妄想訓練!強さの色!
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「ねえ、そもそも妄想ってどんなことか分かる?」
ウツギが俺に問いかける。
「うーん……想像すること、みたいな?」
いざ説明するとなると意外と難しいな。漠然と「楽しい想像!」みたいに認識してはいるが…
「ま、妄想も想像もそこまで違いはないわ。強いて言えば、妄想のほうが独善的というか、より自分勝手なことだとうちは認識しているわね」
なるほど。より独りよがりなイメージね。そう言われるとしっくりくる。
「で、その妄想が訓練にどう関係するんだ?」
「強さに色を出すためよ」
「ん?強さの色?」
なんだそれ?難しい話か?あんまり難しい話だと頭がオーバーヒートしてしまうので、やめてほしいんだが…
「強さの色っていうのは、言い換えれば強さの個性とか、こだわりのことね」
ウツギは丁寧に説明を続けていく。
「ある程度の強さを持つ人は、みんなどこか色がある。だから、あなたももうその段階に進んでいいと思うのよね。あなたって、もう闘技場でいう平均くらいの強さはあるしね」
>ヒノキの場合、筋肉で戦うことが強さの色みたいな話か
>とにかくパワー!みたいなのがヒノキらしいよね
>そう考えると、ヒノキの強さには十分色があるイメージがあるが…
>男ってだけで色あるくね?
「だってさ」
視聴者と同じ意見だったので、俺はウツギに見せるようにコメントを表示させてみた。
「ま、そうね。旗から見ていれば、あなたには十分色があるように見えるわよね。でも、戦ったうちには分かる。あなたの強さは色が薄いわ。厳しい言い方をすれば、あなたって深く考えず、ただ筋肉で対処しているだけだもの」
>おい、言われてるぞwww
>やーい、脳筋の考えなし!脳みそって便利だから使ったほうが良いですよ???
>ばーか、ばーかwww
>研究者の息子のくせに、なんでそんなふうに育ったんだよwww
は?俺ほど頭脳派な人はいないが?
だって、結局全てのことはパワーで解決できるからな!真の学究の徒ならば、みんなこの事実に気づいているはずだ。ほんと、みんな遅れてるなあ…
それに、基本的に俺のことを全肯定してくれるセリだって、「ヒノキってある意味賢いよね」って言ってくれたし!
それにそれに!俺の中の偉大な哲学者もこう言っていた。『オデ、ニンゲン、クウ』ってな!
…あっ、これは違うやつだ。頭の中にある「哲学の言葉」と書かれた引き出しから、変なものを持ってきてしまった。今のナシで。
こんなふうに意地悪な視聴者に言い返してやりたい気持ちをぐっと抑え、俺は引き続き話を聞くことにした。何となく言い返しても論破されそうな気がしたから、何も言わなかったわけじゃないからな?
「別にすべてを筋肉で対処するってこだわりがあるなら、それでもいいのだけど……あなたの場合はそうじゃないでしょ?」
「まあ、そうだな」
筋トレや筋肉に関してはこだわりはあるが、戦い方にはこだわりはない。やりやすいようにやってるだけだ。
「なら、これからは人からどう見られたいかも考えなさい。強さにどんな色を出して、どんな強さを目指すか――そのために、妄想が必要ってわけ」
「どう見られたいか…」
うーん……難しい。ありのままを見てほしい気もするし、カッコつけた姿を見せたい気もするし…
「参考のために、ウツギがどんな強さを意識してるか聞いていいか?」
「そうね……」
俺がそう問うと、ウツギは少しだけ顔をしかめた。何か言いづらいことなのだろうか?
「あまり言いたくないのなら言わなくてもいいぞ?」
「いや、言いづらいってわけじゃ……決して言いづらいわけじゃないのよ?でもねえ…」
ウツギは散々悩んだのち、結局教える気になったようで、このように切り出した。
「うちの場合はね――ヒーローになりたかったの」
>ヒーローwww
>小さい頃はヒーローに憧れるよな。分かる分かる。でも、あなたって百歳超えてるよね…
>なかなか香ばしい欲ですね
>ヒーローになりたいやつが、浮気相手になりたいとかほざくな
「視聴者うるさい!だから言いたくなかったのよ!実際にうちは、そうやって強くなったんだからね!」
俺のコメント欄と同じように、ウツギのコメント欄でも微妙に馬鹿にされているみたいだ。
いやいや、ヒーローになりたいと思って実際に行動に移せるのって、かなりすごいと思う。俺はまっすぐ尊敬してしまったもん。
それに、人の夢を笑うのはあまり良くないぞ?
…でも確かに、ヒーローになりたい人が「浮気相手を目指す」発言をするのは、流石の俺もちょっとどうかと思うな。コメントの中でその指摘だけはクリティカルヒットしている気がする。
「もう!人は誰でも、かっこよくなりたいとか、最強になりたいとか、子供に夢を与えたいとか、当たり前にそういう欲があるでしょ!?うちの場合は、“憧れられたい欲”が強かったから、かっこよくて映える戦い方を意識しているってわけよ!」
ウツギはやけっぱちになって叫ぶ。
「なるほどなあ…」
妙に納得がいった。ウツギは理想を叶えるために、魅せる戦い方が必要だった。そのために、とにかく火力を追求したり、オリジナリティのある戦い方にこだわっていたのだろう。
そんなウツギだから、これだけ戦い方に華があるのだ。
「でも、どんな戦い方を目指すかねえ……とにかく筋肉以外は考えたこともなかったからなあ」
「あらそう。なら、一つアドバイス。強さにだって物語がある。どんな人生を歩んできたかで、戦い方にも色が出るのよ。だから、人生を振り返ってみるのもアプローチとしては最適ね」
「ほお……そういうものなんだな」
「まあでも、最初は欲を開放して妄想すること。自分がどんなふうに活躍して、どんなふうに戦って、どんなふうに見られたいか……そこがはっきり見えれば、ようやく次のステップね。理想の未来の姿と、過去の自分の人生を振り返って、それを組み合わせる。そうすることで、自然と強さに色が出てくるわ」
「おっけー。とにかくまずは理想の自分を妄想するのね」
「うん。人間って目標があるほうが、より頑張れるのよ。それに、人生は長いんだから、理想を目指さないともったいないわ。妄想することは、ある程度強さを持った人間がやるべき、最初の一歩よ!」
「ウツギがそれだけ自信を持って言うのなら、本当にそうなんだろうな。一旦信じてみるか」
「そうよ!とりあえず騙されたと思ってやってみなさい!これをやるやらないでは全然違うからね。コツは、とにかくワクワクする妄想をすることよ。自分だけの色を全開に、思いっきり妄想してごらんなさい!」
ワクワクする妄想ねえ……
あ、一個だけぱっと思いついた。
「これは仮なんだけど、ウツギがヒーローなら、俺は強い悪役のような強さを得たいな。それで、ウツギの壁になってやりたい」
>悪役……なんか似合わねぇな
>ポンコツ系小悪党レベルならできそう
>芯のある悪役は魅力的だから、気持ちは分からんではないけど…
>悪いことに憧れるのはスクール時代までにしようね
視聴者の評判はこの通りあまり良くない。まあ、悪いことがそんなに好きじゃない俺らしくはないよな。
でも、どうも俺はみんなに憧れられるより、自分のやりたいことを突き通す方が魅力的に感じるみたいなんだよね。だって、そっちのほうがワクワクするんだもん。
「あら、いいじゃない。でも、うちに対抗するのなら、もっと強さが必要よ。そのためには、もっと強くならなきゃね」
「おう!」
意外にもウツギは俺の妄想を肯定してくれた。それだけで結構嬉しいもんだな。
「じゃ、仮でも方向性が決まったところで、今日は一日中修行をするわよ!修行中にその仮の考えを膨らませて、もっとしっかり妄想すること。できる?」
「楽勝!」
なにせ最近では一割だけ思考に割くことを常に意識しているからな。その一割で今回はとにかく妄想すればいいだけだろ?なら、余裕だ。
「って、今一日中って言った?」
「ええ。そう言ったけど?」
>そうだ。ウツギって平気で一日中修行するタイプなんだwww
>ウツギ、そのへんの感覚がバカになって壊れてるから…
>ウツギは「修行するならそれくらい普通じゃない?」ってよく言ってる
>修行に関しては、ウツギって普通がかなりズレてるんだよ…
俺の困惑した反応を見て、なぜかウツギも首をかしげている。
「人間ってサボっちゃう生き物じゃない。だから、とにかくサボれない環境に身を置くことが修行の第一歩でしょ?だから、日常全てを修行にして、サボれないようにするのが一番だと思うんだけど…」
ひえー。当たり前みたいに相当ストイックなことを言ってるって、本人は気づいていないんだろうなあ……それ、正論風の暴論だよ?
まあでも、ウツギの修行に付き合う以上、俺もそれに合わせないとな。
どちらかと言えば、俺はメリハリをつけて動く方が得意だ。なので、適度にサボりつつ、やるときは全力でやるスタイルで頑張ってみよう。
次回予告:お支払いは、ヒノキ様によりご精算済みでございます。




