過去回想!その2!希望の王子事件!
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ルリたちの船は保存していたEエネルギーが切れそうになったから、夫の住む母星に帰ることにした。
夫の母星では、宇宙の外に飛び立つことも、私を乗せていることも違法な行為らしい。だから、ひっそりとバレないようにジ・アースへと着陸した。
ジ・アースに着いて、本当に感動したわ。何より一番感動したのは、当たり前のように人間とアンドロイドが愛し合っているところね。
アンドロイドにとっての桃源郷だとすら思ったわ。
それから、しばらくの間は二人でコソコソと隠れ住むことになったわ。もう一度宇宙へ旅立つために、この惑星でEエネルギーを十分な量備蓄する必要があったの。
本当にジ・アースでの生活は幸せだったわ。不自由も多かったけれど、そんなこと気にならないくらい、満ち足りていた。
でも――その幸せは長くは続かない。
それは、ある空き家に隠れ住んでちょうど一ヶ月、こっそり集めていたEエネルギーの備蓄も十分、そろそろまた宇宙へ旅立とうとしていた頃。
「ルリね。愛の証が欲しいの」
「なら、娘を作ろう!これだけ愛し合っているのだから、きっとすぐに産まれてくるはずさ!」
アンドロイドは基本的に普通のやり方では子供は作れない。ただ、この星ではそんな常識はない。ジ・アースでは、どういうわけかアンドロイドだって子供を産む。人間とアンドロイドとだって種族など一切関係なく、子供が作れるらしい。
だから、普通のアンドロイドが子供を産むことができないという常識を夫は知らない。
「それが良いわね!ねえ、もし娘が産まれてきたら、どんな娘に育ってほしい?」
でも、そんなことはもはやどうでもよかった。ルリは夫との将来を想像するだけで幸せだった。
と、ルリがそんな事を考えていた時だったわ。
――バタン!
「ようやく見つけました。あなたが不法入国したアンドロイドですね」
突然部屋のドアが開けられる。そうやって私たちの隠れていた住処に現れたのが、始祖さんだった。
ひと目見て「彼女には敵わない」と分かった。内包される存在感が、あまりに計り知れなかった。
全力で逃げようとした。能力も力いっぱい使った。
けれど、始祖さんには、私の力が何もかも通じなかった。
(このままじゃ二人とも捕まる!それだけは避けなきゃ!)
「ルリのことはいいから、あなただけでも逃げて!」
「分かった!」
夫は本当に即座に――迷いなく私を盾に逃げ出した。
……ん?
少しだけ胸の奥に残った小さな引っかかりを覚えたけれど、そんな事を考えている暇はルリにはなかった。
夫を庇ったせいか、一瞬でルリは捕まったわ。しかも、まだ夫はこの家から逃げ切れていない。時間稼ぎにすらならなかった。
そして、ルリはこの場で今すぐこの星から強制退去させられることになった。
「では、この惑星から強制退去措置を施します」
(あーあ。会えなくなるのなら、せめて夫との愛の証が欲しかったなあ…)
始祖さんが強引に次元跳躍でこの惑星から追放しようとしたまさにその時。
「……ッ!何だ!何が起こっている!?」
この場一帯が、前が見えなくなるほどの光に包まれた。
この時、私は極限状態だったからか――ルリには今何が起こっているのかはっきり認識できていた。
最初に頭に浮かんだのは過去の夫の言葉。
『俺の母星にはEエネルギーってのがあり、奇跡を起こすポテンシャルがあるのは確からしい。けれど、今だ誰も奇跡を起こしたことはない』
追放されるギリッギリの瀬戸際に、奇跡が起こったのだ。
光で視界が真っ白の中、夫の方に意識を向ける。
ほんとに一瞬、光に紛れて逃げ出す夫の姿が目に入り、安心したわ。
「やっべえ…」
同時に、夫の焦った声も聞こえてきた。夫もこれがEエネルギーによる奇跡だとなんとなく分かっているのだろう。
こんな状況なのに、夫らしくてつい笑っちゃったわ。だって、夫は自由が大好きな男だもの。奇跡なんて起こしたら、目をつけられてしまう。自由がなくなっちゃうって考えたのでしょうね。
それから――
「あれ?ここは……」
気がつけばルリは自分の母星にいた。しっかり始祖さんによって追放されたみたい。
そして、気づけば「男性との過度な接触禁止令」という罰則がついていた。
きっと始祖さんは私をひと目見て、男によってバカな行動を犯してしまったアンドロイドだと悟ったのだろう。
それから、恐怖が襲ってきたわ。
私を追放した人の正体は当時は分からなかったけれど、少なくともアンドロイドのルールに関与できるとんでもない人だってことは確かだもの。
一度落ち着くため、しばらくの間自分の体を念入りに擦った。生きていることを実感していたかった。
すると、自身の体のちょっとした変化に気づく。
「あら?お腹に何かが…」
スキャンして調べてみると……信じられないことに、ルリのお腹に二人の遺伝子が混じり合った小さな命が宿っていたのだ。
それが――ヨヒラ。あなたよ。
そんなこと、アンドロイドでは起こり得ない。アンドロイドは妊娠なんてしないもの。でも、そのありえないことが実際に起こった。
「これが、Eエネルギーの奇跡なのね…」
ルリはこの子を産むことを決めた。
誰にも頼れない。どうすれば良いかも分からない。
それでもとにかく絶対にこの小さな命を散らさないように守り続けた。
それから百年以上、誰にも頼らず、一向に成長しないお腹の赤ちゃんを守り続けた。産まれなくても、お腹の子が愛しくて愛しくて仕方なかった。
同時並行で夫も探し続けた。その時に見つけたのが無人惑星フルールよ。当時はジ・アースと関係があるとは少しも思わなかったから、さっさと売っちゃったけどね。
そして、アンドロイドが子供を産んでもいい歳とされる百五十歳になった頃――
運命に導かれるように、ヒノキくんの母、ヒイラさんと出会った。
そして、ヒイラさん協力のもと、ヨヒラちゃんを産んだ。
「それからはあなたたちも知る通りよ。もう一度夫と会うための奮闘が始まったってわけ」
…なるほどなあ。
当たり前だけど、ルリさんにも過去があり、人生があるんだなあ。
ルリさんの話はもう少しだけ続く。
「――で、この惑星に来てからは、ルリの能力を色々悪用しながら、夫を探しまくったわ」
「ん?」
「それでも一向に見つからなかったから『愛のためなら仕方ないよね♡』と割り切って、禁足地に向かって隠し持っていた“ジ・エンドピリオド”っていう惑星崩壊級のやばい大砲を打とうとしたわ」
「…おい」
「お母様、それもアンドロイドの秘宝ですよ。また盗んだのですか?」
「てへ♡」
てへ♡で惑星を崩壊させられたらたまったもんじゃないよ。
「だってぇ~、ルリから夫を隠すなんて、ムカつくじゃない。それに、夫と別れさせられた恨みもあったしね♡」
うーん他責思考。愛のキチガイ。
「それに、ルリじゃあ始祖さんに勝てないんだもの。多少卑怯な手を使ってもいいじゃない」
…うん、また後で始祖さんに頼んで、もっと強い拘束力のある罰則をつけてもらおう。
「ですが、分かりません。なぜ男を探すためにそんな事をしたのですか?」
「埒が明かなかったから、この国のトップに喧嘩を売って、直接情報を得ようとしたのよ。探しても探しても見つからないってことは、禁足地にあるってことだと思い込んでね」
この惑星に来た当初、ナギさんから「禁足地には全てがある」と説明されていた。だから、そういう思考回路になるのもギリギリ分からなくはない……か?
「それに、あのつよーい始祖さんのことだし、“ジ・エンドピリオド”を打ったとしても、どうせ対処されるっていう安心感もあったわ。だから、狙いは始祖さんの弱体化ね」
「でも、実際にその大砲は打たなかったんだよね」
「ええ、ルリは打つ気満々だったのだけど、直前でウツギちゃんに止められてね」
ふと、俺はウツギに視線を向ける。
ウツギはそれはもう疲れたといった表情だった。暴走するルリさんを止めるのは、さぞ苦労したことだろう。
「初手不意打ちでウツギちゃんの炎をちょっとカスったけれど、咄嗟に避けたから、右手が動きにくくなっただけですんだわ。それでもまだルリは余裕だった。だって、所詮相手は人間だもの。けど、その後の本気のルリにウツギちゃんは勝っちゃうんだから……自信なくしちゃったわ」
そもそも戦闘力に関して人間とアンドロイドを比べれば、圧倒的にアンドロイドが優れている。そして、ルリさんは現時点では、アンドロイドでもかなり優秀なのは確か。
そのルリさんにウツギは勝ったらしい。
「初撃が当たったのと、うちに有利な条件がたくさん重なったおかげよ」
ウツギは大したことじゃないようにそう言うが、絶対にそんなことはない。普通はどんな条件だろうと、人間はアンドロイドには勝てないはずだ。
…ま、それでも俺はウツギが勝ったという事実がスルッと頭に入ってきたんだがな。
修行後の研ぎ澄まされたウツギが、月の無敵のバリアを壊す瞬間を見ていた人なら、俺と同じ気持ちだろう。ウツギのあの時の炎、マジでとんでもなかったからなあ…
心底疲れた顔のウツギを見て、俺は心からこの言葉が口をついた。
「ウツギ、ナイス!そして、お疲れ様」
次回予告:わらしべ酒場




