一途な想い〜元カレ
会いたかった。
「こんにちは。僕のこと覚えてますか?」
「ええ、弟さんよね。」
「ずっと憧れてました。僕と付き合ってもらえませんか。」
「あなた、彼女がいるのよね?」
「はい…」
「彼女と別れたら付き合ってあげる。」
「いいんですか。」
こんなことってあるんだ。そのとき僕の世界に光がさした。
◇
「別れてほしい。」
…
「ごめん、好きな人ができた。」
…
「好きなだけで、まだ付き合ってない。」
「そう。じぁあ、最後に抱いてくれないかな。」
ちょと戸惑ったけど、まだ彼女と付き合ってないし、問題ないよな。
「あっ あっ あーっ みゆき…」
あっ、思わず彼女の名前を呼んでしまった。でも、同じ名前だから気づかないよな。
就職して半年が過ぎた頃から、職場の愚痴が増えて、一緒にいても楽しくなくなった。
ごめんね。君が嫌いになった訳じゃないんだ。でも出会ってしまったんだ。
◇
「彼女と別れてきました。」
「問題なくなったのね。じゃあ、付き合おうか。」
そのあと、僕たちは順調に愛を育んだ。
明後日、結婚する。
そんなとき、元カノから電話があった。
「会いたい。最後に会いたい。」
心配になった。彼女は幸せだろうか。
でも、母から止められた。当たり前だよな。
◇
「会ってきたよ。」
「元気にしてた?なんか言われた?」
「元気なんだと思うよ。幸せになってください。って、言ってたよ。」
「そうか。嫌な役をさせてごめんね。」
「家庭的なお嬢さんだし、彼女も幸せになってくれるといいわね。」
「うん。」
◇
軽井沢の教会での結婚式
僕は、僕たちは幸せになる。
兄貴は守れなかった彼女を僕が幸せにするんだ。これまで兄貴には何も敵わなかったけど、彼女は僕を選んでくれた。
◇
あれからいくつの季節が巡っただろう。
「母さん、身体は大丈夫?」
「ええ。今日も一人?」
「うん。やっぱり、兄貴とは顔を合わせたくないみたい。ごめんね。」
「そう…。あなたに会えただけでも嬉しいわ。
でも、お兄ちゃんはあなた達が来ると聞いた時は、ここへは訪ねてこないようにしてるのよ。」
「今度は一緒に来るね。身体、大事にしてね。」
「ええ、ありがとう。あなた、いま幸せ?」
「えっ、藪から棒だな。幸せだよ。」
「そう、それはよかったわ。」
なんだ?俺って、不幸そうに見えるのか?
「ただいま。母さん、元気にしてた。今度は二人でいらっしゃいって、言ってたよ。」
「うん、わかった。」
「兄貴に会うの、そんなにしんどい?嫌だったら無理しないでね。」
「…。わかった。」
なんか、歯切れが悪いな。まさか兄貴が忘れられないわけじゃないよな。
前夫の子がいるだけで、僕たちの間に子どもはいない。彼女も働いているし、一人の子を大切にしたいという希望だから。寂しい気持ちはあるけど、夫婦生活がないわけでもない。
家に帰れば優しく迎えてくれる家族がいる。ただそれだけが幸せだ。
◇
「子どもは2人?」
「3人いてもいいね。」
「あなたの子どもなら、何人いてもいいな。」
「えーそんなに養えるかな。」
「最初は小さなアパートでも、子どもができたらお家を建てたいね。」
懐かしい夢をみたな。お金がない時、住宅展示場に行ってたな。夢は叶ったのかな…。
◇
母が亡くなった。
葬儀で兄貴と顔を合わせる機会が多くなった。
どうして君は切ない顔をするの?兄貴じゃなくて、僕を選んでくれたんじゃないの。
たとえ君が兄貴に想いを寄せていても、君は僕の憧れだから。
ごめんね。手離してあげられないよ。




