住処完成!ちょっとしたズル
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次の日。
「よーし!今日も配信始めていきます!」
>クンクン…これは昨日の夜、一人で処理したな
>妙にスッキリしてますね
>私の動画を見たと履歴に残ってました!使ってくれてありがとうございます!
>もったいないので出した奴は私に飲ませてください
匂いは伝わらないはずだし、俺はなにも言っていないのに、なぜか昨日の夜の行動がバレている。
これが飢えた女の嗅覚か…
「みんなが何を言っているのかわからないな~」
>とぼけるな
>バレバレなんだよなぁ
>目が泳いでて可愛い
>私たちモテない女どもをあまりナメるなよ小僧
俺がたとえ実際に“あること”をしていたとしても、認めなければやっていないのと一緒だ。だから、絶対に認めない。
あーあ。ほんとコイツらって弱みを見せるとすーぐ強気になるよなあ。普段貴重な男相手には下手に出てるくせにさあ…
俺にも普通の男みたいに気を使え!
「じゃあ!早速組み立てていきます」
俺は強引に話を変える。
そして、なぜか加工されている丸太や木材を、なぜかできている基礎部分に組み立てていく。
>なんか丸太が加工されてるんだけどwww
>こいつ配信外でしれっとSCエネルギー使ったなwww
>一晩で全てSCエネルギーさんが用意してくれました
>SCエネルギーを使わないとは?
>SCエネルギー使うならもっとちゃんとした家を一瞬で建てられるのに…
>おいズルするな
うるせぇ!確かに俺は昨日の夜にちょっとした作業として、SCエネルギーを使って引っこ抜いた丸太を、使いやすいように加工した!理由は面倒になったからだ!
ただ、やったのは基礎部分と木材加工だけだ!これくらいはギリセーフ!!
……うん。開き直って逆ギレしてごめんなさい。これを最後にします。もう、チートは使わない。
たしかにSCエネルギーを使えば豪邸くらい十秒で作れるだろう。なんなら本気を出せば街だって作れるし、食べ物や家、服から宇宙船、無から有まで、何だって作れる。
それだけのパワーが、SCエネルギーにはあるのだ。
…まあそれは、潤沢にSCエネルギーを使えれば、という前提があればだが。
今の俺の宇宙船の簡易発電施設だけでは、そこまでは無理だ。量が圧倒的に足りない。せいぜい用意された材料を使い、自動で家を建てるくらいしかできないだろう。
でもさ。やっぱスローライフにそんな技術使いたくないじゃん?そんなの使えるんならなんでもありじゃん。チートだよチート。
え?丸太を加工するのにつかってるじゃんって?
…そういう正論コメントは、一旦宇宙の彼方へ捨て置くとして。
だから俺は、ホントは家も一瞬で建てられるけど、材料の用意だけしかしてもらってないのだ。
「誰かが加工してくれたのかな?ラッキー」
>こいつ、SCエネルギーを使ったこと認めないつもりだ
>うん、きっと妖精さんがやってくれたんだよ…
>そういうことにしておいてあげよう
>可哀想なものを見る目
不都合なコメントは華麗にスルー。
今どきどんな惑星だろうがSCエネルギーなんて使いたい放題なのが普通なので、俺もSCエネルギーの便利さに慣れきってしまっている。意識して使わないようにしないとまた同じことをしてしまいそうだ。
なるべく自戒しよう。まあ無理しない範囲でね。
そんなチートなエネルギーが使い放題なんて、悪用されないの?と疑問に思う人もいるかも知れないが、エネルギーの悪用をする人はほぼいないのが現実だ。
なぜなら、そんなチートなエネルギーを悪用すると、もっとチートで、こわーい奴らが地の果てまでお仕置きに来るからね。誰もがその“奴ら”を恐れているので、ほとんどの人が悪いことをしようとは考えないのだ。
「よっこらっしょっと」
俺はそんなことを考えながらも、木材を有り余るパワーで運んで、順調に組み立てていく。
チップさんとSCエネルギーは、自動で設計図まで作ってくれているので、加工された木材を設計図通りに置くだけ。分かりやすくて助かる。
「うん。びっくりするほどぴったりだ」
あまりのジャストフィット感に、「おおー」と思わず声が漏れる。俺が手作業で加工したら、こうはならなかっただろう。
──かなり順調に作業が進み、たった三時間ほど作業しただけで、ログハウスはあっという間に完成した。
「完成!いやぁ~木だけでできてる家って、なんか風情があって良いよね。こう、なんていうかさ…言葉こそ出てこないけど。なんか良いわ。スーハー……うん。木のなんかいい匂いがする」
>語彙力のなさwww
>なんかってなんですか!?詳しく教えて下さい!
>脳って知ってる?便利だから、話すときは使ったほうがいいよ?
>すげー!木だけで家って作れるんだ!
>流石はSCエネルギーさんだ!
>SCエネルギーすげえええええ
おい、お前ら。俺を褒めろ。木を用意したのと、組み立てるのは俺がやっただろ!
「ここが俺だけの家になるのか。達成感も相まって今すごく気持ちいいわ」
>私と性行為すればもっと気持ちよくしてあげますぜ!
>木の家なんて初めて見たわ
>今どき木の家なんて無いもんね
>燃えるし不安定だし何の機能もない家だけど、確かに見た目はいいな
「そうなんだよ!今どきの家は便利すぎる!」
>便利なのはいいじゃん
>今の家が当たり前すぎて、便利なんて考えたこと無かったわ
>そっちが不便すぎるだけでは?
今どきの家は増築も簡単、リフォームも簡単。安全、室内の気温もちょうどいい。燃えない、音が漏れないなどなど…いくらなんでも快適すぎる。
もちろん快適な方が良いのは分かる。だが、不満や不便さから何かが生まれることだってあるはずだ。少なくとも、俺はそう信じている。
「よーし!ここが俺のスローライフの中心となる建物だ!これからの未来が楽しみだ」
この周りに豆の畑を作るのもいいな。近くに小屋を建てて家畜を飼っても良い。なんなら、鑑賞用に花壇を作ってもいいし…いや、まずは道を作るか?井戸とかも必要だよな。
達成感からか、そんな楽しい妄想が止まらない。アイデアが噴水のようにどんどん溢れてくる。
>なあ、家具とか一切ないけどいいの?
>内装どうするの
>立派な家ですね。キッチンとかトイレとかないから住みたくないけど
>風呂がない家なんて住めない
>ベッドすらないじゃん
…やっべ。完全に失念してた。
家を作るなんて初めてのことだったから、家の側だけしか作ることを考えてなかったわ。機能とか内装なんて、一切頭の中になかった。
いくらSCエネルギーと脳内のチップが優秀でも、使い方が下手だとこうなってしまう、という例を見せてしまったな。
──もっとAIにすべてを任せればよかったか?
…いやいや!ホントはAIに任せるのもダメなのだった。
まあ失敗も経験だ。今後この経験を活かせればいいのだ。ポジティブシンキング。
「ま、まあ、家はできたし、一歩前進!」
>強引に締めたwww
>でもホント、どうするんだろう
>確かに一歩前進はしたな。先は長いが
「そうだ!宇宙船からベッドを持ってこよう。あとは簡易風呂とか簡易キッチンと簡易トイレも持ってこよ。あと簡易発電施設も──」
>おいwww
>それ、宇宙船で暮らすのと何が違うの?
>この木の内装とは致命的にあわなさそうだ
>それなら作る意味なんてあったんですかねぇ…
うるせぇ!スローライフなんてどっかで妥協しなきゃいけないんだよ!さっきも言ったが、俺は無理だけはしないのだ!
最初からうまくいくなんて思っていなかったとはいえ、思っても見ないところでつまずいてしまった。
でも、失敗を楽しもう。別に失敗したって良いのだ。
便利なエネルギーや優秀なAIのお陰で、今どき失敗することなんてそうそう無い。だから、この宇宙では失敗することも貴重な経験だ。
俺は貴重な経験を積んだのだ。そう考えるのが良いだろう。
ということで、俺はひとまずログハウスの中に、宇宙船から色々な道具を持ってくる。
近未来的なものとログハウスの相性は悪いが、まあ、ひとまず気にしないことにする。これからちょっとずつ良くしていけばいいのだ。
「じゃあ今日の配信は以上!おつ」
>乙
>お疲れー
>カツカレー
>今日も面白かった
>今日も動画送りますね♡
>私も送るから使ってください
>私も送るけど別に使わなくたって良いんだからね!
>履歴に残るんだから、使ったら絶対バレるよ。だからせいぜい我慢しろよ。まあ無理だろうけどwww
おいやめろ!俺は変わるためにここまで来たんだ。そういう誘惑をするな!
このままだと、また昨日の二の舞いだ。さて、どうする?
…よし!一旦筋トレでもして、心を安らげるか!
──俺は一時間ほど筋トレをした。筋トレ中は頭が空っぽになるので、スッキリしたいときにはちょうどいいのだ。
ふぅ…いい汗かいた。やはり筋トレは最高だな。
後は非常食で栄養補給して、風呂にでも入って、ちょっとだけ日課をして寝ますかね。
え?日課をするなって?
…まあ、それも今日だけだから。明日以降は絶対しない。今日は体が火照っているから、仕方がないんだ。今日で終わりにする。これは絶対な。俺は誘惑に負けない男になるのだ。
…ふぅ。じゃ、満足したし寝ますかね。おやすみ~
次回予告:虚無バナナペロペロ




