博士人生!その3!過去を語る!
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私はその謎の生物を抱えたまま、この星を歩き回ったわ。
目的は探索と知識の吸収。
いつか母星に帰れたときのために、この宝の山である惑星から何かを得て、私の名前を宇宙に轟かせたかったの。
数日この星を探索すると、謎の生物が少しだけ起きてきた。
「おはよう。寂しいからあなたを連れて歩いているけれど、いいかしら?」
「……って、言葉は分からないか――ッ!」
また、自分の頭に映像が一瞬流れた。映像こそ不安定でよく分からなかったが、感謝と申し訳なさと、自分の無力さを嘆いていることは伝わった。
「何を嘆いているのかわからないけど、ウジウジしないの!私なんて帰れる保証なんて一切ないのに、自信だけはあるのよ!大丈夫!世の中案外なんとかなるのよ!」
私がそう励ますと、謎の生物の体温がわずかに上がった気がした。
「ねえ?そんなことよりさ、あなたに名前をつけてもいいかしら……って、寝てるし」
――こんな感じで、この生物は数日のうちちょっとだけ起きて、また眠るを繰り返していた。まるで、弱った体を回復しているようだったわ。
それから一ヶ月後。
「ねえ、クチナシ。あなた、ほんのわずかだけれど、起きていられる時間が長くなっていないかしら?」
クチナシ。それが私がつけたこの子の名前。意思はあるけど喋れないから、クチナシ。ものすごく単純な名付け理由ね。
今ならそのネーミングセンスはどうかと思うけれど、その当時は自身のセンスに惚れ惚れしていたわ。ちょっとした黒歴史ね。
こんな名前でも、名付けた当時、クチナシは確かに喜んでくれていたわ。
私が問いかけたのち、また頭に感謝が伝わってきた。
君のおかげ――クチナシはまっすぐ気持ちを伝えてくるので、むず痒い。
「ま、回復しているのなら良かったわ。でも、あなたって感謝してばっかりね。優しいのはいいけど、あなたもやりたいことをもっと自分勝手にやってもいいのよ」
私なんて最近母星に帰ることを忘れてしまっているわ。知識欲と野心で体がつい動いちゃうのよ。傑作でしょ?
また頭に感情が流れる。
「ん?なにかしらこの感情?好き?あら、この惑星が、かしら?いや、少し違う。この惑星も大好きなのは確か。でも、もっと大きな何かが好きで、守りたい?」
弱っているからか、届く映像は途切れ途切れ。おそらく伝えたいことの半分も私には伝わってきていない。
それでも、必死さは伝わってくる。
「まあいいわ。要するにこの惑星が好きなのね。なら、目的は一緒ね。お互い満足するまで、一緒にこの滅んだ惑星を隅々まで見ていきましょうか。って、寝たのね。おやすみなさい」
私はクチナシを優しく撫でた。
この日から、私たち二人の長い旅が始まったわ。
私は地位と名誉のため、クチナシはそのパートナーとして。
二人で来る日も来る日も一緒に居るうちに、クチナシの目的も徐々に鮮明になっていく。
「なるほど、クチナシはこの宇宙全体がとにかく大好きで、守りたいのね。それにはこの惑星が深く関わっていると」
どうやらクチナシには「宇宙を守る」という大きな使命があるようだ。
何から守るのか、どうすればいいのかはよく分からない。けれど、本気でそうしたいと願っていることは伝わってきた。
「それなのに、強引に連れてきちゃっているけど、いいの?こんなところで遊んでないで、もっとなにかできることとか……ああ、だからあなたは嘆いていたのね」
クチナシの小さい目がしょぼんとより小さくなった気がした。
今は弱々しいクチナシも、最初はこうではなかったはずだ。きっと色んな戦いを経て、今の弱った姿があるのだろう。
「大丈夫よ。何をするにも、体が資本。元気になってからでもいいんじゃないかしら?」
私はぽんぽんとクチナシを撫でた。
「それにね……今更私が一人になったら、心細くて死んじゃうわ」
この時初めて、ほんの少しだけ弱音の混じった本心をこぼしてしまった。
実際私はなんとかなると思っているし、元気だし、前向きだ。でも、少しも不安がないと言えば嘘になる。気にしていないだけで、心の隅にある不安が消えたわけではない。
「どうやらあなたは宇宙は救えなかったみたいだけど、私を救ってくれたのよ。それを誇りに思いなさい!」
私がこれだけ何百年もずっと前向きで居続けられる理由は、クチナシのおかげだ。
私はもとより天涯孤独の身だった。だから、人よりも孤独に強いと自負している。それでも孤独は少しずつ心を蝕むのだ。経験上、私はそれをよーく知っている。
「ほら!ウジウジしない!今できることをするしかないの!さあ、今日も探索を続けるわよ!」
本当はね……私今楽しいの。一人じゃないってだけ――それだけで、母星に居た時よりも生き生きしてるくらいなんだから。
――それからはもうあっという間、数年が経ち、数十年が経ち……百年ほど経とうとしていた。相変わらず人一人いないし、生命の息吹をまったく感じない。それは変わらない。
きっとこの惑星での生き残りはクチナシ以外に居ない。この時にはそれはもう確信していたわね。
そして、この頃になってようやくクチナシはある程度の元気を取り戻した。未だに体温は低いままだけど、普通の人間と同じくらい起きていられるようになったのだ。ついでに、しなびていた頭の花にもハリとツヤが出てきていた。
私もこの惑星の技術を学び、応用し、いろんなことができるようになっていた。
私は寿命をほぼ限りなく永くすることに成功した。
自身の脳内のチップの改造にも成功していた。
クチナシがどこかから持ってきた「Eエネルギーの資料」から試行錯誤を続け、ようやく発電に成功した。
Eエネルギーの発電には人間の感情のエネルギーが必要。人間は私しかいないので、効率は悪い。それでもクチナシはこれに妙にこだわっていたし、私には時間があったのでどうにでもなった。というより、それだけの時間があった。
時間があるといえど、私たちはまだこの惑星の半分も見ていない。半分どころか十分の一くらいだろう。それほどこの惑星は広い。
私たちの旅はまだまだ道半ばだ。
「今日の収穫は……見て!きっとこの絵は素晴らしい画家が描いたものよ!だって、迫力がすごいもの!」
抱えたクチナシから感情が流れてくる。
「あら?これで新人の作品なの?私って芸術に造詣が深くないのよね。でも、私の心にはとっても刺さったわ。これはとってもいい作品よ!きっと生きていれば宇宙を轟かす画家になっていたはずね!これも大事に保存しておきましょう」
長い年月が、私の考えを変えた。
この頃になると、私はこの惑星のことが大好きになっていたわ。自分の名前を轟かせることや、帰ることなんて頭になく、ただ単純にこの魅力的な惑星をもっと知りたいとしか思っていなかった。
滅びの前に描いたであろうアート作品に触れ、魂のこもった娯楽作品に触れ、言語データ、科学資料、歴史資料などの様々な情報に触れ、それらを保護していく。
他にも、その地域に根付いた独自の子供の遊びや、ご当地料理のレシピ、ちょっとした日用品なども、片っ端から集めていったわ。そして、今では禁足地と呼ばれる場所に、大切に大切に保管していった。
――そんな風にいつものように活動して、夜になったらいつものように簡易住居を取り出して眠ろうとした時のことよ。
「ねえ、クチナシ……これを見て?」
私たちは、いつも枕元に種を植えた鉢植えを置いている。
この惑星に植物の種はあれど、地面に植えても、どこに植えても芽を出すことはない。おそらく、どの種も死んでいたのだろう。
それでも僅かな可能性にかけて、色んな種を植え続けた。壊れた遺伝子を強引に修復してみたり、特殊な水を与えたり、この惑星の音楽を聞かせてみたり……ありとあらゆる方法を試した。
それでも一向に結果は出ず、もはや半分以上諦めていたわ。
それなのに、今日の鉢植えにはあり得ない光景が広がっていた。
「これさあ、芽が生えてるわよね……?」
少し滲んだ瞳を手でこすってよく見ると、ちょこんと小さく伸びる可愛らしく小さな緑がしっかりと見えた。
時が止まったとすら感じた。現実が理解できなかった。
しだいに、胸の奥から熱が込み上げてきた。
「ようやく植物が生えたわ!ついにあなたの願いがかなったわよ!私たちの研究が、ついに実ったの!」
私とクチナシは、涙を流して喜び合った。
嬉しかった。幸せだった。
ついに希望が見えた。これは再生の兆しだ。これが一歩目だ!ここから始まるんだ!
――こんな時間が永遠に続くと思っていた。
次回予告:泣かないで




