過去回想!希望の王子事件!
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「さて、王子については分かった。ただ、まだ聞きたいことはある。約百五十年前のこと。君がこの惑星に不法入国した時の話だ。あの時のことを私たちは“希望の王子事件”と呼んでいる。ただ、その男が捕まらなくて、事件の詳細が不明でな。その経緯を教えてくれ」
「そうね、それも話すわ。あれはまだルリが十八歳のことだったわ――」
「ルリ。人間とアンドロイドが戦争になれば、どちらが勝つと思う?」
「はあ、またその質問?そんなの、アンドロイドに決まってるわ。なんならルリ一人対人間全員でもルリが勝つわ。じゃ、お母様、行ってくるわ」
「お前は本当に……って、ちょっと待ちなさい!今日は見回りの日でしょ!」
「そんなの、他の平凡なアンドロイドにやらせておけばいいのよ!じゃーねー」
「こらー!待てルリー!!」
当時ルリは天才だった。お母様よりも、他のアンドロイドよりも、抜きん出て実力があった。
そして、それはもう見事なほどに調子に乗っていたわ。
その原因の一つに、若さゆえの慢心と、アンドロイド流武術が開花したてというのもあったかもしれないわね。
この日も開花して覚えた技を悪用して、お母様から逃れたの。さらに、能力を悪用してサボった事実すら消し去った。
(ルリは無敵!どんな存在だろうがルリには叶わないわ!)
心からそう信じ切っていた。
そんな若かったルリが出会ったのが、愛しの彼だったの♡うふふ…
「ちょ、一旦ストップ」
「なあに。ヒノキくん。これからがいいところなのに…」
「“能力”ってのは、具体的にはどんなのですか?」
「…それ、言わなきゃダメ?」
「できれば」
「うーん。どうしよっかな。今後に響きそうだし、あまり言いたくないんだけど…」
ルリさんがこの後に及んで言い渋っていると、突然小さな黒炎が現れ、ルリさんの背中をチリチリと燃やし出した。
「あら?まだ痛い目に合い足りないようね」
「うそうそうそ!ウツギちゃんの炎、すっごく痛いんだからね!あんなことはもうこりごり!話す、話すわよ!」
「最初からそうしなさい」
「はあ……ま、そうよね。ウツギちゃんにも能力を使ったうえで倒されてるし、ヨヒラちゃんにも通じないだろうし……これ以上悪用するのは難しいわね」
観念したルリさんは、自身がアンドロイド流武術によって開花した能力について口を開いた。
「ルリね、フェロモンを自在に操って、認識を自由に誤魔化すことができるの」
「…なるほど?分からん。もう少し具体的にお願いします」
「そうね……要は精神に影響を与えるデバフ能力よ。例えば、目の前にあるりんごをみかんに見せたり、戦っている相手を味方にしか思えなくさせたり、判断力を低下させてルリの代わりに仕事をやってもらったりといった感じね」
…ほう。
それが本当なら、かなりやばい能力だな。使い方は無限大だし、悪用し放題じゃん。
「じゃあ、続きを話していくわね。それから――」
ルリは仕事をサボった日に、決まってやっていたことがあった。
ランダムな場所にワープして、宇宙を探検するの。アンドロイドは宇宙空間なんてものともしないし、ワープだってできる。言ってみれば、やりたいことがなんにもなかったルリの、ただの暇つぶしね。
そんなルリが偶然見つけたのが、エイリアンの群れに襲われて今にも死にそうな男の姿だった。
反射的に助けに入ったわ。こんなルリでも流石に目の前で命を散らそうとしている人を助けないわけにはいかないもの。
うじゃうじゃと虫のように湧いてくるエイリアンとの長い戦闘の末、なんとか男を連れて逃げ出すことに成功したわ。幸いにもエイリアンにもルリの能力は少しだけ効いたみたいで、逃げるだけならなんとかなったの。
彼の宇宙船を使って、見たこともないような宇宙船の操縦パネルをめちゃくちゃに動かして、命からがら逃げ出した。
治療の末、数刻後に彼は目覚めた。
「俺を助けてくれてありがとう」
目覚めた彼はそう言いながら、ごつごつした腕でルリの頭を撫でた。
――その時、ルリの体に異常が起こった。
突然心拍数がありえない数値を叩き出し、脳の回路がショートしそうになったの。
それから、彼は畳み掛けるように、ルリにこう迫ったわ。
「魔法って信じるかい?俺は信じる。だって、俺は君に魔法をかけられたみたいなんだ。恋っていう魔法をね」
「――!?!?!?」
キュンキュンキューン!
明らかなシステムエラー。これには、ルリの体の中で自動修正プログラムが起動したほどだったわ。
でも、反射的にルリは修正プログラムを手動停止させ……ただ彼の美しい碧眼に見入っていた。
「おまえ、俺のものになれよ」
それから、その男はルリに深い口づけをした。
全身に感じる甘く痺れるような快感。
(ああ、そうか…)
この時、ルリは確信したの。
――ルリはこの人に愛されるために生まれてきたんだ♡
それから、二人っきりの宇宙の冒険が始まったわ。
彼は宇宙を冒険したかった。私はとにかく彼と共にありたかった。今後を相談した結果、しばらくの間、私は彼の宇宙船のクルーとして彼の手伝いをすることになった。
「ねえ?なんだか不自然なくらいエイリアンがこの船を狙っている気がするのだけど……どうしてかしら?」
「さあな!俺の母星は星間断絶しているから、あまり常識を知らないんだ。これが普通だと思っていたが、その言い方だと違うんだな」
「ええ、エイリアンがこんなに目の色を変えて一つの船に執着するなんて、あり得ないわよ」
「ま、きっとこれは俺という偉大な男に神が与えた試練かなにかだろう!大丈夫!大船に乗ったつもりで俺に付いてこい!」
キュンキュンキューン!!
もうルリは彼にメロメロだった。彼と共に居ることが、自分の使命だと思った。
「はい♡サポートは全部任せて♡ダーリン♡」
あまりにエイリアンが寄ってくるから、煙に巻くために能力を使ってエイリアンを他のアンドロイドに押し付けたり、ちょっとだけ違法な武器をくすねて使ってみたりもしたわ。ふふっ、懐かしいわね。
「ちょ、ちょっとお母様。一旦ストップです。もしやアンドロイドの秘宝と言われたあの武器が一時期なくなった事件って……お母様、何をやってるのですか?」
「ま、いいじゃない。百年以上前のことだし、ちゃんと返したし、時効よ時効」
「はあ……ちゃんと罪は償ってくださいね」
「はーい」
返事だけはいいが、全く悪びれる様子がない。ホントこの人は…
「じゃ、続きを話していくわね。それから――」
それからしばらくして、私たちは夫婦となった。宇宙船に二人っきりという状況も相まったのか、距離が縮まるのに時間はかからなかった。
まさに、この世の絶頂。全てが薔薇色に見えたわ。
でも、不満が一切なかったわけではない。夫のミステリアスさだけが、少しだけ不満だった。
だから、私は無断で彼のチップのコピーを取ったりもしたわ。これ、本当はあまりよくないことなんだけどね。
ほら?昔の恋人の連絡先とか、メッセージとか、全て知りたいじゃない?仕方なかったの。
夫のチップは未知の物だったけれど、彼の話を聞く限り、用途は同じだってことは分かっていた。それなら、チップには人の生き様がちゃんと記されているはず。
でも、夫のチップはブラックボックスだらけで、未知の技術、未知の言語まで使われていたから、さっぱり解析できなかったんだけどね。
…まあ、そのコピーをずっと残していたから、後にヒノキくんのチップにアップデートがほどこせたって考えると、あの行為も意味がないわけじゃなかった。
そうやって、彼の気の向くままに、宇宙を冒険し続けた。
次回予告:愛のためなら惑星を一つ滅ぼしても仕方ない




