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心機一転!新たな生活!

この作品にはネットのコメントのような表現が多数使われています。未来の話なのに、現代のネットのコメント欄みたいになっていることには目を瞑ってください。


「ふぅ…ようやく到着!ここまで逃げれば、もう女性からカモにはされないだろう。俺はここで生まれ変わるんだ!」


 俺はふと思い立って遥か遠くの無人惑星を衝動買いし、宇宙船で一ヶ月ほどかけてここに到着した。


 脳内のチップに働きかけ、【祝!惑星到着!ヒノキの生配信】というタイトルで生放送を開始する。


 チップに働きかけるだけで、AIがやりたいことを自動でやってくれる。


 脳内のチップは高性能AIのようなもので、あらゆる俺の活動の補助をしてくれているのだ。


 脳にチップを埋め込まれると聞いて、正直最初は怖かった。


 でも今じゃ、チップなしの生活なんてできる気がしない。


 それくらい便利なものなのだ。


 ちなみに「ヒノキ」というのは俺の名前。本名はもうちょっと長いのだが、分かりにくいのでヒノキと呼んでくれ。


「どうもーヒノキでーす。今俺は、故郷から遥か遠くの無人惑星にいます」


 俺はまず、視聴者に向けて軽く挨拶をする。


 無人惑星を衝動買いした事。俺をカモにする女達から逃げるには距離を取るしかないと思ったこと。この計画は全て誰にもいわず独断で行ったことなどを、一つずつ説明していった。


>宇宙一有名な男がまたなんかしてるんだけど…

>一ヶ月ほど見ないと思ってたら、こんな事してたんだ

>惑星なんてものを衝動買いするなwww

>貴重な男なのにうまく生きられないの草なんだ

>私たちから逃げられるわけないのに、無駄な努力乙


 チップのおかげで、コメントは自動で厳選されて表示される。


 普通ならコメントの数が多すぎて、追いきれないだろう。


 だが、今の俺はチップの補助を使い、理解力を一時的に上げている。


 よって、全てのコメントの内容を把握することができているのだ。


「俺はここでスローライフをエンジョイして、疲れた心を休める。そして、いつか理想の女性と結婚するんだ!」



>まーたこいつそんなこと言ってるよ…

>結婚なんてしませんが、性交渉なら受け付けています!

>まだそんな夢物語言ってて草

>考えが古臭すぎてもはや笑えない

>女がみんな獣なことくらい、いい加減理解しまちょうね~

>今どき結婚なんてする人いるの?

>あなたの言う理想の女性なんて、この宇宙にはいません!断言します!


 視聴者がコメントで俺の夢を小馬鹿にしてくる。


 いいだろ!夢くらい自由に語らせろ!


「ほんとお前らって、男に対する控えめさが全くないよね。やれやれ…そんなんだから、男にモテないんだぞ」


 俺は挑発するように、わざとらしくため息を吐く。


>だまれ

>言ってはいけないことを…

>私は仮想現実に百人のイケメン彼氏がいるから!

>ぶっちゃけ控えめじゃないのなんて、あなたの反応のせいなんだよなぁ…

>は?お前が隙だらけなのが悪いんだろうが

>お前が悪い


 煽ったことで、俺にとって都合が悪いコメントが多数流れだした。


 …よし!全て無視だ。強引に話を変えよう。


「というかさあ、この一年、ホント大変だったわ。ま、その大変さのおかげで、惑星を買う金を貯められたんだけどな」


 俺はここに到着するまで、一年間働き通しだった。


 実はこれ、現代ではかなり珍しいことなんだよね。


 だってこの宇宙では、最悪生きていくだけなら働かなくてもいい社会となっているからな。


 驚くことに、ほぼ全ての惑星で、勤労の義務はないのだ。


>あー。闘技場のファイトマネー使ったんだ

>あの闘技場での戦い、面白かったよ。負けっぷりが

>あれは性的コンテンツでしたね…

>戦いというより、蹂躙だったけどな

>やられる時、上半身裸にされてたのが捗った

>よっ!体つきだけは宇宙一エロい男!!


「おいお前ら!神聖な戦いをエロい目で見るな!」


 この視聴者の反応で分かる通り、俺は一年間、闘技場で戦って稼いでいた。


 生まれてから前世の記憶があった俺は、前世では貧弱だったことをとても後悔していたのだ。


 だから、今世ではずっと体を鍛えていた。


 進歩しすぎた技術力を使えば、どれくらい肉体的に強くなれるかということを知りたくなった、という理由もある。


 …正直、体を鍛えればモテるのでは?という下心も、少しだけあった。


 そのおかげか、今では俺の体はムキムキだ。おそらく男の中では、誰よりもフィジカルが強いだろう。


 そんな俺のフィジカルが、どれくらい戦いで通用するか。


 ふと、どうしても試したくなったので、闘技場に参加してみたのだ。


──結果、フィジカルの強さなんて、現代の戦いにおいては、ほとんど意味をなさなかったのだがな。


 この宇宙では戦いにおいて、強くなる効率的な方法はいくらでもある。


 前世で言う超能力のような力を操ったり、強すぎる武器や防具を扱ったり、「宇宙CQC」という最強の格闘術を、高度な技術力を使って短期間で習得できたりなど、様々な手段があるのだ。


 そんな技術を闘技場の対戦相手は当たり前のように習得していたので、俺は全く刃が立たなかったのだ。


「えっと…今日は共通宇宙暦で、20025年、2/25か…よし!今日は俺がこの惑星に降り立った、記念すべき日だ!早速今日から、スローライフを始めていくからな!」


>そんな不便なところで暮らすなんて、蛮族なの?

>わざわざ不便なところで暮らすなんて、マジで理解できない。正気?

>若い男が一人でスローライフを満喫なんて、女がさせてくれるわけないんだよなぁ…

>いくら遠くても、いくら不便でも、絶対誰か物好きな女は来る。これは断言できる

>私たちの性欲を舐めてはいけない


 まあ、現代人って、便利な生活に慣れすぎて、スローライフの良さを理解できない人ばかりだからな。

 

 こんな反応になるのも、仕方ないか。


「あ、そうだ。最初の配信だし、自己紹介でもしますかね」


>今更かよ

>まあ大体知ってるけどね

>ここにいる奴らは、お前のこと大体知ってるだろ

>あなたのことを知らない女はいない

>よお有名人!


「俺の名前はヒノキ。趣味は筋トレ。性格は優しくて穏やか。以上だ!」


>おい、嘘つくな

>大事な特徴言い忘れてるよ?

>性格は優しくて穏やか?バカで単純でしょ?

>性欲が強すぎて、すぐ女にカモにされる馬鹿な男ってこと、認めような

>†宇宙一チョロい男†

>男なのに性欲に支配されるとかwww女かよwww

>今どき女でも性欲を最低限ならコントロールできるのに、こいつと言ったら…

>体つきだけは良いせいで、メス共にカモにされまくってるの、マジでオモロいwww

>私達の救性主


 なんか言ってるが無視だ無視!俺はこれから変わるんだ!


「これからは基本的に生配信で稼いでいくから、暇だったら見てくれよな!」


>〇〇…←このサイトにアクセスすると私のあられもない姿が……?


 ふと、そんなコメントが目に止まった瞬間、俺は本能のままに、そのサイトにアクセスしてしまった。


 そのサイトには、【嘘だよーん】という一言しかなかった…


 俺の期待を返せ!



 はぁ…また騙されてしまった。


 俺には、こういうことがしょっちゅうある。


 前世で全くモテなかったことが原因か、体を鍛えすぎてしまったことが原因なのか…


 理由はわからないが、俺は男としては性欲が強すぎるのだ。


 自分でも、なかなかコントロールできない。


 そのせいか、女性が魅力的に見えすぎてしまうのだ。


 例えそいつがどうしようもないダメ人間だと知っていても、女というだけで魅力的に見えてしまう。


 そんな俺の反応を、この宇宙の飢えた女どもが放置するわけもなく…


 一瞬でチョロそうな男として噂され、結果本当にチョロかったため、噂が噂を呼び──今では「世界一チョロい男」として、有名になってしまったのだ。


 俺が悔しがっているのを見て、サイトにアクセスしたことを察した視聴者たちは、コメントでバカにしてくる。


>ちょっとは考えてからアクセスしろwww

>相変わらずで草

>女がその場にいなかろうと騙される男


「あーここは空気が綺麗だなー」


>おい話をそらすな

>露骨な話題そらし

>もっと反省しろ。いややっぱそのままでいろ

>一生そのままでいいよ。モテない私たちが強気になれる、唯一の存在なんだから


「そうだ!そういえばこれ言ってなかったな。なるべく、SCエネルギーは使わないで生活するからな。あれは流石に便利すぎる」


>絶対無理で草

>あんな便利なもんを使わない生活なんて、想像すらできない

>思ってた以上に蛮族生活するつもりなのか…

>まあ、未開惑星じゃそこまでふんだんには使えないだろうけど、それでも自分で発電した分くらいは使ったら良いのに


 SCエネルギーとは”スペースクリーンエネルギー”という略で、名前の通りクリーンなエネルギーだ。


 発電方法が手軽かつ、エネルギーのパワーが高く、使い勝手が抜群に良く、環境に優しいという、非の打ち所がないエネルギーなので、宇宙では主流のエネルギーとなっている。


 俺の宇宙船にもSCエネルギーの発電施設がある。これがないと宇宙船は動かないし、ほとんどの宇宙船の機能は使えない。


 このエネルギーと脳内のチップが組み合わさると、まさにチート能力となる。


 多少の例外はあるが、この世でできないことはないと言われているほどの便利さなのだ。


「目標は人生をかけて自分だけの楽園を作ること、筋肉をもっと成長させること。自分の性欲をコントロールすることの三つだ!それじゃあ、これから俺の配信をよろしくな!」


 そうして、俺は配信を閉じようとする。


>今日の夜あたりに、本当にエッチな画像送りますね♡


 ふと、そんなコメントが終わり際に見えてしまった。


 …夜が楽しみだな~



 …いや!違う!俺は変わるんだ!絶対に見ないぞ!絶対に見ない!



──結局俺は欲に勝てず、画像を見てしまうのだった。




次回予告:体当たりログハウスづくり

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