印象豹変!いい友達じゃん!
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「さて、俺達も帰るか。あ、そうだホタルさんだっけ?連絡先を教えてくれない?」
俺は認識阻害をとき、ポニテに体を向け、そう提案する。
その瞬間。
今までの堂々とした態度からは一変。突如ポニテが挙動不審になりだした。
「あっ、あっ、あっ!おとっ!男!男だ!!!ううぇへへへ…ジュルリ。生の男…しゅごい!」
突然の態度の変わりようについていけない俺。
「えーと…えーと…こういう時は…あっ!そうだ!あっしのようなゴミ女でも良ければ、どうかおせっせさせてください!お願いします!お願いしますぅ!」
土下座し、地面に頭を擦り付けてお願いしだすポニテ。床を舐めることも辞さない勢いだ。
ええ…さっきまでこの人のこと結構好印象だったのに…
なんというか、この人には陰キャにも優しいギャルと言うか、そんなイメージを勝手に持っていたのだが…一転して一気に印象が悪い方に変わってしまった。
「ちょっと!土下座をやめなさい!情けないでしょ!」
「うるせえ!これは情けない行為じゃない!私なりの正当な性交渉だ!それにウツギの様にヘタれて何も言えないよりマシだ!」
「なんですって?ウチがヘタレ?…ふふふ、どうやら痛い目にあいたいようね…いくら親友といえども、容赦しないわ!」
「うるせえうるせえ!お前はヘタレだ!目の前に極上の男がいるのに、おせっせをしたくない女なんているわけねえだろ!お前も正直になれよ!土下座して靴を舐めてでも、女の欲が満たされるのなら安いもんだろ?」
「確かに、その気持ちも分かるけど…」
いや、分かるなよ。納得するな。
「だろ!私が配信を見る限りだと、ウツギはちょっと強引に誘惑すれば確実におせっせできるぞ!…はっ!そうだ!二人で協力して、三人でや…」
「ねえ」
その声は、決して大きくはないが、不思議とスルッと耳に入ってきた。暗く、冷たく、確かな殺気を孕んだ声だ。
たった一言で場を掌握したのは、俺の恋人のセリ。今までは俺の隣で俺で他人事の様に話を聞いていたセリが、初めて口を開いた。
「恋人の僕に許可をとらずに、随分好き勝手にことを進めようとするね?」
セリの圧倒的な迫力を前に、座り込んで小動物のようにブルブル震え出すポニテ。
「ヒノキは僕のものだから、手を出したら絶対に許さないよ。もしヒノキに手を出したら………想像しうる限りの最悪の目に合わせるから………分かった?」
ポニテは勢いよく立ち上がり、軍人のようにピンと背を伸ばして、セリに向かって敬礼。
その後、高らかにこう宣言した。
「はい!申し訳ございませんでした!私が悪かったです!以後気をつけます!決してあなたの恋人には手を出しません!」
セリはその言葉を聞き終えると、すぐに返答しなかった。沈黙の中、じっとポニテに目を合わせる。
ちゃんと本心で言っているかどうか、その場しのぎの言葉じゃないか、探っているかのようだった。
セリの静かな迫力が個室を支配する。この場の誰も声を発することが出来ない。
重く鋭い静寂。
ふと、誰かのゴクリとした喉のなる音が聞こえた。普段なら聞こえてこないような音すら聞こえる緊張感だ。
「わかればよろしい。じゃあ、僕も帰るね。あ、ヒノキ。僕は昼間いっぱい寝て元気だから、夜の観光に付き合って?良いでしょ?」
「…おう。良いぞ」
流れで俺にまでしれっと約束を取り付けたセリ。
本当は朝までぐっすり寝たかったのだが、なんか断れる雰囲気じゃなくてな。
俺の了承の返事を聞くと、満足したようにセリも帰っていった。
というか、これはトリカもだが、皆で帰ろうよ。各々で勝手に帰るよ。自由かよ。
静まり返った空気の中、静寂を破るようにウツギが口を開く。
「…ウチがヘタレじゃないって分かったでしょ?絶対に武力ではウチのほうが強いはずなのに、あの子には勝てる気がしないのよね…」
「…よーく分かったよ。あの女はやばい。どの裏の人間よりも目の奥が暗かった。配信を見ているだけだと分からなかったが、あのセリって女はもはや人外だ。あの殺意は相当な修羅場をくぐっていないと出せないぞ?何者だ?」
いやいや…セリってただの一般人だから!そんな人外認定しないで!?ちょっとジェラシーを感じて怒っただけじゃん?あれくらい可愛いもんでしょ?
え?これって俺の感覚が麻痺してるだけ?
いやいや…そんなまさか…
「おそらく、セリは並の女より圧倒的に覚悟が違うのよね…破滅しようが、犯罪を犯そうが、自分の男のためなら何でもやるタイプなのよ」
「そんな女に狙われてるなんて、なんかヒノキさんが可哀想になってきたな…」
なんか同情されたんだけど…
別にセリは俺には優しいから大丈夫だよ?ちょっと闘争心が強いだけで、ああ見えてセリはめちゃくちゃいい女なんだからな?
まあ、別に他人にどう思われようが良いけどね。俺さえセリの良さをわかっていれば、何も問題はない。
「さて、俺もそろそろ帰るけど、ウツギはどうする?」
「うちもそろそろ帰ろうかな。じゃあね、ホタル。久々に会えて楽しかったわ」
「ええ~ウツギも帰るのか?久しぶりに会えたんだから、もっと喋っていこうよ!」
「今日はもう疲れたのよ。でも、ウチもまだ話し足りないから、また明日会いに行くわ」
「おう!また明日な!」
俺はウツギとともに店を出る。ポニテも店の外まで見送ってくれた。
ポニテが帰り際に、
「そうだ!ヒノキ!あんたにも伝えたいことがあったんだった!」
「ん?なんだ?恋人なら受け付けてないぞ?」
俺は軽口で返す。
「…正直、男と付き合えるのなら誰でもいいってのが本音なんだが、あんたの恋人が怖すぎるから、恋人になるなんてこっちから願い下げだ。私はまだ死にたくないからな。でだ、伝えたいのはウツギに関してだ。配信を見ていて、少し思うところがあってな」
なんかしれっとフラれてしまったんだが…まあ、こっちも本気じゃないから良いんだけどね。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ釈然としないが…
「えっと、ウツギに対して?」
「ああ。ウツギのこと、もうちょっと愛してやってくれないか?出来れば、もっと甘やかしてやってほしいんだ!」
ポニテの目は妙に真剣だ。これはこっちも真剣に聞かないとな。
「ウツギってさ、素直じゃないし、バカで意地っ張りで、不器用な生き方をしてるけどさ。でも…それでも、誰よりも頑張り屋ではあるんだ!しかも、親がクズで赤ちゃん時代に愛されて過ごしていなかったからか、甘えるのも下手ときたもんだ。でも心の奥底では、甘えられる相手を求めているはずなんだ!」
続けてポニテは、俺に熱いメッセージを伝えてくる。
「ウツギみたいな強い女を甘やかす存在なんて、ヒノキさんくらいしかいない!ウツギをよろしくお願いします!」
「ちょっと!何言ってるのよ!ヒノキ!コイツの言う事なんて気にしなくていいからね!じゃあ、さっさと帰るわよ!じゃあね!」
そういって俺を引っ張ってさっさと帰ろうとするウツギ。
「おう!心に留めとくよ!じゃあな!」
俺はウツギに引っ張られるように、帰り道を早足で歩く。
ポニテは俺達が遠ざかろうがお構いなしに、体を目一杯使って大きく手を振りながら、ウツギにも自分の思いを大声で叫んだ。
「じゃあな!ウツギ!過去も今も未来も、私はウツギのことずっと応援してるぜ!最近のウツギは表情が柔らかくて、女として過去最高に魅力的だぞ!それを見て、私はなんか凄く安心したんだ!あんまり頑張りすぎないように、頑張れ!」
その言葉に返事はせず、黙って手を振り上げることで返事としたウツギ。
その横顔は少し誇らしげで、少し恥ずかしそうだ。
「いい友達じゃん」
「…ふん。そうでもないわよ」
あまりにもわかりやすい照れ隠しだ。
しばらくの間、俺達二人は帰り道を黙って歩いた。
言葉はなかったが、俺達の間に吹く少し冷たい夜風のおかげか、不思議と心地よかった。
次回予告:?「ば、バブゥ…」




