説明集会!その2 行き先決定!
読んでいて少しでも感情が動いたら、評価・リアクション・ブックマークをお願いします。
「次に、観光地の再現機能ね。観光地へアバターを飛ばすより、受け入れるほうが何倍も大変なのよね。でも、その大変なことを、わたくしはこの惑星の全てという前代未聞の大規模で行う予定です。わたくしは人生をかけて、この計画を絶対にやり遂げますわ!」
ドドン!
トリカの高らかな宣言とともに、今までで一番大きな効果音が鳴り、トリカの周りに集中線のような強調表示エフェクトのホログラムが入る。
>トリカ姐さん。かっけえ!
>流石トリカ様だぜ!
>よっ!宇宙一の歌姫!
>ヒノキが宣言しても信じられないが、トリカ様が言うなら何故か信じてしまう!これがカリスマ性か!
おい!トリカを褒めるのに、わざわざ俺を引き合いに出すな!コイツラ、俺のときと態度が違いすぎるのがムカつく!
まあ、ある意味いつもどおりっちゃあいつもどおりか。俺が個人的に視聴者をツンデレ集団の群れと勝手に脳内で変換すればいいだけだ。少し手間だが、これからはそうしよう。
でも、言葉一つで視聴者を信じ込ませるトリカはやっぱ凄いな。
トリカは自信満々にそう宣言しているので簡単そうな計画に聞こえるが、冷静に考えるとこの計画は一筋縄ではいかない。
計画の遂行には大量の地味な作業もしなければいけないし、失敗したときのリスクも大きいし、なにより莫大な金がかかってしまう。そんな地獄のような計画なのだ。
実際、バーチャルに惑星を映像として再現するだけなら簡単らしい。ただ、俺達が行うのは高次元バーチャル再現。普通の再現とはわけが違うのだ。名前の通り、次元が違う難易度の高さらしい。
一箇所観光地を再現するだけでも大変なのに、それを惑星全てで行うなんて、正直夢物語にしか聞こえない。いくらこの惑星がそこまで大きくないとはいえ、それでもなかなかの大きさがあるのだ。
前世で言うと、この惑星は大体月くらいの大きさだ。
それを全て観光地化して、高次元バーチャルで再現するなんて、どれだけの手間と金がかかるのか、俺は想像すらできない。
まあでも、そんな前提があったとしても、俺はトリカを誰よりも信頼している。なにせ、俺が悩みに悩んだ末に選んだ恋人だからな!
トリカが全力でやり遂げると言ったのなら、いつか本当にこの計画は実現するのだろう。俺はそう心から信じている。
「さて、ここからはこの惑星に住むあなた達へ向けて話すわね」
突然トリカは、俺達へ体をむける。
「これからわたくしたちの惑星も観光地化を目指していくわけだけど、別に急いで全ての場所を開拓しろって言っているわけじゃないってことを覚えておいてね。協力してくれるにしても、あなた達のペースでゆっくりでいいわよ。もとよりこの計画は、何百年、何千年、下手すりゃ何万年もかけて行う、とても気の長い計画のつもりですからね」
そんな気の長い計画だったのか。予想以上だったな。
続けてトリカは、しっかり覚悟を持った重みのある言葉を、丁寧に俺達に紡ぐ。
「あなた達はどうかは知らないけど、わたくしはこの計画をやり遂げるまで決して死ぬつもりはないわ!あらゆる手段を使って、何万年でも生き延びてやります!けれども、流石にあなた達にもそこまでしろなんて言えないでしょう?だから、あなた達のできる範囲で協力してくれれば嬉しいわ」
うーむ…トリカがそこまで覚悟を持っていたとは知らなかった。
正直俺は寿命に逆らわずに人生を謳歌するつもりだったが、トリカを残して死ぬのなんて絶対に嫌なんだよなあ。
前世の俺はまだ若いうちに死んでしまった。恋人がいたわけでもないし、友達も少なかったが、それでも親や友達は俺の死を多少は悲しんだだろう。だから、せめて今世くらいは俺は死を見送る側でいたい。
それに、今の俺には愛する恋人がいる。愛する人を残して死んでしまうというのは、男が廃る。例えそれが男の独り善がりの考えで、ただの俺のエゴだとしても、俺はそう考えてしまっているのだ。
よし!決めた!
トリカがあらゆる手段を使って何万年でも生きるつもりがあるというなら、俺もそれに付き合おう。
そうと決まれば、俺もこの計画に全力で付き合って、なるべく早くこの計画をやり遂げないと。何万年も無理やり生きる人間というのは、総じて人としてどんどんおかしくなっていくらしいからな。長すぎる人生に精神が狂ってしまう前に終わらせよう。
「わたくしが目指すのは最高の観光地。沢山のアバターがこの惑星へ訪れる未来よ!そんな未来を素敵だと思ったのなら、わたくしについてきなさい!」
トリカが力強く、堂々と宣言する。自信満々なトリカの態度は、誰よりも格好いい。
あれ、俺の恋人なんだぜ?凄いだろ!
思わずそう高らかに自慢したくなる。
「じゃあ最後に、ここからがあなた達へのメインイベントになるわね!バーチャルトリップを試してみましょうか!」
きたきた!試運転の時間だ!旅行だ旅行だ!わっしょい!わっしょい!
「肝心の旅行へ行く場所だけど、今回はルーレットにて完全ランダムで決めるわ!観光地の選択肢は、わたくしの所有する数百カ所のライブ会場のうちのどれか。さらに、当たった場所で三日後に電撃ライブを開催するつもりよ!」
場所はルーレットで決めるのか。トリカらしいといえばトリカらしい。
「どこが当たっても有名な観光地であることには代わりはないから、この旅行で観光地に必要な要素を沢山学んで来なさい!良いわね!」
そう。この旅行は試運転でもあり、学びのための旅行でもあるのだ。
「ルーレットスタート!」
ドキドキ…さて、どこが当たるのだろうか。
ルーレットが、止まる。
「行き先は惑星グリード。街の名はパナシア。別名、宇宙一健康な都市よ!」
さあ、旅行の始まりだ!
「さて、行く場所が決まったので、一旦配信を終了するな。認識阻害措置とか、ちょっとした手続きとか、色々やることがあるからな。あっちへついたら配信再開するから、また会おうぜ!」
>了解
>おつー
>またな!
俺は配信を一旦終了する。
さて、今から行く事になった都市である「パナシア」とは、かなり有名な観光地である。
別名、【健康都市】
「健康は最大の娯楽」「健康は楽しい」という理念を掲げ、都市全体で徹底的に健康を全面に打ち出している場所だ。
現代の有名な観光地は、そのようななにか一つの要素を極端に特化させた場所がほとんどだ。この広い宇宙には、多種多様な魅力的な土地や娯楽であふれており、生半可な特色では人々を惹きつけることができないのだ。
そのため、観光地は「そこでしか出来ない何か」を提供するべく、個性や魅力を尖らせているのだ。
「ねえねえ。もう一回ルーレット回さない?」
セリが不満そうにトリカに提案する。
どうやらセリは健康都市パナシアにあまり興味を惹かれなかったようだ。
セリは基本的に引きこもってゲームばかりして、食べるものも甘いものばかりという不健康な生活を毎日送っている。健康と聞いて嫌な顔をするのも納得だ。
セリって昔っから、極度のマイペースだからなあ…ほんと、そういうところは子供の頃から変わってないわ。
小さい頃のセリは、宿題を出されても絶対にやってこなかった子だった。勉強が嫌いだったわけではない。決して宿題はやらないが、習っていない範囲の勉強の予習などは積極的にやっていたからな。
理由を聞くと、「人からやれと言われるとやる気がなくなる」のだそうだ。
そういう性格だからこそ、セリは健康や宿題などの「やったほうがいい」と他人に強いられる系のことは、基本的に全部嫌いなのだ。
だから、セリはトリカになんとか場所の変更が出来ないかと交渉しているのだろう。
「もちろんルーレットは一発勝負ですわよ!変更はありません!嫌だったら来なくて結構ですわよ!」
「うぅ…健康なんてクソくらえだよ…」
トリカに説き伏せられるセリ。かなりぶーたれている。いくらセリの運が良かろうと、ルーレットなんて完全な運。たまにはこういうこともある。
セリのしおれた姿は珍しいので、目に焼き付けておこう。恋人ならどんな姿だろうと愛くるしいじゃん?セリには悪いが、珍しい恋人の姿が見られて俺は嬉しいよ。
次回予告:珍しくヒノキがセリを論破




