旧友再会!ウツギの過去!
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「さて、わたくしたちは特別にVIP席で食べることになってるわ。ついてきなさい」
お!VIP席!
そう聞いて俺は少しテンションが上がった。こうあからさまに特別扱いされると、なんか嬉しいよね。
ただ、トリカいわく、今から行く場所は急ごしらえで部屋を開けただけのただの個室らしい。普段使っていない従業員用の個室を特別に使わせてもらえるとのことだ。
正直俺の想像していたVIP席とは違うが、それでも個室を用意してもらっただけで十分ありがたい。
どうも、あちら側は俺達とどうしてもゆっくり話がしたいらしく、トリカが自身の名前を伝えた途端、急にそこへ案内されたとのことだ。
トリカの会いたい人物はこの店の店長で、実質的な裏のリーダーでもあるらしい。なぜ実質的なのかというと、その裏のリーダーは、そのカリスマ性から周囲の裏の人物に勝手に祭り上げられているだけで、自らリーダーだとは一度も名乗っていないからだ。
そんなこんなで、トリカについていき、個室へと入る。
しばらく座って待っていると、一人の背の高い女性が入ってきた。
見た目はラーメン屋の店主のような格好だ。黒いTシャツにエプロン、白いタオルを頭に巻いている。なかなか気合の入った立ち姿だ。
ポニーテールが特徴的で、目つきの鋭いかっこいい系の女性だ。
これがトリカの会いたかった人物で、実質的な裏のリーダーなのか。
「えっ…ホタル?…ホタルじゃない!久しぶりね!」
突然、ウツギが口を開いた。
その口ぶり的に、どうも知り合いだったらしい。
ウツギが認識阻害をとき、姿を見せる。
「おう!久しぶりだな!どうしてもウツギに会いたかったから、お前たちにはこの部屋に来てもらったんだ!久々に会えて嬉しいぜ!」
ポニテが見た目のイメージ通りの力強いよく通る声で、ウツギに語りかける。
力強く抱き合って再会を喜ぶ二人。
…ウツギって友達とかいたんだな。
おっと、ふとこんな失礼な考えが頭によぎってしまった。
いやあね…ウツギって孤高なイメージがあり、友達作りとか苦手なイメージがあったからさあ。思ってしまっただけで声に出してはいないから許してくれ。
「ウツギってボッチだと思ってた」
セリは俺と同じことを思っていたようで、思っていても言わなかったことを、ためらいなく口に出した。
「失礼ね!友達くらいいるわよ!」
そのウツギの言葉に対し、ポニテは、
「でも、ウツギの親友なんて実際私くらいだろ?昔から友達作りが下手だったじゃん?なあウツギ!」
「うるさいわね!」
口では反論しつつも、表情が柔らかい。仲が良さそうで何よりだ。
「で、実際、どんな関係なんだ?」
俺はそのポニテに質問を投げかける。
「ウツギとはスクールが一緒だったんだよ。最近では疎遠だったが、スクール生時代からウツギが闘技場へ挑戦しだす頃くらいまでは、かなり仲が良かったんだぞ?いやぁ…当時のウツギはホントにおとなしくてさ…こんなふうに有名人になってしまうなんて、誰も想像してなかったんじゃないかな」
「もう!そんな昔のことをほじくり返さないでよ!それに、昔のことを話されたくないのはあなたもでしょ?あなただって…」
「おっと、この話は不毛だな。私達が損しかしないから、お互い昔の話はやめておこうか。まあ、色々話したいこともあるが、まずは食事だ!私の作った料理を存分に食べてくれ!まあこの店、メニューは一つだけなんだがな!どうも私は不器用で、一品しかうまく作れないんだ。その分、味は保証するけどな!じゃあ、作ってくるぜ!」
まくしたてるように勢いよく話し、自信満々で宣言したのち、ポニテは個室から足早に去っていった。
確かに、これだけ隠れるように営業している店なのに、やたら繁盛しているということは、それだけここの料理が美味しいのだろう。
あ、そうだ。あとであのポニテと連絡先を交換しておいて、ウツギの昔話を根掘り葉掘り聞き出してやろう。ウツギの小さい頃なんて全くイメージできない。本人も進んで語ってくれないしな。
「それにしても、まさかウツギがここの店主と知り合いだったとは思わなかったわ。あなた、なかなか大物と知り合いなのね」
トリカが意外そうに呟く。
「あら、偶然なのね。あなたのことだから、てっきりなにか意図があるのかと思ったじゃない」
「ホントにただの偶然よ。わたくしはただ、この観光地の表のリーダーとは付き合いがあるから、裏のリーダーとも顔つなぎしたかっただけだもの」
「へぇ…それにしても、ホタルが裏のリーダーねぇ…そんなことするタチだったかしら?」
「本人はそんなことをやるつもりはなかったらしいけどね。裏の住人の息抜きのためにオープンしたこの店が想像以上に人気になってしまって、自然と裏の住人のたまり場となってしまった結果、いつの間にかリーダー扱いされていたらしいわ」
「ふふ、ホタルらしいわ。昔っからそういうところは全然変わってないのね」
「ねぇ?せっかくだから、料理が来るまであなたの知るホタルの特徴を話してくれる?」
「まあ、ここ三十年位は会ってなかったから、それ以前の話しかできないけど、それでもいい?」
「十分よ」
ウツギが話すポニテの話を聞きながら、大人しく待つこと数分、ポニテが料理を持ってきた。
「おまたせ!これがこの店の名物。『健康破壊特製背徳チャーハン』だ!残した分はお持ち帰りもできるからな!まあ、ウツギが居るから、そんな心配はしなくていいか!ペットちゃんたちの分もあるぞ!こっちは味が薄いけど、それでも美味しいから安心してくれよな!」
出てきたのは、前が見えないほどの山盛りに盛られたチャーハン。おおう、見た目のインパクトが凄いな。
目の前の山から、にんにくを焦がしたような香ばしい香りと、強い油の匂いが漂ってきて、俺の食欲を刺激する。
ゴクリ。
こいつはとんでもなくうまそうだ!
「「「いただきます!」」」
これだけ大量にあるのだ。一口目からたくさん口に頬張ってやろう!
かき込むように俺はこの健康破壊チャーハンを口にいれる。
もぐもぐ。
…う、う、うまい!
「うまいぞー!!!」
「うるさいわね…」
おっと、トリカに注意されてしまった。すまんすまん。つい叫んでしまった。
でもさ、このチャーハン、叫びだしたくなるような味じゃなかった?
口に入れた瞬間感じたのは、圧倒的な旨味の暴力。
繊細さ?上品さ?知らねえ!そんなことを感じさせてくる味だった。
味自体は一見シンプルなはずなのだが、どうしてかいくらでも食べたくなってしまう中毒性がある。
食べる手が止まらない!魔法がかけられているかのような料理だ!
それに、あっさりしたものばかり食べていたからか、こういう体に悪そうな食べ物が今はやたらと身体にしみる!
夢中になって俺はチャーハンを掻き込むように食べ続けた。
――完食!
あれだけ大量にあったチャーハンが、一瞬で無くなってしまった。
大満足だ。
ふぅ…ごちそうさまでした。
さて、他の皆はどんな食べっぷりだったかというと、セリは普段から少食かつゆっくり食べるので、最初からウツギにほとんど分け与え、食べてもらっているようだ。
少量しか食べていないが、しっかり美味しそうに食べている。セリは健康に悪そうなものはだいたい好きだからな。好みに合って良かった。
トリカはなんと、結果的に一人でこの山のようなチャーハンを食べきった。
別にトリカが大食らいな訳では無い。ただ気力と根性を振り絞り、無理して食べきっただけだろう。こういうところでもトリカの負けず嫌いな性格が出ているなぁ…
ウツギは言わずもがな。一皿目をぺろりと平らげ、今は三皿目だ。これには運んでくるポニテも苦笑い。ホントよく食べるなぁ…
ペットたちにもこのチャーハンは美味しいようで、なかなかいい食べっぷりだった。
「「「ごちそうさまでした」」」
さて、食事も終わり、大満足した所で、ここからはお話しタイムだ。ポニテもトリカになにか話があり、トリカも裏の事情を知りたがっていたので、お互いに情報交換といこうか。
次回予告:歌で全てが解決する世界




