女交渉術!勝てる気がしない!
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「さて、説教も終わりましたし、本来はお願いを聞かなければならないのですが…実は私、あまり働きたくありません。働くのだるいので」
「えっ?」
>おいwww
>なにしに来たんだwww
>このアンドロイド、自由すぎる
>私も働きたくなんてありません!
「ですが、アンドロイドとしての義務のせいで、働けとお願いされると、そうせざるを得ません。だから、少し強硬手段を取らせてもらいますね」
ちょっと!?アンドロイドって悪い人に裁きを下す者たちじゃないの!?俺、めちゃくちゃいい子ですけど!?俺はただの善良な筋トレ好きの男です。怖いので痛いのとかやめてください。
>強硬手段とは?
>アンドロイドに武力で勝てるわけがない
>アンドロイド怖い、アンドロイド怖い、アンドロイド怖い…
「全力で靴をお舐めするので許してもらえませんか?」
「結構です」
>この男、プライドがないwww
>生存戦略が靴舐めwww
>今どき女でもそんなことしないぞ
「なにか勘違いなさっているようですね。私たちアンドロイドは罪のない一般人に武力を使うことは決してありません。そこはご安心ください。ただし、罪を犯した者には容赦はしませんが」
「じゃあ、強硬手段とは?俺今からなにされるの?怖いからやめてくれませんか?」
「大丈夫です。決して怖いものではありません。ふふっ…ただ、“キモチイイこと”をするだけですので」
その言葉によって、俺の心と鼻の穴が期待でパンパンに膨らむ。
キモチイイ事!?いったい何をしてくれるっていうんですか!
…じゃなかった!しっかりしろ!俺!
なにか都合の悪いことをされそうなのだから、しっかり抵抗しなくては。
そんな警戒している俺を見て、ヨヒラは俺に目を合わせ、ニッコリと優しく笑う。
…キュン!
俺の心臓が喜ぶかのように激しく動き出す。その笑顔、俺には少し魅力的すぎる。クリティカルヒットだ。
そんなヨヒラの優しい表情を見たからか、自然と俺の警戒心は溶けていった。
>もっと警戒しろ!ヒノキ!
>あ、これもう私たちのコメントが目に入ってないな
>ヒノキ選手!笑顔一つでノックダウンです!
>†宇宙一チョロい男†
「ねえ?御主人様?」
警戒の解けた俺をみたヨヒラは、ゆっくりと俺の目の前、息が当たるくらいの距離まで顔を近づけてきて、俺の両頬を両手でふわっと優しく包み込んだ。
…あれ?
…なんだ、これ?
たったそれだけのことしかされていないのに、なんだか気持ちいい…
これは…安心感か?まるで母の胎内に戻ったかのような、絶対的強者が俺を守ってくれているかのような…そんなとてつもない安心感がある。
柔らかい手の温かい感触と、心地いいジャスミンのような甘くて爽やかなヨヒラの香りが、俺の脳をとろけさせる。
ああ…気持ちいい…
ヨヒラの顔が俺の目の前、至近距離で俺と目が合っている。
黒くて大きな目が、とても綺麗だ。
魅力的な女性にドキドキさせられたかと思ったら、即座にとてつもない安心感に襲われている。そんな安心感の中でも、やはりドキドキしていて──
相反するような状態のせいか、俺の脳内は混乱してふわふわだ。
「御主人様、お願いがあるのです。『あなたは何もしなくてもいい。いてくれるだけでありがたい』というお願いをしてくれませんか?」
とろけるような猫なで声で、ヨヒラが囁く。
何を言われたのか、正直頭に入ってはいない。
でも……なんだかすごく気持ちよくて……温かい。
「良いですよね。では私に復唱して言ってくださいね。『あなたは何もしなくてもいい。いてくれるだけでありがたい』──────はい。よくできました」
ヨヒラに頭を優しく撫でられながら、流れに任せるように、俺は何かを復唱した。
何を言ったのかは自分でもわからないが、なんだかヨヒラが喜んでいる。嬉しいなあ…
「では、そのお願い通り、私は自由にさせてもらいますね」
掌を返したように優しい表情からすん…と真顔に戻り、俺から離れていくヨヒラ。頬から温かさがなくなり、少しさみしい。
…あれ?今俺何してたんだっけ?
>夢見心地で草
>おーい。おきてー
>催眠にでもかけられたのかよwww
>巧みな手口だ…
そういえば俺、今配信していたな…
俺はコメント欄を見る。
コメント内容を把握していくうちに、ゆっくりと大体今何があったのかを正しく認識していく。
──そこで、俺はやっと正気に戻った。
そうか、俺はこんな美人のアンドロイドに何でもお願いができるという最高の権利を、ドブに捨ててしまったのか…
ばか!俺のばか!なにしてるんだ!
って、今更嘆いたって仕方がないよなあ。一度やってしまったことは、取り返せない。
よって、今の俺にできることは──
「ちょっと!そういうのずるくない?ずるいと思います!あのときは正気じゃなかったんだ!そのお願いは無効だ無効!俺と結婚してというお願いに変更します!」
無様に駄々をこねるくらいだ。どう?ワンチャン、ない?
>おいwwwみっともないぞwww
>まだ諦めてなかったのか
>ヨヒラさん、女性から見ても魅力的だもんなあ…
>ようこそ。アンドロイド沼に
「そのお願いはそもそも聞き入れることはできません。一度決まったお願いの変更ももちろんできません」
「くっそー!逆らう気が起きないように行動したくせに!ずるい!」
「ずるくて結構。私はルールの範囲で暴れたまで。何も違法性はありません。そもそも、御主人様が私の言うことを聞かなければよろしかっただけでは?」
「そりゃそうだけどさ…」
>一秒で論破される男
>なぜ言うことを聞いてしまったのか
>なんでも頼めるチャンスだったのにね
ヨヒラがあまりにも堂々と言い放つので、なんだか俺が悪い気さえしてきた。
まあぶっちゃけ、こんな手の込んだ事をしなくたって、普通に「働きたくない」とお願いされれば、俺は「分かった」と即答していただろう。
なにせ、女の子に片手間で頼まれ事をされただけで、ホイホイ言うこと聞いちゃうなんてこと、今までよくあったからなあ…
それを考えれば、あれだけ気持ちよくお願いされて、得した気分にすらなっている。
だからか、あんまり騙された感はない。
それにあのお願い自体も、実は俺にそんな被害はないしね。
でも、俺は早急にこの性格を何とかしなきゃいけないと、改めて感じた。頭では分かっているのだが、本能に勝てないのだ。ほんと困った本能だ。俺が悪いんじゃなくて、本能のせいね。
「別に働く気がないのはいいんだけどさあ…だったら、わざわざこんな遠いところまで何しに来たの?」
「そういえば、理由を言っていませんでしたね。では、私が来た目的を話しましょうか」
コホンとヨヒラは咳払いをして、再度話し始めた。
「端的に言うと、私は御主人様の配信を見て、この惑星の自然に惚れ込んだのです。それで、どうしてもここで暮らしたいと思い、A社伝いに連絡を取ってもらった次第です」
ほえー…
なるほどなるほど。
なんか、ちょっと嬉しいな。別に俺が褒められたわけでもないのにな。
今の発言で、俺はヨヒラの好感度がかなり上がった。自然好きに悪いやつはいないからね。
「確かにここの自然は豊かで綺麗だもんなぁ」
「はい。私はアンドロイドにしては少し特殊な趣向を持っているようで、なぜか人間よりも自然が好きなのです。そして、ここの自然に惚れ込んだ。だから、どうしてもここに来て、暮らしたかったのです」
>そんなアンドロイドもいるんだ
>人間と同じで、いろんなアンドロイドがいるんだなあ
>アンドロイド様いつも色々ありがとうございます
人間よりも、か。たしかにそれは、かなり珍しい気がする。
アンドロイドは悪人には厳しいが、基本的に人間が好きだ。だからこそ、治安維持や惑星の管理なんかも、進んで引き受けてくれる。
「さて、私が来た目的について話した所で、ついでにもう一つお願いがあるのですが」
「…なんか、もうヨヒラに勝てる気がしないから何でも言ってくれていいよ」
>諦めるなwww
>男ならもっと強気でいけよ
>強欲なアンドロイド
>このアンドロイド、なかなかの図々しさで好き
>男から搾れるだけ搾るのは基本
「では、北の方にある湖周辺の土地を私にくれませんか?私はあそこでスローライフとやらをしてみたいのです」
「うーん…まあいいか。いいよ。ヨヒラなら不必要に自然を壊したりしないだろうし」
「ありがとうございます。では、これからはある意味お隣さん同士ですね。これからよろしくお願いします」
きれいなお辞儀をした後、ヨヒラは北の方へ歩いていってしまった。
なるほど。お隣さん、ね。
いいね。なんだか仲間ができた気分だ。
>せっかく惑星丸々買ったのに、土地とはいえ無料であげちゃっていいのか
>うーん、ちょろい
>自由なアンドロイドでしたね
>で、結局あのバカでかい戦斧はなんだったんだ?
確かに、あのバカでかい戦斧は何だったんだろう。聞きそびれたから、また今度会いに行こう。
「なんか色々あったけど、美人だから良し!俺あのコ好き!」
>おいwww
>私たちのことも好きって言え
>土地を取られましたが…
>割と大きな被害被ってない?
「まあぶっちゃけ、これくらいなら今までと比べるとかなりマシなんだよね。お金を無限に取られるわけでもないし、なにか嫌なことを無理やりされられるわけでもないし、性的に搾られるわけでもないし…」
>今までが酷すぎるwww
>流石私たちのカモwww
>性的に搾る事以外は、大体男が女にすることなんだよなあ
>なんで大切にされるべき男がそんなことになってるんですかねぇ…
とにかく、この惑星に頼れるお隣さんができた。
ヨヒラが来て俺のスローライフがこれからどうなっていくのか…これからの生活が楽しみだ。
次回予告:主人公交代の危機!?




