博士人生!その2!過去を語る!
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この惑星には、文明があった痕跡はあるのに、命の気配が一切なかった。
人や動物、植物ですら、何も。
この宇宙にたくさんの惑星あれど、滅んだ惑星など聞いたことがない。
「どうしよう……文明が滅んでいる時点で帰れない。それに、助けを呼ぼうにも、自分のチップを改造しまくっているから、ほとんどの機能が壊れてしまってる。なんなのよ、もう!あの時の私はなんでそんなバカなことをしたのよ!」
若気の至りだった。
当時、チップは【人類の最高傑作】と言われていた。
その最高傑作を超えたかった私は、安易な気持ちでそれに手を出したのよね。私なら改造に成功して、最高傑作を超えるものができると信じて。
ほんと、バカだったわ。人類の叡智が詰まったチップを、やすやすと越えようなんて…
非常時になって初めて、チップのありがたさが身に沁みたわ。
「仕方ない。どこかにいるかもしれない人を探して歩きましょうか。ま、どうにかなるでしょ。人が一人も居ない惑星なんて、そうそうないしね」
こんな状況でも、私は前向きに動き出した。
若かった私はとにかく楽観的で、絶望するのが下手くそだった。根拠がなかろうが、無駄に自信だけはある。それが私だ。
「滅んでいても、昔に人が居た痕跡は確かにあるもの。ちょっと探せばなにかは見つかるでしょ」
――一日歩き、数日歩き、数週間歩いた。
「この惑星、宝の山だわ!」
この惑星は、文明が他の惑星より圧倒的に進んでいた。
使い方の分からない謎の機械や、未知のエネルギーが使われていた痕跡など、見るもの全てが新鮮で面白い!
民家に入り、色々物色すれば、食べ物や飲み物には一切困らない。確実に大昔に滅んでいるはずなのに、食材は新鮮なものばかり。食材の腐敗をほぼ永遠に遅らせる家電のようなものが一家に一台あったのだろう。
そして、何を食べてもとんでもなく美味しかった。凝った調理なんてしていないのに、食材自体のレベルが明らかに高いおかげで、手間ひまをかける必要がないのだ。
普通の民家のベッドで寝れば、疲労が瞬く間に回復する。ここで見つけた服だって全く汚れたりしない。
おそらく、この惑星だけ一万年くらい技術が進歩していたんじゃないかしら?
この技術を少しでも学び、母星へ持ち帰れば、確実に私はちやほやされるだろう。そんな野心を原動力に、歩き続けた。
「…ただ、やっぱり人の気配が一切ないわね」
確かに生きていた痕跡はあるのに、今は何の気配も感じられない。まるで、全ての生物だけが神隠しにでもあったかのようだった。
ほんのりと心に募る寂しさを押し込めて、それでも私は諦めずに探し続けた。
――そして、その一ヶ月後のことよ。
「あら?あれは何かしら?」
ふと何かに導かれるように、ある一匹の生物の気配を感じた。
流石の私も不安になってきた頃だったから、なんでもいいとそれに飛びついたわ。
「これは……生き物……なのかしら?でも、可愛いわね」
そこにいたのは、頭にしおれた白い花を携えた、くたびれたクッションのような謎の生き物。今では結び姫と崇められている存在よ。
「体温が低い。呼吸は……かろうじてってところかしら。これ、どう見ても弱っているわよね」
謎の生物であろうと、初めて見つけた体温のある存在だ。私は全力で看病したわ。
水を与えてみたり、食料をあげてみたり、毛布で包んでみたり、やれることはなんでもやった。
ただ、何も食べないし、水も飲まない。その小さな目は開くことはない。何をしても、眠ったように動かない。
それでも諦めず、私はできることを続けた。
そして、試行錯誤の末――
「うん、この謎の生物は私の体温があると気持ちよさそうだわ。毛布じゃダメ。根拠はないけど、そうに違いないわね!」
このような結論を出した。
今だからこそ分かるけれど、これは近からず遠からず、正しい治療法だった。
結び姫様は現代でもまだ謎が多いが、人間の感情を栄養素にして動いていることは確かだ。
だから、弱りきっていたあの頃の結び姫にとって、常に私のそばにいること自体が、回復への近道だったのだ。
それから、一ヶ月後。
「……ッ!起きた!目覚めたのね!」
ごまのような小さな目が少し開き、棒のようなか細い手がほんの少し動いた。
私の胸に温かいものが満ち、飛び上がって喜んだ。
そして、しばらくの間静かにこの生き物を見守り続けたわ。
その生き物は言葉を発さなかった。正確には、弱った後遺症で、言葉を発する機能が失われてしまっていた。
ただし、コミュニケーションが全く取れないということではない。
この生物には、頭に直接映像や感情を届ける能力があったのだ。
「……これは?」
謎の生物の手がちょこんと私に触れると、突然私の頭に感情を伴った映像が流れてきた。
それはほんの一瞬のことで、何を伝えたいのかのほとんどが分からなかったわ。
ただ、私に感謝している――それは伝わった。
その映像を見せたのち、またその謎の生物は眠ったわ。
「ふふふ、嬉しいな……久しぶりに笑った気がする。私こそありがとうね」
それから、私たちはパートナーとなった。
「――さて、一旦ここで区切ろうか。また一度質問タイムをとろう。HIRARI」
「はい、博士」
始祖さんは博士の呼びかけで、飲み物のおかわりを用意した。そして、博士はぽんぽんと自身のソファーの隣を叩き、始祖さんを隣に座らせる。
この二人、以心伝心というか、息ぴったりだ。全て言葉にしなくても、目線だけでお互いがやりたいことが分かるようだ。お互い深く想い合っているのが伝わってくる。
なんかいいね。こういうの。熟練の老夫婦みたい。
「質問いいかしら?チップを改造ってどんなことをしたの?というか、その時代のチップってどんな機能があったの?」
母が質問する。
「今のチップと比べると、大したものじゃないよ。できることと言ったら、自身のバイタルチェック、身分証明、各種買い物、連絡、GPS機能程度だ。まあ、それでもあの時代では凄まじい技術だったがな」
「SCエネルギーに関する機能はやはりないのね」
「そうね。私が若い頃の時代では、まだぎりぎりSCエネルギーは生まれてなかったのよ。多分数百年か数千年もすれば自然とSCエネルギーが誕生すると思うけれど、ある理由があって私がその技術を広めちゃったのよね。これは、またこの後の話で話すわね」
「…なるほど。SCエネルギーが広まったのが宇宙暦13000年あたりだから……雑に考えると約7000年前の出来事なのね」
母は納得するかのように呟いたのち、続けて質問した。
「じゃあ次の質問。なんであなたは一万年文明が進んでいると推定したの?」
「ああ、数字はただの根拠のない直感だよ。ただ、今計算するとおそらくそんな間違った答えではないはずだ。なぜなら、歴史から紐解くと――」
…うん、母と博士でなんか難しい話をしだしちゃった。途端についていけなくなってしまったな。
仕方ないので、セリとトリカとヨヒラとイチャイチャしながら待っておこうか。
イチャイチャ、イチャイチャ――
いや、始祖さん?別に勝負してるわけじゃないんだから、そっちも博士と改めてイチャイチャしなくても――
「…こほん。さて、もう質問はないかい?」
…おっと、二人の話が終わったようだ。
「あ、じゃあ俺から質問いい?今の話の進みはどれくらい?」
「そうだな……およそ四分の一といったところか。少しゆっくり話しすぎたね。今からする話は長い。全て理解できなくても大丈夫だ。年寄りの話だと思って、ふわっと理解してくれれば良い。結局君たちに伝えたいこと自体は単純なものだからね」
「なるほど。ありがとうございます」
「では、話しているうちに記憶も鮮明になってきたことだし、ここからは休憩なしで一気に続きを話していこう――」
次回予告:希望の芽




