第十三話ーー使命ーー
鍋島は、ニヤニヤと不気味な笑顔を貼り付け、こちらを見ていた。
「「おかしいな……君はちゃんと沙樹が祓ったはずだけど……?」」
草薙兄弟が彼女に問いかける。すると、鍋島は、まるで俺たちを嘲笑するような顔で話し始めた。
「ニャハッ……なめてもらっちゃ困るニャ。その辺の地縛霊と一緒にしないでほしいニャ。私だって仮にも妖怪だニャ?あんな生半可な除霊、痛くもかゆくもないニャ。」
どうやら、鍋島は祓われたふりをしていただけのようだ。妖怪というのはあまり良く分からないが、きっと普通の幽霊とは違うのだろう。
ピリピリとした緊迫感がこの部屋に満ち満ちていた。何が起こるか分からない、そんな状況。それを断ち切ったのは、またもや鍋島だった。
「……今日出てきたのは、ちょっとそこの男の子に用があったからニャ。あ、大丈夫大丈夫。もうこの子の体を乗っ取ろうなんて考えていないから。」
そう言って彼女は、ゆっくりと俺を指差した。
そうか。もう悪事は働かないのか。良かった良かった。
で、その用がある男の子って?
……え?何俺ですか?
「お、俺ぇ⁉︎なんで⁉︎」
あまりの驚きに声が裏返ってしまう。
「ん?……いやぁ、用ってか頼み事なんだけどニャ。
君、自分では気づいて無いかもしれないけど、あの剣道女とかと同じような力を持っているんだニャー。
で、この織宮って子、なんか霊に好まれやすい体質っぽいんだニャ。
だから、君がこの子の力になってあげてほしいんだニャ。もちろん、私もこの子の力になるニャー。」
ずらずらと言葉を並べられ、頭がパンクしそうになるが、なんとか留まった。
織宮が狙われやすい、そう言われてみれば、確かにそうかもしれない。実際、彼女が今回のような不可思議な事件に巻き込まれた事は、過去にも何度かあった。
まぁ、それは納得できる。納得できるのだが……
俺に倉本たちのような、化け物じみた力があるとは思えない。あるならもっと早くに自覚しているはずだ。
「いやー、無理だって。俺以外にも適役いるだろ?大樹とかさ。俺にそんな力があるとは思えねぇし。それにほら、守れる勇気もないから……」
人を守るのは俺には向いていない。それは昔から知っている事だ。絶対に守るという覚悟が無いし、何より自信がもてない。
「ってことだから、さ、護衛なら他を当たってく「いーや、君じゃなきゃダメなんだニャー。」
そう思い、誘いを断ろうとすると、俺の言葉を遮るように、鍋島はまた喋り始めた。
俺でなければいけないと言っていたが、どういう意味だろう。
「人には、それぞれ波長があってだニャ?波長が合えば合うほど、その人を守りやすいんだニャ。んで、この子と君は、その波長がピッタリ合ってる訳。だから、君じゃないと困るのニャ。」
波長、と言うのはよく分からないが、要点をまとめると、俺は誰かに必要とされているらしい。あまり人には好まれない人間だったので、そう言われるのは少し新鮮な気分だった。
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ザーッ……と、台所から水の音が聞こえてくる。皿洗いは、草薙兄弟と大樹がやってくれていた。
「……で、守るのはいいんだけどさ……」
どうやって守るんだ?そう呟いた。
人を守ったことなんて無いし、その俺の持っている力だってどんな効果があるか分からないし。そもそもどうやって人を守るのかがよく分からなかった。
「君……視えるんだよニャ?だったら、周りから来る、おかしなモノを何とかして追い払ってほしいニャ。私が内から、君が外から守ってくれれば、よほどのことがない限り、この子は狙われないはずだニャ。」
中と外からの二重防御か。確かに大丈夫そうだな。それに、草薙兄弟や、倉本だって視えているはずだから、ここにいれば心配はないだろう。視ることのできない大樹も、きっと必死に守ってくれるに違いない。
「んーっ……と。じゃあ、そろそろおさらばさせてもらうニャ。この子の力になる以上、多分もうこっちにはでて来れないニャ。だから、あとはよろしくニャ。」
「ん?そうなのか……分かった。こっちは任せとけ。お前も、よろしくな。」
握手をして、別れを告げる。もう鍋島に恨みの感情は持っていなかった。
「あ、そういえば、今さらだけど、まだ名前聞いて無かったニャ。最後に、名前教えて欲しいニャ。」
「あ?俺?……俺は黒原だ。黒原浩介。でも、覚えておいたって記憶の容量の無駄だから、すぐ忘れちゃってくれ。」
笑ながら簡単に説明すると、彼女は、顎に手を当て、少し考える仕草をとった。考えこませることなんて言ったか……?
「黒原……どっかで聞いたことある気が……
まぁ良いニャ。忘れるって事はそんだけの事だったんだニャ。
それじゃ、次会う時は多分あの世かもしれないけど、それまでさよならだニャー。それじゃ。」
鍋島は、まぶたを閉じて、眠るように消えていった。最後まで落ち着きのない奴だったが、超の付くほど嫌な奴でも無かった気がする。
「ふーっ……さて、これからなにしようか。」
織宮を静かに寝かすと、スッと立ち上がった。何だかとても気分が晴れやかだ。人間は、大きな使命を背負うと、気分が一転するらしい。
俺は、一度大きな伸びをして、また動き出した。




