言葉冷戦!健康のゴリ押し!
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「ねえ?今更だけどさ、うちも旅行についてきてよかったのかな?」
「ん?なんでだ?」
俺が配信設定をいじっている間に、ウツギが俺の耳元でひっそりと話してきた。
「だって、一応あなた達二人の恋人記念旅行でもあるんでしょ?うちもノリでこの旅行に参加したけど、邪魔になってない?」
「おう!そんなこと別に気にするな!あの二人とは改めて恋人関係になったけど、ウツギもいわば友達みたいなものだしな!俺は友達も恋人もどっちも大事だから、ウツギも俺にとってもう大事な仲間なんだよ」
ウツギは俺の中ではもう友達の枠に収まっている。仲の良い知り合いの少ない俺にとって、友達というのは貴重な存在だ。大事にしないとな。
そんな俺の返答を聞いたウツギが、少し照れながらも、何故か歯に何かが挟まったかのような、微妙な表情を浮かべた。
「(友達、友達ねぇ…男女の友達…なんか、しっくり来ないわね…)」
「ん?なんか言ったか?」
「なんでもないわ!…そういえば、あの二人って仲が悪そうだけど、あなた達三人でうまくやれてるの?ほら?さっき少し言い争いみたいなことがあったでしょ?その時から、そのことが気になっていたのよね」
言い争いとは、セリがもう一度ルーレットを回せと提案したとき、嫌だったら来なくて結構と言われたやつだろうか?
正直、あの二人にとって、あんなのは言い争いのうちには入らないぞ?
言い争いというのは――だな……
「ねえセリ?わたくしは今日くらいしか観光できないので、今日はヒノキを独占させてもらってもよろしいでしょう?」
「もちろん、駄目だよ!僕は今日も明日も明後日もヒノキと一緒に過ごすよ。そっちのほうがヒノキも嬉しいんじゃないかな?だって、僕のほうが確実にヒノキに愛されているからね」
「あらあら?胸が大きいことしか取り柄のないガキが一端の口を叩くじゃない?」
「へぇ…でも、ヒノキはそんな僕のおっぱいが特別大好きだけどね。それにトリカみたいなペチャパイで、押しの強い女と過ごすのなんて、ヒノキは落ち着かないんじゃないかな?」
「ふぅん。でもヒノキは、わたくしの身体の足の指から頭の天辺まで全てを愛してくれますけどね…あなたは胸しか愛されていないんじゃありません?それに、あなたみたいな根暗と過ごしていても、ヒノキもきっと退屈なはずですわ」
「あはは」
「ふふふ」
そう。言い争いというのは、ちょうど今行われているこんな感じの会話のことだ。今あの二人は、お互い一切目も合わせず、言葉のナイフで刺し合っている。
「た、多分ギスギスとかは大丈夫だと思うぞ?俺達仲いいからな」
「あの会話を聞いてよくそう言えるわね…」
呆れたように呟くウツギ。
「いや、やっぱ大丈夫だと思う!確かに仲が良いっていうのは嘘だが、別に仲が悪いって訳では無いから!それに、意外に二人とも内心ではお互いのことをリスペクトしてるんだよ」
「…あれで?」
「そう。あれでだ」
さっきの会話も、おそらく本気で喧嘩をしているわけではないのだろう。おそらく、ただ軽くじゃれ合っていただけだ。
なんだかんだあの二人も付き合い自体は長いからな。その分、遠慮がなくなっていった結果、あの様な言葉の殴り合いが起きたのだろう。
「へぇー。うちにはそうは見えないけど…まあ、あなたが言うのならそうなのね。それを信じることにするわ」
うん。俺を信じろ。
あの二人は俺が悩み抜いて選んだ最高の恋人なのだ。俺はあの二人をこの宇宙の誰よりも信頼している。
今は新しい関係ができたばかりなので、多少の争いなどはあるだろう。だが、俺達三人なら、なんだかんだ最後には全員が納得する結末を迎え入れることができる気がするのだ。
そんな確信があったからこそ、俺は今までの考えを変化させ、二人を恋人として選んだのだからな。
「さあ、そろそろ行くわよ!」
そんなこんなで準備のできた俺たちは、トリカについていくようにホテルを出る。
途中、ホテルからレンタルした多目的シューズを受けとり、それを履いて観光地へ向かうことに。
この観光地はとても広大なので、多目的シューズが無いと不便なのだ。
この多目的シューズ、地面に触れる部分の素材が特殊なおかげで、すごいスピードで地面を滑って移動することが出来る。もっといえば、この靴さえ履いていれば空を飛んで移動することだって自由自在だ。
試しに地上を滑ってみたり、空を飛んでみたりしてみる。
…うん。操作も直感的でめちゃくちゃ簡単だ。
滑ったり空を飛んだりはクスネを抱いて行ったが、クスネは一切怖がっていなかった。かなりスピードを出しても同様だ。それどころか、スピードを出すと楽しいのか、めちゃくちゃ尻尾を振っていた。
これなら安心だな。クスネが大物で助かったわ。
全員が軽く多目的シューズの試運転も終えた後、俺達はトリカを先頭に観光地へ向かって空を飛んでギュンギュンと進んでいく。
「それにしてもこの観光地、人が多いなあ。それに、子供連れで来ている人も多いわ。うん。活気があって良いね」
「それだけここが安心安全で人気の観光地ってことよ」
空を飛びながら移動中、俺のふとしたつぶやきに、この観光地に詳しいトリカが反応してくれた。
確かに、この娯楽にあふれた宇宙において、人が多いというのは、魅力的な場所であるという確かな証明だもんな。
それに、子供連れが多いということは、安心して子供も大人も楽しめる素敵な場所だからだろう。
これは俄然楽しみになってきたな。
そんなことを考えながら、改めて俺は空からこの都市を注意深く見渡してみた。そうすると、色々なことが見えてくる。
どうやらこの都市では、地域一丸となって、住民が観光業に積極的に参加しているようだ。積極的に住民と観光客との交流が目に入ってくるし、空を飛んで移動しているような明らかに観光客である俺達の存在を無視せず、目が合えば律儀に手を降ってくれる。
さらに、空から見る限りでは、人の空気感も明るいし、空気も綺麗。植物も多く、街の景観もグリーン系の色が多く使われていて、目に優しい。
地元住民も見る限りみんな笑顔だし、地元の子供達も公園などで元気に走り回っている。
ここは観光だけではなく、住むのにも適した場所なのだろうな。
「あ、そうだ。観光地についたら配信しないとな。配信しても認識阻害機能があればなんの問題も無いんだよね?」
「最高レベルの認識阻害措置を設定したので、絶対に大丈夫ですわ」
トリカが自信を持ってそういうのなら、大丈夫なのだろう。
認識阻害中は、実際に俺達に会う人達は、どうやっても俺達のことを一般人としか認識できないらしい。男である俺でも、ごく一般的な女性としか認識されないとのことだ。
それにしても、俺視点でセリやトリカやウツギを見てもいつも通りなのに、他人から見たら俺達のことを全く別の姿に認識してしまうとは…認識阻害って凄い不思議だわ。
どうやら脳内のチップにアクセスして認識を誤魔化しているらしいが、それ以上の詳しい仕組みは知らない。
その状態で配信なんてしてしまうとどうなるのかというと、実はなんの問題もない。認識阻害措置を受けた状態だろうが、視聴者はいつもどおり、俺のことをしっかり認識することができる。
ただし、いつもと全く同じというわけではない。どういうことかというと、視聴する人に制限がかかってしまうのだ。具体的には、少しでも俺のことを特定しようとする邪な気持ちがある人は、そもそも俺の配信を見ることができなくなってしまうらしい。
さて、そんなことを考えていたら、そろそろ配信をしたくなってきた。まだ観光地にはついていないが、もう配信しちゃおう!配信ボタンぽちー。
次回予告:手のひら大回転




