反省会議!この惑星にも旅行の経験を活かそう!
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「お前らだけズルいぞ!私らだってたまには息抜きしたいときもある。でも、この観光地のために我慢しているんじゃないか!」
「うるせー!健康が楽しいなんてこと、こっちだってわかりきってるんだよ!だから別に表の連中の邪魔はしてないだろ!こっちはこっちで気を使っているんだから、ごちゃごちゃ言うな!」
何故か、ライブ会場を出る時、この様な喧嘩をしている人達がいた。
というか、よく周りを見回してみると、色んな場所でこのような殴り合いの喧嘩が勃発している。
どうやら、表と裏の人達が本気で意見をぶつけ合っているようだ。
きっと、トリカの歌に影響され、闘争本能を掻き立てられたのだろう。なにせ、蕾たちへのエールを聞くと、今すぐにでもなにかしたくなるからな。しかも、アンコールも合わせ二回も聞いたのだ。そりゃあ、こんなことにもなるか。
でも、こんな事当事者たちに言うのもあれなので言わないが、はたから見ているとじゃれ合っているようにしか見えないんだけどな。発せられる言葉こそ強いが、身体自体はトリカのライブでヘロヘロなので、思うように身体が動かないのだろう。
本人たちは本気なのかもしれないが、正直見ていて微笑ましい。
トリカの歌は不思議と誰の心にもすっと入ってきて、少しだけ何かを変えてしまう魔法のような力がある。ライブに来たファンが少しだけ性格が変わったり、思い切りが良くなったりなどの変化は、実はよくあることなのだ。
それが良い方向に作用するのか、悪い方向に作用するのかはわからない。でも、変化するというのは良いことだと俺は思う。
だから、たまには思いっきり喧嘩する日があったっていいんじゃないかな?
でも、巻き込まれるのはごめんなので、俺はこの場からはさっさと離れるけどな!
スタコラサッサー!
さて、ライブも終わったので、後はもう惑星フルールに帰るだけだ。トリカも打ち上げなどはせず、すぐに帰るらしい。
今日のライブの余韻に浸りながら足早に帰っていると、気がつけばホテルの前だ。
興奮して火照った体を冷まそうとあえて一人で帰ってきたのだが、まだ全然俺の体は冷めることがない。これなら皆といっしょに帰ってこればよかったかな?
少し時間を置くと、他のメンバーも続々と帰ってきた。
ホテルへ全員が集まった所で、スタッフに案内され、帰還用ルームに入る。
スタッフに案内されていた道中、どこかみんな、いつもより静かだった。名残惜しい気持ちはみんないっしょなんだな。
ただ、スタッフさんに迷惑をかける訳にも行かない。
大人しく俺は帰還用カプセルへとクスネと共に入り、指示に従って目をつむった。
はあ、この旅行もこれで終わりか…このバーチャル旅行。帰る時は凄くあっさりなんだよな。
すっごく個人的なことだが、バーチャル旅行の唯一の悪い点は、帰った後に楽しい夢から覚めてしまったかのような感覚があるところだと思う。どうも、実際には現地に足を運んでいない現実を直視してしまうというか、なんというか…
【帰還まで、3、2、1、0。…帰還処置が完了しました。またのご利用をお待ちしております】
はあ…またため息を吐いてしまった。
ついに、夢から覚める時が来た。
カプセルの蓋が開いたので、しぶしぶ俺はクスネとともにカプセルから出る。
すると、
「おかえりなさいませ」
ヨヒラが丁寧なお辞儀によって、俺達を出迎えてくれていた。
なんだか、帰ってすぐにおかえりって言われるの、いいな。
一言「お帰り」と言われるだけで、こうも心が温かくなるものなんだな。
ホッとするような、安心するような。
ああ、帰ってきたんだなあ…
前回母国の惑星でバーチャル旅行した時は、夢から覚めたような寂しげな感覚があった。
ただ、今回は違う。
ちょっとしたサプライズで気分の上がった俺は、無駄に大きな声で返事をした。
「ただいま!」
◆
帰ってきてから翌日。ぐっすりと睡眠をとった俺達は、再度トリカの家の会議室へと集合させられた。
「さて、今回の観光は楽しむだけが目的ではありません。人気の観光地を訪れ、なにかこの惑星の観光業の参考にするための学びの旅行でもあります。なので、感情が新鮮なうちにさっそく反省会も兼ねた会議を始めますわよ!」
トリカがホワイトボードのような物の前で、先生のようなスーツと眼鏡をかけて仕切りだした。
…ほう。なかなか似合ってるな。
でもその格好、ちょっとだけ俺の性癖に刺さっていて、なんだかムズムズする。
おっと、今回は真面目な会議だ。つい気が緩んでそんなことを思ってしまった。ちゃんと集中しないと。
…と、思った矢先。
トリカがニヤニヤと意地悪に笑いながら、手で全身をなぞるようにして、俺に向かって見せつけるように自分の体のラインを強調しだした。
トリカには俺の内心なんてお見通しということだろう。
あっ、あっ、あっ。トリカ、やめて!その格好を見せつけないで!
セリからの俺を咎めるような視線が痛い。ウツギもウツギで呆れないで!あと、ヨヒラは笑うな!
「さてと、戯れはこれくらいにしておきましょう。では、まずはあの観光地の良かった点、悪かった点をあげていきましょうか。思いついたことはどんなことだろうが、どんどん発言していってください」
その後はふざけることもなく、しっかりと真面目な会議を行った。
会議の内容をまとめると、
良い点
・地元の人間の観光業への積極的な協力体勢
・人の多さ
・地元住民のおもてなしの心
・広大で魅力的な観光スポット
・ホテルの快適さ
・お土産の豊富さ
・わかりやすいテーマ
・一つに特化した、そこにしかない体験
・自然の素晴らしさ
悪い点
・グルメの種類、美味しさ
・歴史的背景
・柔軟性
・スターのような存在がいない
・酒などがなく、夜に遊べない
・男が少ない
・不健康な娯楽がない(隠れている)
・不健康な人にはついていけないところがある、人を選ぶ
・ちょっとしたいざこざ
出てきた案はこんなものだ。ちなみに、悪い点に関しては「強いて言うなら」という前提がつく。正直無理やりひねり出した意見も多かった。
この惑星を観光地化するならば、良い点を参考にし、悪い点に気をつけなければいけない。
ただ、参考にするにしても、観光地として考えるなら相手は格上すぎるということも考慮しないとな。
「では、次にこの惑星でわたくしたちでも参考にできそうなものをあげていきましょう」
まず良い点から、規模や人との関わり、お土産の豊富さに関しては真似するのが少し難しい。
なにせ、この惑星には人がほぼいない。マンパワーが必要なことに関してはすぐには実現不可能。ゆっくりやっていくしかない。
逆に、この惑星でも参考にできそうなところもある。
例えば、わかりやすいテーマを決めたり、なにか一つに魅力を特化させたり、自然の素晴らしさだったり、ホテルの快適さなどだ。
これらはしっかり意識して俺達の惑星にも活かさないとな。
次に悪い点で自分たちも気をつけること。
スターがいない問題に関しては、俺達には関係ない。
ほら、俺とかめちゃくちゃスターじゃん?
え?調子に乗るなって?はいすいません。もっとスターになれるように頑張ります。
と、少し脳内でふざけてみたが、真面目に言うとトリカなんて大スターだし、俺も男ということでそこそこ人気だ。
ウツギだってなんだかんだありつつ今でも人気だし、閣下という未知の生物も、もはやスターといってもいいほどの大人気だ。
もしかして、この惑星ってスターの宝庫?
これはこの惑星の観光業に活かさない手はないな。
他には、歴史的背景に関して。
この惑星が無人惑星だったこともあり、今からどうすることもできない。自然には歴史があるが、受けが良いのはどうしたって人間に関わる歴史だからな。
後の悪い点に関しては、この惑星にも当てはまるのだが、一旦気にしないでおく。欠点を過剰に気にしすぎるのも良くないからな。頭の片隅にでも入れておくくらいにとどめておくという事になった。
「さて、そろそろ今日の会議をまとめますわね」
テーマを決め、特化させ、自然の魅力を押し出し、スター性を活かす。悪い面もあるが、仕方ないと割り切り、良い点を強引に押し出していく。
具体的には、個人の魅力と、自然の魅力という二代柱を中心に、それを徹底的に推していくのが良いと結論付けた。
だいたいこんな感じだ。
ようやく、この惑星での観光業の方向性が決まった。もっと具体的な方向性はこれから決まっていくだろうが、大枠が決まったことは素晴らしいことだ。
たった一度しか旅行に行っていない割には、吸収してくるものはずっと多かった。やはり、先人から学ぶというのはとても効果的だな。
逆に、この惑星の大きな問題点も浮き彫りになったが、それは仕方ないもんな。
この惑星の一番の欠点。それはやはり、人が少なすぎること。
やはり、マンパワーは何をするにしても重要だ。
だからといって、この惑星に人を増やすつもりは無いんだけどな。
人が増えると、この惑星の一番の魅力である、豊かな自然のままの自然がどんどんなくなっていってしまう。そこは、意地でも大事にしたい。
それに、人がいないというのは、見方を変えれば静けさを感じられるという魅力でもある。
多少の欠点はこのように見方を変えるか、他の美点で補うしかない。
そんな所で、今日の会議は終了だ。
次回予告:トラップカード発動!【ドクターストップ!】~ここで壮大なBGMが流れる~




