過労警報その2!家畜の格付け争い!
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しばらくして、二度寝から目を覚ましたトリカ。
「おはよう。気持ちの良い目覚めね」
「おう!おはよう!」
なんとなくだが、トリカの目に輝きが戻り、表情もいつもと変わらない姿に戻った気がする。それに、寝起きですらちょっとした所作に美しさがある。よしよし!しっかり休めたようだな!
一見もう疲労感は見えないが、今日は徹底的に休んでもらうと決めているので、まだまだ俺のリラックスツアーは続行しよう。
いつもしっかり働いているんだ。たまにはそういう日があってもいいだろ?
「さて、次はわたくしをどうやって休ませてくれるの?」
トリカがいたずらっぽく微笑む。
うんうん。その挑発的な表情。いいね!いつもの調子が出てきたようだ。
「次はお外でピクニックだ!お弁当を手作りしてるから、楽しみにしてくれよな!」
「あら。楽しみね」
今日のために、昨日の夜からしっかり準備してきたのだ。
ただ、ピクニックするにしても、この西の草原地域一帯は外は風がやたら強い。なので、トリカの所有している機械の一つの、”ムードモジュレーター”を使わせてもらうつもりだ。
これは以前トリカのライブ中に天候を操る時に使っていたものの簡易版で、ある程度周囲の環境を自由操作することができる魔法使いの杖のような形の機械だ。
これを一振りすれば、たちまち周囲の環境が過ごしやすいものとなる。これで強風を抑制させてもらうつもりだ。
「この状態のまま次のピクニック会場へ運んでいくからな」
「あら?別にもう眠くないわよ?それなのに運んでもらっていいの?」
「おう!というか、このまま運ぶのはただの俺の我儘だ!腕の中のトリカが可愛すぎて離したくないんだ!」
「そう?なら、頼むわね。ふふふ、男をタクシーとして使うなんて、とても贅沢ね」
トリカが少し照れを交えて楽しそうに微笑む。うん。やっぱ可愛いわ。
俺はトリカをお姫様抱っこで運びながら、ロイヤルを連れ、近くのある程度広がった景色の良い草原である放牧場へと向かう。
そこへたどり着くと、家畜たちがぞろぞろと寄ってきた。
何故かみんな行儀よく行列に並ぶように列をなしている。もしかして、トリカに撫でられ待ちをしているのか?
それでも俺がトリカを腕の中で離さないでいると、コイツら家畜達の目が、まるで「トリカ様を独占してズルいぞ!」と非難するような、どこか嫉妬の混じった目で見てきた。
はいはい。分かった分かった。下ろせばいいんだろ!分かったから、そこの一番先頭のヤギ!俺を頭突きするな!
俺はしぶしぶトリカを地面に下ろす。まあ、どうせ敷物をひいたりなどの準備があるので、そろそろ降ろさないといけなかったしな。
…というか、コイツらトリカのこと好きすぎないか?どいつもこいつも目がガチすぎる!
でも!お前らより俺のほうがトリカの事好きだからな!そこは忘れるなよ!分かったな!
「ねえヒノキ?意識してないかもだけど、さっきから考えが声に出てるわよ?ふふ、わざわざ家畜たちに張り合わなくてもいいじゃない。ふふふ、おかしいの」
え?ほんとに声に出してた?
…ほんとに?
まあ、多少恥ずかしいが、トリカが笑ってくれたので結果オーライとしよう!
俺は恥ずかしさを隠すように、敷物を敷き、そこで弁当箱と飲み物を用意し、食べる準備をテキパキと済ませる。
その間に、トリカは家畜たちの期待に答えるように一匹一匹撫でている。
ポニーや豚、鶏など、ここの家畜は通常の品種よりも身体が小さい。そんな小さい動物たちが列をなす光景はなかなか可愛いものがある。まあでも、可愛いのは見た目とは裏腹に、したたかで環境適応能力の高い生物という一面もあるんだけどな。あと、目がちょっとガチすぎて怖い。
「今日のメニューは…じゃーん!卵をたっぷり使った卵焼きと、新鮮な牛乳を使ったベリースムージー。ゆで卵と各種色とりどりの野菜を混ぜたサラダに、ヤギのミルクをつかったチーズと、バケットを焼いて持ってきたぞ!」
トリカの家のキッチンはなかなか設備が豪華で、食材や調味料も抱負。だから、いつものスローライフとは異なり、なんの縛りもなく料理が出来てすごく楽しかった。
ただ、何でも作れてしまうがゆえに、何を作ろうかは迷ったが。
悩んだ末に俺が作ったのは、基本的にここで飼っている(自分から飼われている)家畜たちの食材などをメインに使うことに決めた。
大量に食料保存庫にあったし、せっかくのここで取れた食材だからね。それに、地産地消ってスローライフっぽくていい響きだろ?
卵や牛乳などが大量にある原因は、ここの家畜帯が、卵や牛乳などを進んで貢いでいるからだ。
最近ではトリカが用意した乳を絞る機械や、卵を集める機械などに進んで入っていき、せっせと貢いでいるらしい。
「すっごく手作り感満載のお弁当ね。こんなの食べるの久しぶりだわ」
「トリカは完成された料理ばっかり食べてるだろうから、口に合うかはわからないがな」
「ふふふ、あなたがわたくしのためにせっかく作ってくれたのだから、たとえ不味くたって食べるわよ。まあ、そんな心配は必要なさそうでしょうけどね。あなたって意外と料理出来るものね」
「おう!最高に美味しい料理はまだ作れないが、ほどほど美味しいものなら作れるからな!そこは安心してくれ!じゃあ、食べようか!」
「「いただきます!」」
家畜たちに見守られながら、俺達は弁当を食べ進める。
家畜たちは自分たちの貢いだ食材が使われていることがなんとなく分かっているようで、どこか自慢げで嬉しそうだ。
「どれもこれも美味しいわ。やっぱり、愛する男が自分のためだけに料理を作ってくれるなんて、すっごく贅沢だわ。わざわざ作ってくれてありがとうね」
「これくらいお安い御用だ!いくらでも作るぞ!」
トリカも満足そうで良かった良かった。
時折よってくる家畜たちに野菜をあげたり、撫でたりしながら、俺達はしばらくの間和やかに食事の時間を過ごした。
「「ごちそうさまでした!」」
お腹が満たされると、場の空気ももっとのんびり穏やかになっていく。
しばらくその余韻を楽しんだ後、俺は持ってきたハンモックセットを三つ組み立てる。これは俺とトリカとロイヤルの分だ。
「さあ、次は少し食休みの時間だ!」
「これに乗って寝転べばいいのね。なんだか楽しそうね」
そんな感想を漏らしながら、トリカがハンモックに寝転んだので、俺も静かにハンモックに身を沈めた。
この草原は色とりどりの小鳥たちがさえずりながら活発に飛んでいる。
ここならハンモックで揺れながら、ゆったりバードウォッチングをすることができて、かなりリラックスできるはずだ。
俺達はしばらくの間ハンモックに体を預け、和やかに会話を楽しんでいた。
そんなとき、ふとトリカがポツリと、こんな嬉しいことを言ってくれた。
「休憩する場合、快適な室内と最高級の高機能ベッドで短時間の仮眠をすることが何より素晴らしいと思っていたのですが、たまには外でのんびり寝転ぶのもいいわね」
「そうだろ!トリカもスローライフの良さが分かってきたようだな!」
「ふふ、それはどうかしら?わたくしには一生スローライフの良さはわかりそうではありませんけどね。だって、わざわざ便利に生きられるのに、それを使わないなんて考えられませんもの」
「でも、このただのんびりするだけの時間がいいと感じたんだろ?それなら、きっとトリカにもスローライフ適正はあるはず!」
「ふふ、今わたくしが楽しいのは、あなたやロイヤルと一緒の時を過ごしているからですわよ?スローライフとか関係ありませんわ」
「まあ、トリカをスローライフ沼にはめる計画が一歩前進!ってくらいで考えておくか」
「あなた。そんな計画を考えていたのね」
いいだろそれくらい思ってしまったって。自分の好きなものを共有したいと思うのは自然の摂理だからな。
だから、そんな呆れた目で見ないでくれ。
あと、何故かトリカと一緒に呆れた目で見てくる一部の家畜共!お前らのことは許さん!
お前らには将来その毛並みがハゲる呪いをかけてやるからな!
「だから、わざわざ家畜たちに張り合わないの。分かった?」
「はい」
今回は声に出して言っていないが、そもそもトリカには俺の考えなんてお見通しだったようだ。
心なしかドヤ顔な家畜たち。
コイツら、無駄に俺に対抗意識を持ってやがる…ムカつく!
最近ちょっとトリカにかまってもらえるようになったからって、いい気になりやがって!
何度でも言ってやるが、俺のほうがトリカのこと愛してるんだからな!覚えてろよ!
そんな俺達の様子を、ロイヤルとトリカは馬鹿な子を見るような目で見ていたのだが、それは俺の知るところではなかった。
次回予告:目と目があったらポケモンバトル!




