秘密暴露!ゲーム配信!
読んでいて少しでも感情が動いたら、評価・リアクション・ブックマークをお願いします。
さて、一日寝て、二日目の朝。
昨日の朝のようにいたって代わり映えのない朝食を終え、セリは就寝。昼には起きてくるだろう。
そして、いつものように配信を開始。
「ういーす。勇敢なる重戦士ムキムキイケメンのヒノキでーす。今日もセリの家から配信していまーす」
そうやってこの日の配信では、このお化け屋敷を深く探索した。作成者セリの細かいこだわりや、ある種王道のびっくりギミックがたくさんあり、なかなかにスリリングな配信となったことだろう。
その後、昼にセリが起床。セリは配信に映ることに抵抗はないタイプなので、昨日と同様にそのまま俺たちの生活を垂れ流すことにする。
昼食を作り、一緒に食べる。
今日の昼食は“箱鮫の赤モツ”という、高級珍味と呼ばれる食材を使い、もつ煮込みを作った。
セリは食に拘る俺のために、色々な食材を買ってくれたようなのだが、その中にこの珍味が混ざっていたのだ。
セリは買い物が大雑把だからな。こういう変わった食材を買うことも多いのだ。
普段なら、人の買い物なので、どんなお金の使い方をしたって文句はない。だが、セリに関しては俺の金でこれらを買っているので、たちが悪いよな。
「でも、このモツ煮込み、めちゃくちゃ美味しくない?買って良かったでしょ?」
「うーん……確かに食べたことない味だけど、不思議と癖になる……美味しいな」
「そうでしょ!ヒノキ!作ってくれてありがとうね!」
こんな風に無邪気に喜ばれると俺は弱い。いつも最終的には「俺の金を使い込んだことくらい、別にいいか」と、許してしまうんだよな。
この時の食事中の会話で、天気の話で盛り上がることがあった。「今日は風が涼しいね」とか、「ここらへん、湿度が高いよね」とかだ。その様子を、こんな感じで視聴者に不思議がられた。
>なんでそんな天気の話題なんかで、話が無限に続くんだ…
>天気の話なんか話しているようじゃ駄目って、母親から教えてもらったんだけどなあ…
>男に天気の話なんて“浅い話”したら、終わりなんじゃないの!?
確かに天気の話題って当たり障りがなさすぎて、コミュ力がない人がやってしまう駄目な行動みたいな風潮が根強いよね。前世ですらそうだったくらいだし。
でもさ、天気の話、普通に楽しくない?
元日本人として思うんだけど、太古の昔から俺たち、天気とか自然の移ろいに情緒を見出してきただろ?「風流」とか「趣深い」とかって、まさにそういう感覚なわけで。
そう考えると、天気を楽しむ遺伝子が、俺たちのどこかに今も残ってる気がするんだよ。
それに「天気の話」と一口に言っても、今日の気温や雲の形、風の匂い、月の満ち欠け、湿度の感じとか、話せることは案外たくさんある。
そういう何気ないことや、細かな変化を、誰かと共有できるの、俺はわりと好きなんだけどな。
…まあでも、よく考えれば視聴者に聞かせる話ではないか。流石に配信者という特殊な仕事において、日常的すぎたかもしれない。
「「ごちそうさまでした」」
と、頭の片隅でそんなことを考えつつも、俺たちは食事を終える。
「なんだかんだ、ヒノキって昔から天気の話好きだったよね?」
「ええ?そうだったかなあ……俺にそんな自覚はなかったけど、セリが言うならそうなんだろうな」
>こいつら、食事が終わってもまだ天気の話してるし…
>この空気感、なんかすげえ羨ましいんだが
>ヒノキが楽しそうで何よりです
>これがっ……幼馴染っ…!
うん。やっぱ楽しいから、これからもこういう何気ない会話は今後も続くと思うわ!すまんな!
よく考えれば、視聴者のために俺が何か行動を変えるなんて癪だしな。それに、こんな平凡な配信でも、十分視聴者に見てもらえる。こういう時に関しては、男に生まれて良かったと心底思うわ。
「さて、今日はこの後どうする?」
「うーん……僕はやりたいゲームがあるから、それをしようと思ってたけど……あ、そうだ!ちょうどそのゲームは協力プレイもできるから、ヒノキも一緒にやらない?」
「いいね!午後からはまた一緒にゲームしようか」
「わーい!ありがとうヒノキ!大好き!」
>ということは、今日もゲーム配信ってことね!
>ゲーム配信も新鮮で結構好き
>配信時間なんて長けりゃ長いほど嬉しいから、今後もそういう感じでよろしく
>あなた、ほどほどゲーム上手いもんね
ということで、午後からはゲーム配信することになった。
心のどこかでは、「昼食を終えた後は、もう配信を閉じてもいいかな」と少し思っていたのだが……しれっと視聴者に乗せられて配信を続けることになったような気もしないでもない。
…まあ、別にそれくらいいいんだけどね。全く負担ではないし。
さて、ゲーム配信において、一つだけ気をつけないといけない事がある。といっても、そんなに肩ひじ張るようなことではない。セリについてのほんのちょっとしたタブーを口に出さなければいいというだけだ。
そんなポカはしないだろうが、ミスは思わぬ気の緩みから起きるものだからな。ふとした時にポロッと言ってしまうかもしれないので、一応留意しておこう。
「セリのこと、絶対“ハニー”って名前では呼ばないようにしないと…」
>ん?今なんて言った?
>しれっととんでもないこと言ってなかった?
>セリさんがあのハニー!?!?
>ゲームの発売日とかの初動で、大体トップランカーに名前が乗ってるハニーって、セリさんだったのかwww
>【朗報】あの正体不明の孤高のゲームプレイヤー「ハニー」ついに正体が割れるwww
んんん?何このコメントの流れ?なんでバレてるの?
「ええっと……もしかして、心の声が漏れてた?」
>はい。しっかり言葉にしてましたwww
>このヒノキの反応..….ってことは、事実なんだ!
>ハニーさんの大ファンです!サインしてください!
あっ、まだギリギリ誤魔化せたかもしれないのに……俺の反応のせいで、完全に確定させてしまった。
「ねえヒノキ?気を付けてって言ったよね?」
「すまん!気をつけてたつもりなんだが…」
俺は勢いよくセリに頭を下げる。
「…まあ、別にいいっちゃあいいんだけどね。僕、ゲーム上では特に誰ともつながりはないから、また名前を変えれば騒がれることはないだろうし…」
>ええ!名前変えるの?もったいない!
>ハニーには密かに憧れている人も多いからなあ…
>見てるだけでワクワクするプレイをする、あのハニーがセリさんってことに、未だに驚きを隠せないんだがwww
>ゲーマーなら、ハニーの逸話・伝説は、どこにいても耳に入るもんな
…なんだか、思った以上に大事になっている気がする。さっきからコメントの流れが早すぎるもん。
正直俺は、セリがゲーム界隈で“ちょっとした”有名プレイヤーというくらいの認識でいたのだが……どうやらその認識は正しくなかったようだ。軽い凡ミスくらいの感覚でいたが、思った以上に俺はやらかしたのか?
…ま、まあ、セリが「別にいいっちゃあいい」と言っているし……ね?
「あ、“りんご”からメッセージの嵐がきてる。さて、あの子との今後の関わり、どうしようかな」
「ん、りんご?誰それ?」
「ああ、最近僕が一緒にプレイしてる、ゲーム上のフレンドだよ」
「へえー、セリにしては珍しい」
セリはあまりゲームで人との交流を求めていない。どうもセリは、「ゲームそのもの」を楽しみたいタイプのようで、ゲーム上で生まれる人との関わりなどを「ノイズ」と考えている節がある。
昔っから「有象無象に絡まれて、ゲームを純粋に楽しめないのが一番嫌」と、口癖のようにぼやいていたっけな。
「うーん……りんごとはこれからも仲良くしていきたいんだけど……よし、決めた。もしりんごからちょっとでもヒノキと関わろうとした雰囲気を出したら、すぐに関係を切ろう。それまではお互い名前を変えれば、遊んでもいいかな」
>りんごさん、目の前にヒノキという極上の餌があるのに、一生「待て」されてる気分だろうなあ…
>幸運なのか、不幸なのか…
>セリさんなら、どれだけ仲良くなろうと、しっかり関係を切るだろうしなあ…
>そのりんごさんはもう少しでヒノキと関われる可能性があったわけだ
「うーん……雰囲気すら出せないのは、ちょっと酷じゃない?」
「そうかな。りんごってけっこうモテるし、ヒノキと関われなくても平気だと思うよ。なんかね、男と関係のある女の子と仲良くなることが多いみたいで、その流れで自然に“おこぼれ”もらってるんだって。しかも、それを全部天然でね」
>なんだよそいつ、モテるのかよ。ならどうでもいいわ
>モテ女は全て敵
>ざまあwwwwww
>可哀想かと思ったが、一ミリたりとも可愛そうじゃなかったわwww
>もう一生りんごは食べません
>親の仇みたいな目をしながら目の前のりんごを食ってやったわwww
>我が家の家訓に【りんごという不快なワードを出したら死刑】というのが追加された
視聴者はりんごがモテると聞いて、一瞬で手のひらを返した。
…まあ、分かる。俺もモテなかった前世では、モテ男なんてこの世から消えればいいと思ってたし。
「そんな話はどうでもよくて――はやくゲームしよう!ね?」
「そうだな!」
この日、ハニーのゲームプレイが見られると話題になり、大盛りあがりの配信となったのだった。
次回予告:ドカ食い気絶部宇宙支部




