最終一日!シェアハウスの最終日!
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「おはよう、クスネ」
「わん!」
きのこに寄生された騒動から一日後の朝。今日はウツギとのシェアハウスの最終日だ。
昨日あの後、視聴者からあのきのこについて詳しく聞いた。どうもあのきのこは人間にのみ害を与える胞子を持っているとのことで、胞子を吸うと頭にきのこが生えたなんとも間抜けな見た目となり、きのこに意識が乗っ取られるらしい。
そしてその後、胞子がたっぷりの種を異性に植え付けようとする。だから俺はウツギを襲おうとしたのだ。
交尾することで爆発的に胞子が増加――その後は胞子を撒き散らすだけの存在に成り果てるらしい。
「ただ、一時間程度で胞子は分解されちゃうし、さらにその場に異性がいないと、意識を乗っ取られた状態でただただ異性を探し、歩き回るだけになるらしいんだけどな」
そういう性質から、別名「徒労きのこ」とか「無意味きのこ」と呼ばれているらしい。女性が寄生された場合、異性を探したところでどこにもいないことのほうが圧倒的に多いので、そんなふうに蔑称で呼ばれているのだ
確かに、見つけられるはずのない異性を探し、間抜けな見た目でゾンビのように街を徘徊する女性を想像すると、虚しいというか、無駄な努力というか…
あ、でも、あのきのこにもいいところはある。あれ、かなり美味しいらしいよ。加熱するだけで害はなくなるし、そもそも珍しいきのこなので、高級きのことして扱われるほどだ。
「おはよう、ヒノキ」
「おう、おはようウツギ!今日も可愛いな」
「…」
俺がそう言っても、ウツギは無言のまま。
ウツギは昨晩から落ち込んでいる。
「はあー…」
このように、ため息が絶えない。
「おいおい、そんなに落ち込むなよ。ウツギは正しい行いをしたんだからな」
「ま、そうなんだけどね…」
正直、俺はウツギが落ち込んでいる理由が明確には分からない。あのきのこ事件が原因というのは分かっているのだが、なにか落ち込むような出来事があったっけか?
「はあー……なんであの時うちはヘタれちゃったのよ…」
ウツギがボソリと呟いた。
…あ、なるほど、だから落ち込んでいたのか。
落ち込んでいる理由は、「俺とあんな状態で交わってしまうことが嫌だった」みたいな、ちょっとロマンチックな理由だと勝手に予想していたのだが……ただヘタれた自分に嫌気がさしていただけだったようだ。
「ま、どんまい!俺はウツギがヘタれてくれて良かったよ!」
俺はウツギの肩にぽんと手を置きながら、煽るようにそう言った。
ブチッ。
聞こえるはずのない何かが切れる音が、ウツギから聞こえてきた気がした。
「なによ!あなたのほうがヘタレなくせに!」
苛烈に俺を攻めるウツギ。ちょっとした煽りのつもりだったが、思ったより効いてしまったようだ。
「そんなことありませーん」
でも、俺はまだまだ煽り続ける。正直ちょっと楽しい。
「絶対にあなたのほうがヘタれよ!だって、あなたは絶対うちのことを想像して一人でシてたでしょ!それくらい分かるのよ!」
ぎくっ。
「そ、想像で物事を語らないでください~」
…お、おいおい。探偵さんよお、随分出来の良い脚本だな。小説家にでもなったらどうだ?
そんな証拠がどこにあるっていうんだ!
しどろもどろになりながらも俺はなんとか反撃するも、ウツギの勢いは止まらない。
「あなた、ずっと悶々としてたじゃない!それなのに夜這いもできないあなたのほうが絶対にヘタレよ!というか、襲ってくれてもいいじゃない!こっちは準備万端で待ってたのに!」
めちゃくちゃな言い分だが、このままだと俺がヘタレだということになってしまう。男としてそれだけは避けないと。
…仕方ない。禁じ手を使うか。
「それを言うなら、ウツギだって結構な頻度で下品な顔になってただろ!俺だってウツギからのねちっこい視線は感じてたんだからな!優しさで言わなかっただけだぞ!」
ウツギは図星をつかれたかのような表情を浮かべた。
「き、気の所為よ。自意識過剰なんじゃないの?」
…ほう。ほんとかなあ?
俺はウツギを覗き込むように懐に潜り込み、ぐいっと見上げた。
「ほら。目が合わない。やましいことがある証拠だ」
俺はニヤニヤと意地悪に笑いながらそう言うと、ウツギは悔しそうにぐぬぬぬと歯を食いしばって黙り込んでしまった。
ガハハ!ま、どんまい!
でも、優しい俺はそんなことでウツギのことは嫌いにならないから、安心してくれよな!
俺は勝ち誇った顔で仰け反ったのだった。
――それがいけなかったのだろうか?
「そうよ……うちはヘタれたの。それは事実……でもでも!うちはまだ未経験なんだから、ヘタれても仕方ないでしょ!実際にやったとき、想像より気持ちよくなかったら嫌だから、仮想シミュレーションでも男性経験がないのよ!」
ただならぬ雰囲気で、こんなふうに逆ギレされてしまった。
えっと……追い詰めすぎたとはいえ、あんまりそういう話をぶっちゃけないでほしい。生々しいから。
そして、まだまだウツギは止まらない。
「というか、経験済みのあなたがリードするのが自然ってもんでしょ!襲いなさいよ!」
ウツギはとんでも理論で開き直りだした。
一転してふてぶてしい態度を取ったウツギは、続けて俺を怒涛のようにまくしたてる。
「一回でも経験さえすれば、ヘタレじゃなくなるはずなのよ!だから、一回うちとえっちしなさい!さあ!今からよ!」
「…お、おい!落ち着け!」
「そうだわ!えっちはスポーツって誰かが言ってた気がするわ!だから、それも修行なの!さあ!早く来て!」
おい、誰だよそんなこと言うやつは。AVとかでしかそんなこと聞かないはずだぞ。それに、この宇宙じゃそう言ったやつは、絶対に強がってるだけだ。あと、そもそもそんなやつの言う事を参考にするなよ。
…ただ、ウツギはカッとなっていて俺の言葉は届きそうにない。少し一人で突っ走りすぎだ。
こういうときは、一度クスネの力を借りて落ち着いてもらおう。
「クスネ、カモン!」
「わん!」
――しばらくお待ち下さい……
クスネの奮闘もあり、ウツギは少し落ち着いた。流石クスネ。メンタルケアの達人の称号を与えよう。
「落ち着いたようだな。じゃあ、朝ごはんを食べようぜ」
「ああ、朝ごはんで思い出したけど……この一週間、あなたに襲ってもらうために精のつくものをいっぱい用意して食べさせたんだったわ。他にも、毎日お互いのシーツを勝手に交換したりもしたわね。だから、うちもあなたも多少悶々としたって仕方なかったのよ」
「って、そんなことしてたのかよ!」
これが最終日の朝の一幕だ。こんな日に喧嘩からスタートしてしまった。
まあ、喧嘩するほど仲が良いと言うし、友情が深まったということにしておいてくれ。
いつものようにウツギのおいしくて家庭的な朝食を食べ、しばらくした後。
「さて、今日の予定は何もないわ。計画段階の予定では、最終日はあなたはうちにメロメロなはずだしと思って、一日中交わって過ごすのが本来の予定だったんだけど……あなたが想像以上にヘタレで、そうならなかったわけだしね」
「ま、俺の鉄の意思にかかれば、この程度余裕よ」
「うちから手を出せなかったからなんにも起こらなかっただけで、うちが強引に攻めればあんたなんてすぐに流されるでしょ。絶対そうよ!」
「もしもの話をされてもねえ~」
この生活には一週間という終わりがある。それがでかい。終わりが見えていたからこそ、なんとか土俵際で粘れた気がする。
「ほんと、ムカつく男…」
そう言いながらも、ウツギは少し楽しそうだ。
俺も異性とこういう気軽なやり取りができて楽しいので、気持ちは分かる。
「まあそういうことで、今日は一日休みよ。ダラダラ過ごすのもよし、修行してもよし、自由に過ごしなさい」
「りょうかーい。俺も今日くらいは休もうかな」
「うん、なんだかんだいっぱい修行したし、それがいいわね」
「あ、じゃあさ!ウツギが過去に書いていた創作とやらを見せてよ!」
「いやよ」
即答かい。
「お願い!」
「絶対にいや!恥ずかしいもの!」
ウツギの意思は硬そうだ。
ここまで取り付く島もないって、いったいどんな作品を創作してたんだろうか?
「え?もしやR18で、ゴリッゴリにエロい凌辱触手系の同人エロ漫画とか書いてたりしないよな?」
「違うに決まってるでしょ!」
次回予告:ヒノキ十の法則




