理想の発表会!やはり理想は悪役!
読んでいて少しでも感情が動いたら、評価・リアクション・ブックマークをお願いします。
ウツギとの生活は一日、一日と順調に過ぎていき、気づけば今は六日目だ。
「――でさあ、俺の理想って悪役って言ったけど、ちょっとその表現は正確じゃないわけよ」
「あら、そうなのね」
今日も今日とて修行の毎日。今日はウツギと共にシンプルな山籠り修行だ。
今は、ウツギから「そういえばあなたの理想について具体的に聞いてないから、話してみて」と言われたので、最初からゆっくり話している。もちろん、戦いながらな。
「俺は悪いことは嫌いだし、世の中を変えたいって思想も強くないのよ」
「ふぅん……でも、あの時は間髪入れず『悪役になりたい』って答えたじゃない。ってことは、悪役のどこかにあなたはすごく魅力を感じてるってことよね?」
「そう。そのとおり。まあでも、俺がそう即答した理由の一つは、ウツギがヒーローになりたいって言ったからだ」
「どういうこと?」
「簡単に言うと、『ウツギがヒーローね。なら俺は悪役だな!』みたいな感情?そんな感じ。同じくヒーローの道を進むより、悪役の方が直感的に楽しそうだと思ったんだよ」
「ふぅん、なるほどねえ」
あの時は、ウツギと切磋琢磨しながら進んでいく未来にとてもワクワクしたのだ。かっこよく活躍するウツギと並んで進む道は、さぞ面白いことだろう。
ただ、悪役を魅力的だと思った理由は、大きくわけて二つある。
「それで、悪役を魅力的だと直感的に思ったのには、もう一つ理由がある。こっちのほうが俺にとって大きな理由だな」
「それは?」
「悪役ってさあ、誰よりも自由って感じがしない?俺は自由な生き方がとにかく魅力的に感じるみたいなんだ」
>まあ、それは分かる
>自分はどっちかっていうとヒーロー派かなあ…
>何回も言うけど、ヒノキに悪役は似合わないよ
戦いながら、ウツギや視聴者とも雑談を続ける。
…今日は朝から山籠りをやっているが、かなり日も落ちてきているので、そろそろ帰る時間になる。流石にここまでくれば、ここでの戦いにも慣れてきた。つっても、疲れてはいるんだけどね。
「他にも、自信満々なところとか、芯があるところとか、余裕があるところとか、オリジナリティがあるところとか……そういうとこも悪役は魅力的だと思うけど、一番はやっぱ自由なところだな」
俺は目の前の“大グリズリー”の振りかぶる攻撃を真正面から体で受け、怯んだところで抱きしめるように絞め殺し、リュックに収納した。かなり痛いが、この戦い方はかなり気に入っている。なんというか、正々堂々、純粋な力比べって感じがして、楽しいのだ。
「なるほど。あなたは自由への憧れが強いのね。まあ、男に生まれたら、女よりはどうしても窮屈な人生になるものね」
ウツギはサイキックで生み出した炎の剣で、数匹の“中グリズリー”を同時並行で倒しながら、俺と雑談を続ける。
ちなみに、この山一番の強敵はグリズリーだ。サイズごとに四種類のグリズリーが生息しており、俺は小グリズリー、中グリズリー、大グリズリー、ボスグリズリーと呼んでいる。
大きくなるにつれ攻撃力は高くなる。だが、ボスグリズリーが一番強いとは一概には言えない。小グリズリーなら素早さを活かす、中グリズリーは体の硬さを活かすなど、それぞれがそれぞれの強さを持っているからな。
「だから、俺の理想は悪役ってよりは、魔王っていうイメージのほうがどちらかと言えば近いんだよね」
「魔王ね……それは大きく出たわね。いいんじゃない?理想なんて高ければ高いほどやりがいがあるしね」
>魔王……こんなにチョロいのに、魔王???
>当たり前のように倒されるグリズリーさんカワイソス
>ヒノキが魔王ならウツギは勇者か?どっちも似合わねえな
>あがががががが!解釈不一致です!
あれだぞ?あくまで正々堂々戦うことにこだわるタイプの魔王な?大きな闇を抱えているような魔王ではないからな。卑怯、卑劣なことはあまり好きじゃないもん。
俺が言っているのは、ただ自分の欲を叶えるために動いていたら、結果的に魔王になってしまったみたいな、自認が大したことのない存在だ。
何をされても揺るがないくらい自信満々で、笑顔で何でもやっちゃうような自由さを持ち、絶対的な力を部下などから頼られていて、卑劣なことを嫌い、敵の攻撃を受けながら『その程度か?』とか言っちゃうような――自分の欲に一直線、とにかく楽しそうで、自由な存在。
俺はウツギのように、色んな人に受け入れられなくてもいい。あくまで俺の身近な存在が、俺のことを分かってくれていれば十分なのだ。
そして、内輪でなにか悪巧みしたり、自由過ぎてちょっとした事件を起こしたり……そっちの方が楽しそうなんだよね。この生き方、まさに魔王って感じがしないか?
将来俺がそういう存在になっていることを妄想すると、ものすごくワクワクする。
「…で、よ。理想への道はこんなふうに固まったとして、次は俺の今までの人生を強みにする段階なんだが……俺って今までの人生を体当たりで生きてきたわけよ」
「まあ、あなたってそんな感じがするわね」
おっと、この話をする前に、俺の人生がどんなものだったのか、ウツギに説明するか。
「雑に今までの人生を話すと、三歳から十八歳までのダイヤモンドエイジの時期を自由に勉強したり遊んだりして暮らして、五歳のときにトリカと出会い、十五歳からセリと二人暮らしを始めて、十八歳からはトリカのおもちゃとしての生活とか、近所の人や母の関係者に料理の差し入れをしてお金を稼いで、二十三歳からは闘技場に挑戦。その二年後にウツギに勝ち、ノリでここに来て、今があるわけだ」
後は前世があるくらいだな。
「相変わらず、男としての人生とは思えないわね…」
>ウツギに同意
>お前の人生どうなってるんだよwww
>男のくせに人生が波乱万丈すぎる
>確かにトリカ様におもちゃにされてるお前を見たときが初見だったなあ…
「そんな俺の人生で得られたものといえば、セリやトリカとか、周りの人への感謝、異性からの愛、知性、負けん気、根性、限界への挑戦、常識を打破する心意気、継続力、適応力……意外と挙げてみるといっぱいあるんだよ」
理想は決まっているので、後はこの要素を戦いに組み合わせればいい。
「…まあいいわ。で?」
>自画自賛がすぎる
>知性だけは絶対に嘘
>ウツギも思わず何かを押し殺してて草
>宇宙一のちょろさ、考えなしさ加減、無謀さとかもちゃんと挙げろ
「こういう要素を戦い方に組み合わせるとだな。相手が敵だろうが関係なく、全てに感謝しつつ、真正面から根性で攻撃に耐えて、愛を持って今までもらったものを返すように、全てを包みこんで抱きしめて倒す。こんな感じのことを思いついた。どうかな?」
この戦い方は海中でタコを倒したときの戦い方が参考になった。あの時は必死で戦っていただけだったが、後々考えると、あの戦い方は俺の理想に近かったのだ。
この戦い方を極めれば、俺にも強さの色とやらが出てくるはず。その戦い方をしながら自信満々かつ笑顔でいれば、かっこいい魔王っぽさもあるしね。
>魔王というより、天使じゃない?
>なんでそれが魔王なんだよ。認識がぶっ壊れてるぞ
>せいぜい小悪党レベルじゃないか?
>性格が小悪魔な天使じゃん。いいね。ワイの性癖にど真ん中ストレートだわ
はあ……ほんと視聴者は重箱の隅をつつくのが得意だなあ…
正直言うと、視聴者の言う通り、天使とか小悪党みたいな、もっと適切な名称はあるのだろう。でも、自分で天使とか小悪党を名乗るのは小っ恥ずかしいんだよ。それならまだ魔王ってたいそれた事を言う方がマシだ。
それになにより……魔王って言葉の響きがかっこいい!これに尽きる!
そういうこだわりとか、遊び心って俺の中ではすごく大事なんだよ。
それに、理想が叶ったときの俺は、自分の魅力にも自信満々なはずだ。だから、自分の性別すら利用して戦っているはず。
強いのに色仕掛けまでして戦うなんて、そんな邪悪な天使はいないだろ?そりゃ、女からすれば男に抱きしめられるなんて、天使のように思えるかもしれないけどさあ…
「なるほど、いいんじゃない?闘技場の戦士の戦い方って、基本は攻撃はすべて避けて戦うのが普通だから、受け止めるっていうのはかなり色があると思うわ」
「だろ!まだまだこの考えは理想論だけど、だからこそワクワクするんだよ。こんなのができるようになれば、見ていてもかなり楽しい戦闘ができるはずだ!」
俺の目指すべき強さについての話はこんなところかな?
そんなふうに雑談を終えたところで、ちょうど日も落ちてきた。今日の修行は終了だ。
さて、ウツギの家に帰る前に、クスネとモグちゃんを拾っていかないといけない。今日も二匹は山で遊ばせていたからな。
「わん!」
「おっ、自分で帰ってきたのか、偉いな!……ん?なにを咥えてるんだ?」
クスネが何かを持って帰ってきたようだ。俺の足元にぽとりと落として、俺に自慢するように見せつけてきた。
えっと、これは…
「きのこか?」
試しに俺は香りを嗅いでみた。
くんくん…
「あ、だめ!!!」
ウツギの声が届いた瞬間、世界がぐらりと揺らいだ。
次回予告:背景お母様。ついに今日、自分は性犯罪者になってしまうみたいです。




