ラスボス戦!それ初耳なんですけど!
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制限時間が三分になったころ、戦闘中のウツギから声をかけられた。
「おそらくこのペースじゃぎりぎり間に合わないわ!だから、お互い少し無理をしない?」
確かに、残りの敵は五体。敵の数が減ったことを加味しても、間に合いそうにない。
少し安全に気を使い過ぎたか?多少攻撃を受けてでも攻撃に回ればよかった。
まあ、今更後悔しても遅い。幸いにも、この階層は何度でも挑戦できる。
どうせ今回は無理そうだし、ウツギの策に乗ってみるか!
「おう!それは良い…っぞ!っと!でも、無理するったって具体的になにするんだ!!」
クソデカハンマーを振り回しながら、叫ぶように答える。
「お互いにリミッター解除を限界まで使おうって提案よ!今も使ってるでしょ?それを、ちょっと無理して使うだけよ!三分くらいなら、限界を超えられるでしょ?」
「リミッター解除って、なんだ?」
「………それ、本気で言ってるの?」
戦闘中にもかかわらず、心底呆れたような、それでいて驚いたような声を出すウツギ。
俺が言った言葉があまりに衝撃的だったのか、立ち尽くしてしまっている。あ、ウツギがこの戦闘中に初めて回避に失敗して、ぶっ飛んでいった。大丈夫かな?
この時の俺は視聴者のコメントを表示させていなかったので知るよしもなかったが、俺のこの発言は視聴者にもかなりの衝撃があったらしい。コメントの流れが一時的に三倍くらいの速さになっていたとのことだ。
体勢を立て直したウツギに、さっきの質問の返答をする。
「おう!本気も本気だ!そのリミッター解除とやら、俺は聞いたことがないぞ!」
「…脳内のチップにリミッター解除って命令を出しなさい。それだけでいいわ」
投げやりに俺に言葉を投げかけるウツギ。
とりあえず、言われた通りにやってみる。リミッター解除っと。
直後。
俺の生きているこの世界が、ガラッと変わった。
目の前の景色が、とてもゆっくりに見えだしたのだ。
まるで敵がスローモーションで動いているようだ!
それに、なんだか身体もやたら軽い。
なんだこれ!何が起こった!?
「なんか知らんが、いきなりパワーアップしたぞ!?これなら、この階層の敵も制限時間内に余裕で倒せそうだ!」
俺の本来持っている身体能力以上の力が出ている!体感1.5倍くらいか?
「…そう。じゃあ、さっさと片付けちゃいなさい。その状態ならもうこの階層は余裕なはずよ。はぁ…」
そこからは、俺の独壇場だった。
ウツギのその言葉通り、俺は何故か上がった身体能力を存分に振るい、残り一分を残して全ての敵を倒すことに成功。
大ポーションも九個も残してクリア!
なんか知らんが、リミッター解除とやらをしてから、この階層くっそ余裕だったわ!
「あれ?おかしいな?今回はクリアしても宝箱が出てこない。依然としてマグマステージのままだ。それに、制限時間も止まっていない…なんでだろう?」
「そうね。少しおかしいわね…」
早く終わっても、制限時間が終わるまではクリアじゃないのかな?それとも、制限時間がゼロになった時、また何かが起こるのか?
とりあえず、今はやることがないし、ポーションを飲んで休憩するか。被弾ゼロでクリアしたのでダメージは受けていないが、スリップダメージが積み重なっている。その分を回復しておこう。
さて、今のうちにウツギに疑問をぶつけておこう。
「で、ウツギ?リミッター解除っていうのは何なの?」
「…それ、スクールに行っている人なら誰でも知っているはずなのよ。なんで知らないのよ…ダイヤモンドエイジには99%の子どもがスクールに通うこの現代なのに、あなたはスクールに通ってないってこと?」
質問に質問で返されてしまった。しかも、俺のよく知らない専門用語のようなことを交えて質問を返されたので、また疑問点が増えてしまった。
「おう!俺とセリはスクールには行っていないぞ!ちなみに、そのダイヤモンドエイジっていう言葉も初めて聞いたわ!」
「…そういえば、ダイヤモンドエイジって言葉もスクールで習ったことだったわね…当たり前過ぎて気がつかなかったわ」
脳内のチップがウツギが言った言葉の意図をしっかり伝えてくれたので、意味自体は伝わっている。
だが、そういう言葉があるということを知らなかったのだ。
チップによると、ダイヤモンドエイジとは、三歳から十八歳までの十五年間の期間を指す言い方らしい。
この時期に親は子どもをしっかりスクールに通わせ、沢山の経験をさせることが、優秀な大人へ育つこと、並びに将来を楽しんで生きるための一番の方法らしい。
ちなみにスクールというのは簡単に説明すると、前世で言う大学と似たようなものだ。選択制でいろいろなことが学べたり、体験できたりする機関とでも思ってもらえばいいかな。
最初は俺の母親も当たり前のようにスクールに通わせようとしていたが、俺のあるちょっとした事情から、母親は俺がスクールに通う必要はないと判断したのだ。
「で、結局リミッターってなんなの?」
「リミッター解除って言うのはね…」
ウツギの説明を遮るように、突然けたたましいアラーム音が鳴り響き、その後アナウンスが伝達された。
制限時間:3、2、1、0!
―――ワーニング!ワーニング!ラスボスが現れました!今すぐ戦いに備えてください!
ちょっと!やっと疑問が解消されそうだったのに!もう…今度はなんですか?ラスボス?
…ああ、そういうことね。
制限時間が止まらなかったことを不思議に思っていたが、どうやらこの階層は、制限時間が終わると、連戦がはじまる仕様だったらしい。
なんとか倒したところでラスボスが現れる展開なんて、本来なら絶望しそうなものだが…
「正直今は体力やポーションに余裕を残してるから、連戦だろうが大丈夫だよな?」
「そうね。それに、おそらくあなたがリミッター解除を使っていないなんて誰も予想できなかったことだから、リミッター解除前のあなたの実力でラスボスの強さを調整されているはずだわ。だから、クリアは簡単なはずよ。せっかくなら、あなたのリミッター解除の慣らしにしちゃいなさい」
「そうだな。よし!ラスボスには悪いけど、俺のリミッター解除とやらの実験台になってもらおう!あ、別にリミッター解除って大きなデメリットはないよな?それだけ聞かせてくれ!」
「大丈夫よ!初心者のうちはどんどん使っても問題ないわ!」
「それだけ聞ければ十分だ!」
一方的に倒す気満々な俺達の目の前に出てきた敵は、一体の黒いミノタウロス。地響きを響かせ、地面が割れ、その割れた地面からマグマを体にポタポタとまとわせながら出現した。
「ぶもおおおおおお!!!」
黒いミノタウロスが叫び声を上げる。
いやいや…そんな強そうに出てこられても…
多分あなた、今から俺達にボコボコにされるよ?俺達、かなり余力を残してるし。俺はお前をサンドバッグにするつもり満々だ。
鑑定によるとこのミノタウロスは、最強の武術である宇宙CQCをある程度の練度で習得しているらしい。
宇宙CQCは超実践的武術。遠中距離は銃で対応し、近距離戦はどんな攻撃も躱したり受け流しながら、的確に急所を狙い攻撃し、一撃で仕留めてくる。大体こんな感じの武術だ。
俺が闘技場で闘っていた相手の九割はこの武術を使っていたので、その厄介さは身にしみて理解しているつもりだ。
あの武術の歩法や体の動かし方、なんか人間離れしていて見ていて正直キモいんだなぁ…最強なのは分かってても、なんか好かない。
だからだろうか?俺はこの武術に負けたくないという思いが人より強い。それに、筋肉だけで最強に勝つって、なんかロマンがあるしな!
今までは対宇宙CQC相手は全戦全敗だったが、パワーアップした今の俺なら勝てるかもしれない。
それに、今はひとりじゃない。ウツギも共闘してくれる。
さらに、ポーションも八個も余っている。
これだけの条件が揃っているんだ。俺達が負けるわけがない。
よーし!勝つぞ!
―――数十分後。
「強かったけど、やっぱり勝てたな。正直拍子抜けだったわ」
「そりゃ、あなたが予想外に強くなるのだもの。仕方ないことよ。じゃあ、さっさとこのダンジョンから出ましょうか」
最後のラスボスを割とあっさり倒し、出現した扉を開ける。
扉を開けた瞬間、陽の光が俺の体を照らす。
よーし!地上だ!クリアしたぞ!!!
地上に出ると、不満そうな顔のトリカと、満足そうな顔のヨヒラが待っていた。
「最後の敵で絶対にあなたに宇宙王道四種武器を使わせるつもりでいたのに…」
トリカは俺がラスボスをあっさり倒したことが予想外らしく、とても不服そうだ。
どうやら、ラスボスとこの服の設定などは、トリカが後から勝手に追加したものだったらしい。本来なら第三階層が最終フロアだったようだ。
その他にも、第三階層の共闘、ウツギ用の第一階層、第二階層などは昨日急ごしらえで作ったものらしい。
そういえば、トリカはゲーム大会に参加をせずに、なにか用があると言って席を外していたな。
何をしているのかと思えば、このダンジョンの調整をしていたのか。
「私はなかなか楽しませてもらいましたよ。予想外な方法ではありましたが、結果的に御主人様は成長しました。当初の育成という目的は達成です。ふふふ、人の育成というものは、なかなか楽しいものですね」
まあ、ヨヒラが楽しかったなら良かったよ。
さて、このダンジョンで俺は成長し、さらにリミッター解除という新しいパワーアップ方法を覚えた。
ただ、リミッター解除についてはまだわからないことも多い。
せっかくなら、もっとこの技術を使いこなしたいよな?
ということで、配信を終えるとともに、俺は視聴者にある宣言をする。
「しばらくの間、修行します!」
次回予告:とりあえずで倒されるバカ恐竜




