恋人同棲!その2!危険な魅力あふれる!
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「あなたは今、ぐんぐん成長している。きっと、そういう時期なのでしょう」
「うん。それは自分でも実感してる」
ヨヒラの祖母、ハッセンさんをきっかけに、ヨヒラにアンドロイド流武術を教えてもらい、セリとの穏やかな暮らしを経て、俺はみるみる成長できている。満足するほどでは決してないが、それでも確実に以前よりは成長しているのだ。心も、身体も。
「ですが」と一言おいたのち、トリカは覚悟を持った力強い目で俺にこう伝えてきた。
「成長するのはあなただけじゃないわ。わたくしは、あなたに人間としても、女としても、魅力、求心力、カリスマ性……全てにおいて負けたくないのです。というより、わたくしは誰にだって負けるつもりはありません」
>かっけぇ……かっけえよトリカ様
>それでこそ私たちの歌姫
>闘気が迸ってやがる……
>こういう強気なところが大好き!
トリカの闘志が、空気をバチバチと焦がすように伝わってくる。まるで、見えないはずの闘志が、実体化してこの場を燃やしているかのようだ。
…そっか、そうだよな。トリカは「対等な関係なんてくそくらえ、あくまで自分が引っ張っていく」と考えているのか。まあ、トリカらしいというか…
バチバチッ。
…ん?気のせいか?
トリカから、実際にバチバチ聞こえる気がするんだが…
それに、トリカの身体の周囲に電気のようなものが纏っているように見える気が……?
…トリカの闘志が強すぎて、目の錯覚を起こしてる?
「あら、失礼。食事中にマナーが悪かったわね」
トリカがそう言うと、バチバチッという音が消えた。
…今、何が起こった?
>なあ?トリカ様に、実際にエフェクトみたいなの出てたよな?
>確実にトリカ様、さっき電気を纏ってた!なんで!
>トリカ様、電気タイプになった?
どうやら今のできごとは、目の錯覚ではなかったようだ。
「ねえ?今、なにしたの?なんかバチバチッって聞こえて、電気を纏ってたみたいに見えたけど…」
「ああ、それはあなたが生命力をキラキラさせられるようになったのと一緒よ。“アンドロイド流武術”を、試しにわたくしもやってみたの。その結果、闘志が溢れ出るようになって、電気を纏えるようになったってわけ」
続けてトリカは、「物理的に身体が持たなそうだったから、滝行の方は勝手にアレンジしたけどね」と補足した。
いや、それにしてもすごいよ。無音無光の空間に一時間もいるの、かなりしんどいはずだもん。
…というか今、当たり前のようにすごい事をしれっと言わなかった?電気を纏えるってなに!?
「正直、何かを纏えるのなら、燃えたぎる炎の方がわたくしらしくて嬉しかったのだけれど……どうもわたくしには雷が身体に合っていたらしいわね。ま、使えるものは何だって使いこなしてやるわ」
依然としてトリカは「まるで大したことではない」とでも言うような態度でそう言った。
>あのやべえアンドロイド流武術を、自分もやってみようってなるマインドがすげえわ
>トリカ様のトリカ様たる所以
>この歌姫は雷だって操ってみせるらしい
「ヒノキもあの程度の修行、さっさとクリアしちゃいなさい。あなたならできるはずよ。わたくしの恋人が弱者なんて、嫌ですからね」
なかなか厳しいお言葉をいただいてしまった。今までセリとかなり穏やかに暮らしていたので、このスパルタさ加減は結構効く。
そっかあ……トリカにとっては、アンドロイド流の修行も「あの程度」なのか。すげえなあ…
――その後、どんな修行をしたのかもっと詳しく聞いてみた。
どうやらトリカは、滝行を歌手流にアレンジし、「音の滝」を浴び続けていたらしい。
その滝を生み出すため、「ギャラクシークリスタル鉱石」の成分を溶かし、音そのものと融合させた。そうして生まれた膨大な種類の音――脳が焼き付くほど情報量を持つその音たちを無作為に聴き続け、体に染み込ませていったのだそうだ。
この修行で自身を追い込みまくり、トリカは電気を纏えるようになった。
そして次、無音無光の空間で修行する方は、音すら反響しない無音無光の中、とにかく正確に歌い続けたらしい。こっちの修行は一日でクリアしてしまったとのこと。「似たようなことは毎日やっているから」と、さも簡単だったかのように言ってのけた。
トリカは以前インタビューで、歌手として自身の感情に日々深く向き合っていると語っていた。おそらくそんなトリカだからこそ、簡単にクリアできたのだろう。
トリカ曰く、「恐怖をそのまま受け入れ、楽しむ。そうすれば、こんな修行は楽勝よ」とのこと。
難しいことをすごく簡単なことのように言い切るトリカは、なんだかすごくかっこいい。俺を置いて、どんどん進んでいくトリカ。俺も頑張ってトリカにくらいつかなきゃなあ…
そんな俺を見てトリカは俺にこう伝えた。
「一体あなたは何を怖がっているの?成長できないことこそ、何より怖いことじゃない……さっさと成長しないと、置いていくわよ?」
きっとこれはトリカなりの喝だ。ビビってるなんて言われるなんて男の恥だし、俺ももっと気張っていこう。
「さて、話を戻すわね。わたくしが姿を変えたのは、誰にも負けないため。そのために、わたくしは新たな境地を目指すことにしたの。その足がかりとして、わたくしは今まで“禁歌”としてきた歌を、MVにしようと思っているの」
>おお!嬉しい!
>禁歌ってあれだよね。トリカ様がライブで歌って、没にした歌
>そう。トリカ様の活動方針に合わない歌は、大体禁歌リストに入っている
>トリカ様、みんなを笑顔にするような歌ばっかり歌ってたけど、ついに方針転換するのか?
>ワイはどんなトリカ様も好きだから、トリカ様が作った歌ならどんな歌でもいい!
俺も視聴者たちと一緒で、ファンとしてすごく嬉しい!禁歌の中でもいい曲がいっぱいあるからな!トリカの気持ちも分かりつつ、もったいないとは感じていたんだよね。
俺が内心で喜びを噛み締めていると、トリカは「あ、そうそう」と俺にチップを介して何かを送ってきた。
「ヒノキにはそのMVに出演してもらうわ。これ、今後一週間のスケジュールね」
…なんかしれっと出演が決定していた件について。
まあトリカの野望のためだし、別にいいけどね。
俺はチップに送られてきた予定表を読む。
ふむふむ…
「ねえ?このスケジュール、過密過ぎない?」
「そうね」
そうねじゃないが。そんな簡単に話を終わらせないで。
「ざっと確認したわね?じゃあ次は、MVでヒノキにやってもらいたいこと、リスト化して送るわね」
トントン拍子で話が進んでいく。ついていくために俺は無理やり頭を切り替え、送られてきたリストを確認する。
ふむふむ。演技とか、トリカとのハードでアダルトなダンスとかはまだいいとして……巨大隕石を殴り飛ばす・海をかかと落としで割る・雷の道をウォーキング……?
は?
いや!無理だって!人間技じゃないんですが!?
「食べ終わったら、早速練習に入るわよ。このMVで、わたくしはこの宇宙の歌の歴史に風穴を開けてやるわ!」
「ちょっとちょっと!意気込むのはいいんだけど、俺に色々求めすぎ!流石にこれは無理です!」
>一体どんなスケジュールで、どんな内容なんだ?
>気になる…
>何をするかは知らんが、ヒノキならやれる。がんばえー
ネタバレになるので視聴者に予定を晒すことはできないのがもどかしい。想像で楽しんでいてくれ。
「あくまでそれは例よ。要はあなたがすごい男だということを分かりやすく示せればいいの。それに、あなたなら一週間でそれくらいのことをやってのけるようになると、わたくしは信じているし、なんの問題もないわ」
トリカが自信満々で断言する。
いや、なんで俺のことなのにそんなに言い切れるんだよ…
「わたくしはあなたのことをよーく知ってるの。それも、本人であるあなた以上に…」
トリカが妖しげな目を光らせ、俺の瞳を覗きこむ。たったそれだけで、コカトリスに睨まれたかのように俺の身体はびしっと固まった。
今までのトリカの発する言葉も、脳にするりと入ってくる感じがしたのだが……今のトリカが発する言葉は、するりと入ってくる上で、さらに俺の魂まで届くような力強さがある。
…なんだか、トリカの言葉に魔力が宿ったような?
そんなトリカは、相変わらず俺の目を見続けたまま、
「ねえ?なんでわたくしがあなたのことを好きになったと思う?」
と、一見今の状況とまるで関係ないかのような話題を振ってきた。
「いやあ……まあ、俺がイケメンだから?」
「違うわ」
…即答ですかい。
「わたくしがあなたのことを好きになった理由。それは、ただの積み重ねの連続ですわ。小さな出来事が積み重なって、だんだんとあなたのことを好きになっていったの」
魔力が込もったような言葉でそう伝えられたからか――トリカの好意が俺の体の隅々まで染み渡ってくる。
…嬉しい。飛び跳ねてこの場で踊り出したいくらい、めちゃくちゃ嬉しい!
身体の奥の奥から力がみなぎってくるのが分かる。体内の血流の温度が上がったのが分かる。今なら、どんな不可能でも可能にしてしまえる気がする。
「さあ、わたくしの課題をすべてやりきって、わたくしを安心させなさい!いいわね?」
トリカは俺に、明らかに不可能なことをやらせようとしている。だが…
「おう!」
もう俺に不安はなかった。
次回予告:はーい、脳みそに油を入れていきますね~




