裏飲食店!夕食の時間!
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そんなちょっとしたトラブルもありつつ、気を取り直し、俺達は花ゾーンへ入場した。
勿論、ここもすごかった。
最初に見たのは、花の種から芽が出て、花が咲き、枯れるまでの一生を時間を、一分で全て観察出来る場所だ。ガラスケース内が特殊な環境になっており、時間を加速しているらしい。
その他にも、色とりどりの蝶々が飛んでいたり、凄まじく大きな花があったり、空中に咲く花々、飛ぶ花々、歌を奏でる花の花畑などなど。
なんというか、この花ゾーンは全体的に雰囲気がいい。香り、色使い、BGMなどなど、恋人とデートをする場所としてうってつけだ。
その雰囲気に当てられ、トリカとのイチャイチャが予想外に捗ってしまった。
たくさんいる現地スタッフにも、俺達の明らかな恋人ムーブを微笑ましい目で見られてしまったし、視聴者にはただただ長い間トリカとのイチャイチャを見せつける配信にもなってしまった。いやぁ…すまんな!
まあ、ホントのこと言うと、実際は現地スタッフに微笑ましい目で見られたのは一回だけなんだけどな。
だって、今の俺の状態は、背中に寝ている人を背負って、頭に認識阻害された動物(閣下)を乗せながら、隣の人に何故か首輪を繋がれているというイカれた状態だよ?
だから、そこそこの人達が俺達のことを奇妙なものを見る目で見てきたよ…非常識な状態の俺達が悪いので、そういう視線は甘んじて受け入れよう。
ただ、俺達のことを羨ましそうに見る人達!あの視線だけは納得できない!なんでそんな奴らが一定数いるんだよ!意味がわからなさすぎるんだが!
というか、認識阻害機能。まじでありがとう!認識阻害をしていたからまだ良かったものの、していなかったと考えると恐ろしいわ。
そうやってのんびり過ごしたせいか、あっという間に日もくれてきた。
イチャイチャしたせいで他の観光名所へ回れなかったので、トリカは少し残念そうだが、正直俺は大満足だ。
さて、そろそろ夕食の時間だ。今日は途中で屋台飯のような健康的な軽食を昼ご飯として食べただけなので、俺のおなかはペコペコ。
ホテルへ帰って食事をするかと思いきや、どうやら違う場所で食べるらしい。
どうもトリカには、どうしても会いたい人物がいるらしく、その人物は隠れ家的な飲食店を構えているらしい。そしてその店は隠れ家なのにも関わらず、大人気なのだという。
だから、夕食はそこで食べるとのことだ。
その店は隠れ家ということもあり、あまり人が来るのは大歓迎なタイプではない。よって、配信は禁止。ちょうどいいタイミングなので、今日の配信を終了しよう。
さて、その大人気な隠れ家では、どんなものが食べられるのだろうか?楽しみだな!
「せっかく表も楽しんだのだから、裏も目一杯楽しみたいじゃない?」
ふと、トリカが楽しげにそう呟く。
表と裏?トリカは、一体何を言っているのだろうか?
そんなこんなで、ウツギと合流し、未だに寝続けているセリを起こし、俺達は夕食のために隠れ家へ向かって移動し始める。
トリカに案内されるがまま、路地のような道をグネグネと何度も曲がり、ここ通るの?というような怪しげな道を抜けた先で、ようやく小さなバーのような店にたどり着いた。
これだけわかりにくい立地で営業しているので、トリカに案内されなければ決して来られなかっただろう。
立地からして、あまり人を呼ぶ気がなさそうだ。
でも、それでも大人気ということは、とても美味しい料理を出す店なのだろうか?それとも、知る人ぞ知る、地元の人御用達の店なのだろうか?
期待を胸に満を持して店に入ると…うん、何の変哲もない普通の薄暗いバーだ。人が全くいないので、繁盛している様子はない。
大人気店とは?騙された?
俺がそんなことを考えている間に、トリカはこの店にいるスラッとしたバーテンダーに顔を近づけ、なにか小声でこそっと話す。
バーテンダーもなにか納得した表情を浮かべた。
何してるんだ?
「なるほど、裏のお客様でしたか。では、このスタンプを押しますね。その状態でもう一度この店に入ってきてください」
バーテンダーが俺達のおでこに小さなスタンプを押す。俺達の連れているペットも同様にだ。
透明なインクなのか、特に見た目に変化はない。
あのさ、ちょくちょくさっきから裏って言葉が出てくるけど、裏ってなに?そろそろ説明してくれない?言葉の響きからして、ちょっと怖いんだけど…
まあ、現状をしっかり理解している唯一の人物であるトリカが堂々としているので、トリカを信じてついていくしか無いか。
バーテンダーの指示通りに、一度この店を出る。
そして再度店に入ると、なんとビックリ。
さっきの寂れたバーとはまるで違う光景が広がっていたのだ!
「え?どういうこと?」
目の前には、広々とした賑やかな飲食店。とても繁盛していて、ざわざわとした客たちの喧騒で店内が騒がしい。まるでさっきとは別世界だ。
ああ、これなら確かに、大人気店と言われても納得するな。
店に入った瞬間、香ってくるのは暴力的なまでの香ばしい油の匂い。食欲を刺激するこの香りだけで、胃が一気に目を覚ました気がする。
ただ、少しだけ心配なところも。
ここにいる客層が、ガラの悪そうな人達ばかりなのだ。着ている服も態度も、いかにもアウトロー。この都市の推している健康とは無縁の生活をしていそうな人達ばかりだ。
「さあ、ここが普通の観光客じゃあ絶対に来れない、この都市の裏観光地よ!このスタンプを押した人しこの店に入る資格がないの。スタンプが押された人だけが、地下のこの場所へと案内されるってわけ!」
ほう。ここはさっきの店の地下なのか。
「え?でもさあ?なんでこんな面倒なことしてるの?堂々と店を構えればいいじゃん?」
俺のもっともな疑問に、トリカがしっかり答えてくれる。
「この観光地は健康を全面に押しているから、体に悪い食べ物を出す飲食店って堂々と営業できないのよ。だから、こうやして隠れるように営業してるの」
「なるほどなぁ…ということは、ここでは体に悪い食べ物がでてくるのか」
「そういうこと。この観光地には、健康を何より優先する表の顔と、健康が嫌になってしまった住人が集まる裏の顔があるのよ」
トリカの説明である程度納得がいった。表とか裏とかはそういうことだったのか。
少し思い返してみると、ここの観光地に来てからの食べ物は、味のあっさりしたものや、やたら苦いお茶や、野菜系が多かった。
どうも、料理に関しては味よりも健康を重視というコンセプトを大事にしているらしく、この場所に住む住人たちは、それを皆で徹底的に守っているらしい。
そのような徹底的な健康な食事体験も俺は楽しかったのだが、この様な裏の飲食店が存在するということは、そんな食生活に満足できない人も一定数いるということだろう。
たとえそんな縛りがあったとしても、ここの料理はどれもこれも工夫を凝らしていて、俺は大満足だったがなぁ…
まあ、いわゆる俺は観光客。たまに食べるのと、毎日食べるのでは違うということだろう。
俺はまだ軽食しか食べていないが、ここで食べた食べ物は普段は食べないようなものばかりで、見た目もなかなかユニークかつ独創的だった。観光客である俺は、それらを食べることで新鮮な体験を楽しめ、心は大満足していた。
あれ?でも、冷静になってよくよく思い返してみると、食事自体にそこまで満足感はなかった気もするな。新鮮な体験で食事の満足感をごまかされていただけなのかな?
たった一日しか来ていない観光客でも冷静に考えるとそう思えるのだから、ここの住民はより強くそう感じるのだろう。
ぐう~。
ふと、俺のお腹が大きくなった。というか、この店に入ってからお腹が鳴り止まない。この店内に漂うこってりとした油の匂いのせいだろう。
なんだが、身体が無性に油を求めている気がする。
今日一日ここで出されるあっさりした健康食品ばかり食べていたからか、この店内のいかにも身体に悪そうな油の匂いは、いつも以上にガツンと効く。
ああ、何を出されるのかは知らないが、早く食べたいなあ…
次回予告:ウツギってぼっちじゃなかったのか…




