歌姫楽宴!その2!怒涛の展開!
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「さあ、一曲目は終了よ!準備運動は終わり!うふふ。きっとこの健康都市に住むファンたちなら、多少ハードでも付いてこられるでしょ?ということで、これからもっと激しくなるから、もっと必死でついてきなさい!」
「「「うおおおおお!!!!」」」
その後も引き続き、トリカの激しいライブは勢いを増していった。
多幸感、疲労感、没入感、一体感、陶酔感、高揚感…
次から次へと押し寄せる感情の波によって、俺の脳内はかき乱された。
とにかく目の前のトリカに付いていくのに夢中だったことだけは覚えている。
今ここが現実なのか、夢の世界なのか…
もう、記憶すらぐちゃぐちゃだ。
ライブが始まって大体どれくらい時間が経ったのかすら全く分からない。さっきライブが始まったばかりだった気もするし、もう何十曲もトリカの歌を聞いている気もする。
えーっと。そもそも、今どういう状況だっけ。
周囲を見回してみると…
「え?」
まさに、死屍累々。
会場のファンたち皆が地面に倒れ伏していた!俺しか立っている人がいないぞ!?
そういえば、トリカの姿も見当たらないし…
こうやって少し慌てたことで、ちょっとだけ意識が現実に帰ってきた。
少々落ち着いた所で、何があったのか思い出すためにも、今日のライブの流れを最初から振り返ってみるか。
ええっと…確か…
今日のライブでは、全方位ホログラムによるリアルな演出だけにとどまらず、トリカが特殊な機械を使って実際に気温や天候までいのままに操り、ステージ全体を自然現象で支配したのだったな。
手を振りかざすだけで、実際にどんな環境にでも変えてしまうトリカの姿は、とても格好良かった。
そしてその後、歌声で雲を切り裂いたり、突風を吹き鳴らし、風切音を音楽として使ったり、色とりどりの雷でビートを刻んだり…
この時のトリカ、まるで神様みたいだったなあ。
他にも、突然大雨を降らせたかと思えば、数秒後には青空に虹がかかる。そういう会場を巻き込んだ演出などもあったな。あのときは大変だったなぁ…
でも、そんなのはまだまだ序の口だった。
ときに豪雪、砂嵐、そして重力の反転まで。明らかにやりすぎだと思う瞬間も多々あったのだ。
でも、トリカがいたずらっぽく楽しげに微笑むたびに、みんな結局笑って許してしまうんだけどね。
だって、たとえ道中で苦しい思いをしても、最後までトリカに付いていけば、最高に特別で、最高に楽しい体験をすることが出来るとファンたちは知っているからな。
例えば今日のライブでいうと、大嵐と深い霧によって前すら見えない中、かすかに聞こえてくるトリカの歌声だけを頼りに、ファン同士が手を取り合ってトリカの元に進む。
そうやって皆で一つになって頑張った後。
そこには、大嵐と霧が晴れ、快晴の太陽の光の中、後光を背に受けて歌うトリカの姿が。
その姿に、思わずみんな息をのんだ。
「天使だ…」
自然と俺はそう呟いていた。神々しすぎて、何故か涙が溢れ出しそうになったほどだ。
その後も怒涛の展開は続き、千人のホログラムトリカが現れ、そのトリカに合わせて皆でダンスしたり、舞台が宇宙に代わり、コール&レスポンスで超巨大エイリアンを倒したり…
そんな様々なとんでも状況に身を置かされたのだ。
そうかそうか。ちょっと冷静になってきたぞ。
この身体がふわふわしていて、地に足がついている感覚がないのは、トリカの演出する世界観に没頭しすぎたからか。
すこし冷静になってみると、自分がかなり疲れていることが認識できた。おそらく、あまりに全力ではしゃぎすぎたのだろう。
普段から筋トレを欠かさない俺でこれなら、他のファンはそりゃあ倒れるよな。
ふと倒れているファンたちの表情を見てみると、疲労でダウンしながらも皆一様に満面の笑みだった。なんか、もはや少し怖いな。
でも、笑顔になっちゃうのは仕方ないよな。
なんというか、これってもう理屈じゃないんだ。
魂や細胞の一つ一つが、もっともっとと、トリカの歌を求めているのだ。
はぁ…トリカのライブの時間が一生続けばいいのに…
ふと、会場に静寂が満ち、照明が落ちた。
「…あ、そうだ!もうクライマックスなんだ!」
そうだ!そうだ!思い出した!今は曲と曲の合間のちょっとした休憩時間だったんだ!冷静になったと思っていたけど、まだまだボーっとしてたわ!
倒れていた客たちも次の曲の気配を察知し、ぞろぞろとゾンビのように起き上がってきた。
よーし!みんな一緒に、最後の最後まで全力で楽しむぞ!
「さて、休憩は終わりよ!名残惜しいけど、今日はこの曲で最後。あなた達も疲れていると思うけれど、ラスト一秒までとことん力を振り絞って付いてきなさい!良いわね?」
「「「うおおおおお!!!」」」
空間が揺れるようなファンの声援。
みんな疲労困憊のはずだが、消えかけた炎を再び無理やり強く燃やすかのように、精一杯声を出している。
最後の曲はトリカの歌の中でも大人気な曲。【蕾たちへのエール】
自分を信じて、自分の「好き」を信じ、楽しんで、愛してやれ。そんなメッセージが込められた、力強く優しい応援歌だ。
この曲も大好きだ!俺の中では一番の名曲!
この歌は、俺の中で無くてはならない、思い入れのある特別な曲だ。
だって、闘技場で負け続けていたあの頃、心が折れそうになるたびに、何度もこの歌に支えられてきたからな。この曲さえあれば、俺は何度だって立ち上がることが出来る。
「間違ったって、転んだって~♪」
序盤はゆっくりとしたテンポで、応援歌としてはよくある、どこか懐かしさのある王道のメロディだ。歌い方、衣装などもトリカにしては普通で、とくに変わった演出があるわけでもない。
それでも、トリカの心に迫るような歌声は、じんわりと身体に染み込んでくる。
太陽のように熱く、励ます様に歌うトリカ。
終始自分を信じて、楽しく日々を過ごそう。世界は優しいんだから。
そんなメッセージを、真心こめて歌で心に届けてくる。
聞いているだけで勇気づけられ、活力が湧く。俺の心もぽかぽかと、どんどんあったかくなってきた。
ただし…
「楽しいだけ。本当にそれだけでいいの?」
ジャーン!!!
突如、会場に大きなピアノの不協和音が響き渡る。
そう。この曲はここで豹変する。
サビを終えた直後、曲調は一転してロックに変わるのだ!
激しいギターサウンドをかき鳴らし、一気にめちゃくちゃかっこいい雰囲気の歌に早変わり。
ギターが鳴ると同時に、衣装の明るい色の花のドレスがみるみる枯れていき、代わりに咲き出したのは漆黒の花。
漆黒の花のドレスに身を包んだトリカが、尊大で格好良く、それでいて誰よりも楽しそうに歌い始める。
転調後の歌詞は、穏やかだった序盤とはまるで別物。激しく、鋭く、魂をぶつけるような内容だ。
「戦え!勝ち取れ!足掻け!」
自分を信じて、自分の好きなものを信じ、楽しんで愛す?
それだけじゃ駄目だ!本当に魅力的なものは、ただ待っているだけじゃ手に入らない!
戦って足掻いて、自分で勝ち取るのだ!
例えそれがみっともなかろうと、関係ない。他人なんて気にするな!戦え!
そんな内容を叫ぶように歌っている。
この歌を聞くと、どうしようもなく闘争心が掻き立てられる。
ほら?他のみんなもそうだ。隣を見ても、その向こうも、どいつもこいつも目にギラつきの光が灯っている。
確かに、現代のこの宇宙は平和で争いのない”優しい世界”だ。
ただ、平和になろうが、世界が変わろうが、結局人間は狩猟生物なんだよ!戦いから逃げることは絶対にできない!俺はそう思っている。
「ワタシの”好き”は誰にも渡さない!!!」
ファンたちはきっと体力の限界なんてとうに超えているだろう。それでも必死にジャンプし、タオルを振り回し、一緒になって盛り上げる。
うおおおおお!!!!
そんな叫びの中、気づけば、曲が終わっていた。
うう…時間が経つのが速すぎる!
もう、終わりなのか?
もっと見たい!聞きたい!終わるのやだ!ヤダヤダヤダ!
俺のそんな思いも虚しく、最後の曲を激しく歌ったトリカは、少し息を整えた後、
「今日はわたくしのライブに来てくれてありがとう!!じゃあ、またね!!!」
ステージ中央で一礼し、颯爽と舞台から去っていってしまった。
ああ、終わってしまった。
でも、楽しかった。本当に、楽しかった。
体力的にはへとへとなはずなのに、心は元気いっぱいだ。
「アンコール!アンコール!…」
そうだ!まだアンコールがあるかも!俺もそのコールに混ざろう!
精一杯声を上げて、トリカにこのアンコールの声を届けよう!というか!届け!
アンコール!アンコール!…
すると――
「はぁ、ホントに仕方のないファンたちね!というかあなた達、見るからにヘトヘトじゃない!?本当にわたくしに付いてこられるの?」
「「「うおおおおお!!!!」」」
そのアンコールに応えるように、派手なバイクのような乗り物に乗って登場したトリカ。どうやら、その乗り物でホテルへ帰るつもりだったらしい。
「じゃあ、特別に一曲だけ歌ってあげるわ!わたくしに感謝しなさい!」
「「きゃあああああああ!!!」」
トリカはバイクを爆音で轟かせながら空を走り、その状態でもう一度【蕾たちへのエール】を見事に歌い上げ、そのまま空の彼方へ走っていってしまった。
こんどこそ、このライブは完全に終了。
掛け値なしに、最高のライブだった!
次回予告:あっ!あっ!あっ!今!俺の性癖に刺さりました!




