表裏一体!この観光地の問題点!
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俺達はチャーハンを食べ終えた後、トリカが認識阻害を解く。これで今認識阻害状態の人間は俺とセリだけだ。
おそらくこれから俺達は暇になるだろうから、話を聞きながらセリとイチャイチャでもしておきますかね…
そんな所で、ポニテが口火を切る。
「まず最初に、私の話の結論を言ってしまおう。歌姫。あなたの歌で私の願いを叶えてほしい。そしてそのためには、歌姫にはこの観光地の問題点を知ってもらう必要がある。というより、私が個人的に歌姫にも知っていてほしいんだ」
俺は思わず首をかしげる。どういうことだろうか?
少し間を置き、説明を続けるポニテ。
「実は今、この街に住む地元住人は争い合っている。観光地本来のコンセプトである、健康にどっぷりつかった生活をしているいわゆる”表”の連中と、ここに息抜きに来るような健康に嫌気が差してしまったいわゆる”裏”の連中。近年その溝がどんどん深くなっていってしまっているんだ」
ほえーそうだったんだ。
それを聞いてまず最初に思ったのは、わざわざこの惑星に住むのなら健康生活を嫌になるなよ、という考えだ。まあでも、こんないかにも正論っぽい考えで全てが片付くほど、人間というのは単純じゃないもんな。理屈通りにいかないのが人間ってもんだよな。
それに、ゆるく健康を楽しむのは良いが、徹底した健康生活を毎日送るとなると、流石にしんどいかもな。
俺は今日の観光の時、表の地元住民に健康の秘訣、普段の生活をどう送っているかなどをたくさん質問した。個人的に気になっていたからな。
いろんなスタッフに話を聞いたが、誰に聞いても返ってくる返答は似通ったものだった。
基本的に共通しているのは、食事は徹底的に気を使い、よく笑い、運動と睡眠は欠かさないこと。
もっとすごいいわゆるガチ勢の人は、一日の予定をギッチギチに詰め込み、瞑想やヨガ、サウナや散歩や日光浴、人助けやボランティアなどを追加してやっているそうだ。
ある意味、ガチ勢は一日たりとも休み無しで、命を削って健康生活をしているともとれるだろう。目的は長寿なので矛盾している感じがするが…
ここの観光地に住む住人全員、そんな生活を当たり前のように毎日送っていて凄いなぁとその時は思っていたが、そりゃあこんな生活、馴染めない人が出て来ても仕方ないよな。
そんなことを考えて俺が一人で納得していると、ポニテは続けて話しだした。
「最初は裏の人間が一割くらいしかいなかったのだが、しだいにちょっとずつ人数が増え、今では二割、もしかしたら三割に届くかもしれないほどいるんだ。そして、裏の人間が増えてきたことによって、様々な問題が起こっている」
「あら?この店みたいに裏の人間が息抜きをする場所さえあれば、たとえ裏の人間が増えようと、問題なんて起こらないのではなくて?」
「ああ、その疑問はもっともだ。だが、現実はそうではない。問題が起こる原因は、どちらかと言うと表の人間にあると私は考えている」
「どういうこと?」
「表の人間は、裏の人間への当たりがあまりに強いんだよ。表の人間は裏の人間のちょっとした不健康すら許さない。それに、もし裏の人間が問題を起こした場合、それはまあ徹底的に排除してくるんだ。表の人間は健康長寿への憧れがとても強く、不健康を悪と捉えているフシがあってな。正義はこちらにありとばかりに、強引で力任せな行動をやりがちなんだよ」
それを聞いて、花ゾーンへの道中のときの騒ぎを思い出した。
確かに、騒ぎ出した裏の人間も悪いが、表の住民と思われるスタッフが集まり、有無を言わさず排除していたようにも思える。
その時はおばあちゃんなのに凄い武術だなぁくらいにしか感想を持たなかったが、確かによくよく考えてみれば、武力で排除するという強引な手段ではあったな。
「裏の人間もこの健康を大々的に推している場所で不健康な生活をするなんて悪いと思い、引け目を感じているから、最初は大人しく隠れていたんだが、どうも最近は裏の人間の数も増えてきたからな。そんな強引な表の連中に抵抗する人も多くなってきている」
なんども裏の連中に言い聞かせているんだがなぁ…とため息を吐くポニテ。眉間の深いシワから、なかなか苦労が耐えない様子が見て取れる。
「でも、どうしてそのことをわたくし達に話したの?そんなことをわたくしに伝えた所で、どうにもならなくない?わたくしに歌うこと以外で、なにかやってほしいことでもあるわけ?」
「まあ、あるといえばあるし、無いといえば無いな。私は、歌姫にこの現状を知っておいてほしかっただけだ。これを歌姫に伝えることで、私の願いが叶う確率を少しでもあげたくてな」
「どういうこと?」
「歌姫の歌には凄い力があると私は知っている。だから、歌姫のライブを通して、せめて一回でも表と裏の人間が団結した姿が見たいっていうのが私の願いなんだ」
ポニテの願い自体は一見そこまで大したものじゃない。
だが、たったそれだけの願いが叶わないほど、表と裏の関係がこじれてしまっているのだろう。
ここから、まくしたてるように、ポニテが一方的に熱く語りかける。
「私は表も裏も表裏一体だと考えてる。私の店がこれだけ繁盛したのも、この観光地が健康を大々的に掲げてくれたおかげだ。表の連中も裏の連中も、どちらも私は愛してるんだ」
一呼吸おき、続けて、
「だから、せめて仲良くなるのは無理だとしても、お互いに嫌いにまでならなくてもいいんじゃないかと、ずっと思っている」
きっと、俺達に話しただけではない様々な問題もあったのだろう。ポニテの言葉から、言いようのない悔しさのようなものがにじみ出ている。
「自己満足かもしれないが、歌姫には、そんな思いを持っている人がいるということを知っておいてほしかったんだ。ここの連中が少しでも変わるきっかけになれるよう、今回のライブをより気合を入れて歌ってほしい!」
ん?なんだ。長々と話して、結論はそんなことか。
そんなことをわざわざ伝えなくとも…
まあ、ここから先はトリカ自身が言うか。
全て話を聞き終え、少し間を開けた後。
トリカはポニテに対し、一言でズバッっと斬り返す。
「あなたにそんな思いがあるなんて、知ったこっちゃないわ!」
うん。トリカならそう言うと思った。
俺はトリカのファン歴が長いのだ。それに、恋人でもあるしね。なんとなくトリカの思考は想像がつく。
「わたくしはね。わたくしの思うがままにしか歌わないの。誰かに言われたとおりに歌うなんて、わたくしには似合わないもの。それに、誰にも頼まれなくても、いつだって本気で歌うわ。歌姫とはそういうものよ!だから、あなたがすることはたった一つだけ。なにか分かる?」
トリカが立ち上がり、部屋をゆっくり歩きながら、ポニテに問いかける。
「すまない。検討もつかない。私は何をすればいいのだろうか?」
ポニテの疑問に対し、トリカは立ち止まり、ニヤッとした表情をポニテに向け、
「ライブを楽しみに待つことだけよ!」
ドンッ!
トリカが地面を踏み鳴らし、顔を指さしながら、そう自信満々に宣言した。
かっけぇ…
この人、俺の恋人なんだぜ!凄くね?
「さて、話はそれだけ?わたくしの今日の目的はあなたとの顔つなぎだけ。影響力のある人物とコネクションが築けて助かったわ。またいずれ連絡するわ。それじゃあ、明日も忙しいから、わたくしは先に帰らせてもらうわ!」
そう言い残し、トリカは認識阻害を掛け直し、ロイヤルを連れ、一人で颯爽と帰っていった。
次回予告:ヒノキは呪いの武器を手に入れた!




