第5話 気になるあの子
霜山六花には、気になる同級生がいる。
望月恵玲奈。彼女が高一の後半に転校してきてからというもの、六花の学校生活はガラリと変わった。
六花は幼い頃から成績優秀だった。中学でもテストの順位は校内一で、各中学の上位陣が集まる高校に入ってからも定期試験はほぼ毎回一位。内向的な性格だったこともあって友達ができなかったが、小説を書く趣味が楽しくて気にはならない。複数の仲良しグループが乱立する中で「頭が良すぎる故の独立派」の一人だった。
ところが、高一の冬に転入してきた望月恵玲奈の成績は化け物だった。彼女の転入以来、六花の成績は二位が不動の定位置となる。彼女も六花以上に内向的で友達はできていないようだが、おどおどして愛想笑い気味に孤立している六花とは違い、信念があり落ち着いていて近寄りがたい無愛想。黒く輝く美しい長髪と落ち着いたクールさが、同学年とは思えない大人びた雰囲気を醸し出している。
しかも彼女も小説を書くのが趣味だという。完全に六花に完全に被っている上に、彼女は小説投稿サイト「TELLERS」にアップしたファンタジー作品『見せてよ星空』が「創筆大賞」なる賞レースで中間選考を通過したらしく、一部の生徒たちから賛辞を浴びている。TELLERSでは高評価の「スキ」が一個程度しかつかず誰にも見られていない自分は、完全に学内での存在が打ち消された気がした。
六花は彼女に負けることが悔しいわけではない。友達になりたい。良きライバルになりたいのだ。成績を競い合いたいし、小説執筆の話もしたい。
しかし、彼女は自分のことを歯牙にもかけていない。近づこうとしても「お、霜山が望月に宣戦布告か?」と面白がる周囲の目が気になりすぎる。望月さんなんて意識していない、ということを意識して自己演出するしかなかった。
一度、廊下の角で望月恵玲奈とぶつかってしまったことがある。六花は手にしていた何冊ものノートを床に落としてしまい、望月恵玲奈も拾ってくれた。しかし六花は緊張でお礼の言葉が出ず、言葉に詰まっているうちに望月恵玲奈は無表情で立ち去ってしまった。あの時にすぐにでもお礼の言葉が言えていたなら、もっと近づけてたかもしれない。いまだにあの日の後悔は残る。
そしてまた冬がやって来た。望月恵玲奈が再び転校するという噂を聞いた。六花は気が気でならなかったが、今日それが真実であることを朝礼で担任の口から聞いた。恵玲奈は来月には外国の学校へ転校するという。それを知らされて六花は心が凍りつき、他のことが考えられなくなった。
そんな空虚な気持ちのまま下校時にトボトボと彷徨っているところ、エルフィの前で店主の白瀬淡雪に声をかけられたのである。
同じ高校の卒業生だというコンディトリンの氷見子は、六花の話を聞きながら腕を組んでうなずく。
「そうかそうか。友達がいない悩みというのは、まさにあの淡雪店長こそ得意ジャンルだからね」
「氷見子さんだって友達いないでしょ! 自分のことは棚に上げて」
淡雪がすぐに氷見子に指摘する。六花はクスッと笑う。ここは友達がいない人の溜まり場だ。
「淡雪さん……。人から認められないのって、どんな気持ちですか」
六花はつい淡雪に尋ねた。氷見子は感心の声を上げる。
「おー、六花、言うねえ」
「あ、その……ごめんなさい。悪い意味じゃなくて、淡雪さんには、認められてないけれどもいつか認めさせたい、っていう人はいますか」
六花は聞き直す。淡雪は優しくうなずいた。
「うん、いるよ」
「認めてくれないその人のこと、好きですか」
「……うん。好きだよ」
淡雪は一瞬躊躇しながら答えた。嘘を答えようとしたからではなく、ちょっと恥ずかしさがあったから生まれた間のようだ。身近な人なんだろうか、それとも憧れの遠い人なんだろうか。六花はつい思いを巡らせながら、さらに問う。
(つづく)




