赤子再現!これセンシティブなの!?
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ウツギと二人っきりで帰り道を歩き、もう少しでホテルにつくくらいの道中。
ふと俺に、ちょっとしたいたずらごころが芽生えた。
さっき言っていたポニテの言葉。
『ウツギは心の奥底では、甘えられる相手を求めているはずなんだ!』
この言葉の真意を試したくなったのだ。
それにしても、ウツギが甘えられる人を求めてるねぇ…ウツギは日々を強く生きているイメージがあるので、俺自体はウツギにそんな印象は一切持っていない。
まあでも、ウツギの親友が言っていることだ。付き合いの短い俺より、親友のポニテのほうが深くウツギのことを知っているか。
よし!せっかくだしちょっと試してみようか!ただし、普通にやるのもなんだか気恥ずかしいので、悪ノリの雰囲気で甘やかしてみよう。
声に少し悪意を込めて、手招きしながら、
「ほら、バブちゃん?こっちおいで~。よちよち!よちよち~♪」
冗談半分でウツギを赤ちゃん扱いしてみた。
俺の期待していた反応は、「ふざけないでよ!」というツッコミ。そういう気楽なやり取りをするつもりだった。
ただ、帰ってきた反応は俺の思っていたのとは全く違っていた。
「え、あ、あぅ…」
顔中真っ赤になって、返答する余裕も無いほどうろたえるウツギ。
あれ?これって…かなり効いてる?
もしかして、ウツギって俺の想像以上に甘やかされるのに弱い?
想定外の反応に少し焦ったが、よく考えればこれはあれじゃないか?
これ、ウツギの弱点の発見ってことじゃないか!?
よしよし!最近ウツギが服をセクシーに着こなすようになったせいか、俺はウツギにただ一方的に誘惑され、からかわれるようなことが多々あった。
この惑星に来た当初では俺が唯一強気に出られる女性だったのに、俺の反応を見て女としての自信のつけた最近のウツギには、そういう俺の強気な態度が一切通じなくなっていたのだ。
だが、この方法を使えば、ウツギに一矢報いることが出来るんじゃないか?
ふふふ!さあ!反撃開始だ!
これからはこの手法を使って、ウツギを強気に弄り倒しまくってやるぞ!
テッテレー!
俺はウツギに対して、武器を手に入れた!
「ねえ?ヒノキ?」
突然、背後の暗がりからぬるっと現れたセリの声に、俺は心臓が止まりそうになった。
「うお!びっくりした!帰ったんじゃなかったのか…」
「嫌な予感がしたから迎えに戻ってきたんだ。迎えに来て正解だったね。ねぇヒノキ、これから女性を赤ちゃん扱いするのは禁止ね」
「え?」
「分かってないみたいだから言うけど、それって性的なことなんだよ?女って、男に赤ちゃん扱いされると、興奮しちゃう人が多いの。”赤ちゃんプレイ”って言葉、聞いたこと無い?」
「えっ、マジで?」
「だから、そういうのは恋人の僕達にしかやっちゃダメだよ?わかった?」
圧の強い声でセリから注意される。
なるほどなぁ…こんなのでも世の女性はえっちに感じるのね。
うん。それはダメだな。釘を指してもらって助かったわ。
武器を手に入れたと思ったけど、その武器は呪われた装備だったようだ。
ウツギは黙ったまま、潤んだ目でこちらを見続けている。何かを期待するような、そんな目だ。
その表情が、少し頭にこびりつく。ウツギには悪いことしてしまったなぁ。
少し調子にのりすぎてしまった。
せっかく、ウツギとは付かず離れずのいい関係を築けていたのになあ…
俺史上一番いい距離感の男女間の距離感だったのに、そんな理想的な関係が少し壊れるかもしれない。
そんな未来が確実にこちらへ向かってきているような気がしてならなかった。
「ば、バブゥ…」
いや、ウツギ。バブウじゃなくてな…うん。すまん、俺が悪かった。
◆
色々ありつつも、楽しい時間はあっという間に過ぎていき、今日は旅行三日目。最終日だ。
俺達はこの旅行を心ゆくまで楽しんだ。
二日目からはトリカがリハーサルで離れ、ウツギも旧友との再会のために離脱したので、俺とセリの二人と、俺達のペット達と共に観光することに。
一日目の夜に元気のあり余ったセリに付き合って夜ふかししたせいか、二日目は昼まで寝てしまい、行きたかった観光の全ては出来なかったが、それを考慮したとしてもめちゃくちゃ楽しかった。
二日目はセリと俺で、お互いにやりたい場所に交互に行くことに。
まず俺の行きたい場所として、齢920歳の長寿おばあちゃんによる、実際の生活体験ツアーに途中から参加させてもらった。
いやあ、一日目に仲良くなった観光地のスタッフさんにおすすめされてから、この体験が凄く気になってたんだよね。
このツアーの大まかな内容は、まず早朝にとても時間をかけて食事を楽しみ、本を読み、体操をして午前は終了。昼からは自然の中でのヨガや瞑想をして、次に心身の健康に良いとのことで滝行体験を行う。最後は掃除は健康に良いとのことで、お寺のような建物で掃除体験をさせてもらうツアーだ。
俺は昼から参加させてもらった。
基本的にセリは健康体験なんてやりたがらなかったので、健康体験をする俺を観察したり、写真をとったり、俺の背中で仮眠したり、たまに邪魔してみたりという、独自の楽しみ方をしていた。
例え斜め上の楽しみ方でも、セリが楽しめるのなら何でもいい。ついてきてくれてるだけでありがたいしね。俺は何かあればすぐに感想を共有したいタイプだから、行きたい所に付き合ってもらっているだけでも十分嬉しいのだ。
ただ一つ文句を言うとすれば、瞑想中に邪魔するのはやめてほしかったことくらいだろうか。
瞑想中でシンと静まり返っている中、セリの悪戯で突然耳元で息を吹きかけられた俺は、変な声を出して目立ってしまったのだ。あのときはかなり恥ずかしかったなぁ…
ちょっとしたトラブルはそれくらいで、ツアーは全体を通してとても楽しかった。特に、長寿おばあちゃんの話す話はどれも全て面白かったのが評価点の高いポイントだな。
会話も健康に良いので毎日それを意識して暮らしていたら、いつの間にかおしゃべりがうまくなったのだそうだ。
あ、でも、一つだけこのツアーにも不満な点はあったな。
掃除体験に関しては、他の観光客ほど楽しめなかったのだ。
昨今では人は自分で掃除なんてすることはない。そもそも部屋がなかなか汚れない素材で作られるし、たとえ汚れても機械が自動的に清掃してくれる。
よって、汚れた場所を掃除するというのは、この宇宙では本来”非日常体験”なのだ。
でもまあ俺は、普通に毎日習慣のように掃除している。掃除なんて俺にとってはただの日常だ。
まさかスローライフをしていることが仇となるとは…
他の観光客がキャッキャと楽しそうにツアー用に汚された廊下を雑巾がけしているのを横目に、俺だけが別に今までとなんの代わり映えのない日常の作業をするというのは、少しだけ退屈だった。
なんというか、バイトをしている気分になったのだ。
そんなこんなでその生活体験ツアーは終わった。
そしてそのツアーが終わった夕方頃からは、セリのやりたいことを中心に観光した。
セリがやりたがったのは、またあの店にチャーハンを食べに行き、そこに集まっているガラの悪そうな裏の地元住人とおしゃべりするだけという、わざわざ有名な観光地へ来てまでするようなことではないこと。
ただ、これが俺の想像以上に楽しかった。
表の人間では決して言えないようなぶっちゃけた話や、あまりに下品なゴシップ話など、裏の人間だからこそできる会話が飛び交っており、俺も思わずゲラゲラと笑ってしまった。
そして、裏の住人はセリとやたらウマが合い、一晩であっという間に打ち解けた。「お嬢ちゃん気に入った!」とまで言われるほどで、なんとその夜に、彼女らが普段遊んでいる招待制の超少数の常連しか遊べない隠れ家へ招待されるほど、セリは裏の人間から信頼を得たのだ。
ご厚意に甘え、俺達はその隠れ家で遊ぶことに。
その隠れ家は夜から早朝にかけてこっそり営業している。そこは簡単なボードゲームを楽しみつつ、この都市では決して食べることの出来ない健康に悪いお菓子や酒などを味わえる、秘密の遊び場だった。
さらに、ちょっとした賭けを楽しむカードゲームのようなギャンブルも用意されており、まさに大人の隠れ家といった雰囲気だった
いやぁ…まさかこの健康都市でそんな不健康な遊びをすることができるとは…そんなディープスポットでただの観光客でしかない俺達が遊べるなんて、なんだか得した気分だ。
そこには愉快で陽気なおばさんが多く、それはまあどんちゃん騒ぎで俺達は思いっきり飲み食い、ボードゲームを楽しんだ。
ただ、ギャンブルをする時にちょっとした事件が起こった。
あくまで俺達が行ったのは少額を賭けるだけの軽いカードギャンブル。
それなのに、その店の店長が「もう勘弁してくれ!」と悲鳴をあげるほど、セリが大無双してしまったのだ。
そんなちょっとした事件もあり、結局セリと俺は店長に強制的に帰らされ、出禁になってしまった。
最後はそんなふうに終わってしまったが、それでもめちゃくちゃ楽しい夜だった。なんというか、こんなに大笑いしたのは久しぶりだ。
こんな珍しい体験が出来たのも全てセリのおかげだ。ありがとう。セリ。
次回予告:俺ってコミュ症!?




