーもとい霊のことは悪く言えないのだが。
「「沙樹ー。おーい。
……あ、いた。こんなところで何してるの?」」
と、いきなり草薙が出てきた。
「ん?……ああ、お前らか。
いや、ちょっと今浩介に私たちの持ってる力について話してたんだよ。二人はどうした?私に用か?」
「「うん。さっき洋さんから電話があって、『祟り人が出た。何とかしてくれ。』って。」」
祟り人とは何なのか、それは聞かなくてもだいたいの予想はつく。が、その洋という人物だけは、少し頭に引っかかった。兄弟が『さん』付けするということは、きっと年上なのだろう。が、風紀委員の目的は確か『大人の根性を叩き直す』とかだったような気がする。
……あれ?矛盾してね?
「あー……そうか……
よし。出ちまったもんはしょうがねぇ。行くか。浩介も一緒に。
……お前も場数を踏んでけば何とかなると思うぞ?きっと。」
が、そんな難しい考えも、倉本の一言でかき消されてしまった。
俺も?一緒に?ついて行く?
冗談じゃない。そんな化け物の戦いに俺たちを巻き込んでもらっちゃ困る。
「お、お、おい!」
だが、口論する暇もなく、呆気なく連れて行かれた。無念。
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飛んだ場所は、駅前の広場だった。まだ三時になっていないのに、だいぶ人が多かった。
と、ある一点から嫌な雰囲気が漂ってきた。
「おい。あそこだ。急ごう。」
どうやら、広場の真ん中で何か騒ぎが起きているようだ。嫌な雰囲気もそこから来ている。
人だかりの中へ入って行こうとするが、前の人が邪魔でなかなか進むことができなかった。
その時だ。
「わ、私行きます!」
突如織宮が宣言をし始めたのだ。
「分かった。織宮、あんた能力は?」
「は、はい!少しなら……」
「よし。じゃあ頼んだ!どうにかして道を作ってくれ!
河井は織宮の援護!なるべく織宮が動きやすいように頼む!
草薙兄弟はこの辺一体をジャック!幻術を使え!」
まるで司令官のような勢いで倉本は指示を飛ばしていく。そして、それに反応するように皆も動きだした。
「そして、浩介!お前は何とかして力を使え!きっかけは何だっていい!」
ゴリ押しな指令だったが、あながち間違いではないだろう。無理にでも道を開かなければいけない時だってあるんだ。
「午後三時六分!これより祟り人浄化作戦を開始する!」
「「「「「おう!!」」」」」




