4,図書室は恋の予感?
ベタな中でもかなりベタになって来ました。
冬もだんだん濃くなって行き、いよいよ12月。今月は待ちに待った(?)文化祭である。うちのクラスは議論の結果、何故かコスプレ喫茶をする事になった。因みに僕は昭和風の学生である。中学の時の学ランを使うので、特に衣装を合わせる必要は無いのだ。
「で、衣装合わせも無いし、かといって手伝える程の力も無いから邪魔者扱いされて、図書室に来ちゃったわけね?」
僕の簡単な説明を受けて、亜麻色の長髪に美人な面持ちをし、縁無しメガネを掛けた図書室の先生、《玉城櫻子》がからかうように要約した。
「そんなストレートな言われ方はされてないですけど、はっきり言ってそうです。」
僕は面目なさげな顔をしながら応えた。数冊の辞書を抱えながら…。
「ところで、これはどの棚ですか?」
「右から3番目の棚。ごめんね、何か手伝って貰っちゃって…。」
「いえ、僕、図書委員だから、大丈夫ですよ。」
実は、只今図書室内を清掃中だったようで、人手が欲しかったようである。非力な僕でも役に立てるのは、何とも嬉しい事だ。情けない話しだが…。
「でも良かった。裕二君、元気になって。一時は自殺しかねない顔してたのに…。」
「自殺しなかったのは先生のおかげですよ。ホント、感謝してもしきれない程感謝してますよ。」
図書室にはこの学校に来てからよく訪れている。図書室は特別人気が無く、人の出入りも少ないので、良く身を隠すのに使わせて貰った。櫻子は、僕がいじめられている事を相談できた、唯一の先生であった。今はもっぱら勉強について相談に乗って貰っている。
「ん?うわっ!」
そんな事を考えながら本をしまっていたら、棚の上に置いてあった本が雪崩を起こした。
「裕二君!?大丈夫!?」
と、櫻子が心配して駆け寄って来た。
「だ、大丈夫です…。僕、こう見えても頑丈ですから…。ん?この本何ですか?」
と、近くにあった本を拾い上げた。表紙には《ナースの1日》と書いてある。
「あら?官能小説ね。」
櫻子は僕から本を取り上げると、《医療のいろは》と言う本の隣にしまった。
「何でそんなのがあるんです?」
「さぁ?何ででしょう?」
僕の問いに対し、何となく言葉を濁した。
「裕二君、血が出てる!」
「え?あ、ホントだ。」
「大変、直ぐ手当てしなきゃ!」
振り向くなり櫻子は僕の額を指差し、急いでティッシュと絆創膏を取り出した。何とも手際がよい。
「だ、大丈夫ですよ…。この位…。」
「ダメ!ほっとくと膿んじゃうかも知れないでしょ!」
と、僕の頬を抑え、ティッシュで額を抑えた。先に言っておくけど、滅茶苦茶顔が近い!それに何か良い匂いがする!
「はい、これでよし。」
「あ、ありがとうございます。」
絆創膏を貼り終えた櫻子は、最後に僕の鼻の頭を叩いた。
「何か、先生って良い奥さんに成れそうですね。」
僕は正直な感想を述べた。
「じゃあ、裕二君の奥さんになっちゃおっかな〜。」
と、僕の頬を引っ張りながら応えた。完全にからかわれている…。
「あはは、あんまりからかわないで下さいよ…。」
「フフフ、ごめんごめん。でも、ホントに裕二君の奥さんに成れたら良いのにな…。」
「はい?」
後ろを向きながらだったので、後半が良く聞こえなかった。
「え?ううん、何でも無いよ。そういえば、裕二君って彼女とか好きな子とかいないの?」
何か話しを無理やり変えられた気がする…。
「いえ、残念ながら、彼女も好きな子もいないんですよね〜。強いて言うなら、スン位ですかね。」
スンとは飼い猫の事である。もう、最高に可愛いんだよね!
「ふ〜ん…………良かった。」
「?」
やっぱり語尾が聞こえない。何かむずかゆいな…。
「先生はいるでしょ。彼氏?」
「え?いないよそんなの〜。気になってる子ならいるけど…。」
と、僕の顔を見ながら顔を赤らめた。その瞬間、僕は悟った。確実に櫻子は恋をしてると。見ず知らずの誰かに。
「へぇ〜、じゃあ僕、応援しますよ。」
「……ホント鈍感なんだね。」
「はい?」
すると、櫻子は僕の首に両腕を回し、抱き締めて来た。
「あ、あの!からかわないで下さい!」
「そう思う?」
呟きながら櫻子は僕へ顔を近付けて来た。と、その時。タイミングを見計らったかのように、勢い良く図書室の扉が開かれた。入って来たのは緑川冴子であった。流石に謹慎が解け、今では元気に登校している。
「おう!裕二!何かみんなが呼んで…って何してんだお前ら!?」
冴子は僕と櫻子の状況を見て盛大な勘違いをした。鬼のような形相をしながら。
「ち、違うよ!そんなんじゃないよ!からかわれてるだけだよ!」
僕は必死に先生の腕から離れ釈明する。何か殴られそうだからだ。
「じゃ、早く教室に戻らないといけないので、これで失礼します。」
「うん。手伝ってくれてありがとう。」
「失礼します。」
僕は先生に一礼し、冴子と共に図書室を後にした。
「ホント、何であんな鈍感なんだろ?」
図書室に1人残った櫻子は、窓の外を眺めながら呟いた。
何か、三角・四角関係と言うより、ハーレムに近い状況になって来てるかも…。




