妄想結果!まだまだ考え抜く!
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次の日。
「おはよう、クスネ。昨日は大変だったな」
「わん!」
「おお、今日もクスネは元気いっぱいだな。流石クスネだ」
俺は駆け寄ってきたクスネを両手でわさわさと撫でる。
昨日はクスネも俺と共にずっと外にいた。いろいろなところに目を輝かせてふらふらしていたらしいが、モグちゃんが守ってくれていたので、とても助かった。
「さて、寝ても答えは出ず……か」
俺はまだ強さの色に関して、答えが出ていない。起きたら何か思いつくかもと思っていたが、流石に甘い考えだったみたいだ。
でも、朝のスッキリした頭で考えれば、何か思いつくかもしれない。俺はクスネを撫でながら、思考の整理をすることにした。
「いろんなパターンの理想を考えたけど、やっぱり悪役で輝いている姿を想像するのが一番ワクワクするってところまでは答えが出たんだが…」
悪役になりたいとかいいつつ、悪いことは嫌いなんだけどなあ――
世の中を変えたい欲はないのにどうして俺は悪役になりたいと思ったんだろう――
そんな悪役には向かないような疑問を持ちつつも、それでもなお、俺は悪役という響きにどうしてもワクワクしてしまう。
ならやっぱり悪役を目指すべきだろう。
ここまでは昨日のうちに答えは出ていた。問題はここから先だ。
「ううん……やっぱり、そっから先がどうも進まないな」
なんというか、俺が目指したい具体的な悪役像が思いつかないのだ。
冷静に考えるとそりゃそうだ。だって、悪いことが好きじゃないくせに悪役なんてチャンチャラおかしいもん。
俺、悪役というふわっとした言葉に憧れてるだけなのかなあ…
「そもそも俺、破壊的な戦い方すら求めていないんだよな」
強くなりたい。それに、シンプルな力も欲しい。けれど、破壊とか、壊すとか、そういう衝動が俺には少ない。そういう短絡的な悪役なら、この筋肉を一番活かせそうなのにな。
果たして、そんな俺はどんな戦い方を求めているのだろうか?俺の理想とも合致する強さの色は、一体どんなものなのだろうか?
…そういえば、ウツギは『強さにも物語がある』って言ってたよな?
というか、ウツギはしっかり『理想の未来の姿と、過去の自分の人生を振り返って、それを組み合わせる。そうすることで、自然と強さに色が出てくる』と説明してくれていた。
昨日は妄想にかかりっきりで、過去の自分の人生を振り返る方を怠っていた気がする。
よし、今日は考え方のアプローチを変えてみて、そっちの方向性から考えてみるか。クスネ、俺が考え事をしている間、黙って撫でられてくれてありがとう。おかげでちょっとだけ進むべき道が見えてきたよ。
思考の整理が一段落したタイミングで、ドンと勢いよく居間のドアが開かれた。
「おはよう、ヒノキ!さあ、今日も修行するわよ!」
「おはよう、ウツギ」
「…」
ウツギが何かを期待するような目で俺をじっと見ている。
えっと?
…あっ、あれか。
「今日も可愛いよ」
「んひゅ…!ありがとう。嬉しいわ」
これ、やっぱり恥ずかしい。なんでこれがこんなに恥ずかしいんだろうな。
しかも、気持ちを込めて言っているうちに、どんどんウツギのことが可愛く感じてくるのだから、ちょっとやばい。
「…さてと、早速朝ご飯にしましょうか。食べ終わったら、今日は海に行ってそこで修行するわよ」
「修行もいいけど、俺は鍛冶も習いたいから、そっちも忘れないでね」
ウツギにもこの生活で目標があるように、俺にも主に三つ大きな目標がある。友情を育むこと、強くなること、鍛冶を学ぶことだ。
ヨヒラのところで木工を習ったので、あとは鍛冶さえある程度習えば、大体の欲しいものは作れるのではないかと睨んでいるんだよね。
「そうね。じゃあ、明日は一日鍛冶にしましょうか」
よーし。
…と、一瞬思ったが、また一日中やるやつか。明日は絶対に過酷な一日となるだろうな。
あまり自覚がなさそうだが、ウツギはどう考えても体力オバケだ。普通の人は一日中何か一つのことをやる体力はないんだよ?分かってる?
「あっ、そうだ。朝ご飯を食べながらでいいから、俺の悩みを解消するために、ウツギの人生を色々深堀りさせてくれ」
「悩みって?」
「昨日ウツギが言っていた、『強さの色』のことだな。どうも理想の自分と、過去の自分の人生を組み合わせるってのがイメージしにくいんだよ。参考のために、ウツギがどんな人生で、どんな自分の強さの色が出たのかが知りたい」
俺は会話の中で自己理解が進むことが多いからな。なんとなくでもいいので、イメージを掴んでから、また今日もいっぱい考えてみよう。
「うちはあまり過去を語るのが好きじゃないんだけど……まあ、悩んでるみたいだし特別に喋ってあげるわ。あ、配信でうちの過去については話さないでよ?」
「了解」
ということで、俺はウツギの作ってくれたとても家庭的な味の朝食を食べながら、ウツギの過去について聞くことにした。
「そもそもウツギって、闘技場で戦う前は何をやってたんだ?」
ウツギの年齢は125歳だ。以前誕生日をしたので、それは知っている。
ただ、ウツギが闘技場で活躍しだしたのは、ここ二、三十年だ。突然闘技場に新人として現れ、メキメキと頭角を現した。大体年齢が三桁を超えた辺りから活躍しだしたので、それまでどんな人生を送っていたのかをまったく知らないんだよね。
せっかくの機会だし、どんな人生を歩んでいたのか、根掘り葉掘り聞いてみよう。
「まあ、別に普通の人生よ。スクールを卒業して、娯楽作品が好きだったから、創作の道へ進んで、しばらくはそれを仕事にしていたわね」
それから、「漫画とか、小説とか、物語が絡むものは全て手を出していたわね」と、懐かしむようにウツギは答えた。
へぇ……ウツギって創作の道へ進んだのか。すごく意外だ。
そういえば、以前ウツギの友達のホタルさんが、『当時のウツギは大人しかった』と言っていた。『こんなふうに有名人になるなんて、誰も想像すらしていなかった』とも。
どうも過去のウツギは、闘技場戦士とは程遠い人生を歩んでいたようだ。
「そんなウツギが、どうして闘技場で戦おうと思ったんだ?」
「それも大した理由はないわ。すごく普通の理由よ。ある日創作の参考に闘技場での戦いを見てたら、『なんだかつまんない』って感じてしまったのよね。どうも闘技場戦士たちに華がないというか……だから、自分がなることにしたの」
まあ、ちょっと気持ちは分かる。闘技場戦士のほとんどがテンプレの“宇宙CQC”の使い手なので、あまり個性がないんだよな。あの武術、強いけど機械的だし…
あ、もちろん、全ての戦士に華がないわけではないぞ。人気のある戦士たちは、見ているだけでワクワクするような戦い方をしてくれるからな。
「ほら?創作の世界って、かっこいいキャラがいっぱいいるでしょ?それなのに、現実ではかっこいい人が少ない。それがなんだか無性にムカついたの。あとは、元々強さに対しての漠然とした憧れもあったことも、闘技場で戦おうと思った理由の一つかしら」
ほう。よくそんな難しいことに挑戦しようと思ったな。そういう心意気、俺は好きだぞ。
「ウツギは闘技場で戦うと決めてから活躍するまで、どんな感じで過ごしたんだ?」
「いきなり飛び入りで参加しても実力が足りなさすぎるから、とにかく修行することにしたわ。創作をやめて、満足いくまで修行してたら、いつの間にか二十年くらい経ってたわね」
「二十年!?」
いや、普通の人の二十年ならこんなに驚かないよ?でも、ウツギの場合はなあ…
どうせウツギのことだ。一日中トレーニングをするやり方を、二十年やり続けていたんだろうな。末恐ろしい…
「まあ、今までも創作が行き詰まるたびにサイキックでストレス解消したり、運動していたりしたから、最初から体はできていて、修行が楽しかったのよ」
その気持は分かる。みるみる自分の実力が上がっていくのって楽しいよな。自分も筋トレを始めて、思った以上に筋肉がついてやめられなくなったもん。
「満足行くまで修行したうちは、百歳の節目に闘技場に挑戦。それから今のうちがあるってわけ」
「なるほどなあ…」
単純にウツギの過去を聞くのが面白いな。
「うちはなるべく創作の人生も強みにしたかった。だから、培ってきた想像力を活かして、かっこいい技を練ったり、イメージトレーニングをしたりして、理想に近づけていったの。そうしているうちに、勝手に強さに色がついていったわね」
「…ああ、なるほど。今までの人生を強みにするのか。そっちのほうが俺には分かりやすいな」
理想はキャンバス。過去は絵の具。これまでの経験という色を混ぜて理想を描くことで、“自分だけの作品”、要は強さの色が出てくる――そんな感じかな。
「あ、まさか…」
「ん、なに?」
「…いや、やっぱなんでもない」
俺は言おうとしたことを寸前でやめる。
ふと話を聞いて思いついてしまったのだが、ウツギが修行に関しての感覚がズレているのは、創作をやっていたことが原因じゃないか?
創作の世界、例えばバトル漫画とかの普通の修行って、全然普通じゃないもん。ウツギはあれを参考に修行に取り組んでいると考えると辻褄が合う。
急遽口を閉ざしたのは、ウツギは本気で自分のことが普通と思い込んでいるようなので、今更それを正す必要を感じなかったからだ。もはやその勘違いはウツギの個性だし、強さにもつながっているしね。
「よし!なんとなくイメージは掴めたし、俺も今までの生き方を戦いに活かせるように考えてみるわ!」
次回予告:脳内早口言い訳オタク




