最後の一日!羽目を外そう!
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「おはよう、クスネ!今日は一日何も予定がない!完全な休みだ!」
「わん!」
目覚めてすぐ、俺はクスネの全身を存分に撫でる。寝起きなのに今日はテンションがすごく高い。
今日はトリカとのシェアハウス生活の最終日なのだが、それ以上にトリカと一日中遊べるということが楽しみで仕方がないのだ。
俺はダダダっとダイニングルームへと走っていく。
「おはよう、トリカ!」
「おはよう、ヒノキ。クスネ。二人共朝から元気ね。ちょっと早いけど、早速朝食といきましょう」
「おう!」
いつものようにバイキング形式の朝食を食べることに。
「そうだ。MVが完成したから、食べながら見ましょうか」
「おお!いいね!」
いつものように大盛りのプレートを机の上に置き、席について、ゆっくりトリカの映し出した映像を見ることに。
――そのMVの映像には、息をするのも忘れるほどの魅力があった。
血のような真紅のワインを手に、女は笑う。絶対的勝者の佇まい。どんな女よりも自由で、無邪気で、残酷で、美しい。
一方、場面は変わり、ある男にスポットが当たる。
季節が何周もめぐるほどの期間、滝行をし続ける男。
猛吹雪、大嵐、大津波、マグマ、大爆発――どんな状況でも、一切動じない。男はただ、修行を続けるのみ。
そんな男が、ある夜、女と出会う。動じなかった男が、一目で恋に落ちた。
すぐさま、男は女にダンスを申し込む。女は「一晩だけ遊んでやるわ」といった態度で手を取る。
暗闇の中、キラキラと光る男と、バチバチと弾ける女。絡み合うように激しく踊っていく。男はまさに幸福の絶頂だった。
一方女は、妖しく目を光らせ、ニタリと口角を上げる。その一挙手一投足は、まるで世界を支配しているかのようだった。
やがて場面は変わり、ドラマチックな音楽と共に男とモブ女性Aが袖にされるシーンに移る。女の魅力は、性別を問わずすべてを魅了する。何度もすがる男とモブ女性Aに、女は冷ややかに笑う。その濡れた唇は美しい弧を描き、表情は自信に満ちている。
それから何年も何年も、男は女を求めた。だが、女の気まぐれで、二人が過ごせたのはたった一夜だけだ。
翌朝目を覚ますと、女は消えていた。まるで最初から存在しなかったかのように、全ての痕跡が消えている。
混乱する男。しかし、肩に痛みを感じた。昨夜、女に噛まれた傷だ。
その痛みに、男は安堵する。昨晩の出来事が幻ではなかったことを、身体が教えてくれたのだ。
男は走り出す。全てを捨て、女を探すために。
遥か高く、遥か遠くからその様子を見つめる女は、ワインを片手にニタリと笑う――
【出演:男→俺。女→トリカ。モブ女性A→シベ子】
「……ふぅ」
思わずため息が漏れた。
完成したMVは、言葉では表せないほどすごい。感情をガンガン揺さぶられるし、妖しげな色気がすごいし、どこかおしゃれでもある。何より、世界観に引き込む力が強い。心に深く映像と歌が染み込んでくる。というより、刻み込んでくる。その上、中毒性まである。さらにさらに、見た後は不思議と活力まで湧いてくる。
「とんでもないものができたなあ…」
ほうけていた俺が、やっとのことで出てきた感想が、これだ。
こんないかにも月並みな感想になるのもしょうがないと思う。どうせ言葉には表せないのだし、胸いっぱいすぎて、あまり言葉を尽くす余裕がないのだ。日常的によく使う言葉が出てくるのも致し方ない。
「ふふふ、このクオリティなら、この宇宙の音楽史の歴史に残るはずよ!まさに今のわたくしの最高傑作だもの!歌で全宇宙の未来を輝かせる光となる。目標に少し近づけた気がするわ」
…うん、これを世に出したら、とんでもないことになる気がする。絶対に信じられないほどのブームが巻き起こる。これからトリカは、もっと有名になるのだろうな。
「でも、不思議だなあ……こんな悪女の歌なのに、聞き終わった後、なんか気持ちいいというか、爽快感すらあるというか…」
以前聞いたときより、伝わってくる悪女の魅力、力強さは増しているし、心も強く揺さぶられた。
でも、聞き終わった後の感想は全然違う。以前なら「魅力的すぎて怖い」という感想だったが、今回は「魅力的すぎて怖い……を通り越して、もはや感動的」みたいな、自分でも理解不能な感覚なのだ。
「ふふ、そう感じたなら狙い通りね。突き抜けた魅力には誰だって憧れるものよ。以前のわたくしでは、この歌のポテンシャルを引き出せなかった……これでようやく、この歌も報われた気がするわ」
…そっか、今分かった。
あの悪女には、突き抜けた魅力がある。それを百パーセント余すことなく伝えられたから、俺は今こんな清々しい気持ちになっているのか。
「わたくしも、歌だって成長しているの。表現力一つで、別の魅力を見せてくれる。わたくしの歌の可能性は、無限大よ!」
表現力一つで、こうも変わるもんなんだなあ……歌って奥が深い。音楽って奥が深い。
「やっぱりトリカってすごいな」
挑戦を忘れず、どんどん高みへ登っていく。
「ふふ、そう、わたくしはすごいのよ。だから、早くあなたも追いついてきなさい」
強気な言葉とは裏腹に、とても優しげな目で俺にそう伝えたのだった。
「さあ、そろそろ朝食を食べちゃいましょう」
「…そうだな」
これだけ凄いものを見せられたからか、なんだか心が燃えている。
今までの俺なら、俺を置いて先に行くトリカにさみしくなっていただろう。でも、今の俺は少しだけ自信が付いている。だからだろうか、今は恋人を誇りに思う気持ちの方が大きい。
「よーし!気合入った!いっぱい食べて、俺ももっと強くなるぞ!」
とにかくガツガツ食べる。全ての料理を噛み締めながら、米の一粒、ソースの一滴も残さずにくらい尽くす。
「ふふふ」
そんな様子を見て、トリカは温かな笑い声を上げたのだった。
朝食を終えると、俺たちはとにかくたくさん遊んだ。トリカの作った見事な拠点を探索したり、トリカの持つ宇宙船の色々な施設を巡ったり、昼には家畜たちと一緒にお昼を食べたり、ついでに家畜のしつけ方を教えてもらい、試してみたり……
相変わらずここの家畜共は俺の言うことはまったく聞かないし、それどころか家畜共に完全に俺は見くびられていたりもしたが、それでも最高に楽しかった。
常に最高に楽しそうに笑うトリカにつられ、思った以上に羽目を外した。楽しすぎて時間が経つのがあっという間だった。
夕方からは、トリカと二人でとにかくまったり過ごした。
星の海の中で、まったりディナーを楽しんだ。
無駄に「あーん」と食べさせ合ってみた。
流星群に乗りながら恋愛映画を見た。
映画を見ながら途中で耳かきをしてもらった。
「さて、そろそろこの大人の姿から、元に戻る時間ね」
二人でまったりと過ごしていると、ふとトリカがこう呟いた。
「ああ、もうそんな時間か。寂しいような、楽しみなような…」
トリカのこの姿には、最初から時間制限を設定していた。元々あのMVを撮るための一時的な変化だったからね。
シュルシュルシュル――
どんどん姿が小さくなっていく。
そして、数秒後には見慣れた姿に戻った。
「おかえり」
「……何よそれ。まあいいわ。ただいま、ヒノキ」
トリカは少し照れくさそうに答えた。
おかえりと自然と口に出たのは、無性に懐かしかったからだろう。
…あの姿も新鮮で良かったし、元の姿も最高に美しい。トリカがトリカである限り、どんな姿だろうと大好きであることに変わりない。
――あっという間に帰り際になった。
「そういえば、答えを聞いていなかったわ」
「ん?何がだ?」
「ヒノキ、あなたはどうして強くなりたいの?」
玄関の外で、まるで今思いついたかのように、トリカがそう問うてきた。
さて、どう答えるか…
理由は、本当に色々ある。純粋な力への憧れ。前世の後悔。モテるため。男として自信をつけるため。好奇心。他の男へのマウント。趣味。生き様。金を稼ぐ手段。自己表現。会話のきっかけ。健康意識。天才たちの仲間入りしたいという欲。筋肉への愛…
でも、一番大きな理由。それはやっぱり――
「どこまでも高く飛んでいってしまう妖精を、捕まえて逃さないためだな!」
俺が転生して、何より感じていること。それは、この宇宙の女性、トリカもセリも、ヨヒラもウツギだって――心の奥底では力強い男を求めているってことだ。
だから俺は強くなりたい。みんなの期待に応える男になりたい。惚れた女のために、誰よりも強くなりたい。
男が強くなる一番の理由なんて、案外そんなもんなんだよ。
「なるほどね、シンプルでわたくし好みの答えだわ。でもヒノキ。なら、もっと強くなりなさい!女王たるわたくしを満足させるには、まだまだ足りないわ!」
ははっ、これは手厳しい。
俺の彼女はどこまでも自由で無邪気で残酷で欲張りだ。
でも、そんなトリカだからこそ、こんなに好きになったんだよな。
手を振り、トリカとお別れしながら、クスネと共に俺は前へ走り出す。目指すはウツギの家。
強くなる。その思いを胸に、前へ前へ。
その時、ふわりと優しい風が吹いた。
「ふふっ」
なぜだが、お日様の輝きにも似た嬉しさが満ちた。温かい風が体を包み込み、そっと背中を押してくれている気がした。
次回予告:関係性は~大事~ 板東は、英二~♪




