過剰農業!緊急事態発生!
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「くっさ!いやこれ…くっさ!やばい!臭すぎる!避難しなきゃ!死ぬ!」
あまりにこの肥料が臭い!強烈なニオイが辺りに漂っている。身の危険を感じるほど臭い!
あ、近くを飛んでいた鳥が一羽、気絶して空から落下してきた。可哀想に…でも、それを心配してやる余裕は俺にはない。すまんな。
>草
>これやっぱテログッズじゃん…
>やはりまともな商品はないのか…
>兵器では無かったけどもはや兵器
「けほっ。けほっ。…臭い!くさすぎて咳が出てきた!なんで臭すぎて咳が出るんだ!意味わからん!なんか目も痛いし!なんだよこれ!」
ホント俺の母親…加減をしろ!
>涙目でおもろいwww
>男がひどい目に合ってると興奮するわ
>ざまあwwww
視聴者も見てるだけで安全だからって俺を笑いやがって…くそう。ムカつく!
「えー外が臭すぎて出歩けないので、しばらく家に避難します」
俺はそそくさと拠点に引きこもる。
はぁーあ。ひどい目にあった。地雷よりしんどかったかもしれない。
一時間後。
激臭が多少ましになったので、気を取り直して、俺は種まきを開始する。
「ヨヒラに聞いて、初心者でも育てやすい種を教えてもらったので、それを中心に植えていきます」
ヨヒラいわく、この惑星の特定の豆と芋なら育てるのは超簡単らしい。水すらあげなくても埋めれば育つくらい楽勝の植物とのこと。しかも味もある程度安定しているので、初心者はこれから始めるのが良いらしい。
>芋と豆か
>ヨヒラ様が言うのなら安心だ
>まずは初心者レベルから始める。偉い!
>いつもなんか失敗してる印象があるけど、あなたって意外と堅実だよな
そう。俺は堅実な男。出来ることからコツコツとだ。激臭によってひどい目にあった俺を笑う視聴者に多少ムカついていたが、その言葉でチャラにしてやろう。寛大な俺に感謝すること。いいね?
いずれこの豆と芋を品種改良とかして美味しくしたいけど、今は取り敢えず工夫せずに沢山植えようと思う。
この芋と豆、どちらも味のクセが強い。芋は野性的かつ土の味がし、豆は苦みが結構強い。
きっと、普通の現代人ならこれを食べようとはしないだろうな。あまり美味しくないものを、工夫してなんとか美味しくするという発想すらない人も多いからね。
その原因はおそらく、この宇宙では料理の技術は一般的なものではないからだろう。
調理技術は専門職しか習得していないのだ。
クセがなく、調理がとても簡単な食材が多く世の中にはびこっているし、そもそも高度に発達した調理機器があるのだから、そうなるのも仕方がないのかもしれない。
調理機器に関しては、一瞬で自分の思い描く調理工程をしてくれるものが普及している。それを使えば、食材を切ったり、火を入れたりはお手の物だし、やろうと思えば食材自体を粉状にしてみたり、発酵させたりなども自由自在だ。
まあ、基本的に大多数の人はそんな機能は使わず、オート調理に頼ることが多い。機械のオススメ調理法に頼ったほうがハズレがないからね。
オート調理機能を使わない時というのは、自分で料理という行為を楽しみたくなったときだけ。娯楽としてたまにするくらいの認識なのだ。
「お前らもたまには料理やってみないか?意外と楽しいぞ」
俺は種を植えながら視聴者と雑談する。
>オート調理で十分満足してる
>そもそも貧乏だから毎日タブレット食です…
>自分で作るより圧倒的にオート調理で作ったほうが美味しいからなぁ
まあ、そうだよな。オート調理機能って調理も速いしめちゃくちゃ美味しいし非の打ち所が無いように見えるよな。
ただ、個人的にはオート調理はあまり好きではない。
確かにとても便利な機能だ。
だが、オート調理を使えば、自分にとって百点の料理が出てくるのかといえば、そうではないのだ。
機械はしっかり理論的に証明された、理論値とも言える味の料理を提供してくれる。それなのに、なぜ百点の料理が食べられないのか?
それは、食の満足度というのは個人の味の好み、状況、気分などによって大きく変わるからだ。あまりに個人差があるので、機械には九十点の料理しか作れない。
だから、百点の料理を食べたい俺としては、オート調理機能をあまり使わないのだ。
おっと、そんなことを考えながら作業していたが、気づけばもう手元に豆と芋の種がない。あっという間に種を植え終えてしまった。
「うん。植えるだけでいいから楽ちんだったわ。今からこの多少癖のある豆と芋をなんとか料理して食べるのが楽しみだ」
>楽チンチン!
>そういえばあなたってちょっとだけ調理技術があるんだったな
>プロほどでは全然ないけど、私達よりは何故か調理技術があるんだよなこいつ
>中途半端な男だ
…ほんと、一言多い奴らだ。前世の記憶のお陰で中途半端な調理技術があることが、俺的には凄く役に立っているというのに。
何故なら、俺個人の食の満足度が最も高くなる状況は、自分で試行錯誤しながら手間暇かけて料理したものを食べる時だからだ。クセの強い扱いの難しい食材などを上手く料理出来れば、なお満足度が上がる。
さらに筋トレや配信の後など、疲れたときにリフレッシュとして食べるのも好きだ。たまには人と食べるのも満足度が上がるし、一人で食べるのもそれはそれで好きだ。
こういった状況が掛け合わされると、俺の味だけで言えば五十点の料理でも、まるで百二十点の料理を食べたときのような満足感が得られるのだ。
これは、現状の俺が自分で認識している食の満足度があがる方法。もっと満足度が高くなる食べ方もきっとあるだろう。いろいろな食べ方、状況など、もっと試したいな。
「なんか植えるだけのカンタン作業だから、すぐ終わっちゃって物足りない。まだまだ土地は沢山余ってるが、どうしようか………よし!いまある土地全てに、現状持っている様々な作物の種を植えまくろう!」
>やめといたほうが…
>さっき意外と堅実って褒めたのに…
>すーぐ調子に乗るんだから
>ちょっとだけで満足しろ。初心者だろ
いいんだよ!土地も時間も種も余ってるんだ。それに楽しいし!取り敢えずやってみよう!
超収納リュックのお陰で、採取してきた種はたくさんあるのだ。この配信外の三日間、片っ端から採取したからね。それこそ片っ端から植えてみよう!
コレは確か…小麦っぽい植物の種だったな。ある分だけ大量に植えちゃえ!後は、これはトマトみたいな植物の種だ!トマト食べたい!植えちゃえ!もっともっと植えたい!あとは…
俺は夢中になって片っ端から採取してきた種を植えた。
気づけば、空は暗くなりはじめている。あれ?もうそんな時間が経ったのか?
「あ、…しまった。やりすぎた。完全に農業ハイになってた」
>…農業ハイ?
>新たな概念を作るな
>農業する姿はまさになにかの中毒になった人みたいだった
>だから止めたのに…
やばい!コレだけの農地、絶対に一人で管理できないぞ!水やりなどが大変すぎる!かといって管理せずに枯らすのも食材に対して不誠実だし…
なんだか大量の食材を無駄にしてしまいそうだ。
これは今までで一番の一大事。食材を大量に無駄にするなんて大罪だ!
俺は前世では米一粒をお茶碗に残すことも嫌なタイプの人間だったのだ!
そんな俺が大量の食材を枯らしてしまうなんて…俺の流儀では完全にアウト!大急ぎで対策を考えよう。
「まあ、配信外でなにか対処法を考えておくわ。とりあえずもう遅いし、今日の配信は終了。おつ」
>おつ
>おつかれー
>カツカレー
>今日も楽しかった
さて、どうしよう。この状況、一人で解決出来るかな?
…うん。ダメだ。しばらく悩んだが、いい方法が思いつかない。
仕方ないか…一人でなんとかしたかったが、こういう時は頼れる仲間に頼るしか無いな。
男としてあいつら頼りとはなんとも情けないが、食材を無駄にするよりはいい。今はプライドを大事にしている場合ではない。緊急事態だしね。
次回予告:え?もっと農業しろって?…まじで言ってる?




