閣下登場!未知の生物との接触!
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「ようこそ我が屋敷へ…一度入ったが最後。決して出ることは出来ませんよ…ふふふ」
セリはわざわざ俺の目の前に移動し、ニタニタと笑いながら丁寧にお辞儀をして俺を迎え入れる。また館の少し不気味な執事のロールプレイか。
「いやいや…もういいよ…って、ええ?消えた!?」
俺がセリに軽くツッコもうとしたときにはもう、セリは目の前から消えていた。
確かに目の前から声が聞こえてきていたし、実際さっきまでそこにいた。それなのに、一瞬目を離しただけでそこからいなくなっていた。
周囲を見回しても見つからない。どこに行ったんだ?
なにか高度な技術が使われた形跡もない。どうやって消えたんだ?
というか、来てそうそう入口で放置ですか?
正直、消えられても困るのだが…
「えーっと、これは…セリの部屋に行けば良いのかな?」
「そうだよ。そこに僕のペットが居るからね」
「おわっ!今度は突然出てくるのかよ…」
俺は独り言のように呟いたのだが、いつのまにか隣にいたセリにしっかり返答された。
あのー。消えたり出てきたりするのやめてもらえませんか?どうやってるかは知らないが、そんなふうにされると、いちいちちょっとびっくりしちゃうから。
「どう?この技術、ちょっとした手品の応用なんだよ?ヒノキを驚かせるために覚えてきたんだ~。楽しかった?」
「…まあ、ちょっとは楽しめたよ」
俺の目を見て反応を伺うセリ。
どうも、素直に楽しかったとは言いにくい。心臓に悪かったし。
でも、多少ワクワクしたのも事実だ。ちょっとだけな?
「ヒノキへのいたずらクエストも終えたし、部屋に行こうか」
「そうだな。メインはセリが飼ってるペットの顔見せだしな」
いたずらクエストってなんだよ。とは面倒なのでツッコまなかった。
セリに案内され、セリの部屋の前までたどり着く。
「じゃ、入っていいよ」
「視聴者共。またせたな!ようやく新種の生き物とご対面だぞ!」
>やっとかよ
>ワクワク
>幼馴染とのイチャイチャを見せられた私達の気持ちにもなれ
>二人の世界に入りやがってよお…
>ワイ達の存在をちょっとの間忘れるなんて…ひどい!そうやっていっつもヒノキはワイ達のこと都合の良い女扱いするんだから!もっとワイ達のこと見てよ!だいたいさあ(ry
はいはい、俺が悪かったよー、すんまそ。
マイペースなセリは、俺と視聴者とのやり取りなど一切気にせず、先に部屋に入っていった。
俺も慌ててついていき、中へ入る。
さて、新種の生き物とはどんな奴だろうか?
賢くて宇宙から飛来したという情報しかないので、どんな生物なのか予想がつかない。
視聴者も俺と同じ気持ちなようだ。コメントから期待に胸を膨らませている様子が見て取れる。
「ほら、そこに居るでしょ。あれが僕が新しく飼ったペットだよ」
「んん?どこに居るの?」
セリの部屋には柔らかそうな絨毯と、こたつと、大量のゲームが置かれているくらいで、いつもと何も変わらない。生き物がいるようには見えないが…
「ほら、こたつの座布団のところにいるじゃん。後ろ姿だけど普通に見えてるよ」
俺はセリが指を指した先を見る。座布団の上に白いクッションの様なものが置かれているだけだが…
んん?まさかあのクッションみたいなのが新種?あ、ちょっと動いた!あれか!
「あれが新種の生物なのか?」
「そうだよ。閣下~挨拶して」
「かっかっ」
セリの声に反応するように、閣下と呼ばれた新種の生物が空をふよふよと浮きながら俺の正面に来た。
その後姿がクッションにしか見えなかった生物は、正面からみてもあまり印象は変わらなかった。遠目で見るとクッションにしか見えない。
でも、よく見ると小さい棒のような二本の手と、頭にチョウチンアンコウの光る部分のような触覚が二本ある。
大きさは、俺の顔より少し小さいくらいか。
顔つきは、なにかに例えるのなら、ゆるキャラかな。小さい黒目と、小さい口だけしかない。
なんだか、とてもシンプルな生き物だな…
新種というから、もっとこう、神秘的な生き物だと思っていたのだが、見ていてとても肩の力が抜ける生き物だった。
>あれが…新種?
>思ったより可愛いな
>五秒で描けそうな見た目
>ラクガキみたいな生物だ…
>閣下?ああ、名前か
>ほんとだ。解析してみると不明って出るわ。解析で不明って出たの初めてだな
>SCエネルギーを自由に使えるって言うから、どんな凶悪な生物かと思えば…
視聴者も各々好きに感想を書き連ねている。俺も大体視聴者と同じ感覚だ。
「閣下って名前だよね?」
「うん。かっかっ、って鳴くから。閣下。シンプルでいいでしょ?」
「まあ、いいんじゃない?」
名前から感じる力強さはコイツには全く感じないが、飼い主が満足しているのならいいか。
「かっかっかっ」
閣下は俺に握手をするように棒のような手を出してきたので、俺は握手に応える。頼りない手なので、そーっと。
「おっ。閣下が喜んでる。ヒノキのこと気に入ったみたい」
「え?コイツ喜んでるの?俺には表情が一切読み取れないんだが…」
「ほら?頭の触角の先が光ってるでしょ?閣下は感情が触覚の光り方にでるんだ。光の色と光り方で大体の感情はわかるんだよ。暖色ならポジティブ、寒色ならネガティブ、強く光ると強い感情、淡く光ると弱い感情って具合だよ」
「確かに、今はオレンジに光ってるな…」
オレンジは暖色だよな。じゃあ、ポジティブな感情なのか。なるほどな。
セリいわく、オレンジに光る時は喜んでいる時らしい。
そんな閣下は俺の頬に体をスリスリしてスキンシップを取ってくる。閣下が顔の近くにいるからか、閣下から赤ちゃんのような落ち着く香りが漂ってくる。
閣下、可愛いな。
どんな生き物だろうが、懐かれると悪い気はしない。
それに、挨拶してくれる賢さも好印象だ。この野生では生きられそうにないゆるい表情も、愛嬌がある。
閣下は、ある程度スキンシップを終えると、またふよふよと浮き、俺の頭に乗っかってきた。
軽いな。一キロも無いんじゃないか?
「なあ。頭に乗っかられた俺はどうすれば良いんだ?」
「放っておいていいよ。閣下はのんびりするのが好きだから、しばらくはそこでくつろがせてあげて」
「そうか…なるべくじっとしておこう」
>私も男の逃避をクンカクンカしながらくつろぎたいわ
>お、今は緑に淡く光ってる
>緑はなんの色だろう?
セリに聞くと、緑はリラックスの色らしい。
でも、そんな所でくつろがなくとも…まあいいけどね。
頭に閣下が居ることによってしばらく動けなくなったので、俺もこたつでくつろぐことにする。
ちなみに、こたつはほんのり温かい。もう季節は夏に入りかけなのだが、室温が少し寒く設定してあるので、普通に快適だ。
セリはこのくらいの部屋の室温と、ほんのりあたたかいこたつを好むのだ。
「閣下がそこでくつろいでいるのなら、僕もそうしよ~」
セリが俺の膝の上に座る。
ちょっと待って。わざわざそんな所に座らないで。
「ちょっと…重いよ」
俺がそう言うと、抗議するかのように、セリはおしりをグリグリと小刻みに動かしだした。
あふん。
それ、やめて!膝の上でそんな事されると、あれがあれになっちゃいそうだから!セリもニヤニヤするな!確信犯だこいつ!わかっててやってやがる!
「あー。そんな事言うんだ。いけないんだ~。女の子に重いっていうのは、いつの時代でも失礼なんだよ」
ぶっちゃけセリなんてめちゃくちゃ軽い。甘いものばっかり食べているのに、ある一部分を除いてとても痩せ型だ。
なんで、痩せてるのにそんな豊満なお胸をお持ちなんですかねぇ…不思議だわ。栄養が全てそこに吸収でもされてるのか?
「はい!ごめんなさい!だから許して!グリグリしないで!」
というか、コイツは自分の体重なんて全く気にしていない。長い付き合いなので、それくらいのことは知っているぞ!
だから、本来は謝る必要なんて無い。
まあ、これ以上グリグリされるとやばいから、必死で謝りはするんだけどね。
「これからこたつで座る時は、ヒノキの膝の上が僕の指定席ね!恋人にレベルアップしたし、いいでしょ?」
セリがグリグリするのを一時的にやめ、楽しそうな様子で俺におねだりしてきた。
ちなみに、ゼリが俺と一緒のこたつに入る時は、いつも俺の隣にピッタリと座る。たとえ他に空きスペースがあろうと、それだけは譲らなかった。
俺とセリにとってそれは普通のことだ。長い間そうしてきたから、俺もこたつに入る時、近くにセリがいないと落ち着かない。
でも、それはそれとして、膝の上かあ…
「ええー。いや、流石にちょっと邪魔…あ、やめて!グリグリしないで!分かった!分かったから!」
そんなことされて断れるわけ無いだろ!
満足そうな表情を浮かべるセリ。
なんだか、隣から膝の上に座る場所が変わっただけなのに、今までとはぜんぜん違う。
自然とセリを抱っこするような体勢になるので、いつもよりドキドキしてしまう。
それにプラスして、セリの髪の甘い香りが香ってきたり、セリの体温が感じられたり…
ちょっと場所が変わっただけなのに、かなり強く本能で異性を感じてしまう。
でも、セリがとても楽しそうな表情を見ていると、どいてくれとは言いづらい。
それに、俺も本気でどいてほしいわけではないからな。あくまでドギマギして困るというだけだ。
さて、しばらくはここでまったり雑談でもしますかね。閣下のことについても、もっと詳しく聞きたいしな。
次回予告:クソ雑魚閣下




