極寒地帯!二人で観る景色!
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宇宙船が惑星の裏にまでたどり着く時間はほんの数十分程度だった。宇宙船というのはとても速い。
その数十分はロイヤルを愛でたり、トリカと雑談したり、クスネとロイヤルのじゃれ合いを見ていたりして過ごしていた。
ふと、じゃれ合いを見ているトリカの横顔が何気なく俺の目に入った。
とても穏やかで、温かい表情。まるで聖母のようだ。
トクン。
小さく、胸が高鳴る。
どこか、普段のドキドキとは違う。いつもとは違う場所、心の深い所で、心臓が鼓動したような…そんな気がした。
トリカって、そういう顔もできるんだな。
そんな一面があるなんて、全く知らなかった。
以前、酔った勢いでトリカに母性が無いのだと言ってしまったが、撤回しないといけないな。本人は意識していないだろうが、あの横顔はとても母性的だった。
これなら…
―――目的地へ到着しました。
「さあ、行きましょうか。ん?どうしましたの?そんな覚悟が決まったかのような表情をして…」
「いや、なんでもないよ。じゃあ行こうか」
うん。なんでもないんだよ。特にトリカにはまだ秘密。
さて、気を取り直して、俺達は宇宙船から出る準備をする。
「じゃあ、目的地へ付いたので、スポンサーから送られてきた衣装に着替えます!」
>きたきたきた
>あれだよ?一度全裸になってから服を着る、原始的な方法で着替えてもいいんだよ?
>さて、どんな衣装なのだろうか…
俺は脳内のチップを操作して、ぱぱっと新しい衣装に着替える。
今回の衣装は…じゃーん!
>おお!探検家か!
>いいじゃん!
>インナーの白のタンクトップがほんのりエロい!
>鎖骨!胸板!太い腕!それらのチラリズム!スポンサー様はなかなか理解した人だな
「今回の衣装は探検家風でした!」
カーキ色の五分袖のジャケットが腕まくりされて半袖になっていて、同じくカーキ色の半ズボンと帽子。長い白ソックスを履き、首からは望遠鏡がぶら下がっている。
そこまでは良いのだが、ジャケットのインナーがタンクトップなのが少し気になるな。ジャケットは羽織っているだけなので、チラチラとインナーが見えてしまう。
「よし。ジャケットのボタンをしめるか…」
>だめ!
>そうやっていつも視聴者のこと弄んで…どうせウチのことをめんどくさいメンヘラ女って思ってるんでしょ!ねえ!!!愛してるって言ってよ!!!
>チラチラ男の体が見えるのがいいんだろ!
>スポンサー様がそう着ろって指示しているんだから、アレンジしないで!
途端に視聴者からの大反対。
…まあ良いか。それくらいのサービスはしてやろう。
俺は体を動かし着心地を確かめる。
うん。あいかわらず問題なし。しっかり動きやすいな。
「じゃあ、新たな土地に降り立ちますわよ」
いつのまにかトリカもいつもの花のドレスに戻っている。宇宙服もいいが、こっちの衣装も派手でいいな。トリカらしいわ。
「よーし!出発!」
俺達はロイヤルやクスネも連れて一緒に新しい土地へ降り立つ。
宇宙船の扉が開くと、そこに見えたのは…
「真っ白だ…」
>おおおお
>雪だ!
>なかなかキレイな景色だ
一面雪の世界だった。
朝に出発したので、惑星の裏側は夜中。今は雪は降っていないが、地面がすべて雪だらけだ。宇宙船の光が明るいので、白い地面が鮮明に見える。
「くぅーん」
あまりの寒さにクスネが宇宙船へ戻っていった。
そうか、俺やトリカは高性能な服があるから寒さを感じないが、クスネはそりゃ寒いはずだ。
よし!じゃあ、あれを買おう。
俺はクスネのために体温調節機能がついたペット用の服を買い、それを着せる。これで大丈夫だ。
「あなた…即決でなかなか高い買い物しますわね…しかも、お金はあなたのお母様の店でしか使わないと言っていたでしょうに…」
「あ、しまった」
やっちゃった。つい衝動買いしてしまった。だって、クスネが寒そうだったから…
うん、仕方ないよな。相棒と一緒に散策したかったし…
俺の買い物じゃないからセーフとします!
俺自身には金は使っていない。クスネが俺の金を使って買い物したということにしておいてくれ。
「そういえば、ロイヤルはこの寒さ大丈夫なの?」
「ロイヤルは氷を操ることが出来ますから、もともと寒さには強いのですわ」
「なぁーご」
ロイヤルはこんな場所でものんびりと伸びをしている。大丈夫そうだな。
「さて、クスネも準備できたし、周辺を探索してみますか」
「その前に、上空を見て御覧なさい」
ん?なんだろう?
言われた通り俺は空を見上げる。
「おお…すげぇ…」
>オーロラ!
>ほえー。初めてみたわ
>なかなかデカいオーロラだな…
虹色に輝いていて、とても綺麗だ。
「あ、流れ星だ!」
「ふふ、なかなか素敵な場所ですわね」
トリカが俺の手をぎゅっと握りながら、語りかけてくる。
手から伝わってくる温かい体温。意外と力強いトリカ。
まるで絶対に離さないと言っているかのようだ。
でも、決して嫌ではない。それどころか、もっとしっかり握っていて欲しいくらいだ。
俺の心臓もトクトクと小躍りするように鼓動している。
俺はそっとコメント欄の表示を消した。今は誰にも邪魔されたくない。
俺達は暫くの間、そうやって静かに空を見ていた。
こうして二人とペット二匹で一緒の空を眺めるのって、なんかいいな。トリカも同じ気持ちなら嬉しいのだが…
まあ、わざわざ直接聞くのも野暮ってものだろう。
なんだか、今の俺は全身が活力に満ちている。これだけ寒いのに、心はポカポカだからだろう。
「さて、名残惜しいですが、そろそろお仕事の時間ですわ」
「…そうだな、さっさと探索しようか」
「では、手分けして探索しましょう。わたくしは小型船で空から大雑把に探索するので、あなたは地上で実際に足で歩いて探索をおねがいしますね」
「了解」
俺達は二手に分かれて探索することになった。
トリカは宇宙船の中に格納してあった小型の飛行機のようなものに乗り、すごい勢いで飛んでいった。
では、俺も働きますか!
軽く見渡すかぎりなにもないので、ダッシュしてここらへんを突っ切ってしまおう。
「クスネ、俺の肩に乗ってくれ!よし!行くぞ!」
「わん!」
クスネもやる気充分。
俺は勢いよく走り出す。
いつもと違い、吐く息が白い。
チップによると、ここの気温はマイナス十度らしい。
もしかして、あっちの拠点も冬が来たらコレくらい寒くなるのかもしれないな…冬の前には寒さ対策しなければ。
逆に、ここの夏はどんな姿を見せるのだろうか。それを見るのも楽しみだな。
おっと、コメント欄のことを忘れていた。また改めて表示させよう。
「うーん…それにしても、ここはなにもないなぁ…たまに木が生えているくらいだ」
>ちょっとさみしい場所だね
>うーん。冬が過酷だからかな
>なにもない。が、あるだろ?
「うるせぇな…ドヤ顔で決め台詞みたいなこと言うな」
>サーセンwww
>でも、なにもないところって、ある意味貴重ではあるよな
それにしても、なにもない、があるか…反射的に突っ込んでしまったが、意外と間違っていないのかもしれないな…
「ちょっと思いついたことがあるから、一旦探索終了するな」
俺はその場で寝転び、目をつぶってみる。
とても静かだ。虫の鳴き声などが全く聞こえない。少しだけ吹いている風の音と、クスネの呼吸する音しか聞こえない。
しばらくすると、俺の心臓の音も聞こえてきた。これだけ静かだと普段は気にしないような音が聞こえるのだな。
体の側面からクスネの温かい体温を感じる。こうして触れ合っているととても安心する。
俺は目を開け、空を見る。
今はオーロラが消えてしまって見えない。空は真っ黒だ。普段の夜より黒く、暗い気がする。
これだけ深く暗いと、なんだか闇が押し寄せてくるような圧迫感がある。少し怖い。
「うん、いい考えかもしれない」
>いきなり寝転んでどうしたんだ
>視聴者がついていけてません
>今日視聴者置いてけぼりが多いよ!
>放置プレイでありますか?大好物ですぞwww
>説明しろ
おっと、すまんすまん。
「この場所。観光スポットとして良いかもしれないと思ってな…ちょっと試してみたんだよ。俺の予想通り、なにもない、が、あったわ」
>はあ?
>お前もドヤ顔で決め台詞を言うな
>なんかムカつくな
>ダッサwww
>もっと具体的に説明しろ
仕方ないな。一から十まですべて説明してやろう。
「ここ、一人で居ると、そこはかとない恐怖を感じる場所なんよ。周りは静かすぎるし、夜は暗すぎてもはや闇だし…で、結局何が言いたいかって言うと、ここで一人ぼーっとすると、自然と自分を見つめ直せるってことな」
きっと、クスネの体温を感じなければ、もっと孤独感に苛まれていただろう。クスネ、寄り添ってくれてありがとう。
なんだか、今は無性にトリカに会いたい。無性に人の温もりを感じたいのだ。
>それ…観光スポットになるのかなあ…
>前代未聞過ぎてわからん
>もしかしたら凄いいいところなのか?体験しないとわからんな
「うん。名付けて、”自分探しの氷上”かな。ここを観光スポットとします!ここでゆっくり寂しさとか孤独感とか、恐怖とか感じ取ってくれ!多分その後、身近にいる人に感謝したくなるはずだ!」
俺もそうだったのだ。きっと皆もそう思ってくれるだろう。ここは、自分を見つめ直すにはとてもいい。
ということで、一つ目の観光スポットが出来た。
俺はもう一度夜空を見上げてみる。
…いつもはトリカから夜のお誘いを誘ってくれるけど、今日は俺からトリカを誘ってみようかな…
ふと、そんなことを思った。
次回予告:炎と氷のマリアージュ




