悪戯閣下!なにこのお茶!?
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セリを膝の上にのせ、閣下を頭の上に乗せた状態で俺達は雑談する。
「じゃあ、まずは閣下との出会いについて教えてよ」
>それ。ちょうど聞きたかった
>出会いを参考にして、私も未知の生物と出会いたい!
>ワクワク
俺がそう聞くと、セリは別になにも特別な出会いではないよ、と前置きしたのち、出会った時のことについて詳細に語り始める。
「初めて閣下と出会ったのは、僕の屋敷の入口の前。僕が日課のお散歩から帰ってきたら、屋敷の前でふよふよ浮いてたんだよね」
へぇ…たしかに衝撃的な出会いというわけではないな。
えーと…と続けて口を開くセリ。
「そして、僕が帰ってきたのをみるやいなや、閣下は僕に大量の蜂蜜を貢いでくれたんだ」
ん?蜂蜜を貢いだ?
閣下さん?初手貢ぎですか?
俺が少し戸惑っている間にも、トリカは説明を止めることはない。
「だから、飼うことにしたんだ。やっぱり、初対面の印象って大事だよね」
「えーっと…そんな理由だけで飼うことにしたの?」
蜂蜜につられて飼うことに決めたセリもセリで、なんだかなぁ。
>草
>まあ、初対面で印象の九割が決まるみたいな話もあるしな
>というか、膝の上に乗った状態で普通に話し始めるのな…
>イチャイチャするな
しかたないだろ。セリが俺の膝の上からどく気配が無いんだから…それに頭の上で閣下もくつろいでいるから、どかそうにも激しく動けないんだよ。
「でも多分、蜂蜜を貢いでくれなくても閣下は飼うことになったと思うよ。ひと目見た時、僕の直感がピン!ときたからね。閣下とは長い付き合いになりそうだ!ってね」
「ふぅーん。まあ、それならいいか」
セリの直感は何故かだいたい当たる。
セリが長い付き合いになると言っているのならば、高確率でそうなるだろう。必然的に、閣下は俺とも長い付き合いになるだろうな。
「あ、そうだ!そういえば、まだお茶も出してなかったね。僕は今ヒノキの膝の上を楽しむので忙しいから、閣下。任せて良い?」
「かっかっ!」
閣下が俺の頭の上から一歩も動くこと無く、俺の目の前にお茶を出現させた。
おそらく、SCエネルギーを使ったのだろう。
なあ?それくらいのことなら動いたほうが早くね?技術の無駄遣いな気がするが…
>ホントにSCエネルギーが使えるんだ…
>使い方はあれだけど、凄いことは凄い
>SCエネルギーを使えるっていう危険性があるのに、なんか和んでしまうわ
>分かる。呑気な表情とか態度につられてどうしてもほのぼのしちゃう
>閣下、落書きみたいなゆるい見た目なのに、ポテンシャルの塊の生き物なんだよなぁ…
「こんなふうに、閣下はだらけるためにSCエネルギーを使うことが多いんだよね。あ、ありがとう閣下。お茶美味しいよ」
「かっかっ」
出されたお茶は一つだけ。
俺とセリが二人きりでいる時は、いつも一つの飲みものをシェアしている。そのことを閣下も認識しているらしい。
「それにしても、閣下に危険性がなさそうで良かったわ」
「そうでしょ。このコ、多分SCエネルギーを悪用したらどうなるか分かってるんだと思うよ」
もし閣下がSCエネルギーを悪用しようものなら、直ちにアンドロイドが飛んできて、あっという間に駆除されてしまうだろう。
俺はもう閣下に愛着が湧いてしまっているのだ。だから、そんな事になってくれるなよ…
>男の頭に乗るとは…なんと羨ましい
>しれっと飲みものシェアしてるし…羨ましいし妬ましい
>幼馴染って関係、ズルくね?
>緑に光ってるから、閣下ってリラックスしてるんだよな?よくそんなとこでリラックスできるよなぁ
>閣下は絶対メスではないな。メスなら絶対に興奮するから
>そういえば、閣下って性別あるのかな?
お、ナイスコメント。俺もそれ気になるな。
「なあセリ?閣下の性別って何なの?あ、お茶ありがとうな閣下」
「かっかっ」
俺は返答を待つ少しの間にお茶を一口飲む。すると…
ブフゥーーー!!!!!
俺は飲んだお茶を勢いよく吹き出してしまった。とっさに横を向いたので、なんとかセリを濡らさずに済んだのは幸いだったが…
「え?何このお茶!しょっぱ!!セリはよくこんなの飲めたな!ケホケホ!」
>えwなになにwww
>見事な吹き出しっぷりだなwww
>何が起こった!?
>出されたお茶を吹き出すなんて失礼だぞ!
あまりにしょっぱい!煮詰めた醤油でも飲んでいるのかと思ったほどだ。しょっぱすぎて、目の奥がチカチカするんだけど!?これ飲んで大丈夫なやつ!?
これ、同じ飲み物をセリも飲んでいたはずだ。
なのに、なんでセリは大丈夫そうなんだ?
「え?このお茶別に普通に美味しいお茶だよ?もう一回飲んでみるけど…ほらね。普通に美味しいよ。変なヒノキ。あ、閣下の性別は不明だよ。オスでもメスでもなさそうだってヨヒラさんが言ってたよ」
いや、今はもうこのお茶のことで頭がいっぱいなのだ。性別のことも気にはなっていたが、それどころではない。
意を決して、もう一度お茶を少しだけ口に含んでみる。
何故か今度は甘ったるい味だ。さっきとは味が違う。
これは…
「おい。いたずらしただろ。このお茶、飲むたびに味が変わるんだけど!閣下さん?いたずらはいけないと思います!」
「あ、バレた?でも、このお茶を持ってくるように指示したの僕だから、閣下のことは許してあげてね。このお茶。面白いでしょ?ヒノキのお母様のいたずらグッズをアレンジしたものなんだよ」
「かっかっか!」
「母親のグッズかよ…」
こんなしょうもないいたずらなのに、閣下とセリと俺の母の三人も加担していたらしい。
しかも、セリは自前の強運でただ回避をしただけというね…そこは種も仕掛けも無いのかよ。
それはさておき、だ。
さっきの言葉、俺にとって、少し引っかかるワードが入っていた。
「なあ。アレンジしたって言った?確かに母親のグッズにしては威力が低いけど、アレンジなんて出来るの?」
母のグッズがアレンジ出来るのなら、俺もそうして使いやすくしたい!グッズの威力を後から抑えられるのなら、とっても助かるぞ。
「ああ、ヒノキのお母様に直接頼んで特別にアレンジしてもらったんだ。このグッズの元はマシンガンで、水をいれて嫌いな人に連射するものだったんだよ。水は何故かランダムな味になるし、しかも、体にあたっただけで何故か当たった弾の水の味を舌で感じるっていうおまけ付きね」
「それはまた、使い道が無さそうなグッズだな…」
まあ、そんな上手い話がそうそうあるわけないよな。しゃあない。
というか、アレンジできるのなら俺にもしてくれよ!俺が頼んでも一切アレンジなんてしてくれないのに!一応実の息子だよ?
まあ、母はセリのことがとても気に入っているからなぁ…下手したら、母は息子の俺よりセリのことを溺愛していると言っても過言ではないかもしれない。
だから、セリのお願いを特別に聞いたのだろう。
なんでだよとも思うが、セリは昔から愛され体質だったからなぁ…納得する部分もある。
赤ちゃんの頃からコイツは近所ではアイドルで、周りからめちゃくちゃ愛されて育った子なのだ。
「いたずらクエストその二も無事に終わり!完璧にいたずらが決まると気持ちいいね」
>これからも継続していたずらしてほしい
>あなたってリアクション良いよね
>見てておもろいわwww
なあ?俺にいたずらするのがノルマみたいな言い方やめてくれない?なんだよいたずらクエストって…
まあでも、セリは飽き性でもあるから、きっといたずらするのは今日だけだろう。
「もう事前に考えていたいたずらも全てやり終えたことだし、ゲームしようよ!閣下もゲームが出来るから、三人で遊べるよ!」
「おう、やるか。それにしても、閣下もゲームできるんだなぁ…」
「かっかっ」
閣下の触覚が赤色に光りだした。
赤色は、やる気満々な時だそうだ。ほんと、色々多彩な感情があるのな。
「まあ、手があんなふうだからコントローラーを使うのは苦手だけど、思考で操作する類のゲームはしっかりできるんだよね。閣下って賢いから」
そりゃ、凄いな。
普通そういう類のゲームは脳内のチップがないとプレイ出来ないはずなのだが…
「なあ?こいつ、脳内のチップがあるただの人間が変化している姿とかじゃないよな?」
まさかこの閣下という存在もいたずらだった、みたいなオチはやめてくれよ?
「うん。いくら調べても閣下に脳内のチップはないし、変化しているわけでもないよ。ニュースになるくらいなんだから、そこは流石に嘘つかないよ」
「かっか」
うーん。未知だ。
でも、まあいいや。今や未知のことなど無いと言われるほど技術が進んでいるが、それでもまだまだこの広い宇宙のどこかには未知なことはあるということだろう。
それだけの話だ。
さてさて、閣下のゲームの腕前はどんなもんなのか…お手並み拝見といきますかね…
数十分後。
「閣下、ゲームくっそ弱いな」
「でも、楽しそうにやってるでしょ」
「かっか!」
頭の上の触覚の先はオレンジに明るく光っていた。
次回予告:寝取られる蝶々




