北上探索!ついた先は
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「おい、お前ら。俺に裸の画像送ってくるのやめろ!」
>草
>見なけりゃいいだろ
>使ったなこれは
>アクセス履歴残るんだから、使ってるのバレバレなのに…
>きゃーえっちー
>くんくん…五回はやったな…男専門名探偵の私には分かる
俺の言うことを聞いてもらうために、配信開幕、ド直球で注意してみたのだが、この様子だとダメそうだ。
というか、ドンピシャで数を当ててくるなよ…これだからこの宇宙の女は怖いのだ。
「…住むところも一応できたし、もっと周りを探索しますかね」
>相変わらずのスルースキル
>探索見てて楽しいから好き
>いいね
>自然っていいよね、最近自然にハマってきたわ
>虫とか実際遭遇したくはないけど見るのは好き
「よし!今日は北の方に行ってみるか!」
周辺がある程度過ごしやすい場所というのは探索した結果分かっている。なので、今日は北の方に向かい、森の奥まで進んでみることにした。
俺は北の方に向かって走りながら、脳内のチップで目に入った植物や生物を片っ端から解析していく。
見たこともない色々な植物や動物が、たくさんあって面白い。
使えそうな素材はしっかり覚えておこう。後々採取することになるだろうしね。
「おっ、これ生で食べられるんだな!…ちょっと、食べてみるか」
前世で見たことのあるような果実が目に入ったので、懐かしくてつい足を止めてしまった。
そこには、真っ赤で丸くて艶がある──りんごのような果実が、木に実っていた。
軽く探索するだけのつもりだったが、つまみ食いくらいは別に良いよね。
「いただきまーす!」
俺はりんごのような果実を手に取り、かぶりつく。
シャリッ。
一口食べるとみずみずしさが凄く、酸味と甘みのバランスがちょうど良い。口の中で爆発するようにじゅわっと広がる果汁。これは、ものすごく美味しいぞ!
一口食べたらもう止まらない!もっと食べたいという欲求が湧き出てくる!
解析によるとこの果実は育った惑星で味が決まり、惑星によって味に当たり外れがある果実らしい。
どれだけその惑星内で環境を変えたり、色々な工夫をして育てたとしても、なぜか味は全く変化しないとのこと。なんという不思議果実だ。
前世のりんごと味も形も色も似ているので、俺は分かりやすく“りんご”と呼ぶことにする。
ちなみにだが、配信では脳内のチップが自動で言語を変換、翻訳して、見ている視聴者各々が馴染み深い言葉として、俺の言葉が伝わっている。
だから、俺が前世の呼び方である“りんご”と言っても、視聴者は“りんご”ってなんだ?とはならないのだ。
「うまい!やっぱ、タブレット食より生の食べ物なんだよな!」
>うまそうに食べないで
>当たりかぁ…いいなぁ…私の惑星のその果実、くっそまずいんだよね
>おいしい食材高いんだよ
>私は今日も今日とて無味のタブレットですよ…
>ただで食料を採取できることだけは、そっちが羨ましい
以前生きるだけなら働かなくてもいいと言ったが、それは最低限の住む場所と、食用タブレットが無料で支給されるというだけ。
その支給されるタブレットは、一粒食べるだけで健康で飢えることなく生活できるくらいカロリーと栄養は豊富だ。
味が全くないという大きな欠点があるのだが…
そういうわけで、支給されたタブレットを食べるだけの最低限の生活なら、働かなくとも生きていけるというわけだ。
まあ、そんな暮らしで満足する人はごく少数。ほとんどの人がもっと贅沢しようと思っている。
よって、生きるだけなら別に働かなくてもいいのに、生活の質を上げるためにみんな働くのだ。
「俺は配信してるだけで稼げるから、楽でいいわ」
>私たちが見てあげてるから稼げているんだぞ。だからもっと感謝しろ
>まあ、見るなって言われても見るけどね
>一応男の生配信は貴重だから。その男がお前とはいえな
>私とえっっなことをすればもっと稼げますよ!
>お金稼ぐの、私には難しい。よって今日も私は無味のタブレット生活…明日も、明後日も…
>娯楽生み出すの難しいんだけど!
実はこの宇宙でお金を稼ぐ方法は、大きく分けてたった一つしかない。
それは“娯楽”を生み出すこと。
今の時代、技術の発達によって、AIや機械、人工生命体などがほぼ全ての雑用をしてくれる。
ただ、いくら技術が発達しようが、質の良い娯楽だけはAIには生み出せなかった。
だから、人が金を稼ぐには、娯楽を生み出すしかないというわけだ。
働かずとも生きていける社会──そんな時代だからこそ、時間を持て余している人は多く、娯楽の“需要”も“供給”も、とにかく膨大だ。
そんな娯楽の供給が多いなかでも、俺の配信は人気があり、たくさんの人が見てくれている。これだけ人気なのは、おそらく貴重な男が無人の惑星でスローライフをするというのは前代未聞で物珍しいからだろう。
「他にもなんか食べるものあるかな~」
>探索するんじゃないのか?
>飯テロしないで
>私にも食わせろ。あ、口移しで食べさせてくれてもいいよ
北上しながら食べられそうなものを中心にどんどん解析していく。どうも、りんごを一つ食べたからか、食欲が湧いてきた。なんだかもっと食べたい気分だ。
探索という当初の目的から変わっている気がするが、そういう細かいことは気にしない。これも探索っちゃあ探索だし。
今までの解析によると、食用可能なものは周辺にたくさんあったはずだ。だが、それらは火を入れたりなど調理を前提としたものがほとんどで、ひと手間かかってしまう。
さっきのりんごのような、お手軽に食べられるものを今は食べたいのだ!
お、ちょうどいいところに、少し遠くで解析結果が生食可能な果実がある!
紫色の皮を持つ、バナナのような形をした果実だ。
「そこに実ってる果実、あれ生で食べられるらしい!食べてみよーと」
>あっ……それ、めちゃくちゃ美味しいですよ!
>うんうん!それものすごーく美味しいよ!この世のものとは思えない美味しさ!
>おい
>あれってさあ…
なんだかコメント欄の流れが少し不穏だが、関係ないね。だって俺は今、お腹がすいてるんだ!それなのに食べないなんて選択肢は、俺にはない!
「いただきまーす」
うん、食感はそれこそバナナのようなネッチョリした感じだな。
味は…ん?なんだこれ?
味が全くしないんだけど…
噛めば噛むほど見事に味を感じない。あと、なんだかこの果実、微妙に飲み込みにくい。さっきからいっぱい噛んでいるのに、果実が口の中に残り続けている。
正直、これは美味しくないな。いや、不味くもないから、食べていてなんとも感じないというのが正しい。
「うん…まあ、そういうこともあるよね…というかその反応。さてはお前ら、この果実のこと知ってたな!知ってたんならもっとしっかり止めろよ!」
>いやぁ…シラナカッタナー
>あれで栄養とカロリーは高いんだよね
>食べると虚無顔になる果実
>しっかり解析結果読んでいればそうはならなかった
確かに軽くしか解析結果を確認しなかったけどもさあ…
よし、なんだかちょっとムカついたので、こいつは“虚無バナナ”と名付けることにする。
──ガサガサッ。
そんなふうに飲み込みにくい虚無バナナに悪戦苦闘していると、俺の少し後ろあたりの草むらで、何か小さい物音がした。
草むらに、何かがいるようだ。
音の大きさから、小動物の可能性が高い。
警戒するようにじっとその草むらを見ていると、俺の予想通り、小動物が現れた。
人の顔くらいのサイズの甲羅を背負った亀のような生き物が、数匹ほど列をなしてゆっくり歩いてきたのだ。
そして、なぜかその亀達の甲羅の上には、一つの甲羅に一匹ずつ、手のひらサイズの小さいうさぎのような生き物が、呑気にスヤスヤ眠っていた。
「…なんか、可愛いのがいるんだけど!」
俺は鼻息荒く視聴者にそう言った。もちろん、寝ているうさぎを起こさないように、小声でな。
>かわいい!
>なんでこいつら甲羅の上で寝てるのwww
>運ばれうさぎさん
>亀さんテクテク
>解析はよ
>共生してるのかな?
どうやらこの生き物たちは、うさぎと亀の亜種のような生物らしい。
亀のほうが戦うのが苦手な代わりに長距離移動が得意で、うさぎは睡眠時間が多く必要な代わりに、短時間だけ戦うのが得意だという。
この二匹はお互いの得意なことを上手く利用して、共生しているとのこと。
その特徴から、“テクテク亀”と“スヤスヤうさぎ”とでも呼ぼう。
「なるほどなるほど…なんか、テクテク亀の方はこの虚無バナナが好物らしい。この残ったやつあげてみるか」
>残飯処理させるなw
>テクテク亀って、そのままのネーミングだな
>虚無バナナって呼んでるのかwwwちょっと悪意あるなwww
俺はしゃがんで、虚無バナナを小さな口元に差し出す。
すると、このテクテク亀はあまり警戒心がないのか、もしゃもしゃとゆっくり虚無バナナを味わいだした。
>可愛い
>亀さんもぐもぐ
>亀…いいよね。甲羅を背負うという意味がわからん生態も、足の遅さも、なんかツボだわ
そんなふうに俺が亀と戯れていると、甲羅の上で寝ていたうさぎが起きてしまった。
そのうさぎは俺が亀に虚無バナナを与えている光景をしばらく確認したのち、ゆっくりと俺の方へやってきた。
そして、ペロペロと俺の指を舐めてきた。
どうやらこの指を舐める行為は、解析によると親愛の証らしい。
亀に虚無バナナを与えたことで、俺は外敵とは認識されなかったようだ。
「おいおい、くすぐったいな、このこの~」
おれはもう片方の手でうさぎを撫でる。ほんと可愛いなこいつら。
>平和な世界
>私も指をペロペロしたい
>うさぎに産まれたかった…
>男がペロペロされていると聞いて、急いでやってきました!
>なにっ!男がペロペロされてるだと!?とりあえず大至急服は脱ぎました!
>お前らは落ち着いて、一旦服を着ろwww
このように小動物達と戯れていると、うさぎの様子が突然少し変わった。
まるで、なにか突然スイッチが入ったかのような?
目の色も少し変わっているし…いったい、なにかあったのだろうか?
そんな様子のうさぎは、俺の下半身の方へやってきて、なぜか俺の服を脱がせようと悪戦苦闘しだした。
えっと、この感じは…もしかして…
コイツら、発情してない?
>お前らも私たちと一緒なんだな…
>動物も男に飢えてて草
>どこの世界の動物も男が少ないのか…世知辛いな
なるほどなるほど…そういうことだったのね。
そうとわかれば…
…逃げるのが一番だ。逃げろ!
俺は虚無バナナを地面に置き、北へ向かって全力で走り抜けた。
……全力で逃げたので、なんとか振り切ったようだ。
本当にこういう時、体を鍛えていて良かったと心底思う。
ああ、疲れた。
まさか人がいないこの惑星でも、こんなことがあるなんてな。
メスの人間だけじゃなく、メスの小動物にも追いかけられる羽目になるとは──モテ期、うれしいなあ。はは…は。
次回予告:本末転倒恐竜




