それは何味?
酷く憂鬱な慣れた部屋に、何回経験しても慣れないお腹の痛み。
私は、お腹を抑えながら痛みが引くのを待っていた。
(今日はいつもより強かったな...)
お母さんは、気に入らない事があるとさっきみたいに私を殴る。
しかも、身体強化魔法をかけて。
お母さんが魔法得意じゃなくて良かった。
炎魔法なんか使えたらと考えるだけでゾッとする。
お母さんは緊急の会議が入ったらしく、仕事に行ってしまった。涙が出そうになるのを我慢する。
(お母さんが帰ってくる前に、いつも通りにしておかないと)
痛みは一向に引く気配がない。
確か、痛み止め用のシロップ薬があったはずだ。あれを飲もう。
台所に行き、戸棚に入っているシロップ薬を取り出す。
味はブドウ味。いつものだ。
一回分の量をコップに入れ、飲む。
――なにか違和感がある。何だろう、これは。何かが足りない。
そうだ、これは――
――味がしない。
この薬はブドウ味のはずだ。いつも飲んでいるのに間違えるはずがない。
どうして?
正体不明の焦燥感に駆られて、今度は瓶から直接シロップ薬を飲む。
やっぱり味がしない。
?????????????
焦燥感は次第に大きくなってくる。
味がわからないのはダメだ。
普通の人はわかるのに。皆はわかるのに。
私もわからないとダメなのに。
普通にならないと。
――お母さんに怒られる。
また、殴られる。
他の薬を手当たり次第に飲む。
どれも味がしない。
呼吸が浅くなる。
薬はダメだった。
ならば、と台所の脇にある調味料を舐める。
塩。
――味がしない。
砂糖。
――味がしない。
からし。
――味がしない。
なんで。どうして。
怒られる。隠さないと。
慌てて調味料を元の位置に戻す。
そして、シロップ薬を戸棚に戻そうとした時――
戸棚に入っていた小瓶に手が当たり、落ちた。
これは、確か魔力を増強する液状の魔素が入っていたものだ。
お母さんが、大事に、して、いる、もの――
瞬間、今までの感情がすべて上書きされ、頭が真っ白になった。
口を半開きにし、スローモーションで落ちていく小瓶を目で追うしかできなかった。
液状の魔素が飛び散る。そのうちの一滴が口の中に入った。
「...美味しい」
――その魔素は、人生で一度も味わったこともない味だった。




