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歌を贈ろう。貴方への  を込めて (連載版)  作者: 央美音


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14/14

弟はやりたいことをした2

ガイナーにかけた魔法の説明に抜けがあったので訂正しました。


 まず元凶の一つを始末すると決めたカールズは【瞬間移動】を使って、オブーツェ伯爵の愛人で双子の母親ニーラルの実家である男爵家の屋敷に侵入した。 

 カールズが盗み見たキュレブが調べさせた情報の中には、ニーラルがオブーツェ伯爵から愛されるために【天秤の愛】を当主の許可なく習得してオブーツェ伯爵の愛人になったと記されていた。

 更には周りの住民に、オブーツェ伯爵との関係や実家の秘匿魔法である【天秤の愛】のことを得意気に何度も話していた。

 そして、幼かった娘に【天秤の愛】を教えていた。

 そのせいでアリアは今死んだも同然のようになっている。

 秘匿魔法のことを、平民や幼い娘に教えるという倫理的にどうかと思う行為を平然とやったニーラルに対して、カールズは何と短絡的な生き方をしている女だろうと思った。

 そして、男爵は【天秤の愛】を使えなくしただけのニーラルをただ放逐するのではなく、秘匿魔法を勝手に取得して使用したと発覚した時に、その場で殺しておけばよかったのにとカールズは思ってしまった。

 男爵家に侵入したカールズの目的は【天秤の愛】の原本を奪うことだった。

 カールズは新しく作った魔法で、男爵から【天秤の愛】の詳細と原本が隠されている場所を聞きだしてそれを奪うことに成功した。

 カールズは【天秤の愛】の原本を消滅させたかったが、他人が作った原本を消滅させる方法を知らなかった。

 あと、それをやると【天秤の愛】の影響を受けている者たちからその効果が消えてしまう。

 それは、カールズには不都合しかなかったので奪うだけで済ませることにした。

 秘匿魔法を正しく管理出来ていない家に【天秤の愛】は必要ないだろう。

 原本が無いことを男爵が気づいてもそれを公には出来ないし、カールズの仕業と分かる証拠を男爵家の屋敷には残していない。

 この家の秘匿魔法は【天秤の愛】だけだったので、カールズはそのまま【瞬間移動】で男爵家の屋敷から温室へと移動した。

 温室でカールズは、手にしている【天秤の愛】の原本を改めて眺めていた。

 秘匿魔法の原本をカールズは初めて見た。

 【天秤の愛】の制作者とカールズは血縁ではなかったので、彼が原本を調べても【天秤の愛】のことは何一つ理解出来なかった。

 なじみ深い魔法文字なのに、頭が理解を拒否していることがカールズには興味深かった。

 【天秤の愛】の原本を安全な場所に隠した後、カールズはまた【瞬間移動】を使った。



 次にカールズがやったことは、ニーラルの娘が【天秤の愛】を使った時に彼女を襲った男たちを探すことだった。

 彼女が【天秤の愛】を不特定多数の男に使っていたこと、その中で襲われた時に魔法を使って逃げていたことが複数回あったことも分かっている。

 カールズが男爵から聞いた【天秤の愛】は、秘匿魔法になるべくしてなったという魔法だった。

 【天秤の愛】をかけられた対象が、その時一番好意を抱いている人物への感情を、魔法を使った相手にも同じ感情を抱かせるという単純だが複雑な魔法。

 上手く使えば相手の意思を誤魔化して自分の意のままに操り、地位や財産を奪う犯罪行為に使えることが出来る。

 男爵家はそれを恐れて早いうちに秘匿魔法にしたそうだが、男爵家が【天秤の愛】を使っていない証明にはならないとカールズは思っている。

 ニーラルが【天秤の愛】を習得したことに誰も気づかなかったことがそれを裏付けているように感じるのだ。

 カールズは、相手の好意を利用するのは相手を洗脳する魔法よりも構造が単純で発覚しづらいのがこの魔法の強みだと感じた。

 ただし、この魔法には弱点がある。

 誰に一番好意を抱いているのかは魔法をかけないと分からない。

 一番好意を抱いていた相手が変わっていた場合、魔法の効果はそのままの状態になる。

 同じ相手だった場合は、対象にかけ続けることで魔法の効果を変動させることが出来るが、一度使っただけの相手にはその感情が死ぬまで固定され続ける。

 つまりは、一度ニーラルの娘に性欲を伴う好意を抱いた相手はその感情を手放すことが出来ずにいるということだ。

 四六時中性欲を向けるほどの好色でもない限り、それは本来の性欲を伴う好意を抱いた相手に対するものより強くなる。

 カールズはそれを利用することにした。

 カールズが利用したい男たちを探すのは骨が折れたが、ニーラルの娘の行動範囲を調べてなんとか見つけ出して男たちを集めることが出来た。

 貴族然としているがまだ若いカールズに男たちは警戒心をあらわにしていたが、お前たちが望む女の居場所を知っていると言えば素直にカールズの話を最後まで聞いていた。

 そして、ニーラルの娘を連れてくることを条件にして彼女を死ぬまで離さずにみんなで仲良く暮らすことを誓わせた。落ち合う場所は彼女には刺激の強そうな娼館前にした。

 そして、ニーラルの娘が簡単に死なないように、男たちが彼女へ必要以上に乱暴なことをしないよう釘を刺すことも忘れなかった。

 少し時間をかけたが目的は無事に果たしたので、カールズは【瞬間移動】で温室に戻った。

 マリージア家でカールズが外出していることに気づいた者はいないようだった。

 まだ、日が落ちる時間ではないし、カールズはお腹がすいたので使用人に軽食を頼んで少し休憩することにした。

 カールズはキュレブが何をしているのかを知らない。

 レイアスはアリアが捕縛されてから部屋に閉じこもっているので顔を合わせていない。

 軽食を食べながらカールズは、アリアがいないだけでこんなにも屋敷が静かになるのかと寂しくなってしまった。

   


 夜になったので、カールズは【瞬間移動】を使ってガイナーに会いに行った。

 王城内にある王子の部屋なのに、警備面で何の対策もされていないことに少しだけ驚いたが、カールズより驚いて震えているガイナーの姿を見て気を引き締め直した。

 カールズを見たガイナーはひどく怯えており、死を決意したアリアの話を呆けた顔で聞いていた。

 カールズはアリアがこんな男を好きだったことに苛立った。ガイナーの裏切りを知って打ちひしがれていたアリアの姿を思い出すと更に苛立ってきた。

 こうなる前にはほんの少しだけアリアとガイナーの関係が羨ましかったことを思い出してガイナーを疎ましく思ってしまう。

 カールズは、ガイナーにただアリアの話をしにきた訳ではない。ガイナーにカールズが作っていた魔法を仕掛けに来たのだ。

 それは、昔アリアがガイナーの為に歌った恋の歌をアリアが死んだ後に発動し、彼の声に反応してアリアの歌が流れるように、彼だけに聞こえるよう条件を付けた魔法だ。

 カールズは以前から音を録音してそれを再生する魔法を作っていて、その時の歌をそれで録音していた。

 この魔法はどんなものにでも録音することが出来るようになっていて、その時はテーブルに置かれた花瓶に録音していた。

 そして、アリアが歌い終わった後に花瓶から先ほどのアリアの歌声を二人に聞かせた時の反応は、カールズが満足するものだった。 

 この魔法は、アリアとガイナーへの結婚記念に魔法の名前付けなどの権利を含めてプレゼントするつもりだった。

 魔法の権利を譲渡するのは違法ではないので、カールズは二人にこの魔法を好きに使ってもらうはずだった。

 アリアは歌うのが好きで、よく家族であるカールズたちに歌を聞かせてくれていた。その中にガイナーが加わったのは当然のことのように思っていた。

 この魔法は、二人に魔法を見せた時より上手く出来ており、条件付けをすれば好きな時好きな場所で再生できるようにまで改良を重ねていた。

 将来ガイナーが公爵となった時に、この魔法が少しでも役に立てばいいと思っていた。

 この魔法は、人を使わず他人の秘密を暴くことも出来る。

 一応、魔法使用者がその場にいないと録音出来ないようにしているが、悪用しようと思えば何でもする悪党はいる。

 それがガイナーでないことをカールズは祈っていたが、結局彼がこの魔法を使う機会は来なくなった。

 二人へのお祝いの品のはずだったが、カールズはやりたいことの為にこの魔法を使うことにした。

 どれだけアリアがガイナーを想って恋の歌を歌っているのかをアリアが死んだ後に思い知ればいいのだ。

 震えるだけのガイナーにカールズは悪態をついて【瞬間移動】を使った。



 次に移動したのはニーラルの娘がいるオブーツェ伯爵家だった。

 突然現れたカールズに彼女は強気な姿勢だったが、話していくうちに怯えを見せ始めた。

 カールズが母親に会わせてやると言った途端に大人しくなったので【瞬間移動】でニーラルがいる場所に向かった。

 ナラメと呼ばれているが、本物のナラメが死んだのでオブーツェ伯爵の指示でナラメにされた女。

 母親に会いたいという理由で簡単にアリアを裏切った女。

 カールズは、アリアの友人だった女とあまり接点を持っていなかった。そうすれば少しは何かが変わっていたのかと考えたこともあるがただ空しくなっただけだった。

 カールズは、母親を求めていたニーラルの娘に現実を教えてやりたかった。

 ニーラルは十年ぶりに会った自分の娘を恋敵と勘違いして攻撃した。その娘はただその攻撃を耐えるだけだった。

 ニーラルの娘はあんなにも会いたかった母親に娘だと認識されず、カールズが少し挑発しただけでニーラルを突き飛ばして殺してしまった。

 少し想定外だったが、カールズはここでニーラルが死んでも別に構わなかった。

 むしろ母親を殺したことで、罪悪感に苛まれているニーラルの娘の絶望した顔を見てカールズはとても満足げな顔をしていた。

 カールズは実の母親を殺して放心しているニーラルの娘を一生魔法が使えない体にした。

 捕縛用の魔力封じの手かせなどに使われている魔法技術を直接ニーラルの娘に掛けたのだ。

 人に直接魔力封じを使うのは魔法社会で死人にするようなものだが、ニーラルの娘にはこれから暮らしていく男たちがいる。彼らがニーラルの娘の助けになって決して離れることはないだろう。

 カールズは、魔法を使えなくされたことに気づいていないニーラルの娘を【瞬間移動】で娼館前に連れて行った。

 そして、へたり込むニーラルの娘に魔法が使えなくなったことを教えた。

 まだ男たちは来ていなかったが、カールズはそのままニーラルを放置して【瞬間移動】で温室に戻った。



 カールズは汚れてしまった服を着替えてアリアに会いに行った。

 アリアはやつれた顔をしていたが、カールズを見ると姉としての顔を出して彼を歓迎してくれた。


「カールズ、来てくれたのね」

「うん、姉さん。……やっぱり考えは変わらないの?」

「ええ、もう決めたの。マリージア家の為に、私はこのまま処刑されないと駄目なのよ」

「そんなことないよ!」

「カールズ、し~」

「あ、ごめ、いやっ、人除けの魔法を使ってるから多少の音なら問題ないよ」

「ふふ、慌ててるカールズなんて久しぶりに見たわ」

「もう、姉さんにからかわれるのも久しぶりだよ。……僕、処刑場には行かないから」

「そう、これで、さよならなのよね」

「抱きしめていい?」

「もちろん、私からもお願いするところだったわ」


 カールズはアリアを抱きしめる。

 アリアからも抱きしめ返された。

 この時、カールズはアリアの頭に触れて魔法を掛けた。

 アリアの死後に発動するように、ガイナーと同じ魔法を掛ける。今度は処刑場に響き渡るくらいの音量が流れるようにしている。

 カールズは、アリアをただの見世物にさせる気はなかった。

 他の罪人と同じように死ぬところを見物して、その光景を見なかった者に面白おかしく語って、そのまま日常を過ごして忘れていく。

 そんな風に誰もがアリアのことを忘れていくのをカールズは許せなかった。


「そろそろ帰った方がいいわね」

「もうちょっと一緒にいたい」

「でも、お父様たちに怒られないかしら?」

「僕がここに来ていることなんて父さんは知ってる。母さんは部屋に引きこもってるから僕が屋敷にいないことさえ知らないよ」

「……そう」


 カールズの言葉にアリアは何かを感じ取ったのか、少しだけ彼女は暗い表情になった。

 カールズは慌てて話題を変える。


「そうだ、この前言ってた魔法なんだけどさ、姉さんが言ってたことを試したら上手くいったんだ」

「私が言ってたこと?」

「ほら、あの時……」


 そうやってカールズとアリアは姉弟として最後の会話を楽しんだ。日付も既に変わってアリアの処刑当日になっていた。

 アリアの前でカールズは泣いていた。いつから泣いていたのか分からないが、どうしても今の現状を受け入れられなかった。


「カールズ、泣かないで」

「姉さん……ごめん、ごめんね」

「私こそ、逃げてごめんね。私、怖いのよ。ガイナー様とナラメ、みんなに死んでほしいって思われて」

「僕はそんなこと!」

「聞いて、カールズ。私ね、一緒に逃げようって言われて本当は嬉しかったのよ」

「姉さん」

「カールズの手を取れば、私はきっと年寄りになるまで長生き出来ると思うの」

「うん」

「けど、それでは意味が無いの。私はアリア・マリージアなの。マリージア家の為に貴族令嬢として出来ることを今までやっていたわ。カールズみたいに魔法使いとしての才能は余りなかったけど、私だってマリージア家の為に上手くやっていたと思うの」

「うん、姉さんは、すごかったよ。僕、魔法のことで姉さんには負けないって思うけど、他のことでは敵わないことばっかりだった」

「ふふ、嬉しいことを言ってくれるわね」

「本当のことなのに」

「それでね、私はこうなって初めて気づいたの。私には何も無いってこと」

「何も無い?」

「マリージア家の娘、ガイナー様の婚約者、ナラメの友人、他にもたくさんの肩書が私にはあったけど、私自身が誇れるものなんて何も無いの。それに気づいた時怖くなった」

「……」

「マリージア家の為に、それだけを教え込まれて生きてきた。それだけが私の生きる全てだった」

「それは、僕だって」

「いいえ、私とは違うわ。私、カールズが羨ましかったの。マリージア家の跡継ぎとして将来を約束されていた弟。魔法使いとして若くして活躍する弟。お父様が厳選した婚約者がいる弟。私に会いに来るのは、マリージア家の為にならないのに平然とやってのける弟。ほら、私とあなたは違うでしょう?」

「そんな……」

「マリージア家の為に生まれた私は、役に立たなくなったら捨てられるだけ。カールズ、分かっているわよね。お父様は私を切り捨てた。マリージア家から捨てられた……私にはもう何もないの」


 いつの間にかカールズの涙は止まっていた。優しい姉としてのアリアではなく、ただのアリアとしての本音を初めて聞いた。

 カールズを羨ましいというアリアの姿は、薄汚れた牢屋の中なのにとても美しく思えた。

 アリアの微笑みに、カールズはただ見惚れていた。

 

「カールズ、どうか私を覚えていてね。何も持たないアリアを、こんな時にしかあなたに本音を言えなかった私を覚えておいて」

「姉さん」

「あ、何も無いって言ったけど、私にはまだひとつだけ残っていたわ」

「それは、何?」

「貴族令嬢としての矜持よ」


 アリアは顔にかかっていた髪に触れながらカールズに優しく笑いかける。


「さあ、帰りなさいカールズ。どうか長生きして、マリージア家を大切にしてね」

「姉さん」

「出来るなら、あなたが当主になった時、私をマリージア家のお墓に埋葬して欲しい」

「……分かった。それまで待っていて」

「ええ、待ってる」

 

 カールズは別れの挨拶と共にアリアを抱きしめた後、温室ではなく自室へ【瞬間移動】した。

 


 カールズは自室に色々魔法を仕掛けていて、その中の一つが防音だ。自室のドアには人除けの魔法も追加した。

 ベッドに寝転がるとカールズの目から涙が溢れだした。

 カールズは周囲に気づかれることなく泣き叫んだ。アリアの処刑が始まる時間になってもただ泣いていた。

 いつの間にか眠っていたカールズが目を覚ますとまだ外は明るかった。もう、アリアがいなくなっている時間だった。

 カールズは涙で汚れた顔を魔法で綺麗にした後に服を着替えて部屋を出た。温室へ向かう途中で使用人に会ったので、食事を温室に運ぶように伝える。

 その使用人が泣き顔だったことを足早に去っていったカールズは知らない。

 泣き崩れている使用人たちの姿を見たが、それに対して仕事をさぼるなと叱責するほどカールズは人でなしではない。

 アリアは使用人に好かれていた。

 悪感情を他人に見せなかったアリアはカールズにとって優しい姉でしかなかった。

 きっと使用人には優しいお嬢様として慕われていたのだとカールズはいなくなったアリアを想った。

次の投稿は5/11になります。

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