迷宮挑戦!ここどこだよ!
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「え?ここどこ?」
朝起きたら、何故だか知らない場所にいた。
昨日はヨヒラの誕生日会で盛り上がり、トリカの豪邸に泊まったはずだ。
フカフカのベッドでぐっすり寝た記憶はあるのに…なんでこんな洞窟のような暗い場所にいるんだ?
ええ…どうなってるんだ?
あれ?なんだか俺、よく見ると変な服を着てね?何だこの服?
チップを使い、自分を客観視してみる。
俺が今着ている服は、上下一体型の革風の服で、光沢のある黒色だ。漆黒と言い換えても良いかもしれない。サイズは、タイツのようにピッチピチだ。
関節部分には強化パネルっぽいものがついていたり、手首に謎のリングのようなものが付いていたり、大きな筋肉に沿うようにコードみたいな装飾がついていたり…
こんな変な服、俺は持っていない。
無機質で機能的、なんとなく、見た目から攻撃力や防御力が高そうだ。例えるなら…戦闘用スーツ?
さて、今の状況だが、おそらく俺の意思とは関係なく何かに巻き込まれているのだろう。だって、昨日のこと、俺はハッキリ覚えているしね。昨日は確実にトリカの部屋のベッドで寝ていたことを、しっかり記憶している。
無断で俺をこんな目に合わせるヤツなんて一人しか思い当たらない。さては…
「目覚めたようですわね」
「…やっぱり、トリカが諸悪の根源か」
この場所にトリカの声が響き渡る。うん。こんなことに巻き込むヤツはトリカしかいないと思ったわ。
「ふふふ。そんな悪い言い方をしなくても良いじゃありませんか?それに、このイベントはヨヒラへの誕生日プレゼントのつもりで用意したものなのですよ?」
「ヨヒラの誕生日は昨日で終わっただろ?」
「そんな細かいことはいいっこなしですわ。それに、昨日のペット自慢大会が思ったより時間がかかってしまったため、仕方なく昨日できなかったことを今日やっているだけですからね。仕方ありませんわ」
確かに、昨日は俺の考えた大会に時間を譲ってもらった。それを言われると反論しにくい。
「まあいいや。で、俺は今から何をすれば良いんだ?」
「大変物わかりが良くて嬉しいですわ」
トリカのやることに抵抗したって無駄だということを体でわかっているだけだ。こういう時は大人しく従っておいたほうが話が早いのだ。
「では、まずはいつも通り配信を始めてください。説明はそれからですわ」
「了解」
いつも通り配信ボタンを押す。
「ういーす。エリート抜け忍ムキムキイケメンのヒノキでーす。朝起きたら一人、知らない場所で知らない服を着ていました」
>告知をしろと…何この状況?
>今日も楽しみ
>なかなかえっちい服ですね
>筋肉を強調しているような服で大変よろしい
「今どういう状況かは、一言で伝えよう。”いつものやつ”だ。昔から俺のことを知ってくれている人にはこれだけ伝えれば分かるかな?」
>ああ、トリカ様の企画に巻き込まれたのね。
>い つ も の
>わかりやすい説明をありがとう
>トリカ様の企画楽しみ!
>相変わらずトリカ様に人質を取られている男
「はいはい。人質なんて取られてないから安心しろよ!それと、なんかこれからどうすればいいかトリカが説明してくれるみたいだから、心して聞くように!」
俺の準備ができたのを見るや、すぐにトリカからの説明が始まった。
「では、今からすることを発表します。題して、ヒノキ育成ゲーム!」
俺の育成ゲーム?何だそれ?
「まずは、状況から説明しますね。あなたが現在いる場所は小さな孤島、そこにある大きな洞窟の中です。その洞窟はわたくしがダンジョン風に改造しております。その洞窟からあなたが脱出できればこのゲームはクリア。たったそれだけですわ」
なるほど、ダンジョンか。それを現実で再現したってわけね。
クリア条件もわかりやすくて助かるな。
「ただ、これは育成ゲーム。ヨヒラにあなたの育成という娯楽を楽しんでもらうために用意した舞台。それゆえ、敵の種類、設定、地形、難易度などは全てヨヒラが中心に考えたものですわ」
難易度を設定したのがトリカではなくヨヒラなら、少しは安心できるか?
トリカが全て難易度を設定しようものなら、クリア不可の無理ゲーになっていただろう。
トリカって、サドっ気があるからか、俺を徹底的に追い込むのが好きなのだ。いつも、満面の笑みで俺をいじめてくる。困ったやつだ。
まあ、そんなふうに扱われる俺も、あまりに楽しそうにするトリカを見て、つい許してしまうんだけどな。
だから、ベッドの上でやり返すのが楽し…コホンなんでもないぞ。うん。
「でも、人材育成の娯楽ねぇ…そんなのが楽しいのか?」
確かに、この宇宙にはそのような娯楽があるとは聞いたことがある。俺には理解のできないジャンルだったので、あまり詳しくはないが。
どうも、出来なかったことが出来るようになるまでの成長を見るのが楽しいと感じる人は一定数いるようなのだ。
特に、子供を育て終えた親世代にこのジャンルは人気があるらしい。
「ええ、ヨヒラもノリノリで協力してくれましたわよ?どうやらあなた、ここ最近、毎日配信外でバカ恐竜に挑み、勝てないと分かるや牙を一本だけ引き抜いて逃げるということをしているらしいじゃない?そのルーティーンが見てられなくなったようで、ヨヒラもあなたを鍛えることに賛成なようですわ!」
「え!?なんでそのこと知ってるんだよ!?人知れず隠れてやってたことなのに!」
>え?そんなこと配信外でしてたのwww
>バカ恐竜カワイソス
>もしかして、勝てなくてムカついたから、毎回牙を引っこ抜いてるの?
>いや、盆栽鹿の肉を奪い取られた恨みかもしれないぞ
視聴者の予想は概ね正解だ。
俺は肉を盗られた恨みや、バカ恐竜に勝てない苛立ちをぶつけるように、牙を毎回引っこ抜いて逃げているといっても過言ではない。
だって、倒せはしなくとも、せめて一矢報いたいじゃん?
それに、逃げるだけなら簡単な相手というのもある。勝てはしないけど、決して負けもしない。そんな力関係なのだ。
「ということで、バカ恐竜を素手で余裕で倒せるくらい強くならない限り、一生出られない難易度ですので、必死で強くなってくださいね」
えぇ…それは少し厳しくない?人って、そんなすぐに劇的に強くなんてなれないぞ?
俺は配信外で毎日しっかり鍛えているおかげで、少しずつ強くなってはいる。
それでもなかなか勝てないのに、何をして俺を強くするつもりなんだ?
…まさか、グレーな方法でも使うのか?
この宇宙では、強くなる方法も様々ある。肉体改造する方法もいくらでもあるし、武器や武術も星の数ほどある。
その中には、法には触れないが、あまり推奨されないグレーな方法もあるのだ。
例えば、技術習得措置。これは、脳を強制的に書き換えることで、一瞬で新しい技術を習得させる措置だ。
犯罪ではないが、脳に軽度なダメージを受けてしまうので、非推奨なこととされているのだ。
…まあ冷静に考えれば、トリカやヨヒラがグレーな方法に頼るとは思えないな。流石にそこは信頼している。
まあいいや。どんな方法かは知らないが、強くなれるのなら大歓迎だ。
「あと、その服について説明しますわね。その服は、救済措置であり、安全装置ですわ。その手首のリングには、いわゆる宇宙王道四種武器が液状化して収納されていますので、絶対にクリアが不可だと思ったら使ってくださいね。(まあ、使えばリスクはありますが…)」
最後のぼそっと言ったトリカの言葉は、俺の耳にしっかり届いた。
こええよ。絶対に使わないでクリアしよう。
宇宙王道四種武器というのは、簡単に説明すると馬鹿みたいに性能がいい剣、銃、ハンマー、槍の四種類の武器だ。結論武器と呼ばれることもある。俺は個人的にチート武器と呼んでいる。
性能は言わずもがな最高なのだが、俺にはこの王道四種の武器がどうも肌に合わない。
きっと、王道四種はあまりに武器の性能が高すぎて、俺の鍛えた筋肉が全く活かせないからだろう。
だから、例えリスクがなかろうが使いたくはないな。
「その服は非常に防御力が高い装備。安全面で心配する必要はありません。だから、思う存分いろいろな戦い方を試してください。教えられるのはここまで。あとの細かい仕様などは自分で見つけてくださいませ。では、ごきげんよう」
そういって、この部屋に響いていたトリカの声が聞こえなくなった。
さてと。色々わからないこともあるが、いつものようにぶっつけ本番、体当たりするつもりで頑張りますか!
次回予告:俺、チョロくてよかった!