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3,3人目の女…推理小説か!

 長いこと掛かったのに、ベタ~。

 今日から11月。いよいよ冬本番だ。


「さっぶいな~…。」


 僕は凍えそうな中、いつものように登校していた。

 僕のヒビは驚異的な回復力をみせ、もうすっかり治っていた。


「お?カップルか…。熱いね~。」


 僕の前を歩く2人組は、人目など気にする様子など無く、イチャイチャ腕を組み幸せそうに微笑みあっていた。


「おや?おやおや!?」


 よく見ると、そのカップルの顔には見覚えがあった。特に男子の方は僕の知人である。


「いやはや、まさかまさか…。」


 驚きと喜びが僕へ同時に襲いかかり、変な汗が出て来た。


「気まずいから遠回りしよっと…。」


「お~い!!裕二君!!」


―ビクッ!?


 僕が方向転換しようとした瞬間、突然声をかけられた。


「美羽さん!?」


「おはよう♪って、何焦ってるの?」


 声をかけてきたのは、化学研究部のアイドル・内藤美羽であった。


「いや…、その…。」


「ゆ、裕二か…?」


 美羽の声で前にいたカップルがこちらに気付いたようだ。


「お、おはよう…。裕之君…。」


 実は、その知人とは僕の親友の宮沢裕之であった。


「あれ?真美ちゃん?」


 裕之と腕を組んでいた女子は、同級生の『関口真美』である。

 彼女は少林寺拳法部で、結構強い。しかも美人で人気がある。


「あ、彼氏?」


「う、うん…。まぁね…。」


 関口は気まずそうに頷いた。


「えっと…、君が阿久津裕二君だよね?」


「あ、はい。はじめまして…ですよね?」


「うん。そうだよ。ひろ君から話聞いたけど、いじめられなくなったんだよね?」


 うわっ!!さりげなくひろ君って言ってるし…。

 微笑ましいね~。


「あ、はい。おかげで毎日が楽しくて楽しくて…。」


 僕は照れながら答えた。


「なら、良かった。今度いじめられたら私に言ってよ。ボッコボコにするから♪」


「ははは…。頼りにしますね…。」


 出来れば、平和的な方向でお願いしたいが…。


「それにしても、つき合ってるならつき合ってるって言ってよ…。」


 僕達は歩きながら話す事にした。


「悪い…。お前がいじめにあってる時につき合い始めたから、言い出しづらくて…。」


「別に気にしないよ。」


 逆に内緒にされていた事がショックである。


「それにしても仲良いね~。2人とも。」


 気まずかったので、僕は話題を変えた。 それから数日後の事である。僕は休日という事でのんびり買い物に出ていた。


「やっぱりあった!今日が発売日で間違いなかった!」


 勿論、目当てのものはゲームである。先日紹介したゲームの続編である。

 そして無事にゲームを買えたので、早速帰ってプレイすることにした。


「とっとと帰ろっ!」


「あれ?ゆうくん?」


「?」


 店を出ようと出口に向かっている途中、懐かしい人物の声が聞こえた。


「あ、桜ちゃん!久しぶりだね!」


 声の主は《雅桜》という女の子である。髪は茶髪のショートヘアで、やんわりした雰囲気の漂う幼なじみである。


「どうしたの?撮影はいいの?」


「うん、今日は休みだよ。」


 桜は今大人気のアイドルで、歌やドラマなど幅広く活動しているのである。


「でも、ゆうくんに会えて嬉しいな…。」


 桜は歩きながら懐かしそうにそう言った。


「そう言えば、しばらく会えてなかったね。最後にあったのは3カ月前だったよね?」


 僕がまだいじめられている頃で、唯一気兼ねなく相談できた相手だ。色々助けて貰ったな…。


「まだいじめられてるの?」


「ううん。もう、大丈夫だよ。」



 そう言えば、桜に報告するの忘れてたな…。


「ごめん…。真っ先に報告すべきだったね…。」


「ううん。でも良かったね。あの時はわんわん泣いてたから、心配で…。」


 さっきも言ったが、本当にお世話になりました…。


「…えいっ!」


「うわっ!」


 不意に黙ったかと思うと、桜は僕の腕に抱き付いてきた。胸の感触とほのかな甘い香りが僕の胸の鼓動を速めるが、鼓動を速める原因は他にもある。


「あ、ああああの…。ははは離れてくれませんか!」


「まだ怖いんだ…。触れられるの…。」


 そう。僕は情けない事に、人に触れられるのに恐怖心を抱いてしまっているのだ。原因は半年近く続いたいじめである。


「ごごごごめん…。」


「良いんだよ。ゆっくり治していこうね。」


 桜はそっと離れると、腕を掴みながら歩き始めた。

 抱き付かれるよりは遥かにマシかな…。


「うん…。わかった…。」


 マシと言っても今すぐ振り払いたいという衝動はある。しかし、ここは我慢しないと…。


「あ、そうだ!久しぶりにスンちゃんに会わせてくれる?」


「う、うん。いいよ。」


 桜も猫好きで、スンのファンである。スンは意外とご近所に人気なんだよ。

 それからしばらく会話は無かったが、無事に家へ着いた。


「ただいま。」


「あら、裕二。おかえりー。」


 家のドアを開けると、ちょうど母が洗濯物を抱えて通り掛かった。


「あれ?今日仕事じゃ無かったの?」


「う〜ん、日程間違えちゃって…。」


 うちの母は、こういうズボラな部分が多々ある。


「そうなんだ。」


「そうなの。あら?その子、お隣の桜ちゃん?」



 母は桜を見て目を見開いた。桜は僕のお隣さんであるが、最近は全く会わない為母も久しぶりに会うのである。


「お母さん、お久しぶりです。」


「あら~、随分キレイになっちゃって…。あ、ゆっくりして行ってね。」


 母は桜の体をマジマジ見つめ、ニコニコしながらリビングへと向かった。


「ありがとうございます。」


「にゃ~。」


 可愛らしい鳴き声と共に、今度はスンが現れた。


「スンちゃん!大きくなったね~。」


 桜は嬉しそうにスンを抱き上げた。


「でしょう。今じゃ、僕の肩に収まりきらなくて…。」


「でも、可愛いな…。ゆうくんに似たんだね。」


 桜は僕へ一歩近づき、そう言った。


「よくわかんないけど、とりあえずこんな所じゃ何だから、僕の部屋に行こうか?」


「あ、うん。そうだね。」


 僕は桜からスンを受け取り、桜と共に部屋へ向かった。 それからどの位経っただろうか。今僕は桜の胸に顔を埋めている。厳密には埋められているだ。


「まだ怖い?」


「だいぶマシになったよ…。」


 これは人に触れられる事に慣れる訓練である。意外と効き目はあるようで、振りほどきたい衝動は次第に和らいでくる。


「じゃ、次のステップだね。私に触れてみて。」


「え!?それはちょっと…。」


「怖がっちゃダメ、大丈夫だから…。先ずは手からにしよう。」


 そう言うと、僕の方へ手を差し伸べた。


「う…、うん…。」


 僕は恐る恐る桜の手のひらに自分の手のひらを重ねた。


「怖い?」


「あ…。大丈夫みたい…。」


 不思議な事に、恐怖心は全く感じ無かった。むしろ桜を思い切り抱き締めたい衝動にかられた。


「桜ちゃん!」


「ひゃっ!?ど、どうしたの?」


 僕は衝動を抑えきれず、桜に思い切り抱きついた。そして、溢れんばかりの感謝の気持ちから目から熱いものが零れ落ちた。


「ありがとう桜ちゃん。桜ちゃんのおかげで僕は…。」


「そんな大袈裟だよ。私とゆうくんの仲じゃん。」


 桜は優しく僕を抱き締め、そう呟いた。


「でも、本当に感謝しているなら1つだけお願いしていい?」


「何?」


 僕は少し離れ、全く桜の目を見つめる。


「あのね…、キスしていい?」


「え?…うん、いいよ。でも遊びじゃ無くて、本気の気持ちでして欲しい…。」


 つまり恋人としてという意味だ。


「当たり前じゃない…。」


「良かった。それじ…。」


 後の言葉は桜の唇により遮られた。そして僕は目を瞑り、桜の全てを受け入れた。しばらくして唇を離した桜は、トロンとした目で僕を見つめる。


「…もっと気持ちいい事していい?」


「僕の方からお願いするよ…。」


「じゃあ、優しくしてね…。」


 こうして僕に、彼女が出来た…。「う…、ん…?ん!?」


 目を覚ました桜は、思わず周りを見渡した。


「え!?嘘~!?全部夢なの!?」


 そう、現実だと思っていた事が、実は全部夢だったのだ。そんな時、ふと机の上の台本に気付いた。


「…って、全部ドラマの内容じゃない。ゆうくんと被っちゃったのか…。う~…、悔しい!」


 そして台本を床へ打ち付ける。

 一方、そんな事など知るはずも無い僕は、寒々とした空の下、4人でゆっくり登校していた。


「そういえば、桜の奴主演決まったんだってな。ニュースでやってた。」


「うん、昨日メールがあったよ。何か僕に似てる男の子を助けるみたいなドラマ何だって。」


 裕之の呟きに、僕は淡々と答えた。


「ねぇ、桜って誰?」


 関口はハテナを浮かべながら問い掛ける。


「あぁ、俺達の幼なじみの雅桜だよ。ほら、売れっ子新人アイドルの…。」


「えぇ!?あの雅桜!?私大ファンなんだ~…。紹介してよ!」


 裕之の答に関口は飛び跳ね…はしないものの、声のボリュームを上げ、驚愕した。


「紹介してやりたいのは山々何だけど、あいつ忙しくて、なかなか連絡つかないんだ…。」


「な~んだ、残念…。」


 関口は露骨にガッカリしている。余程会いたかったのだろう。


「そういえば、今月は文化祭だね。」


「何だよ急に…。」


「いやね、何するのかな~って…。」


 僕はほのぼのとしながら空を見上げた。大した意味は無い。何となくだ。


「そうだな…。出店かなんかじゃないか?みんなやる気無さそうだし、そんな難しい事はしないだろ?」


 確かに裕之の言うとおり、クラスの大半は面倒くさがっている。


「まぁ、それもそうか。」


 僕はどこか納得し、視線を前へ戻した。学校までは後ちょっと。

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