部屋案内!お互い緊張してしまう!
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目の前には四角い建物が四棟建てられていた。
小さい建物が一つと大きい建物が三つだ。見た目はどちらもとてもシンプルでただの石造りの四角い建物だ。いわゆる”豆腐ハウス”というものだ。
小さい方はウツギが暮らす家、大きい建物の三つは全て酒造施設とのことだ。
この大きな建物三つは、どれも酒を作る場所らしい。
そしてこの建物は全て、SCエネルギーも使わず、ウツギが一人で建てたとのこと。
そのようなことを、まとめてウツギが説明してくれた。
いやぁ…シンプルな作りとはいえ、こんなしっかりした家を建てられるなんて、めちゃくちゃ凄いわ。
「家の説明ありがとう。………でもさあ、それより、真っ先に紹介してほしいものが嫌でも目に入ってるんだけど…」
クスネがあれを見て、さっきのテンションとは打って変わって、尻尾を丸めてビビってしまっている。
可哀想に。俺が抱いてあげよう。
なでりなでり。
落ち着かせる様に、毛並みに沿ってゆっくりと撫でる。
>そうだよなwww明らかに目につくよなwww
>でかーーーい!!
>こっちはウツギの配信まではチェックしてないんだよ!なんだあれ!?説明はよ!
ほら?一部の視聴者も、あまりに常識外のものが目に入り、困惑してるじゃん。というか、俺だって困惑してるしな。
「家の説明より先に、あのデカすぎるグリズリーの剥製について説明してくれ!あんなデカいの、気になって仕方がないだろ!」
そう。ここには、あまりにデカく、圧倒的な存在感を放っているグリズリーの剥製が家の横にドンと佇んでいるのだ。
まるで生きているかのようで、今にも動き出しそうな迫力がある。
顔もやたら凶悪だし、家より圧倒的にデカいし…なんでこんな物騒なものを置いているんだよ!?
「ああ、これを置いているのにはちゃんと理由があるのよ。これはねえ、野生の動物よけなのよ。剥製を置いて野生動物を威嚇してるの。ココに住むのなら、そういう対策は必須なのよね」
ほえー。
なるほどな。過酷な土地ならではの対策というわけか。
どうやらこのグリズリーは荒野の中でもトップクラスに強い”ボス”のような存在で、とても恐れられているらしい。賢い動物はこれを置いておくだけで近寄ってこないし、あのおバカガチョウですらグリズリーを見れば回り道をするとのことだ。
(もしや、これをかっこいいと思って置いてるのか?センスイカれすぎだろ…)
そう思ってしまったことは、ウツギには黙っておこう。
「そろそろ中を案内するわ。あ、でも、いくらあなたがスケベだからって、勝手にうちの私室は覗かないでね!あなたって、うちのパンツとか平気で盗みそうだしね」
「そんなことしねぇよ!」
>草
>ヒノキならやりかねないwww
>でも、そういえばウツギって、私室は視聴者にも決して見せないよな
>気になる…
>絶対ウツギもなにか隠してるぞ!
どうやら視聴者によると、そもそもウツギは私室を誰にも見せたくない主義のようだ。
あれかな?ウツギは友達と外で遊ぶのはよくても、家に上げるのは友達だろうが嫌な人なのかな?
それとも、なにか私室にエグい隠し物があるのか…おそらくそのどちらかだろう。
いずれにしても、俺への信頼感が足りなくて、私室を見せてくれないというわけではなさそうだ。
本気で俺がパンツを盗むようなやつだと思われているなら、かなりショックだからな。
そんなことを思いつつ、怖がっているクスネを抱いたまま、ウツギについていく。
「おじゃましまーす」
家の中はパッと見た感じシンプルだ。現代人っぽい、機能的な家と言ってもいいだろう。
機能的だが、壁紙や家具の色使いから、女性らしい可愛らしさもしっかり兼ね備えられている。
具体的には、白とピンク色を中心とした内装で、インテリアも同様の色で統一されている。
詳しく聞くと、どうやらウツギはここの海にある貝殻を原材料にして、白とピンクの染料を作っているらしい。
その貝殻と、水や石油、動物の胃酸などをうまく配合し、サイキックを用いて化学処理すれば、ペンキの様な塗料が作れるらしい。
他にも、動物のアキレス腱を使ったワイヤーや、鋼鉄虫という金属を食べる虫からとった糸から作った織物、自然と光を放つ苔を使ったランタンなど、多種多様なアイデアによって、便利にスローライフを過ごしているのが見て取れる。
うーん…ウツギは凄いな。俺の思った以上だ。見事としか言えない。
部屋に入ると、さっきまで怖がっていたクスネの態度がころっと変わり、部屋を駆け回り始めた。
ここは安全な場所だと、本能的にわかったのだろう。
相変わらず、俺の相棒は切り替えが速い。
さっきまであれだけグリズリーの燻製に怖がっていたのに、もうこれだけ好奇心に任せて動きまくるとは…やっぱりクスネは大物だわ。
それにしても、さっきからこの部屋からどこか女性らしい甘い香りがする。このピンクと白の女性らしい部屋の雰囲気も合わさり、微妙に落ち着かない。
例えるなら、田舎から出てきた純朴な中学生男子が、何故か圧倒的高嶺の花である年上の可愛い先輩に部屋に誘われてしまい、いざ案内され部屋へ入ると、「お茶を取ってくる」といわれ、一人ぽつんと先輩の部屋で待っている時のような、そんな気が気でないような気分だ。
「あなた、さっきからやたらそわそわしてるわね。ほら?飲み物でも飲んで落ち着きなさい。水しか無いけど、別に良いわよね」
「お、おぅ」
「ちょっと!うちに対してそのぎこちない態度をやめなさいよ!あなた、女性の家に行くのなんて慣れてるでしょ?そんな態度されたら、ウチまで緊張してきちゃうじゃない!」
>ヒノキの反応が処女みたいで草なんだがwww
>ウツギ程度の女の家に来てそんな反応するな
>甘酸っぱい青春みたいなのやめろ
>さっきウツギは友達って言ってただろ?友達の家に来てドギマギなんてしないよなあ?
>あなたってもはや、二人恋人のいるプレイボーイなのに、なんでいつまでも童貞みたいなの?
だって、俺はプレイボーイってわけじゃないからな!
視聴者の言う通り、確かに俺はセリやトリカの家には何度も行っている。だが、あの二人の部屋の内装は、こんなに女性らしいものではないのだ。
だから、こういうピンクと白の空間は俺にとっては未知のもの。ちょっとくらい緊張するのは許してほしい。
「は、はい。水どうぞ。じゃ、じゃあ!!軽く家を案内すればいいのよね?」
>ウツギも緊張しだして草
>なんでだよwww
>おい…なんか甘酸っぱいからそんな青春ラブコメみたいなのやめろ…やめろ!
>緊張が移ったのかwww
>ウツギの身体の動きがギギギギギって感じでぎこちなくておもろいwww
なんだかそんなウツギの姿を見ていると、緊張しているのが馬鹿らしくなってきた。
俺は水を一気飲みして、一旦落ち着く。
よしよし。俺の方は無事に緊張が完全に解けた。
「おう!話が速いな!落ち着いたら、早速案内してくれ!」
俺はウツギにそう返答し、手作りであろうソファーに深く腰掛ける。
せっかくだし、緊張しているウツギの姿を目に焼き付けておこう。
じーっ。
そんなニヤニヤとした俺の態度が気に障ったのか、ウツギは俺と同様に水を一気飲みし、その後、自分の両頬を強く叩き、
「うちは緊張なんてしてないわよ!!!」
そう叫んだのだった。
>気合で緊張を解いてて草
>流石腐っても闘技場上位常連組だな。緊張なんて対処は余裕か
>でも、やり方が強引すぎるwww
>頬が真っ赤で草。どれだけ力を込めたんだよwww
直ぐに立ち直ってしまったのは残念だ。
でも、ちょっとだけでもウツギのおろおろした姿を楽しめたので、それだけで満足しよう。
次回予告:発酵の魔術師




