過去前編!お酒は程々に
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「ういーす。昨日の記憶がないヒノキです。目が覚めたらヨヒラの部屋にいました。今、ログハウスに帰ってきたところです」
>またいきなり配信始まったよ
>昨日はある意味楽しかったですね
>ああ…昨日の記憶がないのか…あんなことがあったのに…
>おめでとうとは言っておこう
なんだ?視聴者の反応がよくわからないぞ?
「まあ、覚えてないけど配信を見返せばいいだろ。うん、後半は一切酔っていて覚えてないから、今日は配信見返す回にしようか。視聴者の反応的に、昨日何かあったっぽいしね。じゃあ、あの後なにがあったのか見ていくか」
昨日結局食べなかった何個かのガチャ芋と、虚無バナナの塩漬けを干したやつをヨヒラから渡されているので、それを朝ご飯代わりに食べながら見返そうかな。
>見ないほうが…
>いや、戒めとして見たほうが良いかな?
>カオスでしたね…
ほんとに何なんだ今日の視聴者の反応は!?
そういえば、朝起きてヨヒラに挨拶していた時も変な表情で見られた。
笑いをこらえたような、可哀想なものを見る目なような…そんな表情だったんだよね。一体何があったんだよ…
「なんか見るのが怖くなってきた。見返すのやめようかな………ええい!男は度胸!何があったのか確認するぞ!」
そうして俺は昨日のお花見の後半で何があったのかを視聴者とともに確認していく。
―――
俺がウツギに「師匠とお呼びしてもいいですか?」といった発言の後、しばらくはどういう訳かセリとトリカがガッチリ俺の隣に居座り、甲斐甲斐しくお酒を注いでくれていた。
ああ、そうだったそうだった。そんなふうに大事に扱われることが珍しくて、このときはとても気分が良かったのだった。
だが、よく見ると二人共なにか怪しげな目つきだ。行動と表情が全く一致していない。
この目は…なにか悪いこと企んでるときの目だ!過去の俺!モテモテで気分が良いなあ~みたいな表情してないで、危機感を持て!目を見れば一発で分かることだぞ!気づけ!
「ねえ、ヒノキ~。ここに来てからヨヒラさんにもウツギさんにもプロポーズじみたこと言ってるけどさ。幼馴染である僕には一回も言ってくれたこと無いよね?」
「そうですわ、付き合いの深いわたくしにもそういったことは言わないですわよね。どうしてですの?」
セリが俺に甘えるようにしなだれ、トリカは俺の顔をツンツンと指で突くようにスキンシップをしてくる。
「ぐふふ。そりゃまあ…二人のことはとっても大好きだけど!それとこれとは話が別じゃん?」
ぐふふ。じゃなくてさあ…過去の俺を見るのが恥ずかしい。客観的に見るとこんなふうに見えるのか…情けないな…
ちなみにだが、この二人は俺が前世の記憶があることを知っている。ウツギに言った言葉がプロポーズの言葉だと分かったのもそのせいだろう。
まあ、正直前世のことなんて一切話すつもりは無かったのだ。だってそんなこと言っても普通は信じてもらえないだろうし…だが、この二人には俺が何か隠し事をしているということがすぐにバレた。そして、見事な話術(性的交渉)によって、俺はあっという口を割ってしまったのだ。
二人は俺の前世の話を一切疑うこと無がなかった。それどころか、会話のネタとして前世の話をせがまれることがあるくらいだ。
そもそも、過去の俺が前世のことなんて話さなければ「毎日味噌汁を作ってください!」という言葉の意図は伝わらなかっただろうに…なんで話してしまったかなぁ…
「あなたがわたくし達のような深い関わりがある人に対して、決してプロポーズの言葉を言わないのは、なにか理由があるのではないですか?せっかくこういう席なのですから、決して怒りませんし、わたくしたちをどう思っているのか、本音を語ってくださいませ」
トリカが更に俺から詳しく聞き出そうとしてくる。
やめろ俺!何も言うな!そっちは罠だ!誘導に乗るな!「怒らないから言ってみて?」と言われて、実際怒らないことなんて無いんだからな!いつもの俺ならそれくらい分かるだろ!
今日の俺のそんな心の叫びも虚しく、完全に気分が良くなっている昨日の俺は、口を滑らしていつもなら言わないような本音を語ってしまう。
「そりゃあさあ…結婚する場合、俺は夫婦で子供を育てたいんだけどさあ。ヒック。ほら?二人はそういうのできなさそうじゃん?」
まあ、それくらいならギリギリ悪口のようにはならない…か?ギリセーフ?酔っていてうまく言語化出来ていないのが逆にいい方向に進んだのかもしれないな。
「それって僕に責任感が無いってこと?」
「まさかわたくしに母性がないってことを言いたいんじゃないでしょうね?」
あ、そうか。言葉の正確な意図を脳内のチップが自動で伝えてしまうんだった。しっかり言いたかったことが伝わってしまっている。
でも、まだ!まだぎりぎり引き返せる!そういうときは、しっかり否定をするんだぞ!分かってるな過去の俺?
「そう!それそれ!ヒック。二人には母性と言うか優しさとか責任感とかさ…そういうのが全く感じられないから!だからきっと俺は二人に結婚してとは言わないんだよ!」
そう!それそれ!とか嬉しそうに言うな!言葉の意図が伝わった!嬉しい!みたいな顔しやがって…何故そんな顔が出来るんだ!二人の表情を見ろ!
「「ふぅーん…そうなんだ…」」
ほら!なんかヤバそうだろ!なんでわざわざそんなことを言うんだよ俺!何でもぶっちゃければいいってものじゃないぞ!
二人共こめかみがピクピクと動いている。これは確実に怒っているな。
「でもまあ、正直俺には二人共ちょっと女性として魅力的すぎてさ、ヒック。本気でプロポーズしようとしたこともあったんだよ?」
お?俺のこの言葉で少しだけ二人の怒りが収まった。
助かった…のか?
普段なら絶対言わないような恥ずかしいことを言っているが、この状況なら許せる。配信していなければもっと良かったのだが…まあいい。
まさかの逆転ホームラン。
ふぅ…ギリギリセーフ!危ない危ない!崖っぷちで見事に耐えたな。偉いぞ!俺!
「まあ、考えた結果、二人共性格が終わってるから、結婚相手としては絶対にないか!って結論になったんだけどね!ガハハ」
ガ ハ ハ じゃねえよ!
二人の顔を見ろ!完全にブチギレてるぞ!
ダメだ!酔った俺は手に負えない!何故ギリギリ助かったかと思えば、また崖に真っ逆さまに落っこちるような行動をするんだよ!
ああ、過去に戻ってやり直したい。タイムマシン誰か持ってないですか?
あ、この発達した現代でもタイムマシンなんて存在しないという正論はNGな?ただの現実逃避だから。
「そう、ヒノキの考えはよーく分かったよ」
「そうね、よーくわかりましたわ。ふふふ」
二人の目からハイライトが消えた。怖い!
過去の配信の視聴者も一緒に怖がっている。それくらい客観的にみると二人は尋常ではない雰囲気なのだ。
「ぶはっ!うぷぷ…」
突然、ヨヒラから押し殺したかのような笑い声が聞こえた。よく見ると笑いをこらえていたようだ。
おいヨヒラ!人の不幸を笑うな!というかよくこの状況で笑えるな!大人しく見てないで助けてくれ!
「女性の性格が”終わってる”なんて言う男にはバツを与えないといけませんわね?」
「そうだね」
「あれ~?俺、そんな事言ったっけ?ヒック!あー酒がうみゃいなぁ…」
ダメだ。一日前の俺が頼りにならなすぎる。ふにゃふにゃだ。しかも二人の尋常でない様子を全く認識していない。
我慢しきれなくなり、一度再生を止める。
「ふぅー。…ねえ?提案があるんだけど、もうこの続きを見るのやめて良い?」
>だめ
>ここまで来たんだから最後まで見ろ
>ここからが面白いんだぞ!
まあ、ここまで来たんだから見ないほうが気持ち悪いか。仕方ない。腹をくくりますか。
それにしても…ああ、腹くくりたくねぇなあ…
次回予告:ヨヒラさん大爆笑




