宿泊施設!ついに到着!
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「実は、俺は健康都市の観光が結構楽しみなんだよな。健康って奥が深そうだし」
「ええ~。健康なんてどうでも良くない?だって、支給される無味のタブレットさえ接種しておけば、普通に健康に過ごせるじゃん!」
いやまあ、実際そうなんだけどな。支給される無味のタブレットは、各々の栄養状態などに合わせ、最低限必要なカロリーや不足分の栄養素を全て補ってくれる。
これだけ食べておけば基本的に不健康になることはない。
ただなあ…
「でも、セリってあのタブレットなんて食べてないだろ?」
そう。そのタブレットを食べない人は結構な人数いるのだ。だって、無味だからね。
基本的にあのタブレットを食べる人は、食に興味のない人か、食費を節約したい人だけだ。
セリは言わずもがな食べていないが、俺もほぼタブレット食は食べない。味の問題もあるが、俺の場合はそれだけじゃない。
俺は筋トレを本気でやっている。そういう人にはタブレット食は向かないのだ。
あくまでタブレット食は”最低限”のカロリーと栄養素がある食品。強くて大きな身体をつくるためには、最低限ではいけないのだ。
俺の見事な正論を受けたセリは、ぐうの音も出ない様子だ。
悔しそうに少し押し黙った後、
「健康なんてクソくらえだよ…」
吐き捨てるようにそう呟きながら、これから自分が入るであろうカプセルに向かってトボトボと歩いていった。
まあ、セリのように健康を軽視している人が一定数いるのも理解している。
何もしなくても医療の発達などによって五百歳くらいまで生きられるので、健康って意味あるの?と思うのだろう。
だが実際は、こんな世の中でも健康は大人気のコンテンツである。
なぜなら、生きることと、健康でいることは全く違うからだ。
人は医療の発展、技術の発展によって、とても長生き出来るようになった。その大部分は、脳内のチップによる影響が大きい。チップには老化細胞を排除し、老化をできるだけ抑える機能が自然と備わっている。
さらに、チップを持つ全ての人間には、大多数の病気は無料で治してもらえるという権利まである。まあそもそもこの宇宙の現代人は病気にとてもなりにくいのだが。
チップによって日々行われる自身のメディカルチェックや、生まれる前から遺伝的疾患のリスクを取り除かれることがその要因だろう。だから、これは万が一の保険のようなものだ。
多種多様な手段で寿命を無理やり伸ばすことだって可能だ。金をかければ、細胞を若返らせたり、サイボーグのような生物になって生きのびることだってできる。まあ、これは富裕層限定だが…
これだけ様々な方法で、俺達は生きることを保証されている。寿命以外で死ぬことはほぼ無いと言ってもいいだろう。
だが、これらはあくまで生命維持の話だ。そこには、健康で生活することの保証は含まれてはない。
健康、不健康関係なく、寿命だけが保証されている社会。
言い換えると、長い人生を送ることは確定した未来だ。そんな長い人生を、できるだけ快適に、健康に生きたいというのは、多くの人に共通する願いだろう。
こうした背景があり、健康というのは人気のコンテンツなのだ。
そして、俺達がこれから向かう健康都市パナシアは、そうした願いを極限まで突き詰めた場所だ。
「さて、もうこっちの準備は完了したから、いつでも出発できるわよ。順次カプセルに入りなさい。あ、認識阻害措置は適当に設定しておいたからね。別にアバターにこだわりなんて無いでしょ?まあ、今から変更しろと言われても、面倒だから受け付けないけどね」
トリカ指示に従い、俺は部屋に置かれているカプセルに入る。
今から行くところはペット同伴も可能なので、俺はクスネも抱っこして一緒に入っている。他の皆もペットを連れてきているので、同様だ。
ちなみに、認識阻害措置というのは、他人から見たら俺達の姿が設定された姿に見えるという措置で、主に有名人や、男などが使う措置である。まあ、いわゆる変装だ。
あくまで他人から見たら違う姿に見えるというだけで、俺達自身は元の姿でお互いを把握することができる。そういうとても便利な機能だ。
一応俺達も顔が知られているので、トラブル対策のため、こういう措置はしっかり取らせてもらう。追加で金はかかってしまうが、まあ仕方ないよな。
トリカはどうやら最高レベルの認識阻害措置を設定したようだ。これで、旅先で万が一にも個人が特定されるようなことは起きない。配信をしようが、ペットを連れていようが、なんの問題もなく観光をすることができる。
最高レベルの認識阻害措置って、あらゆる技術、手段を使って俺達を守ってくれるからね。
そんなことを考えているうちに、カプセルの扉が閉まりだした。そろそろ出発だ。
カプセルに入るだけで擬似的に旅行に行くことが出来るってすごいよなぁ。
「準備はできたわね?じゃあ、行くわよ!」
トリカの声がカプセル内に響き、その後、カプセル内に機械音声のアナウンスが流れる。
さあ、ここまでくれば後はもうあっという間だ!
【まもなく出発します。入眠措置を取りますので、目を閉じてお待ちください。…全員の入眠を確認しました。では、出発します。3、2、1、出発!…到着しました。目を開けてください】
指示にしたがって目を開けると、すでに俺は見慣れないベッドの上にいた。
どうやら、ここが今日泊まるホテルの部屋らしい。そこに直接飛んできたようだ。
なかなか豪華かつ、落ち着く木の内装の部屋だ。第一印象は文句なしに最高!
トリカによると、このホテル、名前を【大木ホテル】といい、宇宙まで届く高い大木をイメージしたデザインとなっているらしい。実際このホテルの高さは大気圏を突き抜け、宇宙空間も利用した、巨大で高層な建物となっている。
最上階付近の部屋では、窓から宇宙を見渡すことができるらしい。まあ、宇宙の景色なんて現代の一般人は見慣れていて、この観光地の自然を見渡せるほうが貴重な経験なので、最上階付近はあまり人気は無いらしいが…俺はちょっと興味あるけどな。
壁や床や家具は全て木製というこだわりぶりで、館内のあちこちに観葉植物が置かれているらしく、非常にリラックスできる雰囲気がホテル全体に漂っていると評判の高級ホテルらしい。
せっかくなら観光地だけでなく、このホテル内も後で探索したいな。
「さて、大丈夫だとは思うけれど、一応体に不具合がないか試しておいてね。なにせ、今日がジュニアの初運転だから、万が一にもなにか問題があるかもしれないからね」
「了解」
全くそうは感じられないが、ここはもうバーチャルな世界。
体に違和感などがないか軽く試してみよう。
とりあえず視覚、聴覚に関しては全く問題がない。しっかり見えてるし、聞こえている。
次に、嗅覚の確認のため、深く深呼吸をしてみる。スーハー。
濃い森の中のような香りが俺の肺を満たす。それに、どこか空気が澄んでいる気がする。
おそらく嗅覚も大丈夫だろう。
続いて体を軽く動かす。
ジャンプしたりストレッチしたり、体操してみたり…
うん。なんの問題もない。
試しに近くにいるクスネを撫でてみるが、なんらさわり心地に変わりはない。
クスネもいつも通り、嬉しそうにブンブン尻尾を振っている。
次に、ホテルの部屋に置いてある小さなせんべいとお茶を試しに食べてみる。
うん。味覚も問題ない。食べたときの食材の匂いもしっかり感じられた。健康ティー、健康せんべいというものらしく、味は少し苦いが、普通に美味しく食べられる範囲内の味だ。
「なんの問題もないぞ。これがバーチャルって信じられないくらい現実と変わりがないわ」
「そうね、全員問題なさそうね。なら、早速観光しましょうか。わたくしは今日しか本格的に観光できませんから、楽しみ尽くさないとね。じゃあ、各々各種手続きなどがあるでしょうから、十分後に出発しますわよ!」
トリカはこの旅行の三日間のうち二日間、リハーサルと本番がある。だから本格的に観光が出来るのは今日だけなのだ。
よーし!存分に観光するぞ!楽しみだ!
次回予告:超人口自然の森




