簡単作成!予想外に騒ぎ出す視聴者!
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「まあ実は樽を作ると言っても、ヨヒラからほれぼれするような出来の大小さまざまな樽を何個も差し入れされているんだけどな」
送られてきた樽は、今は俺の宇宙船の倉庫に収納してある。大きい樽だと千リットルくらい入るものもあるので、単純に大きくて邪魔だったのだ。
その樽全て、ヨヒラの手作りだ。
どうやら、最近ヨヒラは木工にもハマっているらしい。
以前北のヨヒラの拠点に行ったときは、家の横に立派な木工工房が建ててあった。やるからには本格的にやりたいとのことで、少し前に新しく建てたらしい。おそらく、そこで樽を作ったのだろう。
>じゃあ別につくらなくていいじゃん
>そりゃよかった
>ほな、解散解散っと
>ヨヒラ様何でも出来て素敵♡
「それでも!!俺は俺なりの方法で樽を作ってみたいんだよ!だから作ります!!!」
>声がでけえよ
>ええ…
>わがまま言うな
>小僧。お前に樽が作れるのか?
俺には樽なんて作れない、普通はそう思うよな。
ただ、今回はちょっとした秘策があるのだ。
「実は、樽を作るの簡単説が俺の中で浮上していてな。なんでかっていうと、東の方にある毒の樹液を出す背の高い木が生えてるだろ?あれを使えば簡単なんじゃね?って思ってさ」
俺が秘策を思いついたのは偶然だ。
ある日俺はふと東の森で倒れていた倒木が目に入った。その倒木は少し変わった形状で、見事に中が空洞で、円柱状になっていたのだ。
だが、解析によるとこの木は別にそのような特殊な構造で生えるわけではないそうだ。生え方や構造はいたって普通の木とのこと。
では、なぜ木が円柱状になっていたのだろうか?俺はそのことを不思議に思い、色々調べてみた。
その結果、東の森に生息する虫に原因がある事が分かったのだ。
あの東の森には、ジャイアントボイズンゾウムシという虫がいる。幼虫なのに俺の顔のサイズくらいの大きさがある、恐ろしい虫だ。
その幼虫は倒木の内部に寄生し、木を食い荒らす性質がある。内部の柔らかい木の部分を好んで食べるので、樹皮や木の根っこ側、根そのものは食べない。
俺が見たのは、その幼虫によって食い荒らされた後の木だったらしい。
そういうことをまとめて視聴者に説明する。
>へぇ…
>虫って木を食べるのもいるのか
>なんとなく言いたいことが分かってきた
>あれか、底と蓋さえ用意すれば樽の代わりになるってわけか
>そんなうまくいくかは知らんが、まあ、やってみようぜ!
「ということで、その木がこちらです」
ドン!
俺はリュックから持ってきた木を取り出す。
>びっくりするから突然出すな
>相変わらずあそこの木は背が高くてデカいな
>ホントに綺麗に円柱状になってるな…
>でも、根っこの部分は食べられてないから、底として使えそうだな
「あ、実はその木を食べる幼虫が木の内部にちょっとだけいたんだけど…見る?その幼虫、毒を抜けば美味しいって解析で出たから、一応採取してきたんだけど…」
>みない!キモそうだし!
>虫食!?
>虫を食べるの?ありえない!
>私には絶対ムリだ
ほんと現代っ子はひ弱だなあ。虫は貴重なタンパク源なのだ。食べれるのなら食べるだろう。
…まあ、俺も口だけで、実際に食べたことはないのだが。
いくらタンパク質といえど、流石に勇気が出なかった。それに、他に食べ物があるのに、わざわざ虫を食べなくてもいいかなとどうしても思ってしまうのだ。
きっと、一度勇気を出して食べれば抵抗感は無くなっていくのだろうが…誰だって初めての経験は怖いだろ?
まあ、いつか初心者向けの美味しい虫があれば食べてみてもいいかもしれないな。
…うん、いつかね。決して食べたくないとかじゃないよ?気が向いたらね。
でだ、後はこれに蓋と底をつけるだけなのだが…やり方がわからん。こういう時は脳内のチップ様に簡単なやり方を教わるに限る。
ふむふむ、なるほどなるほど。
「うん。取り敢えず底を作るのが特に難しそうだから、蓋だけにするか。底は元々の木の根元で代用しよう。その方法ならナイフだけでも作れそうだ」
このやり方だと、この大きくて長い木から一つの樽しか出来ないが、まあ仕方がない。ヨヒラのように木工工房でもあれば色々出来るのだろうが、無い物ねだりしても仕方ないしな。
ということで、とりあえず作ってみる。
まずは木の根元から、俺の背丈くらいの高さの場所に目印を付け、そこをギコギコとナイフで切断する。
うん。デカいコップみたいな形になった。
蓋は、加工しやすい木材を持ってきて円型に加工し、サイズをいい感じに微調整していく。
幸いにも木の形が根本に行けば行くほど広くなっているので、力いっぱい無理やり圧力をかければ密封出来るだろう。
よし!出来上がり!
「さて、これが樽としての役割をちゃんと持つかだが…一旦水を入れて漏れがないか試してみるか」
俺は井戸から大量の水を持ってきて、中に入れる。そして蓋をして待つこと数分。
「うん。特に水漏れとかなさそうだけど…一個忘れてたことが判明したわ」
蓋を開けて中をみると、何故か水が濁っていた。
この木から土などの汚れはしっかり取り除いたはずなのだが…
原因を調べるために濁った水を解析してみる。
どうやら、この木の元々持っている毒が水に移り、汚染されてしまったようだ。
これでは、酒なんて作れない。
毒抜きってどうやってやるんだ?殺菌とかか?
あ、殺菌!
そもそも食べ物をつくるのだから、樽を殺菌しないといけない。でも、殺菌ってどうやってやるんだ?
あ、もう一つ抜けていることを思いついてしまった。
そもそもの話だが、この木ってアルコールに強いのか?
俺はしばらくウンウンと一人で唸った。結果…
「…よし!大人しくヨヒラが作ってくれた樽を使いますか!」
課題が多すぎて思考停止してしまったので、難しいことは辞めようと思う。
>それがいいね
>しってた
俺は宇宙船の倉庫から、送られてきた樽を持ってくる。
「…こうして見ると、ヨヒラの樽は素晴らしいな。ほら?俺のと並べてみると、全然完成度が違うだろ?見た目もぜんぜん違うし、香りまでぜんぜん違うな。一流の樽職人への道はまだまだ遠いわ」
ヨヒラの樽はしっかり殺菌処理もしてくれている。アルコールにも強い木材だ。俺とは違い、抜かりはない。
俺もいつかはヨヒラのように木の個性を活かした作品をつくれるようになりたいな。もうちょっと木について勉強しないとなぁ…知識も経験もまだまだ足りないわ。
>ヨヒラさんは樽職人だった?
>確かに樽職人といわれてもおかしくないくらいの完成度だな
>その樽に入った酒、凄いおいしくなりそう
>まあ、ヨヒラ様だしな
「じゃあ気を取り直して、このヨヒラが作った樽を使って、早速酒造りといきますか!」
まずは蜂蜜酒からやってみよう。失敗するかもしれないので、最初は一番小さい樽で試すことにする。
「水と蜂蜜を樽の中に入れ、混ぜてから放置。これだけで出来るらしいよ。お手軽だろ?」
まあ、お手軽な代わりに、失敗する可能性も結構あるらしいが。
安定して作りたいのなら、酵母も自分で用意したほうが良いらしい。
>へぇ…
>もっと凝ろうと思えば色々出来るけどね
>蜂蜜をこだわったり、水と比率を変えたり、なにか混ぜものをしたり、人工的に酵母を入れたり、放置する温度にこだわったり、重力にこだわったり…やろうと思えば無限に工夫できるらしいよ
次回の酒造りの時は酵母くらいは作ってみようかな。チップさんがいればきっと出来るだろう。
まあでも、今回は当初の予定通りやろう。そういう難しそうなのはまたいずれ。
「よーし、次はワインに取り掛かるか。まずは、この送られてきた大量のぶどうを踏みますかね。これは大変そうだ」
>え?踏むの!
>…これは一大事です!
>緊急事態発生!緊急事態発生!
>憧れの足踏みワイン!!!きたああああ!
なんだなんだ!?
なんだか視聴者がやたら騒ぎ出したぞ?
「なんか興奮してるけど、どうしたんだ?なにか俺、変な失敗した?」
>いやいや…なにも失敗してないよ!!
>どうぞそのまま!頑張ってください!
>そのつくった酒は私達に売り出してね!お願いだから!
なんだこの反応?やたら必死だ。絶対何かがおかしい!
と、俺が考えていると、トリカからのメールが来た。
【価値が全然変わってくるから、絶対に生足で踏みなさい!証拠としてその作業は動画にも残すこと!良いわね?】
とのことだ。
なるほどなるほど…このメールのおかげで、なんでこんな視聴者共が騒いでいるのかを大体理解してしまった。
一応脳内のチップで答え合わせといこう。
…うん。正解っぽいな。
なんだよそういうことかよ…しょうもねえな。
「お前らさあ…ちょっと見境がなさすぎじゃね?別に男が生足で踏んでつくろうが、道具とか機械を使ってつくろうが変わらんだろうが」
なんなら足で踏むより道具とか機械を使ったほうが効率も衛生面もいいと思うのだが…
>バレちまったようだな
>男の生足で踏んだワインなんて乙女の夢なんだぞ!
>仕方がないんだよなぁ…
>実際、男が踏んでつくったワインは価値が跳ね上がる。これは宇宙の理
まさか、そんなことで価値が上がるとは思わなかった。
俺は昔の伝統的な方法でワインを作ろうとしただけなのだが、それがそんなに良いのかねぇ…
「まあいいや、そんなんで価値が上がるのならそうするか!じゃあ、踏んで潰す方法を採用します!」
>よっっっっっっっし!!!!
>絶対に買います。例え破産してでもな
>今日から一睡も寝ないで仕事しよ
>ここに居るやつは全員ライバルか…踏み潰してやる、ぶどうのようにな!!!!
こええよ。ワインに対しての執念が強すぎる。
別に暴こうとしてもないのに、この宇宙の女の闇を垣間見てしまった気分だ…
次回予告:この宇宙にもまだ未知はあったのか…




