透明動物!曰く付きの足置きマット?
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「よし、さっさとクエストを終わらせよう。鹿の足置きマットを欲しいんだったな」
あの時作った服は、今では立派に玄関の足置きマットとして活躍している。服としては完成度が低く、今後着ることはないので、このように有効活用していたのだ。
足置きマットとしては意外と気に入っていたのだが、まあいい。今は噴水フラワーのほうが大事だ。
「じゃあ、足置きマットを報酬に…ん?あれ?」
>どうした?
>大丈夫?なんか知らんが、とりあえず服脱げば解決すると思うぞ?
>なんかあったの?
「いや、あの鹿の足置きマットをよく見てくれ」
>え?なにこれ?
>ホラー?
>ちょっと動いてるんだけど!?なんで?
「え?え?怖いんだけど!?」
もしかして、服を足置きマットとして活用したのが気に入らなかったのか?足置きマットにされた盆栽鹿の無念がこんなことを起こしているのか!?どうなんだ!?怖い!
「あ!そうじゃん!これ報酬にするんだった!ふぅ…まあ、多少曰く付きなマットだけど、欲しいって言ったのは依頼主だからな!返品不可な!」
>ちょっと声が嬉しそうなの草
>奇妙なものを処分できて嬉しがるなwww
>ほんとこいつ怖がりだな
>あ、原因が分かった
>わたしもわかった。よく目を凝らして見たら分かるよ
よく見たら分かる?
マットはすべてしっかり視界には入っているが…
ん?たしかに、なにか違和感がある気がするぞ?なんだろうか?
俺は集中して感覚を研ぎ澄ましてみる。
…何かが、この部屋に居る気配がする。
でも、目に見える範囲には何もいない。
いや、確実に何かいる!俺の直感もそう確信している。目に見えない何かが絶対にいる!
あ!違和感の正体がわかったぞ!よく見れば、マットの一部分が不自然だ!シワの寄り方がおかしい。噛んで引っ張られたかのようなシワがある。
そうだ!こういうときは、チップさんに目の機能を強化してもらおう。それでなにか見えるはずだ。
俺は目の機能を強化する。すると…
「ん?なんかちっこくて丸っこいのがいるな?なんだコイツ?」
透明な生物がこの鹿の足置きマットを口で噛んで引っ張っていた。
>あ、そいつあれだ。泥棒するわんこ。
>他の生物の集落とかにステルスしながら侵入して、ものとか食料とか盗んで生活してる種類の犬だね
>お!オスだ!珍しい!メスは凶悪な顔してるけど、オスは小さくて可愛いんだよね!
「へえ…そんな動物がいるのか。じゃあこいつは周りの景色に同化する擬態能力がある犬ってことね。それで、この鹿の革の足置きマットを盗もうとしているわけか。なんだよ。驚かせるなよ…」
種さえ分かればもう怖くない。
さて、俺の家から物を盗もうとは…どうしてくれようか。
俺が足置きマットに注目しているので、わんこは足置きマットを堂々と引っ張れなくて困っているようだ。上目づかいで俺を見ながら、俺の注意が違うところに向くのを息を殺して待っている。
そんな状態でも、いま口で噛んでいる足置きマットを離すつもりはサラサラないようだ。
ただ、ふと思ったのだが、その小型犬のような体の大きさで、大きな足置きマットを盗むのは無理がないか?
どうしてもこれが欲しかったのかな?よほどこれが気にいったと見た。
なんだか、コイツが可愛く思えてきたぞ?
目を強化して見ると、茶色くて丸いポメラニアンの様な見た目ということが分かった。それも可愛いが、ちっこいのに必死になって自分の身体よりデカい足置きマットを盗もうとしているおバカなところも可愛い。
それに、必死に透明になって、「ふう、危なかった、でも、コレで安心だ」というような自信満々な表情をしているのもいいな。
このわんこは、俺が目を強化したことで丸見えになっているとは思ってもみないのだろう。
よほど擬態能力に自身があるらしい。でも、丸見えなんだよなぁ…
でも、チップで目を強化しないと気がつかなかった。確かに凄い擬態能力だ。
どうやら、この惑星ではこのような擬態生物は今までもちょくちょくいたらしい。俺が探索中に全く気が付かなかっただけだそうだ。
なら、これからは目の機能を強化しながら森を探索しよう。多少疲れるが、新たな生物を発見できるかもしれないしな。
「よし、ちょっといたずらしてみよう!」
俺は鹿の革の足置きマットを軽く引っ張ってみる。すると、犬は盗られるまいと革に噛みついて引っ張り返す。
しばらくそれを繰り返していると、わんこが尻尾をブンブンと振りだした…どうやら引っ張りあいっこみたいで楽しいらしい。俺も楽しくなって来たぞ!
じゃあ、ちょっと遊ぼうか!引っ張り合いだ!
勿論本気を出すと勝ってしまうので、上手く手加減しながら引っ張り合いっこして暫くの間遊んだ。
でもあなたさ、うーうー言って楽しんじゃってるけど、隠れてるの忘れてない?
すかさず俺は犬を両手で捕まえる。
犬は、しまった!というような表情を浮かべた。
ふふふ。さて、どうしてくれようか。
こういう時は…
撫で回すに限る!
可愛い奴め!このこの~♪
犬は捕まえられてピンチなことも忘れたのか、ひっくり返って喜んでいる。
一通り撫でて満足した俺は、緑鳥のジャーキーを塩抜きして与えてみた。
喜んで食べているな。短い尻尾がふりっふりだ。
でも、野生の犬ってもっとこう狼っぽいと言うか…危険なイメージが合ったのだが、コイツは確実に愛玩動物だ。
>メスはもっと狼みたいな凶悪さがあるよ
>きっと、メスの中で大事に育てられたんだろうな
>愛されることに慣れまくっている
>これだけ可愛いのなら、私だって大事に育てる
このわんこ、鹿のマットが盗めないとわかったのか、マットの上で丸まってくつろぎ始めた。うん。とても満足げな顔をしている。なかなかマイペースだな…
どうやら、この場所を気に入ったみたいだ。
仕方がないからここにしばらく住んでやるか~、餌もくれるし、ちょうどいいや。
とでもいうかのような顔をしている。なかなかの図々しさだ。気に入った!
「よし!決めた!コイツを飼おう!さて、名前は何にしようか」
>ティンダロスのわんわん
>パブロフのわんわんお
>負けわんこ!!
…うーむ。ろくなコメントが無いな。自分で考えるか。
…うん。決めた。
名前は…クスネ!
ものをくすねるから、お前はクスネだ!
クスネは名付けられたことを認識したようで、くつろぎながらも尻尾はふりふりしている。
よーし!今日からお前はスローライフのパートナーだ!一緒にスローライフを楽しんでいこう!
「わん!」
いい返事だ!これからよろしくな!
>祝!ヒノキがペットを飼う!
>クスネきゅん可愛い!
>小さくて足が短くて体がまんまるなのがとても可愛いです
しばらくクスネを撫でてのんびりしていると、何やら家の前に数匹の犬達が来た。なかなか凶悪な顔と体つきだ。この犬達を解析すると、クスネと同じ種類の犬らしい。オスメスで顔つきや体つきがこんなに違うのか…
どうやら、なにか目的があって来たらしい。
帰る気配がないので、仕方なく俺は扉を開ける。
どうやら、クスネに用があるらしい。ぞろぞろと部屋に入ってきた。
なのに、クスネは気配を消し、俺に助けを求めるような顔をしている。
ははーん。わかったぞ。クスネはメスたちから逃げてきたんだな。扉を開けてしまったが、開けないほうが良かったやつだな。
さてと、仕方がないな。人間様の俺が助けてやろう。
「「「「うー」」」」
メスたちが俺に威嚇をする。
えーと…うん。
…まあ、助けてやろうと思ったが、集団のメスに逆らってもろくなことにならない。クスネ!自分でなんとかしてくれ!
クスネは裏切られた!というような表情を浮かべた。
頼れるのは自分しかいないと悟ったクスネは空気に擬態し、そーっと逃げようとするが…
相手は犬。嗅覚が凄いのだ。
あっという間に首根っこを捕まえられ、引きずられていった…
どんまい。頑張れ!くすね!
「ほんと、どこの世界でも女って強引だよな…」
ちょっと隙を見せたらすぐ攻めてくる。逃げようとしても逃がしてくれない。
>おい
>配信中だぞ
>けんかうってんのか
>隙をみせるほうが悪い
なあ、クスネ。
「わぅぅ」
引きずられながら、遠くでか細く鳴くクスネ。
まるで、俺の気持ちに共感してくれているかのようだ。
クスネ…分かってくれるか。
なら!今日からお前は親友だ!必ず無事に帰ってこいよ!
後日、無事にこの家に帰ってきたクスネ。どこかげっそりしている。
ああ、アイツら発情期だったのね。それで、今は子供を沢山産もうとしていると。
なら、しばらくここで休んでいような。アイツラも子育てでしばらくは忙しくなるだろう。
それに、男にだって休息は必要だ。男にこそ休息は必要と言い換えようか。男は大変だからな…ほら、お前が大好きな足置きマットだぞ。
なお、当初の予定であった畜産はちょっとも進まなかったし、クスネが鹿の革を気に入ってしまったので、クエストも達成できなくなった。
でも、小さな親友が出来た。それだけで十分だ。
次回予告:あまりに評判の悪い鞣し方法




