過去後半!見たくないけど見ないのも怖い
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「よーし、怖いけど続きを見ていきますか。怖いけど」
>ほんとに怖いんだな
>ちゃんと過去と向き合ってて偉い
>大丈夫!きっと過去のあなたならなんとかしてくれるよ!
いや、もう俺は過去の俺を一切信用していない。おそらく、ここからはオチていくだけだろう。覚悟して再生しよう。
俺は気合を入れて再生ボタンを押す。
―――
場面は二人が小声でなにか相談しているところからだ。
えっとなになに。なんだかヒノキから全てをむしり取ろうみたいなことが聞こえたような…
嘘だよね?そんな物騒なこと言ってないよね?ねえ!
暗い目をしたトリカが、俺の手を握るようにして語りかけてくる。
「じゃあまずは…ねえ?あなたが買ったこの惑星。その全ての土地の権利をわたくしにくれませんか?あなたが持っていたら、ウツギさんが来たときのように、何か得体のしれない女が来て土地を取られてしまうかもしれませんよ?だから、わたくしに預けておけば安心ですわ」
トリカが親切なことを言っているかのように、悪魔的なことを提案してきた。
「うーん?ヒック。まあいいか??いいよいいよ~トリカが土地を持ってたら安心だし全部あげる!」
おい俺!なんであげちゃうんだ!俺がほぼ全財産をかけて買った惑星だぞ!辺境の惑星だから惑星にしては破格の安さだったけど、それでもとても高い買い物だったのに!俺の惑星が!
「じゃあ次は私だね…ねえヒノキ。今持ってる全財産ちょうだい!」
もうセリは酔っている俺に小細工なんていらないとばかりに、真っ向から馬鹿みたいなことをお願いしてくる。
「しょうがないなあ~ほんといつもセリはしょうがない!ヒック!しょうがない幼馴染だ!」
ちょっと!あまりに簡単に全財産を渡しすぎだ!もはや女に弱いとか関係無くなってるぞ!なんの小細工もされてないんだから、しっかり断れ!
全財産をぽんと渡した俺に、追撃のようにトリカが交渉してこようとする。
もう俺から取るもの無くないか?でも、怖いからこれ以上なにもしないで!過去の俺が頼りにならなすぎるんだからさ!
「あと、これから毎晩、私達と交互にベッドで交わりなさい。そういう契約を結びましょう。良いですわね?」
セリが契約書まで持ち出してそんなことを言ってきた。どうやら今のうちに俺の未来の行動まで決めてしまおうとしているようだ。もちろんそんなこと断るよな?俺!
「あの~その契約にうちも入れてもらうことは…」
「「あんたは話に入ってこないで!」」
「…はい」
今までずっと黙々と弁当を食べて、危ないものには触れないようにしていたウツギが、この会話には入ってきた。危険を避けるように俺達に関わらなかったのに、この会話には危険を犯して入ってくるなんて。なんて無謀なんだ…
あ、それともあれか。分かったぞ。
えっと…ウツギさんって…すっごくむっつり?
まあ、この世界の女なんてほとんど性欲が強いので、そんな行動をとることは分からなくはないのだが、あの状態の二人に絡みに行くほど混ぜてもらいたかったのかな。
別に多少むっつりなくらい良いのだ。男が少ないので仕方のない部分もある。でも、あなたは男からひどい目に合わされたんじゃなかったっけ?さては、全く懲りていないな?
それにしても、ウツギさんが頼りにならなすぎる。あんなに料理が上手くて、武力では強いのに…ほら、過去のコメントを見ると、視聴者達からあざ笑われてるぞ?
俺といいウツギといい、どうしてこう地雷源に進んでしまうのか…
ウツギさん?「良いもん!うちには食べ物さえあれば一人でも生きていけるもん!」とか言いながら一人でいじけてないで、なんとか俺を助けてくれ!
あと、そんなウツギをみてヨヒラも笑ってるし…なんだこの状況!カオスすぎる!
「で、契約してくれますよね?」
「え~?ヒック!毎日交わるの~?うーん???…ばっちこい!いいよ~!契約しよう!」
あーあ。…あーあ!やっちゃった!
ばっちこいじゃねえよ!嬉しそうに契約書にサインをするな!馬鹿!
いや、まあね。俺も性欲は強いほうだから、別にいいっちゃ良いんだけどね…そういうのって契約してまで決めるもんじゃないだろ!雰囲気というものがあるだろうに…あ、雰囲気より確定した実益ですか。そうですか。
この契約により、土地、財産、精液がむしり取られることが決定した。あと俺に残っているものといえば…鍛え上げた筋肉と、一応俺の金で買ったヨヒラくらいだ。
そのヨヒラはというと、
「うぐっ、ぷ、あははははは!はあ…はあ…御主人様が破滅していく姿、娯楽として面白すぎる!」
手を叩いて爆笑しているし…なんでこれで爆笑できるんだよ…笑いのツボどうなってるんだ。
「あとは…これからも一生わたくしの命令には絶対服従すること。色々な企画を考えているから全てに参加すること。というか、わざわざ毎回あなたに参加の意思とか許可を取るのも面倒だから、これからは勝手に参加させるけど…良いわね?」
「じゃあ…僕に一生お金を渡し続けること、一生僕を甘やかすこと。いい?」
「むにゃむにゃ…それくらいならいつもしてない?別にそれくらいいいよ~」
ああ。また安請け合いしてしまった。
俺の人生終わったな。詰んだ。
「あとは、せっかくですしわたくしとの関係をはっきりさせておきますか。もうあなたはわたくしの恋人ということで良いですわよね?わざわざ関係をはっきりさせるなんてとても野暮ですが、あなたがチョロすぎるのだから、仕方ありませんね」
「…うん、そうだね。ヒノキは一度決まった関係は大事にするタイプだと思うし、そうした方がいいかもね。…今までヒノキに配慮して恋人になるのは控えてたけど、この際無理やり恋人になっちゃおうか。ということで、ヒノキ?僕と恋人になってくれる?」
「お~う。もろちん!いいぞ!二人共大好きだぞ!」
しょうもない下ネタなんて言ってないで、ちゃんと考えて返事して!
どうやら俺は酔っている間に二人の恋人になったらしい。
この宇宙の一般的な男や女は、友達とか、親友とか、恋人だとか、結婚相手だとか、そういうしっかりとした関係性なんてわざわざ気にしない。そういう文化なのだ。
例えば、お互い両思いであることを確信していようが、わざわざ”恋人”としっかりと関係性をはっきりさせないのだ。
でも、俺は違う。俺にはその感覚がさっぱり分からない。俺個人としてはそういうことをとても大事にしているのだ。
それなのにさあ…過去の俺、適当にそんなことを決めるなよな…
「じゃあ、恋人になったんだから、いつも言ってる結婚したいみたいな古臭い夢はあまり口に出さないでね。それと、今まで以上に僕に優しくしてね。恋人以外を愛したら浮気だからね」
「もちろん、わたくしも同様ですわよ。わたくし達だけを愛しなさい」
「うい~」
恋人になったのは、俺の女性への扱い方をコントロールするためだったのか。
これで俺は紫陽花のような清楚で可憐な女性と結婚するという夢を叶えることが難しくなった。
「ふふ…これから確定で夜交われるの嬉しいなぁ。いつもヒノキは物欲しそうな表情で僕に身を任せてくれるから楽しいんだよね。言葉こそ強気だけど、攻められるとすぐに負け顔になるのが、ゲームの雑魚キャラを倒してるみたいで面白いんだよね。終わった後も優しくぎゅっと抱きしめてくれるし…」
「え?ちょ、ちょっとまってください!わたくしはそんなことされたことありません!わたくしには言葉も行動もとにかく強気で、ガンガン攻めてきますわ。しかも結構気障と言うかなんというか…俺という存在で塗りつぶすとか、俺意外で満足できない体にしてやるとか、ある種寒いような言葉で攻めてきますけど…」
「は?僕相手のときとぜんぜん違う!」
ちょっと!?生々しい話はやめませんか?配信中ですよ?
「「どういう事?」」
そこで、俺は完全に眠りに落ちた。
―――
俺が寝てしまったため配信は強制終了。俺も再生を終了した。
「…じゃ、じゃあ今日も配信やっていくか~」
>無かったことにするな
>全てを失ったけど恋人が出来て良かったね
>まったくガチャ芋と虚無バナナがすすんでなくて草
>喜べよ
わ、わーい!恋人が二人も出来たぞ~。や、やったあ!
俺は涙を流しながら喜ぶ。この涙がどんな意味を持つのかは察してくれ…
うん、俺は二度と酔わないことを決意した。酔ってても良いこと無いわ…
そして、アイツラが酔うとろくなことにならないというのも理解した。
おそらく、あの宴の席では全員が酔っていた。
脳内のチップにはアルコールを分解してくれる機能があるが、誰もその機能を使っていなかったのだろう。
これからは絶対にその機能はオフにしないし、俺がいる時はその機能を決してオフにさせない。俺は固く決心した。
気を取り直そうとガチャ芋を頬張ると、こんなときなのにURが出た。恋人が二人も出来た俺を祝福しているかのようだ。こんなときに最高レアリティが出なくていいじゃんか…
ああ、セリが掘ったからか?セリはやたら運がいいからな…
URのガチャ芋なんて絶品なはずなのに、涙の味しか感じられなかったのはなんでだろうな…
次回予告:現実逃避




